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黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第一章 ギャレリア帝国編
25/62

イケメン君の真価

 2019年、あけましておめでとうございます。


 遅めですが新年の挨拶を以て今年最初の投稿をさせて頂きます。

 女神アーリアの天使?


 黒竜アカツキ・マガラ?


 女神と黒竜は聞き覚えがあっても、天使の存在と黒竜の個体名など伝わっていない故に、【スフィア】の伝承を網羅した賢司は勿論、スフィア人であるセレナとミントも初耳なワードだった。


 天使――アレハンドロ(仮)と黒竜――アキト以外が誰一人として話に追従できない状況だろうとお構い無しに、当事者二人の会話は弾むに弾む……まるで久しぶりに再会した友人同士のように。


「二〇〇年ぶり……になるのかな? 実は全く実感ねぇんだけど、てめぇらに殺されかけた……いや、ある意味殺されたのが俺にとってはついこの前みたいなもんだし」

「質問に答えなさい。我らの軍勢にボロ雑巾にされた挙げ句、血の海に沈んだ貴方が……その上魂魄すら粉々に砕かれた貴方が何故ここに居るのか聞いているのです」


 訂正しよう……とても友人同士でする会話ではなかった。とてもお茶の間で流せないような殺伐とした内容の会話が、一掬いもフィルターに濾される事無く飛び交う。


 余りのやり取りに、その場に居合わせた傍観者達が口を挟む余地が無いにも関わらず、ついつい「うぐっ」と口を紡いでしまう程に雰囲気は重い。


 無論、最初から決して和やかな空気ではなかったのは言うまでも無いが。


 一方で、言われて「おや?」とアキトが思ったのは至極真っ当なリアクションだ。『魂魄を粉々に砕いた』とは何ぞや?


 何せアキト――アカツキは堕天使レイアの手によって失敗確率が六割の【地球】行き異世界転生を見事成功させて、竜宮アキトとして生まれ変わってここに居るのだ。その魂魄は無事に保護されていたのは言うまでも無い事実の筈。


 一つ言えるのは……【ゲート】を潜った後の顛末は全く存じていない事だった。推測すると、どうやらアカツキの霊体が転移した後に一幕あったのだろうという事で、そして元黒竜が知る件の駄天使なら打てる手段は二重だろうと三重だろうと……いっそ十重だろうと打てるだけ打つだろうとアキトには容易く予想できる訳で。


 結論、この天使は何かしらの手段でまんまとレイアに出し抜かれてしまったという事だった。セレナ以上に無表情――否、無感情な面からは読み取り辛いが、アキトに問い質すまでも無くとっくにその事に勘付いているだろう。きっと苦汁を噛み締めているのだと察しがつく。


 だとしても、アキトにそんな事情を斟酌する気など更々無い。構わずアレハンドロに扮する天使の意向を無視して話を進めた。


「その質問に答えるのはやぶさかじゃないんだが、その為にこっちの質問を先に片付けてくれないか? 『魂魄すら粉々に砕いた』ってのはどういう事だ? 流石にそこまでされた覚えは無いんだが」

「……答える必要はありません。それより此の身の問いをここまで無視するとは……相変わらず無粋と言うも生温い程に礼を知りませんね」

「俺と俺の同胞を殺した輩に払う礼など元から持ち合わせてねぇし、これからも持つ気はねぇよ。それに一つ答えるなら……俺が生きてる理由は兎も角、俺が今ここに居るのはてめぇの主の所為だよ。アーリアは何の目的で異世界の住人を召喚した?」

「…………成程、どうやらイレギュラーが発生したようですね。……あの堕天使め、まさかここまで見越して――」


 後半、何やら重大事を言いかけたようなのでアキトはすかさず追撃を図ろうとした。同時にいい加減放置される事に耐え切れなくなったのか、賢司を筆頭に他の転移組が会話に割って入ろうと動き出す。しかし場の主導権を掻っ攫ったのは想定外な輩だった。


「竜宮ぁあああああああっ! ……テメェえええええええ‼」


 まさかの剛田だった。アキトによって幾枚もの壁を貫通させられる羽目になるも、そこから舞い戻り開口一番にアキトへ咆える。


 流石に予想外な展開にアキトも若干ビクッとなる……すぐにそれは面倒臭さ全開の溜息に変換されたが。転じて天使アレハンドロはと言うと、表情は相変わらずだが存分に呆れ果てたように剛田へ釘を刺した。


