駄天使の解説
アキトと天使の決着から時を少々遡ろう。
時はアキトが天使と共に古教会の天井を突き破った直後、愛奈が発作により意識を失った場面で事は起きた。
直前に尋常でない発熱に苛まれていた愛奈だったが、意識を失うと同時に熱はみるみる引いていった。しかしそれが却って皆の不安を煽る結果となり、後の展開に於いて混乱を招く羽目となった。
そりゃそうだろう、高熱に侵された患者の体温が急激に下がったら最悪を想像するのは至極当たり前である。実際は二〇〇年前にアキトを転生させた堕天使レイアが愛奈に憑依し、その際に副作用として発熱しただけで、体温が落ち着くと愛奈――中身はレイア――は平然と起き上がった。
言うまでも無く、その光景を目の当たりにした全員が体内時計の針を停止させた。ここでレイアがすぐに事情を説明できれば良かったのだが、それよりも早くミントが反応してしまったのが良くなかった。
『……貴女ぁ~誰ぇ~? 愛奈さんじゃ~ないわよねぇ~』
魔力感知で個人の特定が可能なミントの証言は何にも勝る真実である。何より先程アレハンドロと剛田に天使が憑依した現場に居合わせたばかりで、しかも愛奈の容態急変で半ば発狂寸前だった美矢、華蓮、賢司、守は有無を言わさず事情の確認も全くせずにレイアに敵意を向けた。
天使の仲間が愛奈の体を奪ったと大いなる誤解を抱えて。
それに対してレイアは……全員を結界魔法で拘束するという暴挙を働いた。すぐにでもアキトの元へ駆け付けたい気持ちもあったが、それ以上に状況説明が物凄く面倒臭かったからである。
無論、結界は内からだけでなく外からも破壊困難な特別製で拘束以外に守護の目的もあったのだが、それすら説明を端折ったレイアは皆から盛大に糾弾されつつアキトの元へ急行した。
そしてレイアが戦場に到着した際に見た光景は、アキトが天使に一太刀浴びせられ【聖剣アスカロト】による鳥籠にとらわれている場面だった。
神器の特性を予め知っていたレイアは目の前の事象が神器解放によるものだと瞬時に察した。【聖剣アスカロト】の実像複製の能力もすぐさま推察し、アキトを援護すべく外側から魔法による火力支援と神器本体の特定作業に入ろうとした時にそれに気付いた。
――あれ? 何だろこの気配? ひょっとして……神器の本体って……あれかしら?
行動開始する直前で意識に引っ掛かる気配を辿ると、そこに捉えられたのは鳥籠を形成する神器の一本。ここに来てレイアは愛奈が魔力でなく魔法そのものを感知する技能を獲得していた事を思い出した。
愛奈の体に憑依した故に、今自分が感知できているのもそのお陰。敵天使は魔力を偽装して【聖剣】本体を隠してはいたが、神器自体が魔法を絶え間無く発動している所為で魔法感知からは逃れられなかったのだ。レイアは速攻でアキトに”念話”を送った。
『やっほーアカツキ久しぶり。いきなりだけど、今からあたしとあなたの知覚を同調させるから』
『……レイア!? 何で!? いきなり過ぎるんだけど‼ ……って言うか知覚同調って何!? 今度は俺に何する気だ!?』
『あーもーうっさい! 詳しい説明は後々。”念話”の応用だと思いなさい。兎に角、かくかくしかじかで今あなたが感じてる奴が――』
『成程成程……神器の本体って奴か。あれを壊せば終いって訳だな』
詳細を著しく省くとこのようなやり取りの後、アキトは天使からの猛攻を”黒炎”を纏わせた鉤爪で薙ぎ払いながら、天使が呆けている隙に捕捉している神器本体に向けて”黒炎”の種火を指弾で飛ばしていたのだ。
つまりアキトが妙に容易く神器を攻略できたのはアキト自身の功績でなく、レイアの……もっと詳しく言うなら愛奈の魔法感知の助力を得た為というのが真相だった。
そうして戦いが終結し改めてアキトが魔力感知を試みた所、何故か愛奈とレイアの気配が混合しておりそれに伴って他の面子の気配を辿れば未だに聖地に留まっている事に気付いて、アキトがレイアを問い詰め始め現在に至る。
