表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/251

戻ってくる人形

「捨てた人形が戻ってきたんだ。え? 別に不思議はないさ。犬や猫だって飼い主の家に戻ってくるのだから。ただ、もう2つ先の山まで捨てにいくのは正直面倒だ」

「おーい、アニマ……ん? どうした?」


 店の奥まで入ってみて、俺はアニマがなぜか難しい顔をしていることに気付いた。


「ああ。タイラー。いいところに来たわね」


 俺の姿を確認すると、途端に嬉しそうにするアニマ。なんだか嫌な予感がした。


「……なんだよ、いつもは面倒くさそうにするくせに」

「まぁ、いいじゃない。それより、これ、見てよ」

「あ? なんだよ、これ」


 アニマが指さしたのは、机の上にある人形だった。

 金色の髪に、青い瞳の女の子の人形だ。一見可愛らしいが、なんというか……どこか不気味に感じる。


「……なんだよ。この人形」

「これ、呪殺の人形よ」

「はぁ? 呪殺? 危ねぇなぁ……」

「ああ。大丈夫。もう呪いは解いてあるから。ただ……」

「ただ?」


 すると、アニマは俺のことを見てニンマリと微笑んだ。


「そうだ。タイラー。アナタ、お金の心配をしないで賭け事をしたくない?」

「はぁ? いきなりなんだよ?」

「だから、私がお金を上げるって言っているの。もちろん、タダじゃないわよ。この人形をどこかに捨ててきてくれたら、それ相応の報酬を約束するわ」


 それを訊いて俺は、人形を掴み、外へ飛び出した。

 呪いだかなんだか知らないが、アニマが金をくれるとうのなら、素直にもらっておくべきである。

 俺はそのまま走り、店の近くを流れる川までやってきた。


「恨みはないが……あばよ!」


 そして、そのまま川に人形を投げ捨てた。簡単である。

 俺は意気揚々としてアニマの店へ戻る。


「ああ。おかえりなさい」

「おお、捨ててきたぞ。さぁ、金をくれ」

「……はぁ? 何を言っているの? 捨ててないじゃない」


 と、アニマの言う通り、机の上には人形が何事もなかったかのように座っている。


「……はぁ? な、なんで?」

「ちゃんと捨ててこないと、お金はあげないわよ」


 アニマはそのまま、店の奥に引っ込んでしまった。俺は仕方なくもう一度人形を掴み、そのまま同じように川に投げ込んだ。

 それを俺は十回程繰り返した。しかし、確実に捨ててきたと思っても、人形は何事もなかったかのように机の上に存在していたのである。


「……ふざけんじゃねぇ! クソぉ……よし! わかった、処分だ! お前なんか燃やしてやる!」


 俺は店の外にでると、人形に火を付けた。あっという間に人形に引火すると、そのまま燃え尽きてしまった。


「はっはっは! 今度こそおしまいだ!」


 俺はそう言いながら店の奥に戻る。

 無論、人形は何事もなかったかのように机の上に座っていた。


「……アニマぁ!」


 俺が叫ぶと、驚いた様子でアニマは俺の方にやってきた。


「な……何? そんなに叫んで」

「コイツ……魔宝具だろ?」


 俺がそう聞くと、アニマは苦笑いして頷いた。


「……コイツは、無敵なのか?」

「うーん……所有者が捨てようが燃やそうが、呪殺するっていう凶悪な魔宝具だったみたいだから。無理ならいいのよ。捨てなくて」

「……うるせぇ! いいか! ちゃんと捨てたら……金! 俺に渡すんだぞ!」


 俺はそれから、とにかく人形を捨てまくった。山へ、海へ……しかし、いくら捨てても人形は元の通り、机の上に座っていた。


「……ふざけんじゃねぇ!」


 俺は人形に向かってそう叫んだ。無表情のまま人形は何も返さない。


「くそぉ……お前なんか……こうしてやる!」


 俺は何も考えずに宙へ向かって人形を放り投げた。

 すると、なぜか人形はそのまま落ちてこなかった。


「……あれ?」


 俺は気になってアニマの店の奥に行ってみる。


「お」


 机の上に人形はなかった。俺はどうやら勝利したらしい。


「よっしゃぁ! アニマ! 見ろ!」


 と、店の奥からやってきたアニマに俺は誇らしげにそう言った。


「あら。すごいわね。じゃあ、お金、約束通り上げるわ」

「え……マジでくれるのか?」

「ええ。まぁ、たぶん、アナタ、お家に帰ったら驚くことになると思うから……」

「はぁ? なんじゃそりゃ?」


 含みのある言い方をしながら、アニマは俺に金を渡してきた。

 俺はせっかくもらった金を、見事に賭場で総て消滅させた。

 しかし、あの忌々しい人形も消滅したのだから、良しとしよう……そう思って俺は自宅に帰った。


「……え?」


 帰った俺は目を疑った。

 俺の自宅の机の上には、あの金髪碧眼の女の子の人形が座っていたのだから……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