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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第二章
34/62

旅の合間も励めよ修練

 お久しぶりです。


 連載再開する運びとなったので一言……お待たせしましてすいません!


 そして休載中に初めて誤字報告を頂きました。ありがとうございます。


 年号が変わって初投稿です。


 可能な限り短い間隔で投稿していきたいです。

 静寂の中、己の息づかいだけが明瞭に響く。それだけが音として存在しているようで、神経の弦が引き千切れんばかりに張り詰めていた。


 呼吸は決して荒い訳ではなかったが、それに反比例するように心音は激しく鼓動を刻む。それは心音の主である少年が努めて呼吸を落ち着けて平静を保とうと尽力している事を示唆していた。そんな中、相手からの呼び掛けは静かではあったがそれらの音に阻害されることなく耳に届いた。


「もう一度問う。……退く気は無いか?」


 構えを微動だにせず投げられた問いに、少年――立石守は同じく構えを一寸も崩さずに、視線だけ背後の少女を一瞬見やり……そして返答した。


「……俺っちとしては退きたくて堪んないんだけど、そういう訳にもいかなくてさ。……どうしてもっつーなら、そっちが退いてくんない」


 それに対する反応は言葉として返ってこなかった。代わりに高まった戦意が場を満たしていくのが分かる。


 いつもの軽口は決してふざけているのではない。そうでもしないと精神の均衡を崩してしまう程に守は追い詰められていた。


 ――何でこうなっちゃったかなぁ~。


 何かきっかけさえあれば今にも斬られそうな空気の中、守の意識は体勢を維持しつつもここ数日の記憶を遡っていた。自分のキャラに合わない窮地に至った経緯を辿るように。


 そして辿り着いた出来事を思い返し……思わず溜息を吐いた。やっちまったと若干後悔しつつ、それでもこうなることをどこか覚悟していたのだと納得して。あの日……そうする事を選んだその時に、自分は腹を決めていたのだと。


 ====================


 街道を逸れた山中にて剣戟が響く。


 相対しているのは六人の少年少女と十名を超えるアウトロー――つまり盗賊であった。


 客観的に見れば、旅の途中で盗賊共に襲われた哀れな駆け出し若者パーティの画なのだが、詳細はそういったシチュエーションからやや外れていた。


「……このっ……小娘がっ!」


 そう言って盗賊の一人が前衛を務める少女に片手剣を振りかぶって迫る。しかし少女――藤林華蓮はそれを易々と受け流すと手にした片刃大剣の峰を打ち付けて敵を昏倒させた。凛とした雰囲気と後ろで一纏めにされた長い黒髪がなびくと、それだけで闘争の只中だというのに煌びやかな空気が咲き乱れる。


 その様子に周囲に居た他の者が一瞬呆けるも、幾らか修羅場を経験してきた故かすぐさま立て直し背後から斬りかかった。……が、当然のように察知していた華蓮は「甘い!」と言わんばかりに剣を構えて受け太刀の姿勢に移行する。


 盗賊が振った凶刃は当たり前に華蓮に届かなかった。華蓮と盗賊の間に突如現れた不可視の障壁に阻まれて。その光景に盗賊は勿論、華蓮も「えっ?」となる。


 すぐ傍からこれまた「あ……」と呟きが聞こえると、華蓮がそちらへ抗議の声を向けた。


「守! こっちはいいってば! それより牽制と後衛の防御!」

「悪い、つい……な」


 余計な真似をと咎められて、バツが悪そうにやや肥満体で小柄な少年――立石守が合掌して軽めに謝罪する。ついでに展開した圧縮空気の障壁――”絶風壁”を盗賊方向に解放し、圧縮空気砲をお見舞いした。吹き飛ばされた盗賊は近場の岩に叩き付けられて意識を喪失する羽目になった。


「ちぃっ! 訳の分からん魔法使いやがって……! テメェらもっと回り込んバホエっ!」


 業を煮やした盗賊の一人が仲間に指示を飛ばすも、言い切る前に突如として地面からせり上がった土壁によって強制的に宙を舞った。


 これまた守の”地昇壁”だ。本来は拠点防衛に使われる結界魔法を攻撃手段にされてしまえば、先程の『訳の分からん魔法』発言も納得である。それを成したのは守の優れた魔法技能は勿論、何より大きいのは異世界の”魔法”という未知の技術をあっさり理解し、更には改良してしまったあるイケメン君の知恵袋。


