表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒竜は異世界に帰る  作者: 夢見シン
第一章 ギャレリア帝国編
19/62

追撃開始! 勿論、自重はしません!

 まず謝罪。


 投稿予定日を守れずに申し訳ありません!


 続いて感謝。


 前回投稿でブックマーク数が凄く増えました。読者の方々に心から感謝します!


 なので重ねて謝罪。


 投稿が遅れてすいません!

 誰に言われるでもなく、自然と正座の体勢に移行したスカーレットと以下二名は眼前のやり取りを眺める事しかできなかった。それは無条件で反省の意を示し、従順であると体で表現しなければ不味いと本能がけたたましく警報を鳴らしている所為でもあった。


 現在、眼前ではアキト、賢司と美矢が如何にしてスカーレット達に落とし前をつけようかで議論を白熱させている。詳しい内容は聴覚が無意識に情報をシャットアウトしていた為に掴み切れていなかったが、時折聞こえる水責め、塩責め、石抱き、海老責めといったキーワードだけは何故か意識に刻み込まれていた。意味は知らないが決して穏やかなフレーズではないとスカーレット達は直観した。


 その奥では皇女達と同様、傍観者となっている少年が居た。ただその心境はスカーレットとは雲泥の差と言うもおこがましい程に違っているのは間違いない。


 別にアキト達の過激な言い分を諌めるでも、賛同するでもなくポケ~っと事の成り行きを見守るミスターデリカシーゼロな守がそこに居た。その心境は語らずとも見れば分かる……即ち「早く終わんねぇかな~」であった。


 所謂、学級会とか職場の会議で全く意見を出さない、ただそこに居るだけのやる気成分ゼロなあんちくしょうスタイルだ。見ていると筋違いな怒りが沸々と燃え上がるのをスカーレットは実感していた。


 不意に守と目が合う。暫しの間を設けて、守がにへ~と笑って手を振った。その真意は語られずともよく分かる……即ち「まぁ何とかなるって」であった。無責任の極みである。本気でグーで殴りたい衝動を辛うじて抑えるスカーレット。普段から華蓮が制裁を加える理由がよく分かった。


 そんな内面葛藤をしている間に、議論に一区切りがついたようだ。


「ん~~、今すぐ結論は出ねぇな。取り敢えず殺すのは無しの方向で、後は愛奈達を助けてから考えよう」

「それで良いかな」

「異議無~し」


 愛奈と華蓮の救出が急務である以上、そこまで議論に時間を掛けれない事情がある為にどうやら執行猶予がつく形に落ち着いたらしい。それでもスカーレットにしてみれば蛇の生殺しと言われても大差が無かった。ある種生き延びたと言えるが心は巨石を吊り下げられたように重い。


 これでもかと憔悴したスカーレット達を見て、さっきまでの殺意はどこへやら……アキトがそれはそれは何でもないように話し掛ける。


「どうした姫さん? せっかく命拾いしたんだからもっと喜べば?」

「あれだけエグい議論を間近でされて喜ぶ輩が居たらそいつは頭がどうかしてるのじゃ! いっそ一思いに殺しておくれ‼」


 紛う事無き魂の叫びがタウロ砦の会議室内で木霊した。


 真剣に介錯を願う主君を見て、本来止めるべきセレナとノマムの従者二人も首を縦に振り続けていた。嬲り者にされるくらいなら、せめて楽にしてあげて下さいと涙目で訴えている。応えたのは賢司だった。


