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幸運なコイン

人が幸運を得るためには、一枚のコインがあればいい。

「アニマぁ……」


 俺は、その日、なんとか『マジック・ジャンク』にたどり着くことができた。

 店の奥から出てきた黒衣の魔女は呆れ顔で俺を見る。


「その様子……負けたわね」


 アニマの言う通り、俺は博打で大負けしてしまった。

 久しぶりにこれ以上無いってほどに、コテンパンに負けてしまったのである。


「チクショウ……アイツ、絶対イカサマしてやがる……! おかしいだろ! どうして俺以外にばかり賭け事の神様は微笑むんだ!? 俺は……この世で一番不幸なんだ……」

「落ち着きなさい。まったく……これを機に、いい加減博打をやめたらどうかしら?」


 錯乱気味の俺をなだめようとしたのだろう。アニマは俺にそう言った。しかし、それは俺にとっては逆効果である。


「……はぁ!? ふざけんな! 楽して生きていくためには博打は必要不可欠なんだよ! なぁ! アニマ! 博打で絶対勝てる魔宝具とかないのかよ?」


 俺が訊ねると、アニマは呆れ気味に蔑んだ視線で俺を見る。そして、そのまま店の奥に入っていってしまった。

 無論、俺だってわかっている。そんな都合の良い魔宝具があるわけないってことだって……


「ほら。受け取りなさい」


 と、いきなりアニマは店の奥から何かを投げて寄越してきた。

 俺は思わず反射的にそれを受け取る。


「……な、なんだこれ?」

「……たぶん、アナタには使いこなせないと思うけど、それ、あげるわ」


 俺は渡された小さなものを見てみる。それは銀色のコインだった。


「なんだこれ……コイン?」

 すると、アニマは近づいてきたかと思うと、俺が手にしていたコインを取って、そのままピンと親指で跳ね上げた。

 そして、それをパシンと両手で受け止める。


「さて、表かしら? 裏かしら?」

「はぁ? なんだよ……」

「いいから。これだって立派な賭け事よ?」


 くだらないと思いつつも、俺としても賭け事と言われると応じないわけにはいかない。


「……じゃあ、表」


 俺の答えを聞くと、アニマは俺にコインを見せてくる。

 表だった。間髪入れずにまたアニマはコインを飛ばす。


「さぁ? 今度はどちら?」

「あのなぁ……じゃあ、裏か?」


 アニマは俺にコインを見せる。裏だ。そして、三度、アニマはコインを飛ばす。


「さぁ、どっち?」


 いい加減にしろと思ったが、よくわからないまま流れで付き合うことにした。


「……裏?」


 アニマは見せる。裏だった。


「すごじゃない。三回中、三回を言い当てるなんて。ちょっとあり得ない確率よね」

「……たまたまだろ? それ、魔宝具なのか?」

「ええ。れっきとした魔宝具よ。ほら、アナタもやってみて。今度は私が当てるわ」


 言われるままに俺はコインを飛ばす。ちらりとコインを見ると、裏が見えていた。


「そうねぇ、表でしょ?」


 アニマは普通に間違えた。俺はアニマに手のひらを見せる。


「残念、裏だ」

「あら。表よ?」

「え……あ。ホントだ」


 言われて気づいた。俺の手の中で、コインは表になっている。

 先ほど見た時は確かに裏だったのに……


「……『幸運なコイン』。それがその魔宝具の名前よ」

「幸運な……コイン?」

「ええ。そのコインは、所有者の思った通りの面になるの。それが本来あり得ない面……つまり、表であっても、所有者が裏であってほしいと考えればコインは裏になる。さっきアナタが全部正解したのは、私がアナタの言った面であってほしいと願ったから……ね? 立派な魔宝具でしょ?」


 得意気にそういうアニマ。

 地味ではあるが……確かに、博打には強い……というよりも、最強の能力である。


「なるほど……で、これを俺にくれるってわけか」

「ええ。上手く使えば一儲けくらいはできるわよ。ただ、絶対そのコインを無くさないでね。コインと一緒に幸運もなくなっちゃうから」

「あはは。わかったよ。じゃあ、このコイン、ありがたく使わさせてもらうぜ!」


 俺はそのまま『マジック・ジャンク』を飛び出した。

 そして、実際、「幸運なコイン」を使って、ある程度、幸運な目にあった。

 何人かをカモにして、かなり荒稼ぎをしたのだ。

 しかし……


「……コインをなくした後、夜道で盗賊に会って、有り金全部盗られた、と」


 翌日、そんな悲しい話を、俺はアニマにしなければいけなかった。


「えっと……アニマ。コインってまだ他にあったりしないのか?」

「ないわよ。ほら、これに懲りてもう博打はやめることね」

「そ、そんなぁ……」


 落胆する俺に、憐れむようにアニマは微笑んだ。


「いいじゃない。盗賊に殺されなかっただけ、幸運だったって、言えるのではないのかしら?」

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