『華蓮はそのまま正面と左側の二人に対処。守は”絶風壁”を展開、座標は――』


 噂のイケメン君――城島賢司は戦闘指揮の真っ最中。”念話”で前衛を務める親友二人に指示を飛ばす。実は”地昇壁”は賢司からの指示で予め仕込んでいたものをタイミングを合わせて発動したのだ。


 後衛を務める少女二人を守る為に準備させていたのだが、直前に守が指示とは無関係の”絶風壁”を発動させた所為で若干タイミングが遅れ、本当なら標的が仲間に指示する前に沈黙させる予定が狂う。


 半端とは言え指示を受け取った盗賊仲間AとBが離れた場所から投剣と弓矢を構えた。しかしそれらが誰かを傷つける事は叶わない。凶器が放たれる前に盗賊A、Bに火球が直撃したからだ。着弾と同時に炸裂した火球は一撃で盗賊二人の意識を刈り取った。


「っしゃあっ! ビンゴや!」


 勝利の雄叫びを上げたのは後衛少女の片割れ――鷹村美矢。手には火球を放ったであろうブツ――やや前衛的なフォルムをしたアサルトライフルらしき魔導具――があり、美矢はそれを空に掲げて吼えていた。


 片や後衛の相方であるヒーラー――神子柴愛奈は慌てたように親友の関西娘を窘める。


「あわわっ! やり過ぎだよ美矢ちゃん! ……仕方無いね、”天涙”」


 そしてすぐさま治癒魔法を行使。大気中の水属性源素を集めて生成した癒しの雨が局所的に降り注いだ……具体的には美矢によってノックアウトされた盗賊達に。


 哀れ胸から顔面にかけて焼け焦げた状態の敵二人は”天涙”によってちょっと酷めの火傷を負った状態まで治療された。致命傷確定から応急処置すれば助かるレベルまで癒された仲間を見て、残った盗賊達が揃って首を傾げる。


 何故に仕留めた敵をわざわざ治療する? そう言えばさっきから一人も殺されていないような……剣士の少女も峰打ちやら刀身の腹を叩き付けるだけで斬っていない。……もしかして。


「もう美矢ちゃん! ……っていうか今更だけど”それ”過激過ぎない!?」

「う~ん、出力の調整はウチの匙加減やからねぇ~。やっぱ調整機能を組み込んだ方が……、それやとどの程度で威力を区切るべき……、いっそ今こいつらで検証しよかな? 失敗しても愛奈がおるし」

「ちょっ……! 人を人体実験の片棒に巻き込まないでよ! ……必要ならやるかもだけど、今は駄目!」


 案の定なカミングアウトに生き残りの盗賊達から一斉に血の気が引いた。どうやら自分達は眼前の若者達に死なないよう配慮されているらしい。その事に一瞬舐められていると天を衝きかけた怒髪が、続く変に訛った少女の言によって一気に項垂れる。


 決して誇れる事ではないが、彼らは自分達の行為をしっかりと自覚している。盗賊行為が許されざる悪行である事も、それに手を染めた自分達が罰せられても……それこそ殺されても文句が言えない立場であると覚悟もしている。


 しかし流石に得体の知れない武器の調整の為に、傷つけ癒され……からの傷つけ癒されの無限コンボな被験体にされるのは勘弁だった。


 相方らしきヒーラー少女は異議を唱えているようだが、必要なら便乗しかねない呟きがしっかりと鼓膜に響いていたので安心できない。見た目上等な美少女達だったので生け捕った後で楽しもうなどと、下卑た企みを抱えていた盗賊達は揃って萎える羽目になった。


 そんな彼らのブロウクンハートに更なる追撃が迫る。


「それなら俺っちも美矢ちゃんに便乗したいかな。この圧縮空気砲も威力の調整が難しくて……下手するといつか普通に死なせちまいそう」


 そんな事を仰る守の言う通り、”絶風壁”の解放によって吹き飛ばされた盗賊は死んではいないものの関節の幾つかがあらぬ方向にひしゃげてしまっており、とても無事と言える状態ではなかった。