「僕らとしては落とし前をつけなきゃ気が済まないのはあるけど、命まで取る訳にはいかないんだよ」

「せや、殺ってもうたらそれっきりで全然楽しくないし」

「俺は殺しても良いんだけど、多数決で負けたから諦めてくれ」

「うわぁあああああああああああああああああああんっ‼」


 とうとうガチ泣きするお姫様。そして「別に死にたい訳じゃないですけどあんまりじゃああああっ!」と慟哭を上げる主君を生温かい目で見る従者二人は……無力だった。


 そして忘れてはならないもう一人――。


「あ、決まった? 終わった?」


 守が部外者全開な発言を響かせ、アキト、賢司、美矢の三人は揃ってジト目を炸裂させた。


「お前なぁ~、少しは議論に参加しろよ。そりゃこっちも何も言わんかったけども」

「一体どこの重役を気取ってたのかな守?」

「せめて賛成か反対くらい言うても罰は当たらんでマモルン」

「いや~~姫ちゃん達殺しちゃうのは流石に反対だったけどアキッちこえーし……きっと賢司が止めに入るだろうとは思ってたからそれで良いやってさ」


 何とも他力本願な姿勢に三人が揃って溜息を吐く。しかしあのアキトを『怖い』と言いながらいつも通りの態度でいる辺り、この男もやはりと言うべきだろう。


「そんな事より華蓮達どこに居んの? 姫ちゃんが案内してくれるって言ってたけど」


 そして精神的責め苦によって這いつくばるスカーレットに一切気遣い無く話を持って行く辺り流石”ミスターデリカシーゼロ”である。スカーレットは感情の抜け落ちた声で応える。


「……今更必要かえ? 殺して行くつもりだったんじゃから目星はついとるんじゃろう?」


 アキトがそれを真っ先に否定した。砦内に居ない事は確認できたが現在地の特定には至っていないらしい。ただ探す事はさほど難しくないとの事。それでも省ける手間は省きたいのが本音なので、


「っちゅう訳で、せっかく生かしてやったんだから粉骨砕身の気概を以て貢献しろ。役立たせて貰える事にむせび泣いて感謝しながら」


 鬼畜外道極まる発言だとしか言えなかった。スカーレット……むせび泣くのでなく普通に泣いた。そして再び無言で這いつくばる。皇族の威厳とか誇りなど……とっくに一ミリたりとも存在しなかった。これには皇女に思う所がある賢司と美矢でさえ「ないわ~~」と表情で訴えていた。


 しかしアキトとしてはそのリアクション不本意極まりなかった。頼むから言外の意を汲んで欲しい。なので静かにスカーレットに歩み寄ると、屈んで耳元で囁いた。


「あのなぁ姫さん、言葉の裏を読め。要は何かしら俺達の役に立ってくれれば――」


 ――減刑を考えてやっても良いぞ。


 悪魔の囁きであった。


「まことか!? それなら幾らでも尽くしてやろうぞ、バッチ来いじゃ! という訳で……セレナっ!」


 そんな甘言に呆気なく陥落したスカーレットは輝く笑みで自身の副官の名を叫ぶ。呼ばれたセレナはいきなりな指名にビックぅと震えて「はいぃぃっ!」と答えた。


「其方に命を与える。アキトらに同行し、むせび泣きながら粉骨砕身で役に立ってこい」


 姫様、自身の副官を売る。


 滅多に表情が変化しないセレナの顔は絶望が色彩を得たような色で染められた。刑の執行を待つ罪人な気分だったのは何もスカーレットだけではない……正直に言うとセレナは凄く嫌だった。威圧の後遺症で今アキトの近くに身を置く事には果てしない拒絶反応が出るのだ。


「で、殿下……お言葉ですがこの状況でそれを言われる事は、わたくしにとっては死ねと言われるに等しいですわ」

「何を言う、元から其方が同行する事に決まっておったろうが。それに予定していた役目もある……協力者と合流し、得られた情報を回収しなければならんのじゃから」

「そ……それはそうですが……」


 クールビューティが激しく狼狽する姿というのも中々にレアだと言える。普段のセレナならこのような無様を晒すなど考えられないが今の彼女はアキトの威圧の影響と、賢司アンド美矢による精神攻撃によって非常に弱っている状態なのだから無理もない。


 それでも敬愛する主君からの命ならば、滅私の覚悟で尽くすのが従者の務め‼


 セレナが逡巡したのは極一瞬。かぶりを振り、邪念――極悪なアキトの画――を祓うと「女は度胸!」と言った具合に立ち上がった。


「分かりましたわ殿下! 不肖セレナ・アマリエ・セイルーン、文字通り身を砕く覚悟で罪を削ぎ落してまいります!」

「セレナよ……よくぞ言ってくれた!」


 目尻に先程とは異なる輝きを滾らせて抱き合う主と従者……美しい主従関係がそこに在った。


 しかしそんな事に構っていられないのが現在のアキトクオリティだ。


「じゃ、行って来るわ」

「あ、あの……ちょっと!?」


 アキトは問答無用でセレナの襟首を掴むとそのまま引き摺って部屋のドアノブに手を掛け退室した。その後ろを賢司、美矢、少し遅れて守が続く。セレナはいつもの無表情とは違った……どこか諦めの境地に至ったような表情で反論を飲み込み語る。


