教皇(仮)の正体
今年最後の投稿です。
切りが良いつもりですが、ちょっと気になる場面で終わってしまっているかも。
そして今回の展開に合わせて前話を少し修正しております。
結界を張る神器のくだりです。あれ? と思われたらそこの所を読み直して頂ければ幸いです。
「驚きました……これだけの結界をいとも容易く……」
最早アキト達の行動に驚く事がテンプレとなっているセレナ。
「大した事はしてへんけどな。ウチはあの結界装置的な魔導具に元からある機能を弄れるって気付いただけやし」
「そういう僕は鷹村さんに言われるままその機能を操作しただけだし」
続くのは気付いていないとはいえ、神器の操作というとんでも行為を平然としちゃった美矢と賢司。二人共……自分達が弄った代物が恐ろしく高度な装置だとは露程も思っていない。
因みに結界神器の解析をしたのは美矢だったが、起動状態にあるとはいえ神器を扱えるだけの魔力を美矢は保有していなかったので、賢司にそれを任せる形になったのだ。
「まぁ、大本辿ればアキッちがあの恐竜モドキを仕留めて”こいつ”を確保したからできた事だわな。特定の魔導具所有者のみを出入りさせる結界って……これ無かったら俺っちら中に入れなかったぜ」
そう言って何やら禍々しいデザインの首飾りを指でクルクル回しながら改めてアキトの無双ぶりに感心している守。余りにぞんざいな扱いをしている”こいつ”はディオガレックスを洗脳していた元凶――神器であった。
今更だが、神器というのは教会が管理している国宝級の貴重品であり、皇族であろうと安易に持ち出して良い代物ではない。
ギャレリア帝国であろうと特別な理由――魔導具研究の一環、もしくは国家規模の危機といった大義名分が無い限り使用許可は下りず、無断で持ち出すだけで周辺国からの非難は避けられない。総本山が帝都に在ると言っても教会はあくまで国家権力に属さない中立機関であり、帝国以外の国にも影響が及ぶからだ。
にも関わらず、今回の一件で短絡皇子――ガーランドはスカーレットの排除という勝手極まる理由で神器を持ち出しており……実はこれバレると相当対外的によろしくない行為なのだ。
魔獣の使役という手段に行きついた時点でスカーレットはこの神器の使用を疑っており、タウロ砦にてアキト達に説明を濁したのも帝国の面子を想った故だった。
そんな表に出た事だけでも大問題な貴重品をこれでもかと大っぴらに見せびらかす守の所業にセレナがアワアワとややテンパり気味だが、他の面子にとっては精々RPGで言う所の敵本拠地へ侵入するキーアイテム同然であった。
全く以て普段通りに、ある意味で悠然と門をくぐり歩を進めるアキト達へその場の全員が視線を向けている。対するアキトも目に映った情景を即座に脳内へ投射し状況把握に努めた。
そうして得られた情報を列挙し、各々にどういった対応で臨むかは以下の通りとなる。
まず、一番近い距離に華蓮を踏みつける剛田の姿を視認した所で……、
――最初に剛田は滅殺確定だな。
剛田の滅殺が確定事項としてリストアップされた。殺り方は熟考する必要アリ。
次に、教会聖騎士達に羽交い絞めにされている愛奈に視線を向け……、
――いい度胸だ……連中は塵も残さねぇ。
聖騎士達に死が運命づけられた。彼らはこの世に存在した痕跡すら残して貰えないらしい。
そうして静かに迅速に淡々と冷徹に”脳内殺す奴リスト”を更新している最中、最後に視界に納まったアレハンドロの魔力を感知した瞬間……一瞬とは言えアキトは不覚にも硬直してしまった。
剛田に命じた際のようにアレハンドロ(仮)は魔力を全開で滾らせている訳ではなかったが、アキトの優れた感知能力は教皇様の内に宿る何者かの存在圧のような気配を正確に読み取る。
自身に匹敵するかもという存在感に反射で身構えた事もあるが、それよりも……忘れたくとも忘れられない程に覚えがある気配に、文字通り魂魄に刻まれた感覚に狂喜してしまったのが理由だった。
ここまでの思考を一呼吸程度の間で処理したアキトだったが、他の面子も決して遅くない認知で状況を把握した。そうして誰かが何かしらの行動を起こすのもすぐだろうと言ったタイミングで真っ先にアクションを起こしたのが奴だった。
