ギルドの闇
「グル!? あの門番とギルマスと受付嬢が!?」
時間は夜、場所はギルドに案内された宿の一室……男女三人ずつで割り振られた内の男部屋にて、異世界転移六人組は恒例のパジャマパーティスタイルでミーティングという名の雑談に耽っていた。
三つあるベッドの一つに腰掛け枕を抱えた華蓮が信じられないと言わんばかりに声を上げる。昼間のトラブルの真相をアキトから聞かされて大層ご立腹だった。
しかし幾ばくかの誤解が生じているようで、すかさずアキトから解説が入る。
「違う違う、グルなのはギルドマスターと門番の人」
「まぁ、いらんトラブルに巻き込んでくれよった点では、あの受付嬢と共犯言うても過言ではないけどな」
美矢の拡大解釈に対して、アキトは「そうとも言うな」とある程度共感の意を示しつつ、今回の背景と真実について解説した。
ここ近年、ある事情――言うまでも無くイズフ樹海の解放――によりソルファレン王国各地のハンターズギルドは業績が落ち込み、それに伴って風紀が乱れ不正が横行しているらしい。それはハンターだけでなくギルド側でも増加しており、アキト達のように冤罪をでっち上げられて被害に遭う者が後を絶たないとの事。
本来はハンターの不正を取り締まる側にあるギルドがこの体たらくとは世も末である。
事態を重く見たハンターズギルド本部は、組織の正常化を目的とした人材をソルファレン各地に派遣しており、マーガはその一人としてエクトラ支部でギルドマスターの役職に就いているのだ。
そんな見た目爽やかお兄さんなマーガのギルド改善策はと言うと……職場の人間に敢えて不正を起こさせてそれを公然と処罰するというかなり過激な手法だったりする。
その手法の一環として、腹心と言える人材を街の各所に忍ばせ、明らかに不正を働かされそうな者を見繕ってはそうと知られずにギルドに誘導。あの門番の男はその一人で、確実に被害に遭いそうな人物を選定する目利きと、極々自然にギルドに誘うその手腕は実に見事と言わざるを得ない。
囮を仕込むといった所謂”やらせ”に全く手を染めず、望む結果を実現させるマーガの非凡さはアキトをして感心するレベルだ。
「あの受付嬢……ネーナさんだっけ? 彼女の不正の現場を押さえるのに僕達を餌にしたんだね。見た目子どもで肩書は上級ハンター……舐められるのが確定してるようなシチュだし」
「せやけどウチらスカーレット姫から勲章貰っとるんやで。それでああなるって……帝国の後ろ盾いきなり意味無いやん」
「あの門番がそこだけ隠蔽してたとかじゃね? そう言えば尋問の時にそこだけツッコまれなかったし」
賢司の考察に美矢が疑問を投げ掛けると、そこで守が持論を展開。しかも大正解、守の感が冴え渡っている。賢司が「だね」と肯定の意を示すと女子達が門番の所業に憤ると同時に守のファインプレイに意外過ぎるとオーバーリアクションを返した。守の目の端に青春の汗が輝いた。
「珍しく守がまともな解答を寄越したのは置いておいて、それなら賢司と美矢がやり過ぎた件も納得かしらね。あの時は何はっちゃけてんのって呆れたけど、今でもちょっと無いわ~って思うけど」
「華蓮の俺っちに対する扱いが雑い……ちょっと俺っち部屋の隅で泣いてて良い?」
「立石君がいつも通りなのは良いとして、それにしてもよく分かったね。まぁ城島君らしいと言えばらしいんだけど、美矢ちゃんは意外と言えば意外だけど……一体いつ調べたの?」
「思いの外で愛奈ちゃんも酷い! 俺っち普通に号泣しそうなんだけど!」
華蓮、愛奈の順で軽めのディスりを含めた感想に守は慟哭を迸らせる。そんな二人に賢司からちょっとしたカミングアウトがもたらされた。