「取り敢えず、北門から砦の外に出て下さい。門番には話がついているので」

「オーケーオーケー」


 何とも無い感じでセレナを引き摺りながら返事するアキト。スカーレットが……まるで群れから逸れた子羊を探す母親のように、もしくは捨てられた仔犬を見つめた幼児のように憐憫に満ちた目でセレナを見送った。あんまりな扱い過ぎる……と思わずさっきまでとは違う意味で涙を流しながら。


「いや、半ば姫様の所為でああいう事になったんでは? ってか上手くセレナに押し付けましたよね?」

「ノマムよ……それは言ってくれるな」


 ノマムのツッコミにスカーレットは苦笑う。嫌な事を押し付けるのは姫殿下の十八番だ。そんなやり取りが皆の去った会議室で木霊していたが、幸か不幸かセレナの耳には届いていなかった。


 暫くぶりに静寂が訪れた室内で、ではこちらもこれからに備えようと退室しようと動き出したスカーレットとノマムがそれに気付いたのは偶然か必然か?


「ん、こりゃあ――」


 何だろうと言った具合に足元に落ちていた手の平サイズの包みを拾い上げたのはノマムだ。思ったよりも軽いそれにはメモが添えられていた。「スカーレット殿下へ」と。


「セレナの字じゃな」


 見慣れたそれに反応したスカーレットが発した言葉にノマムは戸惑う事無く包みを主君に手渡した。一見不審物ではあるが、彼女が副官の字を見間違う事は無いだろうという信頼の形である。急ぐ訳ではないが手早く開かれた包みの中に在った物、それは――。


「んなっ!?」


 スカーレットが両手でつまんで開いたそれは逆三角形の布地の物体……つまり女性用下着だった。しかも嫌に見慣れたデザインからそれが自分の私物であると瞬時に察したスカーレット。自分以外の誰か――それも従者とは言え男性――の前で盛大に晒した愚行に顔を赤面させて件のブツを仕舞い込んだ。


 ノマムはというと、恐ろしく気不味い状況に晒されて視線を明後日に向けていた。ちょっとそれ以上首は回りませんよと言われるレベルなのは、それだけ気不味いからだと推して知るべし。


 そして包みの中には別のメモが同封してある事に気付いたスカーレットはそれを拾い上げる。そこにはこう書かれていた。


『必要でしょうから置いて行きます。このような形になった無礼をお許し下さい  セレナ』


 静寂を全速力で通り越した沈黙が室内を支配した。例えちょっと取り乱してもただでは起きない自身の副官に盛大に頬が引き攣るスカーレットだった。


「セレナよ……相変わらず気の遣い方が決定的にズレておるのじゃ」


 嘆息しながら、取り敢えず渡されたブツは後に更衣室で有効活用させて貰った皇女殿下。何故それが必要だったかは……決して言えない乙女の秘密であった。


 ======================


「なぁセレナさん、こんなに武器類要らねんじゃね?」


 タウロ砦の北門――そこから暫く進んだ場所に用意してあった馬車の積み荷を見て、守が一言苦言を漏らした。対するセレナはすっかりいつもの調子を取り戻したのか、デフォルト無表情で淡々と受け答えを実行する。


「申し訳ありません。実は華蓮殿が不在となってしまったので、急遽戦闘用の魔導具を追加したのです。皆様はあまり戦闘に適した魔法技能をお持ちでない故に」


 想定通りに事が進めば華蓮もこの場に居た筈で、華蓮の実力をよく知るセレナは彼女が抜けた穴を埋めるべく魔導具をこれでもかと馬車に積んでいた。


「だったら俺っちは防具系が欲しいかな。武器はあんまり使えねぇし」


 そういった守の装備は下はクリーム色の七分丈パンツに、上は白の長袖インナーの上に若草色の袖無し道衣のような上着を羽織り、それを帯で留めている。結界騎士団の制服を守用に弄ったデザインだ。戦闘職ではないので戦いに適した装備という訳ではないが一応は魔導具である。下手な金属装備より優秀な装備なのは間違い無い。


 因みに美矢が着ているツナギも魔導具で、魔工師用の作業着ではあるも過酷な作業に耐えうる……言わば職人の為の戦闘服なのでかなり頑丈にできている。


 故に防具については心配無いのが現実で、やはり攻撃用の装備が必要と考えていたセレナだが先程の一幕でその考えはとっくに修正されていた。


「とは言え、今となってはそれらも無用の長物ですね。……アキト殿が居るだけで過剰戦力ですし」

「まぁ俺はこれがあれば十分だよ」


 そう言ってアキトは予め渡されていたミスリル製の短剣を指で弾いた。これは魔力を込めると刀身の強度が増す特性を持っており、アキトにしてみればそれだけあれば戦闘に支障は無いのだ。と言うより、