「太我、そこに控えていなさい。今は貴方に気を割いている場合では――」

「うるせぇええええっ、引っ込んでろ!」


 暫しの静寂……それを生み出した男にその場の全員の視線が集中する。そこには当然アキトも含まれていて、最も警戒すべき天使から気を逸らすリスクを理解しながらも、そうせざるを得ない事態に若干目を剥いた。


 愛奈と華蓮、そしてアレハンドロを除いた者達は何故剛田がここに居るのかその理由を知らない。それでもこれまでの経緯から大体の背景には察しがついていた。


 剛田の立ち位置は明らかにアレハンドロより下の筈だと。愛奈と華蓮は実際にそれらしい場面を見ているし、実際にアレハンドロの尋常でないプレッシャーを体感している。アキトに至ってはアレハンドロ――天使の力量を嫌と言う程に熟知している。とても剛田が太刀打ちできる相手ではないのだ。


 他の者達も確信は無くとも、与えられている装備――神器の存在からおそらくそうだろうと推察しており、よって皆が皆改めて剛田の唯我独尊(きかん坊)気質に慄いていた。それは感心と言うより、ここまで馬鹿なのかという呆れの成分が多分に含まれているが。


 最早剛田に対して手心を加える気など毛頭無いアキトは、いっそこのまま眼前の傲慢天使の逆鱗に触れて断罪されてしまえと……そうすれば余計な手間が省けそうだと放置する意思を固めた。そんな中で、再び静止した空気を動かしたのも剛田だった。


「教皇……テメェとオレが交わした契約は『オレがテメェの兵隊になる代わりに竜宮との再戦の場を設ける』だったな? 今がその時だ……なら今はそれを優先させて貰っても問題ねぇだろ?」


 それは流石に状況というものがあるだろうと誰もが思った。特に転移組の反応が顕著だ。このような状況でも常に誰に対しても自分優先がブレない剛田に対しての呆れ度合いが天井知らずで上昇中だ。そして案の定な両者のバックボーンに自然と溜息が漏れる。


 アキトに至っては最早溜息すら出ない。さっさと粛清されてしまえと内心で勝手に事態を畳もうとしていると、


「……良いでしょう、確かに約定を違えるのは本意ではありません。今度こそ存分に力を振るいなさい」


 意外過ぎる展開に口があんぐりするのを全力で堪える事態に陥ってしまった。「一体何の気紛れだ!?」と全力で異議ありしたいアキト。


 アキトにとって天使とは【地球】出身のケダモノを超える高慢ちきな存在で、間違っても見下す相手の都合を汲むといった真似などする筈が無いという認識なのだ。


 なので存分に邪推をするアキトだったが、お構い無しに剛田はその気になって戦意を高めている。天使はそれを何の感情も表に出す事無く静観の姿勢だ。


 ――こいつ……一体、何を考えている?


 まさか本気で剛田がアキトに勝てると思っている訳ではないだろう。ならば何かしらの裏があると考えるのが妥当である。


 ついさっきまでは何の躊躇も無く排除しようとしていたのに、今は戦意を滾らせてこちらへと歩を進める剛田を見ながら、アキトは果たしてこのままこのケダモノを屠って良いのか逡巡してしまった。因みに剛田を気遣ってはいない、あくまで天使の意図を警戒しての判断である。


 しかしそんなアキトの胸中など知った事では無い剛田は既に攻撃の予備動作に入っていた。【聖剣】は現在アキトの足元やや後ろに転がっているので丸腰ではあるも、元から徒手格闘が得意である剛田には問題にならない。


 右拳を腰に――中段突きを放つような形で――構えて、踏み込む足に重心が移動している様から、きっと実際に行動に移されるまでの猶予は一秒足らずだろう。


 アキトには剛田を始末する事に対する忌避感は無い……しかし仇敵の思惑に乗るのは勘弁だった。殺させるのが目的なのか、それとも戦わせる事自体が目的なのか。将又、考え難いがただの気紛れか。