「あぁ~うん、実を言うと……マーガさんと話しながらでこっそり教えられたんだよ……アキトから、”念話で”」
「「……へっ?」」
「それまでは僕も普通に詫びて貰って賠償して貰えば良いやって考えてたんだけど、こういう事情だからもっと粘れってアキトが言うから」
「重ねてウチは全く知らんかった。”念話”使えんし、ケンちゃんとアキやんの内緒話についてはノータッチや。せやからノリ」
「「「……! はぁっ!?」」」
続けた美矢のカミングアウトに愛奈、華蓮だけでなく賢司も驚愕する。完全に分かり切ったような態度で、実は賢司も何故話を合わせられるのか不思議に感じていたのに、まさかの『ノリ』発言……美矢の天性のアドリブ気質に友人達は戦慄した。
暫し待ち、辛うじて持ち直した華蓮が元黒竜を問い詰める。
「はぁ~、んで……賢司でも意外じゃないけど案の定な黒幕の竜宮。今回は一体全体何してそこまで調べたのかしら? 心構えはできてるからキリキリ吐きなさい」
「一度華蓮が僕の事をどう思ってるか話し合う必要があるよね?」
「うっさい非常識二号……いや、私にとっては一号だけど」
アキトと賢司……どっちか先に非常識枠に収まっていたのかは人によって異なるので置いておいて、華蓮の追及にアキトが何でもないようにしれっと真実を曝け出す。その内容は華蓮以下数名の心構えなど問答無用で粉砕した。
「別に……あん時マーガが”念話”で門番とやり取りしてたから、それを盗聴しただけだ」
まるで一昔前のエリ〇様が言うように語られた衝撃的事実に、今度こそ部屋の時間がフリーズした。
盗聴――現代日本人が無条件で拒否反応するような手段を目の前の元黒竜は平然と行使したとほざきやがりました。
最初に再起動したのはすっかり涙を枯らした守だ。恐る恐るアキトに質問する。それは皆の胸の内からやや逸脱していたが、それでいて結構重要事でもあった。
「……アキッち、”念話”って盗聴できんの? レアスキルな”念話”の概念を根底から覆しそうなんだけど」
「人間族には無理。普通に”念話”するより魔力食うし、下手すりゃ魔力枯渇で廃人だ。そもそも守の言う通り使える奴が希少だから盗聴するって考え自体無いんじゃないか?」
曰く、当たり前に”念話”ができて潤沢な魔力を有する竜族だからこその芸当との事。最低限、受け手の技能に関係無く”念話”を響かせる事ができないと不可能らしい。
なので自分達の”念話”が盗聴される心配は無いと、念の為に盗聴対策もバッチリだとアキトが筋違いなフォローで皆の不安を取り除こうと試みるが、そんな事を最初から心配していない友人達は只々閉口するのみであった。
アキトがキョトーンとしつつ他の面子が何とも筆舌に尽くし難い空気の中で、空気を換えようと奮起する者が居た……美矢である。
「え~っと、まぁ……ほら! 結果オーライやん! トラブルはあったけど目的地に労せず辿り着ける言うんやから!」
元気印な関西娘の発破に精神を立て直す面々。アキトのぶっ飛んだ思考など今更と割り切ってしまうべきと平常運転に復帰する。
「そ、そうよね! 目的地がダイダラ霊山ってなって、そこがどういう場所か分かってからまずはギルドで地道にお仕事して信頼を得ようって感じだったから、計画を凄く前倒して進められてるしね!」
美矢に続いて愛奈が盛り上げる。華蓮と守が「「そうだよね!」」と無理矢理感を漂わせてノッた。しかしそこで再びアキトが水を差す。
「いや、最初からそんな回りくどい真似計画に組み込んでねぇよ。いざとなりゃ俺が竜人化して突っ込んで、それを剣姫様が追いかける体にすればイケるだろ?」
「「「「ばっふぁっ‼」」」」
最初から諸々の手順をすっ飛ばす気満々だったアキトに口から疑似的な魂魄を吐き出す常識枠な人々。辛うじて幽体離脱を免れた賢司が堪らず釘を刺す。