『何でお前はいつもいつも……そう想定外な登場をするかな……』
「いつもいつも余裕が無いのよ。どうにかしたいけど状況がそれを許してくれなくて」
『はぁ~~、……取り敢えず、愛奈は無事なんだな?』
「大丈夫よ。彼女の魂魄には一切の悪影響を及ぼしていないわ。って言うよりしたくてもできないってのが本音だけど。今のあたしにはほんの一時しか意識を顕在させられない事情があるの。そこら辺も詳しく話したいし、だけど余り時間も無いから勝手でごめんだけど早く皆の所に戻りましょ」
全くこちらの疑問を解消せずに自分のペースで話を進めるレイアに嘆息しながら、まぁそれで不都合は無いしとアキトは納得しつつレイアを伴って聖地へ向かった。
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愛奈に憑依したレイアを伴って仲間の元へ帰還したアキトは……目にした状況に体幹が傾きそうになるのを必死に堪える。
そこで目にしたのは結界という名の牢獄に閉じ込められ、そこから脱出しようと必死になって足掻いている友人達の姿。
「くそっ、駄目だ賢司! 結界が強過ぎる! 属性も何だか分かんねぇし、俺っちじゃ中和できねぇ!」
「手持ちの魔導具も弾切れやし……! 魔法やとどうにもならんっ!」
守と美矢が魔法的アプローチで結界を無力化しようと四苦八苦している。無茶としか言えない、咄嗟に片手間で発動したとは言えレイアの施した結界を無力化するのは人では不可能だ。
「あぁ~もう、硬過ぎるわよこれ! ミスリルが刃毀れするってどんだけよ!?」
「離れた場所で継続的に魔法を維持するなんて、魔力の桁が違う……そもそも魔法式が――」
片や華蓮が物理的に対処しているが、足元に転がる魔導具の残骸を見れば随分と諦めが悪いと言えた。その傍で賢司がブツブツと結界について考察している。このまま待てば実現性を度外視した対処法くらい思いつくかもしれない。
帰って来たアキトにも気付かず一心不乱に足掻く友人達を眺め終わると、アキトは胡乱な眼差しでレイアを睨んだ。
「ど・こ・が……『ちゃんと守りは固めて来た』だ? お前これ事情を一切説明せずに閉じ込めて来たの間違いだろう」
因みにアキトは既に人間の姿に戻っている。なので表情からも呆れ成分過多なのがありありと分かった。それに対してテヘペロな態度で応えるレイア。アキトは思わず制裁アイアンクローを発動しかけるも愛奈の体であると寸前で思いとどまった。
そこまでのやり取りの後、ようやく美矢がアキト達の姿に気付く。
「あっ! アキやん……と、愛奈を乗っ取ったどこぞの誰か‼ アキやんそいつ愛奈ちゃうで!」
「竜宮そいつから離れて……って言うか捕まえて! それと愛奈じゃない誰か……今すぐここから出しなさい! そして愛奈の体から出て行って‼」
美矢の様子から気付いた華蓮も追撃に乗り出した。相手が只者でないと分かった上での強気な態度が両者の愛奈に対する情の深さを表している。美矢は兎も角、華蓮がこうなのがアキトにとって予想外だ。自分が居ない間に何があったのだろうと凄く気になるが、
「分かってる分かってる。だから落ち着け。取り敢えずこいつに害は無い。敵は……あの天使は排除したから、もう危険はねぇよ。詳細はこれから説明するから」
一先ず冷静になるよう促し、続けてレイアには結界の解除を指示する。善意の牢獄から解放された面々は安堵しつつ一目散にアキトへ群がった。真っ先にアキトへ飛び付いたのは美矢だ。
いきなり鳩尾辺りに突撃して来たのでアキトをして「うぐっ」と呻いてしまう。そのまま体のあちこちをまさぐるのでちょっと背筋を粟立たせて邪推してしまう。
「……いきなり何のオープンセクハラだ? 遂にそっち系にも目覚めたのか?」
「誰が痴女や! そうやなくて……あないなバケモンと戦って来たから、どこも痛ないか? それとあんな姿になっとったから、何か後遺症とか――」