「そもそもウチら攻撃に適した魔法技能持ってないんやから魔導具だけあっても使えんやん」


 全く以て美矢の言う通りだった。


 そう、魔導具とは決して魔法が使えるようになる武具ではなく、あくまで装備者本人が使用できる魔法の発動を補助する武具なのだ。


 例えば、火属性の突撃魔法を組み込んだ剣型の魔道具があったとして、それを火属性の魔法適正が高く、尚且つ突撃魔法の技能を持つ騎士が扱えば、火属性突撃魔法は問題無く発動する。


 しかし火属性の魔法適正が低い上に突撃魔法の技能を持たない騎士が扱えば、ただのミスリル製の剣としてしか使えないのだ。それ所か適正と技能の片方が欠けても十全に機能する事は無い。


 よって攻撃用の魔法技能を持っていない今の面子では元から宝の持ち腐れにしかならない筈なのだ。


 現状の武器事情だが、賢司が持つ長杖型の魔道具は付与魔法の補助ができるよう作られているが、攻撃系の魔法は組み込まれていない。せいぜい鈍器として使える程度。


 美矢が持つ片手槌は魔工術用の作業道具であり、当然魔法は使えない。しかしミスリル製で頑丈な上に魔力を込めると強度が増す仕様なので武器として使えなくもない。


 最後に守は結界魔法を補助できる腕輪を身に付けている……武器にはならない。よって護身用にアキトと同じ型の片刃剣を装備していた。


 因みに”魔力を込めると強度が増す”というのは魔導具としての機能ではなくミスリルそのものの特性である。つまりアキトと守が持つ短剣はミスリル製という事で一応は魔導具として分類されるも、言ってしまえば何の能力も無い”魔導具モドキ”と揶揄される残念武具だったりする……これが現実だった。


「……何とも残念だ」


 それは自分達の素養を自嘲したのか、それともそれを分かって無駄に魔導具を揃えたセレナの労力を労っての言葉だったのか、思わず呟いた守は視線を地に伏せた。それに待ったをかけたのはセレナだ。


「御心配なさらず、こちらにある魔導具は帝国魔工師団による最新型で、魔法適正や技能に左右されずに使用できる優れモノです」

「「なにぃいいいいいいいっ!」」


 やり手の実演販売員のような仕草でプレゼンするセレナに美矢と守がお手本のような反応を示した。特に美矢のリアクションが顕著だ。


「勿論、適正と技能を有する者が扱った方が高い効果を発揮できますが、両方を有していない者が使ってもある程度の魔法を発動できるとノマムは語っていました」

「革新的にも程があるやろ!? あのハゲっ……ウチには一切教えてくれんかったし!」


 確かに言い換えれば誰でも――素養の無い輩でも魔法が好き放題使える理屈なので、美矢の評価は決して過大とは言えなかった。そして幾度目になるか知らないが……ノマムはハゲてはいない。ここまで来ると激昂した際に年長者をハゲと罵るのは若者の業と言えるのではなかろうか。


 などと、どうでも良い考察は置いておいて、相変わらずパッションを滾らせている美矢だったが、続くセレナの発言にようやく落ち着きを取り戻した。


「ただし、当然ながら制約は存在します。一言で言うなら、使用回数に制限があるとの事です」

「回数?」


 聞く所によると、新型魔導具の肝は魔力を溜め込む機構が備わっている点で、予め魔法適正と魔法技能を持つ術者の魔力を充填しておく事が必要らしい。それを使い切れば使用不可になり、補充すれば再使用はできるが当然誰の魔力でも良い訳ではないので、アキト達では使い捨て同然にするしかないとの事だった。


「百均の電池みたいやな、しかし幾ら何でもこれだけのモンを使い捨てにするんはちょっと――」

「心配なさらずとも、これらは新型と言ってもかなり前に作られた試作品ですので、存分に使い潰せとノマムからは言付かっております」

「親方~~」


 在庫処理かよ……と呟きたくなるが、確かに有益な支援ではあるので甘えさせて貰う事にするアキト達。少しは減刑を考慮しても良いだろうとアキトの査定が行われたのは言うまでも無い。そしてセレナがそれを狙っていたのも言うまでも無かった。


