英雄の剣 4
「それにしても……結構危険だったな……」
思い返してみると、俺も身体を乗っ取られそうになったのだ。
代償魔宝具……危険な存在である。
「ええ、そうね。でも、あんなのは代償魔宝具の中でも低級な方よ」
「……はぁ? 低級って……どういうことだよ?」
「だって、村長、魔者になってなかったじゃない」
アニマはそういって立ち止まった。後をついていた俺とセピアも同時に立ち止まる。
「代償魔宝具の最終目的は人と魔宝具自体の融合……でも『英雄の剣』は融合ではなく、共生していたわ。もっとも、『英雄の剣』の過去の持ち主がどうなったかは知らないけれど、少なくとも、あの魔宝具は、人間と完全に融合することはできなかった、というわけね」
「……その、融合するってどういうことなんだ? ちょっとわからないんだが」
「そうねぇ……言ってしまえば、魔宝具が人間を使役する……そんなところかしらね」
イマイチピンと来なかったが、とにかく今回は助かった。それでいい気がしてきた。
「まぁ、こんな感じなら……俺は今後は遠慮しておくかな……」
「……は?」
と、俺の言葉にアニマは如実に反応した。
「え……だって、俺、今回危険な目にあったし……」
「でも、助かったじゃない」
「だけどよぉ、別に俺がいなくてもなんとかなっただろ?」
「いいえ。アナタのような人間がいたからこそ、さっきみたいな魔宝具に対してしかるべき処置を施すことができたのよ? ね? だから、後もう少しだけ、私に付き合いなさい」
頼んでいるというよりも命令しているアニマの口調。
断れないということを俺は察した。
「あー……我等は今回限りでいいかのぉ?」
と、セピアが申し訳なさそうに切り出した。
「え……お、おい。セピア」
「その……すまぬ、主よ。代償魔宝具とは言え、魔宝具なのじゃ。それを店主は破壊するつもりなのじゃろう? 同胞が破壊されるのは、見ていて辛いのじゃ……」
無理やり笑ってみせるセピア。言われてみればそれもそうである。
「ええ。別にいいわよ。その分、タイラーに働いてもらうから」
「え? お、おい。マジかよ……」
「あはは……すまぬのぉ、主よ」
そんな一連の会話があった後、アニマは適当な家の扉のドアノブに手をかけた。そして、なにやらまたしてもブツブツと呟いた後、扉をあける。
扉の先は「マジック・ジャンク」の地下室だった。
俺達三人が扉を通ると、何事もなかったかのように、俺達はマジック・ジャンクに戻ってきたわけだった。
「……それにしてもなんでアニマがこんなことしてんだ?」
俺はふと頭の中に浮かんだ疑問を思わず口にだした。アニマとセピアが、不思議そうな顔で俺のことを見ている。
「なんでって……言ったでしょ。尻拭いだって」
「でもよぉ。別にあのじいさんが英雄の剣を手にしたのもい、今から40年も前なんだろ? 大体じいさんが誰かから、あの剣を貰ったって確証、あるのかよ?」
俺の言葉に対して、セピアも納得しているようだった。アニマは俺達二人を見てから、仕方ないという感じの顔で先を続ける。
「……そうね。でも、ここ100年の間、この領地……いえ。この国で、魔宝具を売り歩く行商人がいるって話をよく聞くのよ」
「……でもよぉ。だからって、それをアニマが対処する理由にはならんだろ? 別に誰か別のヤツがやればいいんじゃないか?」
俺の言葉に、なぜかアニマは少し笑った。俺とセピアは二人で顔を見合わせる。
「そうね……でも、私、頼まれると断れないタイプなの。だから、ついつい答えてあげちゃうのよね……」
困り顔でそういうアニマ。そもそも、そういう依頼が来る時点で、やはりコイツはどうにも、とんでもないヤツだということがわかりそうなものである。
「……まぁ、わかった。とりあえず、俺にマジで危険が及ばない程度には付き合ってやる。というか、俺が危険な目にあったら、お前が助けろよ」
「あら? 私に助けを求めるわけ? いいけど、高くつくわよ?」
真面目な顔でそういうので、アニマは本気らしい。自分の身は自分で守るしかない、俺はそう思った。
それに、もしかすると、代償魔宝具の中にも効果なものがあるかもしれない……だとすれば、それを売り払えば大金が手に入るかもしれない……
俺は、そんなことを考えながら、アニマに協力を約束したのだった。