 迷いを許容できる時間は瞬く間に過ぎ、因縁ある天使との大事を控えた状況で些事と割り切るには少々厄介な剛田の逆恨みに、アキトは仕方無く応戦しようと向き合った。


 ――ゴギンっ。


 そして眼前で響く鈍い破砕音に「へっ?」となった。具体的に言うなら、急に足元から出現した幅二メートル、高さ三メートル、厚さ三〇センチメートルの石壁と、その石壁が出現する直前に剛田が向かって来るのが見えたのできっと剛田が石壁に正面衝突した音に対して目が点になった。


 それは守の地属性結界魔法”地昇壁”だ。風属性の結界と違って地面に固定されてしまう為に、汎用性では劣るものの強度という点では”絶風陣”を上回る。それが砕ける程の衝撃を以て剛田は結界に突っ込んだのだ。


 直後に「グベコっ!」と意味不明な――きっと剛田の――呻き声が聞こえると、石壁は負荷に耐え切れずに崩壊し、だがすぐに今度は無色透明な障壁が展開された……守の風属性結界魔法”絶風壁”だった。これは”絶風陣”と違い一方向のみに展開される結界である。


 強固な石壁を粉砕した後遺症でよろめく剛田から何を防ごうかと思えるが、目的が異なる事を続く守の一声で全員が悟った。


「”絶風壁”……解」


 その宣言の後に、圧縮空気によって生成された結界の剛田側に亀裂が走った。


 さてここで問題です。例えば大型トラックに使われているタイヤが破裂した際に近くに人が居るとどうなるでしょうか?


 ………………………………。


 答えは”命の心配をするレベルで盛大に吹き飛ばされる”だ。気になる人はYou〇ubeで検索してみよう。


 しかも守のこれはただ結界を破裂させるのではなく、発生する衝撃波にしっかりと指向性を持たせて敵に余す事無く空気砲をお見舞いできるよう考案された立派な攻撃手段だ。


 剛田だけを狙って解放された――結界を形作る圧縮空気は一種の戦槌の如き衝撃で剛田を弾き飛ばした。再度言うが、剛田が身に付ける【聖鎧】の結界は吹き飛ばされる事を防げない。アキトに蹴飛ばされた程ではないが、剛田は盛大に壁面にめり込む羽目となった。


 しかし剛田の悲劇はまだまだ終わらない。


「”橙槌”! ”緋弾”! ”翠爪”!」


 美矢が両手と口に咥えた計三つの魔導具から放たれた突撃魔法の集中砲火が剛田を浴びせられる。しかも可能な限り連続で。凡そ十秒近く続いた魔法乱れうちの後、美矢は残弾が切れた小杖をどこかスカした態度で投げ捨てた……まるで火器の弾丸を全弾打ち尽くしたアクション映画の主人公を気取るように。


 壁にめり込んだ上に石礫に火の玉、そして鎌鼬の一斉掃射でもうもうとした埃に呑み込まれる剛田を見つめて、アキトが、愛奈が、華蓮が、セレナが、ミントがポカンとしていた。


 そんな中、アキトに声を掛ける者が居た……賢司であった。


「……アキト」


 どこかゲンナリしているように見える賢司。実は会話に置いて行かれつつも何とか自分なりに情報を精査して、完全とは言えないまでも状況を把握してアキトに話し掛けていた。何せ先程までアキトとアレハンドロによって理解の外にあるやり取りが繰り広げられていたのだから。


「取り敢えず……さっき華蓮から聞いて、あそこに居る教皇が何か別の誰かで……しかも只者じゃない事は理解したんだ。だから後は……そんな相手と君が顔見知りな理由と黒竜だとか天使だとかのワードの真意と併せて君がさっきディオガレックスを仕留めた時に見せた変な腕の事とか聞きたい事はてんこ盛りな訳だけど」

「……話すとなげぇから後にして貰えると助かるんだが」

「うん、僕もそれは後で構わないし……その代わり絶対話して貰いたいけど、今は取り敢えず剛田への対処だ。……裏があると考えてるだろ?」


 改めて賢司の慧眼にアキトは感心……と言うより驚嘆した。賢司も賢司で、あの放置状況でここまで察することができた自分を褒めてあげたかった。


「お前……ホント、よく分かったな」

「ちょっと脳みそ擦り切れるかと思ったけどね。それでだ……あの教皇らしき何者の意図が何であれ、君と剛田をぶつけ合わせる意味があるのだとして、剛田をこのままにしてはおけないだろ。だったら……僕らに任せてくれないか?」

