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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第二章
39/62

イケメン君の尋問……時々、関西娘

 二日に一回の更新がしんどくなってきました。


 ちょっとペースが落ちるかも。

 カウンターを挟んでの尋問は再開された。それをギルド内の当事者以外は完全に他人事と放置している。


 状況だけなら開始時と変わらないが、決定的に違うのは彼らが尋常でない危機感を持って意識的に放置している点と、尋問する側とされる側が逆転している点だろう。


 異常と言えば異常な空気を醸し出すハンターズギルドを訪れる者は居ない。いつも訪れる戦いを生業とする猛者達は己が直感を嫌と言う程刺激する魔窟に成り果てた憩いの場を何となく避けていた。


 一度、きっと初めて大都市を訪れた田舎者が地元の武勇伝を引っ提げて、身の程知らずにスーパールーキーを気取って大見えを切りながらギルドの門を潜るも、何かの弾みで”災厄”の逆鱗に触れる事を怖れたベテラン達にボッコボコにされて叩き出されていた。


 世間の洗礼を浴びた若者が明日の世の中をどう生きるかは神……否、お天道様のみぞ知るという奴だ。


 そんな一幕もあったが、それらを一切斟酌せずに実質的な尋問官である賢司はゲン〇ウポーズで受付嬢を追い込んでいた。


「……さてお姉さん、あなたには幾つか言っておきたい事がある。弁明は後で纏めて受け付けるから、まずは黙って聞いて欲しい」

「…………は、はい」


 尋問管から『黙って』と言われて、返事をするべきかどうかをひたすら迷い実行する受付嬢。賢司はよろしいと言いたげな笑顔で応えたので取り敢えず間違いではなかった。なので後はひたすら黙り続けようと固く決めた受付嬢に対して賢司のターンは続く。


「まず一つ目、貴女は僕達を疑いながら、それをタウロ砦に確認する事を拒否したね。これはギルドの職務規範に反する行為だ。”ハンターは自身の経歴に嫌疑を掛けられた際に、それらを証明する為に活動履歴の在るギルド支部に証言を求める権利を持ち、ギルドはその求めに応える義務を持つ”……これはギルド職員及びハンターに支給されるルールブックに記載されている」

「……!? 何故それを――」

「ケンちゃんは『黙っとけ』言うたで、姉ちゃん」


 思わず問い返してしまった受付嬢に美矢がドスの利いた関西弁で釘を刺した。受付嬢の口は強制的に口チャックされたようにキュッとなる。こうして見るとツケを取り立てる頭文字(イニシャル)Yな兄貴分とそれを補佐する妹分のようだ。ヤ〇ザの妹分というシチュエーションが在るかどうかは知らないが。


「……続けるね。二つ目に、貴女は僕らに【ハンターカード】偽造の嫌疑を掛けながら、『今ならギルドに罰金を支払うだけで事を済ましても構いません』と言った……これは職務違反所か法に背く行為だよ。【ハンターカード】だけじゃなく、身分証の偽造は重罪だ。本来なら真偽がはっきりした時点で憲兵に引き渡さなきゃいけない。間違ってもギルドに罰金じゃ済まない案件だ」

「そ……それ、は――」

「黙れ言うとるやろが」

「待って鷹村さん、そろそろ彼女にも何か言わせてあげよう」


 再び黙らされる受付嬢。しかし今度は賢司がそれを制する。ずっと半泣きな受付嬢は賢司に促されておずおずと口を開いた。


「……あ、あなたは……ルールブックを読んでいるんですか?」

「網羅してるけど、何なら色々聞いてみる? 答えてあげれるよ」


 そう言って賢司は支給されているルールブックを持ち出した。ちょっとした参考書程に厚い本に受付嬢だけでなく、静観に努めつつも聞き耳を立てていたモブハンター達も驚いていた。そんな規則があったのかと言いたそうな表情をしている。


 流石に丸々暗記しているのは凄いと思うが、基本的な決まり事程度を把握しているだけで何故ここまで驚かれるのか?


 それはこの世界――【スフィア】の識字率が関係している。


 識字率がほぼ十割な日本と違い、【スフィア】の大陸全体の識字率は三割程度。大国であるギャレリア帝国ですら五割に届かない。しかも字の読み書きができる者の殆どが王族や貴族、それ以外なら商人であり、ただの平民は例え成人していようと読み書きができない者が大半なのだ。


 酷い話だと貴族であろうと辺境に住んでいれば字が読めない者も存在する始末。ましてや戦闘技能全振りなハンターではまともな読み書きができる者など希少種だ。


 簡単な字を幾つか読んで文面を予想して依頼書などを読み、不明な点はギルド職員に確認する事で対処する程度はできても、分厚いルールブックを読み解く真似は無理な輩が多い。結局彼らにとって大事な決まり事は先輩ハンターや職員に口頭で教わるか、実際に間違ってから身に刻むのが当たり前だった。