「それでは皆さん、出発しますので馬車へお乗り下さい。目的地は…………えっ?」


 装備の確認等の準備を終え、いざ出発と言った段階となりセレナはアキト達を馬車へ誘導するも途中で言葉を途切れさせた。それに何事かと賢司達は反応するが、そのリアクションすぐさま別方向に向けられた。


「……反応が途切れた……いや、高速で移動して感知を振り切ったのか」


 アキトだった。ノマムによってダミーが設けられている事が判明してから、アキト達の装備に施された所在感知の機能は既に停止されている。故にアキトの言葉が自前の魔力感知によるものと察したセレナは瞬時に気持ちを切り替えた。


 皇女側もアキトらと同様の感知機構を有しており、愛奈と華蓮に同行している間者とは位置を把握し合えるようになっているのだが、その反応が急に消失……ではなく、感知可能な範囲から飛び出したのだ。


「そうだと思われます。華蓮殿らに同行しているこちらの間者の反応も急に……これでは……」


 まだ敵が砦を出てそれ程時間が経過していた訳ではなかった。その為に今から追い掛ければ十分に追い付けると考えていたセレナはすぐさま方針を転換した。


「申し訳ありません。折角準備した装備ですが、置いて行くしかありません。馬車ではなく早馬で追撃します」


 足を速めるためには荷物を減らすしかない。アキトが居ればとも思うが、それでもアキト以外の面子に十分な装備を持たせずに行動するのは戦闘に発展した場合を考えれば不安である。しかしこのまま標的を見失うリスクを冒す訳にはいかないセレナは躊躇無くそれらを切り捨てた。


 しかしアキトがそれに待ったを掛けた。


「いや、問題ねぇよセレナさん。装備もそのまま相手方を追えるさ」

「アキト殿? しかし――」

「アキやん? まさか自力で走って行く気か?」

「その通りだ」

「「「えっ?」」」


 一言現状のままで大丈夫と告げるアキト、その意図を汲み取れない故に疑問を口にするセレナ、この時点でアキトの考えなど分かる筈もないのだが、それを平然と察する美矢。長年共に過ごした者同士だからこそ成し得る極めて難度の高いツーカーだった。


 そして賢司、守とセレナの驚きの聞き返しはそんな意思疎通をやってのけるアキトと美矢に対してか、それともアキトの提案に対するものか、もしくはその両方か。


 取り敢えず”走って行く”事に関して賢司がツッコんだ。


「ねぇアキト、僕ら確かに常人より身体能力が優れてはいるけど、強化魔法が使える訳じゃないから流石に馬より速くは走れないよ」


 至極真っ当な意見だった。この中で最も体力のステータスが優れているのは守――アキトは規格外なので除外される――であり、その守でもそこまで速く動ける訳ではない。それならば、まさか一人で行く気かと詰め寄れば、アキトはカラカラ笑いながら言って見せた。


「それでも良いかなって思うけど、これ以上仲間同士離れ離れになる事態は避けたい。だから”走る”のは俺だけだけど、皆には”飛んで”行って貰うから」

「「「「……飛ぶ?」」」」


 アキト以外の面々は見事なシンクロ首傾げを披露した。”走る”だけでも理解に苦しいと言うに、”飛ぶ”とは何ぞやと。


 皆が疑問に思うのも理解した上でアキトは多くを語らずにテキパキと指示を出した。急いでいるのもあるが、全てを語れば確実に反発されると分かっていたからだ。つまり……相当よろしくない手段を取る気が満々なのだった。


「…………”風玉”」


 言われるままに結界魔法を発動させた守にまずセレナが驚愕した。発動した風属性の結界はアキト以外の四人と用意された魔導具――全てを無理だったので幾らか選別した――を包み込む。


 アキト達にとっては最早当たり前だったが、個人で発動できる結界魔法を目の当たりにしてセレナの目が点になった。


 どうでも良いが、新型魔導具で先に驚かされた守と何故か美矢がドヤ顔してみた。


「これは驚きました……結界魔法を単独で行使するとは。守殿……普段は華蓮殿のサンドバッグ扱いなのに、腐っても御使いの一人という事ですね」

「普通に褒めても良くない!? って言うかセレナさんの俺への認識酷くない!?」


 そして痛烈な返しで撃沈した。美女に淡々とディスられるのは相当堪えるらしく、守の涙腺というダムは青春の汗の濁流で再び決壊した。


「それよりアキト、何で”風玉”なんて使うのさ? これ結界魔法の練習用と言うか遊び用の奴だよ」

「流すなっ! 聞けぇえええええええ‼」


 重ねて親友の慟哭を無視して話を進めるイケメン君の所業にぽっちゃりが吼える。しかしアキトはスルーする、美矢もセレナも気にしない、守の涙が結界の中を満たす勢いで止めどない。