 それを聞いた愛奈が急いで治癒魔法を行使して事無きを得たが、色々見兼ねた華蓮から叱責が飛ぶ。


「こら守! 美矢に悪ノリで便乗しない! そして二人共、愛奈を困らせないの! そんな質の悪い人体実験容認しないわよ!」


 極めて真っ当な正論を放った華蓮だが、そんな彼女によって打倒された者達も中々に酷い有様である。確かに斬殺されている訳ではないが、立派な質量兵器を叩き込まれた盗賊達はどこかしら体が変形しているのでちょっと生きているのが不思議な状態だから。


 生き残った盗賊全員が「説得力がねぇっ‼」と唯一まともな良心を持ってそうな美少女に対して声にならない慟哭を上げた。そして気付けば残り四人……当初の三分の一以下にまで減った戦力に、ようやくかなりヤベェ連中に仕掛けてしまったと悔やむ。


「やってられるか‼」


 そう言ったのは生き残った四人の内、誰だったか定かではない……と言うより誰でも良い。皆の心は一つだった、即ち”とっとと逃げろ”だ。


「あっ! コラ待て――」


 賢司が呼び止めるが待つ訳がない。どこの世界に敵に言われて本当に待つ輩が居るというのか。盗賊たる者、最も大切な能力は逃げ足だと言わんばかりに脱兎となる生き残り盗賊ズ。ホームグランドである山中に逃れてしまえば容易に撒けると高を括っていたが、


「……逃がすか阿呆」


 不意に聞こえた罵倒と共に、眼前に黒い影がよぎる。直後逃げ出した全員が意識を闇に落とした。死んだ訳ではない、気絶させられただけだが、数時間後に目覚めた彼らは自分達を返り討ちにした少年少女が残したであろう置手紙に盛大に凹む事となった。


『盗賊にとって一番大事なのは標的の強さを見誤らない事。そういう意味ではテメェらは零点以下のマイナスだ。才能ねぇから辞めちまえ』


 そう、絶対に格上の実力者を襲ってはいけない……それが盗賊の鉄則。全員がぐうの音も出なかった。余談だが、運良く(・・・)後遺症も無く回復した十数名の盗賊団は身の程を知って真面目に働く道へ更生していったらしい。


 ====================


 戦闘後、そして件の盗賊団が目覚めるより前の山道。正規のルートに復帰した若者パーティは自前の馬車で目的地への旅路を消化していた。


 あれば便利という事で帝都を旅立って最初に訪れた街で馬一頭と一緒に購入したのだが、馬車の中はほぼ物置状態で人が乗れるスペースは殆ど空いていない。


 乗れるのは御者を含めて二人分。よって誰が乗るかは時間で交代制としており、現在は愛奈と美矢が乗り込んでいた。因みに御者は美矢が務めている。


 他の四人は歩き兼護衛役。その先頭を行く少年――竜宮アキトは後方を振り返りつつ、少々呆れた表情で一言告げる。


「……六十八点だな」


 何の点数かと言えば、先程の戦闘に対する評価であった。一応合格ライン――六十点――を超えてはいるが結構な辛口評価だ。その結果に華蓮、守に美矢が不満気にブーイングを飛ばし、愛奈と賢司が納得したように溜息を漏らした。


 聞き分けの良い者とそうでない者に見事真っ二つ……その状況にアキトの表情が引き攣った。


 そんなアキトに構う事も無く不満を吐き出すのは”ミスターデリカシーゼロ”の二つ名を持つ守だ。


「アキッち厳し過ぎねぇ? ちゃんと俺っちらだけで制圧したぜ。何を以て減点されたよ?」

「まず最初に、途中で指揮が乱れたからマイナス二点な」


 守が沈黙した。件の事態を招いた結界魔法使いに、美少女剣士と美少女魔工師の非難の目が集中した。守が「ちょっ……!」と理不尽だじぇ~と言いたげだった。そこで頃合いかとアキトからフォロー。