 よって経験の浅いハンターには知識に疎い所為で騙される者も多く、逆に中堅以上のハンターの中にはそうやって若手を騙す者も居る。


 しかしそれをギルドの職員がしているのは相当問題ではなかろうか? もしかしたら知識に疎い職員のミスかとも考えていた賢司だが、今の受付嬢の反応を見る限り確信犯の可能性が濃厚だった。


 賢司と美矢もそれを察して、イケメン君は相変わらずの表情だが美矢の受付嬢を見る目は汚物を見る方へ急降下していた。残りのパーティメンバーも賢司達の行いに引きつつも受付嬢への同情の類は綺麗に消えた。因みにアキトは最初から彼女を人として見ていない。


「他に聞きたい事は無い? それ以外なら弁明はあるかな? 無いならこれからの事を詳しく話そうか」


 聞く気があるのかと疑いそうになる早さで話を進める賢司。だがそれを受付嬢がツッコめる筈も無く、賢司は尋問の締めに掛かった。


「貴女がすべき事は、今すぐタウロ砦に僕らの経歴を証明するよう依頼する旨の書簡を送る事。費用は当然ギルド持ちで。その上でさっきの不当な罰金を要求した件はこちらで憲兵に報告してあげるから、やる事やったらとっととパクられてくれるかな」

「なっ……ちょっ!?」


 日本の隠語である”パクられる”が通じた訳ではないが、御用になれというニュアンスは十分伝わったようで、受付嬢は縋り付くように賢司に迫った。触れる前に美矢によって止められていたが。


「べ、別に……あなた達の嫌疑を無かった事にすれば済む話でしょう!? わざわざ手間を掛けなくても――」

「馬鹿言うたらアカンで姉ちゃん」


 受付嬢の今更な弁明は美矢によって一刀両断された。余談だが美矢が『馬鹿』と言う時は本気で相手を蔑む時である。関西人は滅多な事で馬鹿と言わないとは美矢の談。


「あんだけ舐めた態度しくさってからに、何の落とし前も無しにめでたしめでたしにできる訳ないやろ。元々在る筈ない嫌疑を無かった事にするだけでウチらの腹の虫が堪忍するとでも?」

「ひぐっ……!」


 関西弁の脅しが怖ろしいのは日本人特有の感性ではないらしい。美矢の下腹に響くような低音訛りボイスは異世界でも有効である事が証明された。


 本日何度めかの絶句を披露する受付嬢に、賢司から止めの一発が突きつけられる。


「そういう私情が含まれるのも否定しないけど、それ以上に貴女の愚挙を見逃す事が僕らにはできない。”ギルドの不正を発見した際、ハンターは告発によって他のギルド支部に監査を要請できる”……これもルールブックに記載されたハンターの権利だ」


 徹底的な理論武装で標的を追い込む賢司。そして抜け目の無いイケメン君は更に外堀の対処にも手を抜かない。


「それと……仮に証人が必要なら、ここには事の顛末を知る人達が沢山居るし…………ねぇ?」

「せやねぇ」


 そう言って賢司と美矢は視線を全力で傍観者に徹しているモブハンター達に向けた。


 目は語らずともものを言う……即ち、『必要なら正直に話せ、嘘偽りは許さない』だった。


 アキト程ではないが中々に効く賢司の威圧に多くが首を縦に何度も振った。


 反応が鈍かった者には美矢の恫喝が炸裂。美少女と言っても差し支えない女子からの素敵ボイス(歪曲表現)は屈強な男共の精神防壁を木端微塵にし、最終的に全員が首を縦に振った。


 事前にアキトの威圧によって精神耐性が著しく削られていたのも大きいが、この瞬間に賢司と美矢の手でハンターズギルドエクトラ支部は陥落された……かに見えたが、


「悪いがその話、結論を待ってくれないか?」


 事が決まりかけたタイミングで、穏やかながら深く響く声色で”待った”を掛ける者が一人、ギルドの門を叩いた。


 現れたのは細身で長身な優男風のイケメンだった。背は賢司より高いが、背中まで伸ばした長髪と端正な顔立ちは下手をすれば女性に見えそうだ。


 眼鏡を掛けて知的なインテリ風ではあったが、纏う雰囲気には侮れる気配が微塵も無い。それを証明するように、彼が現れた途端にギルド内の空気がガラリと変化した……どちらかと言えば慄く方向に。


 それを知らしめる受付嬢の絞り出すような質問が木霊した。


「ギ、ギルドマスター……何故……ここに? 王都に呼び出されていた筈では?」


 どうやらこのギルドの責任者らしい優男イケメン。アキト達の第一印象は『似つかわしくない』だった。タウロ砦支部のギルマスとは随分イメージが異なる。あっちはザ・戦闘職種な感じだったが、こっちは寧ろ学者肌に見える。そんなイケメンギルマスから受付嬢への返事。