「あぁ大丈夫大丈夫。何の問題もねぇし怪我もしてねぇよ」
「嘘吐き。すぐに治っただけで怪我はしてたじゃない。それにしても愛されてるわねアカツキ。お姉さんは嬉しいよ~」
「レイアさん、スーパーシャラップ」
余計な事を言うなとレイアに釘を刺すアキト。相変わらず乗りの軽めなレイアを美矢はギンっと睨むと無言で威嚇した。アキトの保証があっても未だ警戒心は解けていない。そんな中、比較的冷静な賢司が状況を確認する。
「アキト……詳しい確認は後にするとして、今まで諸々の話を総括すると君には前世の記憶があると思って良いのかな? そして前世の名前はアカツキだと……」
「……その通りだ。アカツキ・マガラ――それが前世で……【スフィア】で竜族だった頃の俺の名前だよ」
聞かれてはいなかったが、アキトは質問に答えると共に伝えるべき前世での事情を皆の前で正式に告白した。それについて天使との話の内容や、実際に目にしたアキトの力の一端からほぼ確信を得ていたとは言え、賢司は思わず慄いた。
異世界転移などと常識外な経験をしたとは言え、これは中々に受け止め難い。まさかの異世界転生者が目の前に居るのだ。しかし他ならぬアキトの言葉ならと賢司はどうにか飲み込んだ。
「オーケー……。それで、そこに居る神子柴さんに憑りついた誰かさん――レイアさんで良いのかな? 彼女は君の前世を知っているようだから、その頃の知人……味方って事かな?」
「あぁ、知人って言うか……戦友だな。それと非常~に業腹であるのだが、一応……恩人でもある」
「滅茶苦茶不本意そうねアカツキ? あたしの偉業に対して何か言いたげかしら」
「やかましい、言いたいことだらけだよ」
結果として良かったとは言え成功確率四割の異世界転生をさせられたり、結局転生先で得た友人達を巻き込んで有無を言わさず戻されたり、何故か大切な幼馴染の体を事情があるとは言え乗っ取られたり、その他前世でもあれやこれやとこの場で羅列すればキリが無い。
少々八つ当たりも含まれるが、恩義以外に不平不満も大量に抱えている相手がアキトにとってのレイアであった。
「それでも敵じゃないのは保証するよ。そして色々と事情を説明してくれるそうだから、不本意だろうと暫く付き合ってくれ」
「分かった」
「……了解や」
「オッケー」
「竜宮……今更だけど、あんたの事情も説明して貰えるのよね?」
「無論だ。その為にも彼女の話を聞いてくれると助かる。併せて聞いてくれた方がやり易いし、俺もレイアに聞きたい事があるし」
レイアに対する不信は一旦棚上げして同行するよう求めるアキトと、そのアキト自身についても事情説明を求める華蓮。他の面々が同行を了承するとアキトも求めに応じる姿勢を見せた。
取り敢えず場が収まったのを確認すると、レイアは先導して皆を礼拝堂へと案内する。道中では時間を無駄にしないように移動しながらの説明会が催されていた。
そこで正式にアキトの口から、自身が二〇〇年前の【スフィア】で竜族だった事、女神と天使の軍勢により竜族が滅ぼされた事、そして生き残ったアキトがレイアの手によって【地球】に送られ地球人として転生した事実が語られた。
「異世界転生か……。自分達が異世界転移した上にさっきみたいな事態に直面していなければとても信じられないね」
「そうね、竜宮の強さも元最強種族だって言われれば納得できそうだわ」
大凡の予想をしていた賢司と、アキトの規格外ぶりに対する疑念を幾らか解消された華蓮がすんなりと聞き入れる。人間じゃないと言われて納得される辺り華蓮がアキトをどれだけ非常識に思っていたかが凄く伝わりそうだ。
逆に納得し難いように渋面を作っているのはスフィア人であるセレナとミントである。
「わたくし達は少々……受け入れ難いですね。今まで信じていた常識を底から覆すような話ですし……」
「そうねぇ~、邪神レイアとぉ~その下僕である竜族はぁ~人を滅ぼそうとしてぇ~女神アーリア様に討たれたぁ~。これがわたしぃ~達が知る言い伝えだものぉ~」