――竜宮ぁああああああああっ‼
剛田である。アキトに続いて踏みつけられた華蓮を見て、余りに怒りを伴う衝撃映像で一瞬絶句してしまった賢司と守が反応を示すより先に、仇敵を見つけたケダモノが胸中で歓喜の咆哮を上げてアキトに迫る。
決して近いとは言えない間合いを刹那で詰めて、大上段に振り上げた【聖剣】を迸る殺意と共に閃かせた。意識上に於ける時の流れが緩やかになる中、剛田は確かに見た……アキトが自身の頭部に迫る極厚な刀身に目もくれていない光景を。アキトは剛田の攻撃を見ていないのだ。
事実、剛田の攻撃は以前にアキトを奇襲した時とは比べ物にならない程に速かった。そして華蓮を嬲っていた時と違い一切の手加減を捨てた一撃だった。故に剛田は確信する……殺れると。
放たれた一撃はただの斬撃ではない。【聖鎧】の能力として、剛田には攻撃に対して自動で発動する結界以外に常時複数の強化魔法が施されている。そして【聖剣】に数ある能力の一つによって、剛田の攻撃は常に魔力を纏っているのだ。
つまり剛田は魔剣術の”閃刃”を常時発動している訳で、ここに魔法によって限界まで強化された身体能力が加われば、人一人を確実にオーバーキルできる一撃が成立してしまうのだ。なので剛田は幻視した……悲願を達成した自身の姿を。
意識せずとも自然に口角が歪んだ笑みで裂けるままに、剛田の振り下ろした【聖剣】は未だ視線を別方向に逸らしたままのアキトの右側頭部に…………しかし叩き込まれる事なく、唐突にその運動を静止させた。
剛田の表情は笑みを浮かべたままで固まっていた。それだけ状況を理解できていないのだ。何せどれだけ力を籠めようと自慢の愛剣はウンともスンとも言わないのだから。徐々にだが剛田の顔が平常に戻り、その後に焦り顔を浮かべ始めた頃、剛田はようやく事の真相に気付く。
アキトの頭部に迫ろうとする刀身の先端から、視線を下方へややずらし刃の真ん中辺りを見やれば、そこには【聖剣】を受け止めるアキトの右手がバッチリ見えたのだ。それも人差し指と中指の二本指だけで挟まれていた。
たった二本の指で身の丈もある大剣を静止させる剛技に今度こそ剛田の表情が驚愕で染まる。そしてここまで来れば当然、他の面子も気付く訳で……アキトに今まで同行して来た者達は一瞬驚くもすぐに「あ~~」と納得していた……どこか脱力気味に。
周囲の様子に気付く余裕すら無い剛田は何とか【聖剣】をアキトから引き離そうとするがビクともしない。信じ難い現実に半ば思考が停止しそうな剛田に冷水のような声が掛けられた。
「……剛田」
体を盛大に震わせ、剛田は声の主に視線を向き直した。主は言うまでも無く……アキトだ。その視線は今なおアレハンドロに向けられているままだった。実は教皇様の異様な魔力を感知してから一度も視線を移動させていないアキト……実を言うと剛田の攻撃にも殆ど意識を割いていなかった。
神器の力を借りた剛田渾身の一撃も、アキトにとっては無意識レベルで防げる遊戯のようなもので、その証拠にアキトは結局視線を全く剛田に向ける事無く心底どうでも良いと言う風に言い捨てた。
「後でしっかり殺してやるから……引っ込んでろ」
別にアキトは殺気を込めた訳でもないのに、言われた瞬間に剛田は存分に冷や汗を噴く。ここに至ってようやく【聖剣】を手放せば済むと気付くが時すでに遅し、アキトによる予備動作を一切感じさせない瞬速の横足刀蹴りが見事に炸裂した。
重ねて言うが、【聖鎧】には攻撃に対して自動で結界が発動する機能が備わっている。なのでアキトの蹴りは剛田本人に届いてはいなかったが、結界は攻撃は防げても衝撃そのものを緩和してくれる訳ではない。
要は傷付ける事はできなくとも、吹き飛ばす事は可能なのだった。
アキト渾身の――と言う程ではない――一打は剛田プラス装備品の全質量を呆気無く無力化し、剛田は僅かばかりの角度も伴わない――全く弧を描かない文字通りレーザービームとなって壁に叩き付けられた。そして壁を貫通し、それだけでは済まずその後も何回かの壁を貫通する轟音を響かせながら現場からフェードアウトして行った。【聖鎧】があるので死んではいないだろう。