「いやぁ、少々手違いがあってね。急遽こちらに戻って来たんだ。それよりネーナ君……随分と込み入った話をしているようだけど、人目につくカウンターでするにはちょっと場違いじゃないかな?」

「い、いえ……そんな、そこまで大袈裟な話ではなく――」

「残念だが、君が規則違反な罰金を要求している場面から見させて貰ったよ。君との話は後でするとして、ギルドマスターとしてまずは彼らと話をしなければならないから、応接室に案内して差し上げなさい」

「マ……マスター、それは――」

「急ぎなさい。大至急だ」


 口調は穏やかで怒気は一切感じられなかったが、有無を言わさぬ物言いに受付嬢――ネーナは全く逆らえずに無言で立ち上がると、まるで生きる屍のような表情でアキト達を誘導し始めた。


 賢司と美矢はそれに即座に従い、愛奈、華蓮と守もやや置いてけぼりな心境ながら追従する。アキトは一番最後に間を置いて皆を追いかけた。


 ギルド二階……案内された応接室は一階の喧騒とは切り離されたように静かだった。広々とした間取りに豪華とは言えなくも節度良く飾られた装いは客を迎えるに丁度良い場と言えるだろう。


 確かタウロ砦支部の応接室もこんな感じだったとアキト、愛奈と華蓮はスカーレットと共に訪れた当時を思い出していた。


「……それでは……わたしはこれで」

「ネーナ君、今日はもう帰って良いよ。君との話は後日に」

「…………はい」


 今にも消え入りそうな声で今生最後のような挨拶をするネーナに、ギルドマスターはほとんど興味無さ気に通達。ネーナは一言返すとそのまま退室した。


 それを何とも言えない表情で見送る愛奈、華蓮と守。賢司と美矢は一瞥しただけでノーリアクション。アキトの視線はギルドマスターに固定され見てもいない。


「掛けてくれたまえ。紅茶で良かったかな?」


 ギルドマスターの最初から受付嬢など居なかった風な切り替えの良さに――主に愛奈、華蓮に守が――戸惑いながら、既に用意された紅茶が並ぶテーブル席に全員が腰掛けた。


 それを確認してからギルドマスターは向かいの席に腰掛け、話の口火を切る。


「まずは自己紹介から、私は当ギルド支部のマスターを務めるマーガ・ヨスギだ。この度はこちらの職員が大変な無礼を働き誠に申し訳無い。それについては深く陳謝しよう」


 そう言って頭を下げるギルマスに全員が噴きそうになった……否、守が堪え切れず紅茶で咽た。


 マーガ・ヨスギ……言い換えれば”間が良過ぎ”。名は体を表す三号の登場だった。


「? 何かおかしい点でもあったかな? それとも私の態度がお気に召さないとか?」

「いえ、気になさらず」


 皆のツボが理解できないギルマス――マーガが首を傾げるも華蓮がすかさずフォロー。ついでに守が拳骨で沈んだ。


 目の前の寸劇に一瞬呆気に取られるマーガだが、賢司からの切り返しで話は再び軌道に乗った。


「貴方の謝罪は受け入れましょう。ただ、ギルドマスター直々の謝罪という事は……僕達の嫌疑は完全に晴れたと解釈してよろしいのですか?」

「無論だとも。完全にこちらに非があると判断するよ。当然ながら、あの受付嬢は厳罰に処すと確約しよう」

「ギルドで揉み消す気ちゃうやろな? 言うとくけど、そないな言葉一つですぐに信じれる程ウチらの腹の虫は大人しくないで」

「重々承知しているよ。威圧だけであれだけの人数を黙らせる猛者、短時間で切断された手を接合してしまう治癒役、そして教養あるギルドの職員を論破してしまう知恵者。これだけの人材を擁するパーティを経歴詐称で疑う程私は愚かでないつもりだよ。そしてそんな者達の逆鱗に触れる行為に踏み切れる程楽天家でもない。彼女は国の法に則って裁きを受ける事になるだろうさ」


 賢司と美矢からの追及に対して、全面的に受け入れる姿勢をマーガは示した。その上で、彼は賠償も請求して欲しいと提案した。


「こういう事はキッチリしておかないとギルドの沽券に関わるからね。ただあまりに無茶な賠償はできないよ。ネーナ君の裁きを司法に委ねるなら、賠償の内容も法に則ったものになる事は了承して欲しい。ついてはその場合、君達には裁きが下るまでこの街に滞在して貰わねばならないがね」


 多少時間的な拘束を受けるとは言え、アキト達にとってかなり有利な展開である。普通ならそれで良いとして問題は無い……無いのだが、


「残念だけど、それじゃ首を縦に振れないね」

「せやな、足りひんわ」


 賢司と美矢のコンビは即答でマーガの提案を袖にするのだった。

 舌戦はまだ続きます。そして受付嬢はここで退場です。



 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 できるだけ早く次話を投稿します。


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