「いや、結果として上手くいかなかったけどさ、守のあの行動自体はそれ程悪くないんだわ」


 その言葉に美矢と華蓮が「えっ?」となる。対して守の目がキラキラしている。「心の友よ!」と言いそうだ。その目に若干引きつつもアキトのフォローは続く。


「あ~うん、戦闘指揮に従うのは大事な事だけど、何から何まで指揮官の言う通りにしか動けないってのは良くないんだ。指示するまでもない些事は自己判断で処理して欲しいし、欲を言うなら逆に指揮官が把握できていない事象を報告できるくらいにはなって欲しい」


 要は前衛を担う二人――アタッカーである華蓮とタンクである守の連携の練度を指摘したんであって、行動そのものは問題無いとアキトは言う。それならばと口を開いたのは今回の戦闘で中衛として指揮官を務めた賢司だ。


「突発的な事態に指揮を乱したのは寧ろ僕の落ち度だしね。ちょっと焦っちゃったし」


 自身の失態をしっかり自覚できている賢司にアキトは多くを言わない。代わりに軽く助言と励ましを施した。


「こればっかりは経験値を稼ぐしかないな。今後の課題として意識してれば良いよ」

「心得ました。……でもそれなら皆にも”念話”を習得して貰った方が都合が良いかな?」


 盗賊との戦闘中で行っていたのは厳密には”念話”ではない。あれは賢司が最も得意とする闇属性の付与魔法だ。賢司が独自に開発した新魔法で付与を施した複数人に一方的な”念話”を行使できる。賢司は”伝心”と名付けていた。


 アキトが竜人化した際に”念話”で会話していたのを参考に組み上げ、敵に知られず味方に指示を出せる手段として重宝してはいるが、あくまで送信するしかできないのが欠点となっている。もし味方から戦闘中に報告を受けるならそれも”念話”で行った方が良いのではと賢司は懸念する。


「報告を肉声でしたら”伝心”の利点を損なっちゃわない?」

「そうでもないな。そもそも”念話”自体珍しい魔法だし、大抵の奴は戦闘中の指示を肉声でやってるから」


 情報のやり取りを一部とは言え知られずに行えるだけでアドバンテージはデカイ。賢司の懸念は杞憂として処理されるのだった。


 よってそれは置いておいて、もっとも重要な減点についてアキトの話は続く。


「正直、俺抜きで盗賊達を殺さずに無力化できたのは重畳だったと思う。対人戦闘に於いて生け捕りを想定するのも無くはない判断だし、愛奈の治癒魔法を当てにしたとしてもそれを遵守できたのは大したもんだ」


 そう、今回の戦闘ではアキト抜きで対処する事をアキト以外のメンバーの総意で課題としていたのだ。実はこれ……今回が初めての試みであった。


 帝都を発って一ヶ月……その間に魔獣、盗賊相手に幾度か戦闘を経験してきた御使いパーティ。無論全員で切り抜けており、アキトも当然戦闘に参加していた。ただし、他の面子の訓練も兼ねていたので主戦力ではなくあくまでサポートに徹してだ。


 それでも、前衛、中衛、後衛といった立ち位置に縛られない遊撃という立場で支えてくれるアキトの存在は、この異世界【スフィア】の基準で卓越した技能を有するとは言え、実戦経験に乏しい【地球】出身な高校生達にとって非常に有り難い恩恵をもたらしていた。


 そんな状況で、皆は次の――できれば対人――戦闘ではアキト抜きで行う事をアキトに提案し、アキトもそろそろ頃合いかとそれを容認したのだった。


 そして諸々の理由から、敵対勢力を生かして無力化するという難事を一応やり遂げては見せた。しかしだ……、


「最後の最後で敵の逃亡を許した事によってマイナス二十点……その上で俺が介入する事態になったから更にマイナス十点」


 そこだけアキト的に許容し切れない失態だったのだ。合計でマイナス三十二点。


 採点の詳細を聞いて皆が納得……できなかった。それ所か、たったそれだけの事でそこまで減点されるかと大いに不満をぶちまけた。

 いきなりクライマックス。ネタバレみたいですが、ここに至るように物語は進んで行きます。


 なので二章は守に焦点が当たるのです。


 勿論、他のキャラも活躍しますよ。ついでに新キャラも考えています。



 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 できるだけ早く次話を投稿します。


 面白い、続きが気になるなど思って貰えたら、評価やブックマークをして頂けると、すごく励みになります。下記の評価ボタンへどうぞ。

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