「だからもう少し手順を踏もうねアキト。そんなに焦らなくてもちょっと時間を掛ければ今回と同じようにギルドを脅して推薦に漕ぎ着ける事は難しくなかったよ。調べれば幾らでも埃は出て来るだろうし、無いならでっち上げれば良いんだから。頼むから穏便に事を進めるよう心掛けて」
「「「「……ふぐぅっ‼」」」」
イケメン君の刺す釘は少しテンプレから外れているようだった。”穏便”という単語の意味を著しく履き違えている様はアキトの所業と大差が無い。愛奈達は今度こそ崩れ落ちた。
それを眺めて、
「「大丈夫?」」
元黒竜とイケメン君が同時に問い掛けた結果、
「……アンタら大概にしろぉおおおおおおおおっ‼ そしてギルドでも言われたけど”剣姫様”言うなぁああああああああっ‼」
剣姫様火山が噴火した。物凄いデジャビュった光景に愛奈と美矢、守の目は乾いていた。
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ハンターズギルドでのあれやこれから二日が経った。その間エクトラの街に滞在していたアキト達だったが今朝になって宿にギルドから知らせが届き、ギルドに赴けばそこで正式に謝罪と賠償(形式上)を受け取る事となった。
同時に受付嬢――ネーナ・ツインテがハンターに対する脅迫、及び横領の罪で裁かれ解雇された旨を聞かされた。
それにしても受付嬢のフルネーム……日本式でちょっと弄れば”ツインテールでついてねぇな”と解釈できてしまい、人知れずアキト達から彼女に”名は体を表す四号”の称号が贈られた。
余談だが、この前日……つまりトラブルの翌日に守が街を散策していた時に、色町でネーナによく似た女性が客引きをしていたらしい。もしかしたら犯罪奴隷として娼館に売られたかもしれず、そんな彼女のこれからにアキト達は同情……する筈も無かった。
そして、
『守……何でアンタが色町に行ってたのか体で聞かせて貰おうかしら』
『日本語ちょっとおかしいよ華蓮! 待って待って、見に行っただけだから! 誓って何もしてないから! だからちょっと待っ……ぎゃああああああああああ‼』
といった騒動もあったが、最後にマーガからダイダラ霊山の調査への推薦状を受け取り、アキト達は目的地を目指してエクトラを後にした。
出発して暫くは、女子達からまるでゴキブリでも見るような白眼で射抜かれ守は半泣き状態だった。ベソをかきながらアキトにしがみ付く守。
「グスっ……女子の視線が痛いよう。信じてくれアキッち……俺っちまだ純潔だよう、神に誓って穢れてないんだよう。信じてよう」
「よりによって俺の前で神に誓うな。……まぁちゃんと分かってるよ、お前がそう簡単に童貞捨てれる訳無いってな」
「どういう意味だコラぁっ!」
しかし心の友の筋違いな信頼は却って守の心を盛大に抉る結果となった。半泣きが滂沱の涙となった守が吼える。
「今回は潔白だろうけど、一応言っとくね。無駄な事に資金を浪費しないでね守。もしやったら体で償って貰うから。いやらしい意味じゃないよ、新作魔法の実験台になって貰うって意味だから」
締めに親友から思いっきり釘を刺されて、守は涙の代わりに冷たい油汗を噴き出す羽目になった。笑顔が怖い賢司に青い顔で頷く。
そんなこんなでいつもの調子な転移組一行は以降大したトラブルにも見舞われず、道程の村や町を幾つか経由して一週間後……目的の地”ダイダラ霊山”の麓に到着したのだった。
読んでくださっている方、心よりありがとうございます。
できるだけ早く次話を投稿します。
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