「ひょっとして今のはお前の指示か?」

「まぁね」


 最初に蹴り飛ばされた剛田の再登場から今に至るまでの僅かな時間で、先程の見事な連携を組み立てた賢司とそれを実行できた美矢アンド守に、アキトは心からの賞賛を贈る。


 ただし事実として賢司は兎も角、美矢と守はアキトとアレハンドロ天使の話に付いて行けなかったので、憎き剛田への報復に集中していた背景があるのだがアキトは気付いていなかった。


 裏を返せば、短時間にそれだけ集中できる程に二人は剛田にお冠とも言える。愛奈と華蓮の有様を見れば納得だ。言うまでも無く賢司も同じ気持ちだった。しかしそれをおくびにも出さずに賢司は状況の打開に努める。


「相手の狙いが剛田の死か、それとも君と剛田との闘争かどうか分からないけど、それなら僕らが相手をした方が確実に剛田が死ぬ事は無いし、一石二鳥じゃない?」

「……唯一の心配は本当に剛田を殺す気が無いのかって所だけど、大丈夫か?」

「殺意は否定しないけど、いい加減に報復行為を殺人に直結させるのを止めようか。それについても後でじっくり議論しよう」


 普通は本当に賢司達だけで剛田の相手が務まるかを心配すべきであって、間違っても上手く手加減ができるかを心配するべき場面ではない。


 ある意味で信頼されている証でもあるのだが、「殺したい気持ちは分かるけど今だけ抑えてね」などとその気も無いのにアキト基準で心の声を決め付けられると、賢司としては違った意味でゲンナリしてしまう。


 一応は「今更殺す必要は無いよ、もう勝負はついてるし」と念押ししておく賢司。それに対してアキトは首を傾げていたが、問い質す間も無く剛田が復活した。


「ぐっ、が……は、ふざけた真似を……」


 確認して賢司は「一応、邪魔されないよう牽制をお願い」とアキトに教皇への対処を乞い、アキトは「任せろ」とそれを了承し……そして賢司は美矢と守を連れ立って剛田と相対する。


「か……はっ、ぺっぺっ。……ちっ、城島……テメェか? くだらねぇ邪魔しやがったのは」

「実行したのは守と鷹村さんだけど、指示したのは僕だよ。……で? だったら何?」


 大したダメージを負っていない為か、剛田にはまだ余裕があった。しかし流石はケダモノと言うべきか……賢司の挑発じみた告白の直後に、こめかみにはくっきりと青筋が浮かび上がった。さり気に守が「いきなり責任転嫁かよ!?」と別の理由で戦慄していた。


 要は全く怖がられていない剛田さん。それを揶揄して美矢がクスクスとこれ見よがしに笑ってみせる。それを見て剛田の青筋はより深さを増した。


「テメェら……舐めてんじゃねぇよっ! 雑魚が粋がりやがって……死にたくなかったらそこを退けっ‼」

「いやいや、退かしてどうするん? まさかアキやんに挑む気? そっちこそ死にたくなかったら止めとき」

「だな。命知らずなんてもんじゃねぇし、無謀にも程があるっしょ」


 からかい二割、敵意七割……そして実は素の心配一割で構成される苦言が美矢と守から投げつけられる。ただケダモノ成分が九割に達しようとしている剛田に二人の分かり難い真意は伝わらない。結論から言えば、ただ火に油を注いだだけである。


 怒りで今にも爆発するのではと懸念される程に赤く筋張った顔面を晒しながら、感情を言葉にするだけの言語能力すら失いつつある剛田に賢司が言葉で止めを刺した。因みに含まれる敵意は十割だ。


「残念だけど、退く気も無ければ退かされるつもりも無いよ。……そもそもお前にはもうどうやったって僕らを退かせる事なんてできないんだから」


 直後、キレる音が物理的に聞こえた気がした。


 反面、現実の剛田は一切の音を発せずに怒気を具現化する。全開となった瞳孔は視界に映る無機物全てを省き、標的のみを脳に伝達した。


 殺す……ただそれだけの感情を、華蓮の時のような嬲る喜びなど一欠片も宿さず、ただ目的のみを見据えたケダモノは獲物に迫ろうとし…………前のめりに崩れ落ちた。


「……っ!? …………っ‼」


 咄嗟に言葉が出て来なかった。怒りでメルトダウンを起こした思考回路はすぐには言語機能を取り戻してはくれない。故に拍車が掛かる混乱……なんとか動く首だけを上下左右と必死で動かす。そして何の弾みか視界に映り込んだのは、賢司の姿だった。