いきなりな衝撃映像に見慣れていない愛奈と華蓮が、先程までの感涙していた表情から一変唖然呆然としていた。アキトの本性を既に知っている愛奈でも衝撃だったのだから華蓮が受けた衝撃は相当だったとは推して知るべし。
追記すると、賢司、守と美矢……そしてセレナが「あ~あ」とまるでこうなる事が当然のように自然体でいる事も二人の混乱に拍車を掛けていた。一体ここまで来るのに何があったと存分に問い詰めたい衝動が湧き上がる……特に華蓮に。
「美矢っ!」
「ふぇっ!? ……ぁあ合点承知!」
そんな愛奈アンド華蓮の混乱を余所に突如木霊するアキトの指名。受けた美矢が一瞬呆けるもすぐに了承する。何を承知したかは誰にも分からない……幼馴染同士で通用する高度なツーカー再びだった。
アキトと美矢以外の誰もが二人のやり取りを把握できない中だろうとお構い無く、状況を上塗りしたのはアキトの一投だった。腰のミスリル短剣を無駄の無い動作で引き抜くとこれまた流れるように素早く投擲する……アレハンドロに向かって。
放たれたミスリル剣はキィーンと澄んだ音を鳴らし、アレハンドロの眼前数センチメートル程の宙空で弾かれた……最早今更な結界によるものだ。しかしそれを見越していたアキトは投剣と同時に跳躍、アレハンドロとの距離を詰めると弾かれた短剣を受け取りつつ、全力の飛び蹴りを教皇様に見舞った。
後は剛田の時と同じ、蹴りそのものはアレハンドロを傷付ける事は無いが衝撃でアレハンドロは後方に十数メートル弾き飛ばされる結果となった。
しかし同様の目に遭った剛田が壁を幾枚も貫通する程に飛ばされた前例を省みると、高々その程度の距離をしかも地に足着けた状態で済ませているこの教皇モドキはやはり只者ではないだろう。
すぐ隣でちょっとした事件が発生し、目が点になっていた愛奈がそんな事を考えていると、そこにとても馴染みのある関西訛りの掛け声が降って来た。
「行くでっ! ”翠爪”っ‼ ”緋弾”っ‼」
詠唱ではなく、術名を指定するだけで美矢が両手に持った小杖から放たれたのは風の刃と火の玉だ。「美矢ちゃんが魔法使った!?」と驚きを露わにする愛奈を余所に、風、火属性の突撃魔法が愛奈とミントを拘束する聖騎士の顔面に直撃した。
美矢が使ったのはノマム特性の誰でも使える新型魔導具である。ただ、魔法適正が低い美矢なので威力は程々にしかないが、流石にフルフェイスの兜を装備しているとは言え顔面に魔法直撃は堪えたのか、聖騎士達は盛大に怯むと愛奈とミントの拘束を緩めざるを得なかった。
その隙を突いて更に美矢は追撃を行使する。
「続けて”剛力”っ‼」
右手に嵌めた腕輪型魔導具を発動させれば美矢の両椀は丸太のように逞しくなり、それを以てした両手同時のダブルパンチは聖騎士をKOし、そのまま美矢は愛奈とミントを両脇に抱えて素早く自陣へと帰還する。
途中で美矢が「ウ、ウチの両腕がボディビルダーも真っ青な丸太にぃいいい!」と嘆き、それを見た愛奈が「だ、大丈夫だよ美矢ちゃん! それ幻だから、ノマムさんの遊び心だから!」とおそらくミントが使っていた魔導具と同種だろうと察して慰め、それを聞いた美矢が「あんのハゲぇえええ! 無駄な技術で余計な機能付けよってからにぃいいい!」と憤っていたが、囚われの二人を無事救出する事に成功したので些事として片付けて良いだろう。
陣地に戻ればそこには賢司と守に介抱される華蓮の姿もあり、美少女二人は互いの無事を泣きながら喜び合った。
「華蓮ちゃん! 良かった……良かったよぉおおお」
「あぁもう愛奈……助かったんだから泣かないで」
涙腺が崩壊するのではと懸念されるレベルで泣く愛奈を宥めつつ、自分も涙を流して喜ぶ華蓮。そんな二人を見てやっと胸を撫で下ろす賢司、守と美矢。愛奈達の呼び名が変わっている事に対して盛大にツッコみたい衝動が――主に美矢に――湧くも、それより優先しなければいけない事案を賢司が提案する。
「神子柴さん、助かったばかりで悪いけど華蓮の怪我を治療してくれないかな?」
「それでしたらミントもお願いします。手持ちの魔導具では手に負えませんので」
セレナもそれに便乗してミントの助命を願った。息はあるようだが重傷だ。華蓮の傷も決して浅くはない。愛奈は涙を拭うと「任せて‼」と頼もしく一声上げて、治癒魔法を発動させた。