 それらは取り敢えず放置して解説……”風玉”は球状の空気のクッションを纏う結界魔法で、見た目は海などのレジャーでよく見る”アクアボール”に人が入っているように見える。


 守が賢司監修で魔法の訓練に励んでいた時にちょっとした遊び心で組んだ魔法であり、訓練中の兵士達も一緒になってぶつかり合いをしてキャッキャしたのは良い思い出だった。その後で華蓮に『真面目にしろぉおおおお!』とガチでどやされたのも良い思い出だ。


 要は遊び以外に活用法が見つからない代物を何故にここで? その答えをアキトは言葉でなく行動で示した。


「それはこうする為だ、守」

「グスっ……何だよう? ……って、うおっ!」


 やや泣き疲れの気があった守だったが、アキトの行動に面食らって涙は引っ込んだ。アキトは”風玉”を纏った守を片手で持ち上げたのだ。この結界は決して重量を軽減できる訳ではない、さり気に膂力を見せつけるアキトに守が軽く抗議する。


「アキッち! 急に持ち上げんな! 一体何だって――」


 しかしその態度も長くは続かない。何故なら守の脳裏にいや~な予感が高速で横切ったから……恐る恐る確認しようと守はアキトに問い掛けるが……、


「ちょっと待ってちょっと待って! アキッち、まさか――」

「方向はあっちだな。守、術は死んでも解くなよ、解いたら死ぬから……マジで」

「だからちょっと待てぇええええっ! 少し話を――」

「せ~~の……っそぉおおおおおおいっ!」

「っみぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………………………」


 度重なる静止の声を振り切って、アキトは勢い良く持ち上げた右手を空の彼方へ振り切った。結果……守はお空の彼方へ飛んで行った……渾身の悲鳴をフェードアウトさせながら。


「「「……………………」」」


 その光景に絶句する他三名。それを見てアキトが一言。


「結界は解けてねぇ……と、イケるな」

「「「…………っ!」」」


 その言葉に一斉にギョッとする他三名。結界が維持されている様子から、おそらく守が全力で術を行使し続けていると考察された……きっと直面した事も無い不条理に晒されつつも必死で。そんな守に同情する間も無く、アキトの魔手は次の標的に伸びる。セレナへと。


「取り敢えず舌は噛むなよ、体そのものは安全だろうから」

「あのちょっと心の準備をさせて下さい後生ですからお願いですから――」

「よ~いしょおおおおおおおおおおおっ!」

「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………………………」


 クールビューティの素の悲鳴は結構可愛かった。一連の出来事で若干キャラ崩壊してそうなセレナだが、殆ど守と同じ軌道でお空へ飛んで行った。続いて……、


「アキやんのアホっ! 全部終わったら愛奈に言い付けたるからなぁあああっ‼」

「分~かったよぉおおおおおおおっと」

「うわぁあああああああああああああああああああん……………………………………」


 中断は不可能と悟ったのか、美矢は事後で報復すると予告しつつ流れに身を任せて逝った。最後に残ったのは賢司だ。


「何か言う事はあるか?」

「遺言かよって、……まぁ滅茶苦茶だけど手っ取り早くて良いかもね。それでも一言言わせて」

「なに?」

「全部終わったら一発殴らせて‼」


 珍しく直接的で過激な発言を残して賢司も空に舞った。それを見届けてアキトは、


「よし! 俺も行くか」


 全力で地を蹴り駆け出した。余りの膂力に踏み込んだ地面が放射状に砕け散り、馬が仰天していたがアキトは前しか向いていない。自重無し、遠慮無しの救出作戦が始まった。

 守が革新的な結界魔法を兵士の前で使ってもそれが帝国側に露見する事はありませんでした。


 何故かって? それは……、


 彼が”ぽっちゃりキューピッドマモルン”だからです!


 兵士の漢達は恩人を売ったりしないのです。



 読んでくださっている方、心よりありがとうございます。


 次回は来週土曜日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