 その姿に剛田の背筋が凍った。


 一片の光を宿さない瞳で見下ろす賢司の顔から目が離せなかった……まるで金縛りに遭ったかのように。補足すると、賢司に魔力を用いて相手を威圧するような技能は備わっていない。よってそれはアキトやアレハンドロのそれとは異なる雰囲気、覇気といった極めて抽象的なものだ。


 以前にアキトから威圧を受けた剛田には全く異質なものだとよく分かる。肉体を端々から削られていくようなアキトのそれとは違い、内面――魂をジワジワ侵食されるような感覚に剛田の喉が大きく鳴った。


 急激に冷えていく血液で頭がクールダウンされると、剛田は自身が陥った状況をようやく理解する。


「……なっ!? これは……鎖!?」


 そう、自分が鎖で雁字搦めにされている事に剛田はようやく気付いたのだった。


 それは薄紫色に発光する鎖……のような物だ。本物ではないと分かったのは体に纏わりつくそれには感触が無かったからである。種を明かすと、それは魔力によって形成された疑似物質――鎖の形で行使された賢司の魔法だ。その証拠に剛田を捕縛する鎖の元を辿れば賢司の杖を持っていない右手に辿り着いた。


「これは僕の闇属性の魔力で作られた鎖でね……肉体でなく魂魄を縛るんだ。感触が無いのはその所為だよ」


 魔法の固有名は”縛魂鎖”。効果は精神力の阻害だ。聞くだけなら具体的な効果は判別し辛いだろう。なので賢司は非常に分かり易く説明を開始した。


「簡単に言うなら、精神力を魔力に変換できなくするんだ。どう? 魔力が上手く練り上げられないだろ」


 言われて剛田は自身の現状をやっと理解した。賢司の言葉を信じるなら”縛魂鎖”に肉体の自由を奪う効果は無い。何故なら縛られているのは肉体でなく魂魄だからだ。ならば何故、今の自分は地面にうつ伏せの状態で起き上がる事もできないのか?


 それは魔力が練り上げられない所為で神器である【聖鎧】が起動していないからだった。


「城島……テメェ! 最初からこれを狙って――」

「アキトの足元にあったお前の剣……ちょっと持ち上げようとしたんだけど重過ぎて持ち上がらなかったんだ。でも試しに魔力を練ってみたら少しだけ軽くなったんだよね。つまりお前の鎧も似た物だろうって思ったんだけど……正解だったんだね」


 賢司はそれが神器である事と、そもそも神器がどういう物かはさり気に華蓮から聞かされていた。それは大した情報ではなかったが、使うには魔力が必要以上に必要な凄い魔導具だとは認識できた。


 重ねて賢司の魔力量は1500。魔力変換効率が脅威の90.9%を誇るが故に神器の起動が可能だった事もあって偶然気付けた面もあるが、それを即座に有効活用した戦術を駆使できた事は素直に素晴らしい。


 だが聞かされても剛田は納得しない。


「それでもおかしいだろ!? オレの【聖鎧】はどんな攻撃も――物理攻撃だろうと魔法攻撃だろうと自動で結界が防御してくれる筈だ! そもそも効果が出る訳が――」

「自分の体をよく見てみろ。鎧で覆われていない箇所を徹底的に。如何にそれを過信していたかが分かるぞ」


 言われて怪訝そうに……それでも思いの外素直に自分の体を凝視する剛田。とは言え体勢上、二の腕ぐらいしか見れなかったが。それでも賢司の言う根拠を目にする事は容易だった。


「これは……切り傷?」


 それは傷と言うより蚯蚓腫れと言った方が正しい程に細やかな痕跡だった。大した傷ではない……しかし問題はそこではない。これは攻撃が通った証であった。そう……無敵な筈の【聖鎧】を突破した何よりの証明だった。


