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24 湯けむり透明事変 おまけ

 ――どこかの時間、どこかの場所。

 劇場のステージの上で高らかに笑う男の姿があった。


「アーハッハッハ! どうかな諸君、このグラウペルの有能さ、そして華麗さに最大限の賛辞を送りたくなったのではないかね⁉」


 片眼鏡の男、グラウペルが盛大な拍手を期待し求めている。

 しかし客席に座る男女の反応は薄い。


「はぁ、悲しい。私ってアレ以下ですか?」


 修道女のような格好の陰気な女、テアクレスが言った。


「……小生と貴公では芸術的な方向性がまるで違う。結果以外は評価に値しない」


 細身で長身の紳士、バングリエがため息をついた。


「ウヒヒー、オヤツはマダかなー」


 不気味な笑顔を絶やさない黒衣の少女、ポーピアスはすでに興味を失っている。


「……」


 ポーピアスが抱えているツギハギのぬいぐるみ、リングリンガは何も語らない。


 そして、彼らの態度にグラウペルは不思議そうな顔をした。


「どうしたんだい? 身内といえども遠慮はいらないよ! さあ恥ずかしがらずに!」


 その時、客席のひとつに突如スポットライトが当たった。

 照明が映し出したものは魔術師のような姿の女・カルルランダ。その瞬間、劇場内の空気がピンと張り詰めた。


「か、カルルランダ様。今日もお美しい……」


 さっきまでの勢いは消え失せ、グラウペルもまた緊張に震えている。

 そんなグラウペルにカルルランダが言葉をかけた。


「グラウペルよ、秘宝の回収、ご苦労だった。褒めてやろう」

「はっ……、ははっ! 有難き幸せ、もったいないお言葉です! いやいや、やはり我が主は見る目が違いますな! そう、このグラウペルこそがあなた様にとって最も有能であると証明されたのです!」

「時に……」

「はいっ!」


 カルルランダの微笑みが消えると同時に、グラウペルの笑みも消えた。


「なぜリディプシスを名乗った? 今はまだ秘密裏に行動しろと命じておいたはずだが?」

「そ、それはその……、あの場面ではああ言った方が場面の映えが良かったと言うか、吾輩の素晴らしさを強調するためであったと言いますか……」

「ん?」

「そう、テアクレス! あいつめがすでに名乗っておりましたので、もはや同じ事かと!」


 グラウペルは重圧に耐えかね仲間のせいにした。


「ちょ……、おまえふざけんな! 泣くぞ!」

「事実だろう! そもそもお前が秘宝を取り逃すから吾輩が尻拭いをしているのだ!」


 舞台に上がってきたテアクレスとグラウペルが揉み合いになっている。

 カルルランダは顔をしかめ、ポーピアスに指先で指示を出した。


「ウヒヒ? はーい! それイけリングちゃん!」


 ポーピアスが抱えていたぬいぐるみ・リングリンガを舞台の上へと放り投げた。

 その途端、ぬいぐるみはみるみるうちに巨大な布製の熊へと姿を変え、その屈強な両腕で揉み合う二人を力任せに押さえ付けた。


「ぐえーっ!」


 リングリンガが元に姿に戻り、後には潰され大人しくなった二人の姿。

 それを一瞥し、カルルランダが立ち上がる。


「まあいい。……貴様たちの試運転はここまでだ。これより我らリディプシスは本格的に行動を開始する」

「おお……ついにその時が」


 バングリエが静かに歓喜の声を上げた。


「当面の目標は秘宝の回収、並行して連邦への工作を行う。ヤツは気にも留めないか、気付いたところで遊びと油断している。気付いた時にはもはや手遅れ、その隙がいかに愚かであるか思い知らせてやるのだ!」


 高らかに叫ぶカルルランダの声に応え舞台へと並ぶ者たち。

 ポーピアス、バングリエ、テアクレス、グラウペル、リングリンガ。彼らの奥底にあるものはただひとつ。


「エメリア連邦、いやルゾン帝国よ思い知るがいい。今度は貴様たちが滅び去る番だ、我らジェバード王国の遺産、リディプシスの手によってな……!」


 彼らを称え客席から黄金の機械兵士たちが拍手を送る。

 やがて照明が落ち、劇場は静寂に包まれるのであった。

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