「”聖光癒”っ‼」
発動されたのは光属性中級治癒魔法”聖光癒”。光属性の魔力を対象に流し、自己治癒力を強化させる下級の”光癒”と違い、術者が治癒対象と周囲の源素との仲介となる事で空気中の源素を光属性に変換しつつ、対象へ注ぎ肉体を修復させる治癒魔法だ。
聖なる癒しの光は華蓮の体を瞬く間に全快させ、同様にミントの傷付いた体も回復させた。見事と言うも足りない光景にその場の全員が息を呑む。
「これは何とも……幾ら魔導具の補助があるとは言えここまでの治癒魔法を即座に行使できるなんて」
セレナが改めて転移組の規格外さに慄いていると、ミントが静かに瞼を開いた。しかしその眼差しはどこか虚ろだった。まだ意識がもうろうとしているのだろう。
「ミント、ミント……聞こえていますか? わたくしが誰だか分かりますか?」
「あ、ちょっ……待ってセレナさん! 傷は治したけど出血が酷くて、まだ無理は――」
断じて乱暴に扱っている訳ではなかったが、ミントを抱き起すセレナに愛奈が注意を促す。それを十分に理解した上で、セレナはミントの口に薬液を流し込んだ。回復薬だ。かなりの高級品なのか、ミントの顔色がみるみる良くなっていった。
「……あ…………らぁ~、セレナ……さん~? いつ……の間……にぃ~、着いた……のぉ~?」
「ふぅ、気が付きましたね」
「「ミントさん!」」
意識を取り戻したミントは相変わらずの緩い口調で、しかしやはり張りが無い弱々しい調子で自分を抱えるセレナに問い、セレナは分かり辛くも明らかな安堵の表情でそれに応えた。傍で華蓮と愛奈が同時に喜びと安堵の声色で名を呼ぶ。
しかし無事な再会の喜びにいつまでも浸っていられる訳にもいかず、現状を厳しく受け止めたセレナは病み上がりのミントに申し訳無くも状況説明を求めた。
「それでミント、これはどういう状況なのです? 貴女は間者として御二人をガーランドの元へ連れて行くと共に護衛を務める筈だったのに、何故ここで教会が貴女達を害そうとしているのですか? 何より……何故に教皇がこんな所で聖騎士を率いて、よりによって貴女を殺そうとしているのですか?」
予め聞かされていた賢司達は兎も角、この証言でようやく愛奈と華蓮はミントの思惑を知る事となった。そんな二人の胸中を察する余裕など無いセレナ……努めて平静を装って、実際に落ち着いているように見えるが本音はかなり混乱気味な副長殿の矢継ぎ早な質問に、ミントは静かに回答した。
「あれはぁ~アル小父様ではぁ~ないわぁ~。姿はぁ~一緒だけどぉ~、中身はまるで別者よぉ~」
「……? それは一体、どういう――」
事実を正確に語ってはいたが、やはり常識に照らし合わせれば要領を得ないとしか言えない言葉にセレナは戸惑いを隠せない。
「なら本人に喋って貰えばいいじゃねぇか」
そう言って先程までアレハンドロと相対していたアキトが皆の元へ戻って来た。その視線は未だにアレハンドロに固定されている。二人……特に愛奈が話し掛けようとするも、その尋常ではない様子に思わず口を噤む。
どこかいつも通りではない雰囲気に皆が少々動揺する中、アキトの続く発言はそれらを更なる混沌へ導いた。
「なぁ、駄女神アーリアの小間使いの天使様よぉ……そんなおっさんに化けて何してんのか言ってみな」
挑発じみたアキトの言葉はその場に居る聖騎士を除く全員を戸惑わせた。いきなり聞き覚えがあっても理解し難いフレーズを口走るアキトに何事かと誰もが詰め寄ろうとするが、当の教皇様が応えた事で現場は更なる混沌に呑み込まれる。
「……何故、貴方がここに居るのですか? 黒竜アカツキ・マガラ」
無機質でありながら、僅かに……それでいてはっきりとした動揺を滲ませた言葉だった。それに対してアキトは不敵に笑って見せ、他の面子は理解が追い付かずに絶句していた。
読んでくださっている方、心よりありがとうございます。
今年一年……と言いつつも、初投稿が5月末だったので実際は7か月少々なのですが、兎も角、2018年お付き合い頂いた読者の方々には心からの感謝を‼
次回――新年一回目は1月12日の土曜日に投稿予定です。
来年も【黒竜は異世界に帰る】をよろしくお願いします‼