「人間族を滅ぼそうなんてした事も無けりゃ考えた事もねぇよ。大体あんたらその人間族を守ろうとした天使様に殺されかけたばっかだろ。それにこの駄天使をどう見れば邪神に見える?」
「誰が駄天使よ!? 普通に堕天使と呼びなさい」
アキトに言われて沈黙するしかないセレナとミント。確かに先程の天使の振る舞いからあれを人間族の守護者とは思いたくない。そして呼び方が同じなのにニュアンスだけで意味を聞き分けるレイアのツッコミが冴える。これが邪神とはもっと思いたくない。
そんな騎士団のお姉様方の代わりに質疑の続きを促したのは守だ。
「それよか俺っち二〇〇年前ってフレーズがスンゴイ気になるんだけど。アキッち前世で死んでから二〇〇年経ってんなら、何で今高校生な訳?」
「あ~、それは俺にも分かんねぇんだ。こっちに帰って来てから俺も驚いたんだよ。もしかしたら【地球】と【スフィア】で時間軸がズレてんのかも……?」
「あっちとこっちで時間の流れがちゃうゆう事? それやったら【スフィア】で何年か過ごして【地球】に帰っても実は飛ばされた直後に戻れるとか?」
守の疑問については推測を述べるしかできないアキト。そこに美矢が更に具体的な推測を重ねたタイミングでレイアが真実を述べる。
「どっちが都合良いのか分かんないから残念とか安心してとか言い難いんだけど、【スフィア】と【地球】の時間の流れはほぼ同調しているわ。そもそも時間軸が同期していない異世界間の移動は難易度が跳ね上がるから」
アキトにとって割と長い間燻っていた疑問が専門家によって解消された瞬間だった。それによる反応は皆凄く複雑である。
同じ時間が流れているなら、それだけ家族に心配をかけているという事だからだ。いつ帰れるか確定していない以上、最悪【地球】では年単位で行方不明扱いをされる事になる。それと同時に数年掛けて帰還した際に周りと年齢差が生じる事は無くなったのだからそれはそれで安心なのである。
「アカツキの認識にズレがあるのは、単純に【地球】の理に彼の魂魄が定着するのに時間が掛かった所為なの。……あなたってば【地球】に辿り着いてから一八〇年くらい宙ぶらりんだったのよ。余りに遅くて一五〇年経った辺りであたしも諦めそうになったわ」
「テメェがやらかした案件だろうが! 勝手に諦めてんじゃ……ちょっと待てレイア。その言い方だとお前は【スフィア】に居ながら【地球】に居る俺の状態を把握してたのか?」
かなり理不尽なレイアの駄目出しに憤りながら、アキトは聞き逃せない言質を得た。隔てられた異世界間でどうやればそんな事ができるのか? それについてレイアはその質問を待ってましたとばかりに微笑む。
「それをする事が……あたしがこの娘に憑りついている最大の理由よ。……っと、ちょうど良く目的地に到着ね」
都合良く段取り通りに礼拝堂の奥――アーリア神像が鎮座する前に到着したアキト達。するとレイアが進み出て、アーリア神像に向かって詠唱を始めた。魔法式でもない、アキトですら解読不能な言語を紡ぐと”それ”は現れた。
神像から光が溢れ出す。光は神像を離れるとアキト達の眼前に収束し、光の球体となって漂う。球体から放たれる気配に皆を勿論、アキトですら息を呑んだ。それらを放置してレイアが事を足早に進める。
「さて、話の続きはこっちに頼むわね。そろそろ器の娘が限界だし」
「……は? お前何言って――」
アキトが言い切る前にレイアは球体に触れる。途端にレイア――愛奈の体から同様の光が漏れ出し球体に注がれた。直後に愛奈の体は支えを失ったように崩れ落ちる。アキトが地面に倒れる前に急いで抱き止めた。
急展開に何事かと美矢を筆頭に皆が駆け寄る。気を失ったように見える愛奈が目を覚ましたのはすぐだった。
「……う……ん…………、アキ? ……美矢ちゃん?」
「「「愛奈!?」」」