 剛田も即座にそれを察する。何故と口にする前にネタバレはそれを成し遂げた人物から提供された。


「ウチが魔法を乱れ打ったんはあんたを攻撃する為やなかったんよ。ウチの攻撃力なんてたかが知れとるし。ウチは複数の属性を一度に受けた時にその鎧がどういう働きをするかを検証する為に動いとったんよ」


 結果として分かった事――【聖鎧】は一度に一つの属性しか防げない事が判明したのだった。地、火、風属性を一斉掃射した際に、鎧を傷付ける事は叶わなかったが生身の部分に攻撃を届かせる事に成功した事実より。そして解を得た瞬間に賢司は”縛魂鎖”を剛田に向けたのだった……絶対に届く事を確信して。


 しかしそこまで言われても剛田は納得できなかった。筋は通るが……実行するには諸々のハードルが高過ぎる。


「……たった一度だぞ、鷹村がオレに魔法を使ったのは……。そのたった一度の機会に【聖鎧】の弱点を見抜いて……尚且つ攻略したってのか? ……フカシこいてんじゃねぇええええっ! できて堪るかそんな事っ!」

「【聖鎧】の機能は華蓮から聞いてたから、ある程度の推測はできてたんだよ。あの時は殆ど確信を得た上でそれを検証しただけだから、それ程難しくはなかったさ」

「それでもだ! 大体……オレが鷹村なんぞの攻撃を素直に受ける保証なんてねぇだろうが! それなのに確信が得れる訳が――」

「いや、だから俺っちが最初にお前を吹き飛ばしたんだろうよ。確実に美矢ちゃんの魔法が当たるように」

「…………なん……だと?」


 いやいやと頭を振り乱す剛田に冷や水の如き言葉を浴びせたのは守だった。ミスターデリカシーゼロはいつものように相手への配慮など一切せずに話を進める。


「アキッちの初っ端の一撃で……吹き飛ばす事はできるって分かってたから、俺っちがまず吹き飛ばして隙を作ろうって段取りを組んだんだよ。……まぁ俺っちじゃなくて賢司のアイディアだけど」

「そんな……いや、そもそも、何で城島はこんな魔法が使える!? こいつは”付与魔法”しか使えない筈だ! こんな反則みたいな魔法使える筈が――」

「付与魔法だよ」

「…………なに?」


 これが最後の異議ありであろう問いに、最後に賢司が答え合わせを実施した。


「”縛魂鎖”は僕の闇属性付与魔法だよ。お前は……って言うか帝国騎士団も大きな勘違いをしてるようだけど、付与魔法は他者に魔法効果を付与する魔法技能じゃないんだよ。正しくは自分の魔力を他者の魔力に干渉させる魔法なんだ」


 何を当たり前の事をと言わんばかりの賢司の説明に、剛田だけでなくセレナとミントも呆けてしまった。実はこれ……かなり世紀の発見っぽい事実なのだ。


「それを踏まえれば、味方に有利な付与を施すのと同じように、敵に不利な付与を施す事も可能なんだ。帝国じゃ誰もこの有用性に気付いてないみたいで、そういった魔法も存在しなかったから自分で組み上げてみたんだけど……滅茶苦茶使えるよね、これ」

「……………………」


 開いた口が塞がらないとはこの事……そうとしか言えない。


 今度こそ剛田は何も言えなくなってしまった。ぐぅの音も出ない……正に最初から剛田は釈迦ならぬ賢司の手の上で踊らされていたのだ。


 アキトがアレハンドロと前世の話で盛り上がって(?)いた時点から剛田の再登場、そして戦闘開始……この間の僅かな時間で賢司はアキトに関する状況把握と、華蓮からの情報収集、作戦の立案と美矢アンド守へのレクチャーを全てこなしてみせた。


 剛田にしてみれば自身の行動全てが把握されていたようなものなので、いっそ笑えてしまいそうなレベルで何もできていない。


 その手腕に、横目で状況を見ていたアキトが思わず「おぉうっ」と慄き、愛奈が放心し、表面上は協力者の立ち位置に居た美矢が内心で驚愕し、華蓮と守は「「まぁ賢司だし」」と引き攣りながらも納得していた。


 因みにセレナとミントは、賢司のアキトとは違ったベクトルのチートぶりに軽く現実逃避に走りかけていた。

 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次回は来週土曜日に投稿予定です。

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