目覚めた瞬間の気配から、それが愛奈本人だと確信する。堪らずアキト、美矢と華蓮が同時に名を呼んだ。併せて健康チェック……アキトが行おうとすると美矢と華蓮に咎められたのでミントに任せて、問題無く健康体と判明。その結果に賢司と守も安堵の表情を浮かべる。
しかし直後に全員が驚愕で固まった。
『うんうん、見込み通り大丈夫そうね。流石あたし抜け目無し』
いきなりの”念話”が問題の光球体から飛び出たからだ。理解の外にある現象にアキトを含めた愛奈以外の全員の視線が球体に向けられた。
最初に再起動を果たしたのはアキトだ。それは察したというより、他の可能性が思い当たらない故に導き出した消去法な問い掛け。
「……そこの球体……、まさか……お前、レイア……か?」
『あたし以外に誰に見えるのよ?』
何を太陽が東から昇るのと同レベルで当たり前の事をと言わんばかりのレイアの呆れ声に、「寧ろお前以外のナニカにしか見えんわ!」とアキトのツッコミが迸った。
ただ訂正するなら、その球体に全く見覚えが無いと言えば嘘になる訳で、それしか思い当たるものがないのでアキトはその名を口にした。
「霊体……だよな? 天使もそうだったけど、お前まで何だってそんな有様に?」
そう……肉体の代わりに魔力を器として魂魄を宿した状態。かつてアキトもそうなった経験がある霊体である。それはつまり肉体を喪失している証でもあり、一体全体二〇〇年の間に何があればこんな事態になるのかいい加減教えて欲しいとアキトは切に願った。
『はいはい引っ張ってごめんなさい。取り敢えず今のあたしが知っている事を最初から順に話すから、分からない事はその都度聞いてちょうだい』
そう言ってレイアは二〇〇年前、アキト=アカツキを【地球】に転移させた時の前後から話し始めた。
天使が【聖剣アスカロト】を叩き込む寸前にアカツキの霊体を救出したレイアだったが、それより以前に天使共によって施された封印を無力化した影響でその力は弱体化を余儀なくされていた。
そこへ追い打ちを掛けるように天使の軍勢から雨霰のように魔法を打ち込まれ、更にアカツキを【地球】に転移させる際に殆どの魔力を使い込んだ所為でほぼ無抵抗のまま、追撃を仕掛けた天使達に捕縛されてしまったらしい。
しかしそこは策士も策士な堕天使様、連行される直前にとっておきな手段で窮地を脱したのだった。
『それこそ名付けて”分霊法”! あたしが開発した魔法の究極奥義よ‼』
「「「「「「「「…………?」」」」」」」」
ドヤァするレイアの霊体。きっと肉体があるなら極めてウザいドヤ顔を決めている事だろう。だがどれだけ存在しない胸を張られても”分霊法”なる言葉の意味が分からない以上、リアクションを示すのは極めて困難であると言わざるを得ない。
全員がキョトーンと首を傾げている状況に遅れて気付いたレイアが急いで”分霊法”について説明した。
即ちそれは魂魄を分割する魔法。それにより意識を共有できる分身を生み出す事が可能だとか。これによりレイアは天使に気付かれず連行される本体から魂魄を分離させ、分かたれた霊体――分霊となって逃げのびたのだった。
そこまで聞いたアキトに天啓が舞い降りた。たった今気付いた重大事に堪らず声が張る。
「って事は……ここに居るお前はその分霊って奴か? 本体は天使共に囚われていると?」
『正解! アカツキ、よくできました!』
問題に正解した生徒を褒めるように、レイアはアキトを称賛した。ついでにそのまま補足説明に突入。
曰く、実はアカツキを転移させる際にも分霊を生み出し、アカツキの霊体にくっつけて一緒に【地球】に送ったとの事。目的は【地球】に居るアキトの監視と【スフィア】に呼び戻す為の道標とする事だった。
その分霊は転生後暫くはアキトと共に在ったらしいが、頃合いを見てアキトに近しい地球人に憑依させた……それが愛奈である。再びアキトが天啓を得たと発言。
「んで、その分霊はもう役目を終えて、愛奈から離れてお前に取り込まれたと――」
『それは残念ながら不正解よ。あたしの分霊は今も彼女の中に在るわ』
「「はぁっ!?」」
しかしレイアは予想を裏切る衝撃的なカミングアウトを返球した。アキトと同時に美矢も叫ぶ。そしてレイアは二人が異議を立てる前に発言を重ねた。
『アカツキ……理由を語る前にあたしの事情を知って貰うわね。さっき言ったけど、あたしは天使に捕まる前に分霊を生んで難を逃れた。その後で更に魂魄を細かく分けて【スフィア】各地に散らせたわ。その理由が分かる?』
感情を昂ぶらせた所為かアキトの反応はやや遅かった。なので最初に察したのは賢司だ。
「……敵――天使の追撃から逃れる為、もしくは敵側に渡せない情報があってそれを守る為……だね」
『あなた良い! 賢いわ! 流石アカツキが頼るイケメン君』
レイアに褒められても賢司は嬉しくない。見事なノーリアクションを示すもレイアはお構い無しに説明を続ける。
『あたしの分霊達は意識と人格を共有しているけど、記憶だけは分割してそれぞれが有しているの。理由は分霊が敵の手に落ちた場合、こちらの情報を悟られないようにする為よ』
先程、愛奈の体から取り出した光は愛奈に宿る分霊の記憶だったらしい。色々説明をしたくても愛奈の体で分霊の人格を顕在させるのは限界だったのと、今目の前に在る分霊はこれまでの事情を把握していない為に必要な手順だったのだ。
そこまで聞いて、再び賢司のターン。
「成程ね……貴女の目的――貴女が僕らに何をさせたいのか分かったよ。僕らに散らばった貴女の分霊を集めて欲しいんだね」
『また正解! ……あなた本当に察しが良いわね』
堕天使様、イケメン君の余りの賢さに若干引く。近くでアキトが共感したようにうんうん頷いていた。微妙に嫌そうな表情で賢司が睨むもアキトは構わずレイアを問い質す。
「分霊を集めて何をするんだ?」
『天使達に囚われたあたしの本体を取り戻したいのよ』
「本体は無事なのか?」
『無事よ。封印されているみたいだけど、意識は共有できてるから』
「他の分霊がどこに在るかは分かるか?」
『分霊一つには別の分霊を最低一つを感知できるよう細工してあるの。全てを把握させてないのは敵に奪われた時に情報を渡さない為の保険ね』
「周到だな。それなら最後に――」
「ちょっと待ちなさい」
問答を繰り返すアキトとレイアの間に割って入ったのは華蓮だった。その顔には不満がありありと浮かべられている。
「何かその……人? の思惑に平然と乗せられてる感が満載なのだけれど、竜宮は何かノリノリでやる気みたいだけど……危険じゃない? 明らかに天使と敵対する未来しか見えないのだけれど、そこまでしてその人の希望に沿うメリットがあるの?」
「落ち着け藤林。今それを聞こうとしてた所だ」
警戒を露わに華蓮は既にレイアの依頼を受けようとするアキトに苦言を呈すが、アキトは華蓮を宥めて極めて重要な確認を行う。その内容に華蓮は勿論、他の面子も意識を持っていかれた。
「最後に確認したい。レイア……お前が本体に戻れば、俺達を【地球】に帰せるか?」
『勿論……可能よ。言うのが遅くなっちゃったけど、それがあなた達への見返りになるわ』
その言葉に愛奈、美矢、華蓮、賢司、守が呆然となった。さっきまでのレイアに対する警戒も一時霧散する。敢えて言うなら……皆歓喜していた。ただ余りの喜びに、メーターを振り切った感情が上手く表情として形になってくれない。
無理も無い。誰もが帰りたいと思っていた。しかしその方法が分からなかった。確信とはいかなくても、きっとある筈だと希望は持てていた。しかしそれでも不安は消えてくれなかった。本当に帰れるのかと。
だからこそレイアの確信を伴った言葉は皆の心に深く浸透した。それは当ての無い荒野に放り出された旅人が、向かうべき道標を照らされた瞬間だった。
ここに来てようやく、今後の旅の目的を明確にできました。
二章以降はレイアの分霊を探す旅にする予定です。
読んでくださっている方、心よりありがとうございます。
次回は来週土曜日に投稿予定です。




