貫通する槍と拒絶する盾
「この槍と盾、どっちが強いんだ?」
「どっちも強いよ。まぁ、君には使えないんだろうがね」
――傭兵と武器商人の会話
「よぉ、アニマ」
俺は今日も『マジック・ジャンク』にやってきた。
アニマは不機嫌そうに俺を見ているだけである。
「……アナタも懲りないわよねぇ。まじめに働いた方が、ここで私の店のガラクタを売るよりマシなお金が安定してもらえると思うのだけれど?」
呆れ顔でアニマは俺にそう言う。
しかし、俺はその発言に憮然として対応する。
「あのなぁ。俺は楽して儲けたいの。だから、お前が売っているへんてこな魔宝具を売って一儲けして一生暮らすんだよ。ほら、何かないのか?」
俺が真面目に働こうとする意思がまったくないことを理解すると、アニマは、そのまま店の奥に入っていった。
「あ……やっぱり持てないわ。タイラー。ちょっとこっちに来て」
「はぁ? なんだよ……」
店の奥から聞こえて来たアニマの声。
仕方ないので俺も、ごちゃごちゃとした店の奥に入っていった。
「これ。今日、アナタのようなアホな二人組が、荷車に積んでやってきたかと思うと、そのまま置いていったのよ」
店の奥に入ると、アニマの前には鋭く尖った槍。そして、分厚い金属で出来た盾があった。
「おお! なんだよ! 立派な盾じゃないか! 久しぶりだな、お前の店でこんなものが見られるなんて」
「あのねぇ……まぁ、こんなもので良ければあげるわよ」
「マジでか!? よし、じゃあ、さっそく……いたっ!?」
と、俺は思わず叫んでしまった。
盾に触ろうとした瞬間、バチッと何か大きな音がして俺は盾に触ることが出来なかった。
「な……なんだよ、これ?」
「ふっ……この盾、魔宝具よ。『拒絶する盾』。その名の通り、あらゆる攻撃を拒絶する最強の盾ね」
「ま、まじか……じゃあ、売ったら相当な金額に……」
「ええ。でも、アナタ今、拒絶されたじゃない」
「え……あ、ああ……って、へ?」
俺がよく理解していないのがわかったようで、アニマは嬉しそうに俺の事を見た。
「この盾は、攻撃だけじゃない。あらゆるものを拒絶する……それこそ、自分に触ろうとしたものでさえもね。故に『拒絶する盾』なのよ」
「な、なんだよそれ……じゃあ……持てねぇじゃねぇか!」
俺がそう言うと、アニマはコクリと頷いた。
またしても、ガラクタ同然のものだということが、俺にも理解できた。
「ちっ……ああ、いいさ。そんなわけわからんものより、こっちの鋭い槍を……イテッ!?」
今度は、俺の手を鋭い感覚が走った。何かに貫かれるような感覚……それは槍を触った瞬間、俺の手を電撃のように流れたのである。
「ふふっ……その槍もれっきとした魔宝具よ」
「……名前は?」
なんとなく嫌な予感がしたが、俺はアニマに訊いてみた。
アニマは嬉しそうな顔で俺を見る。
「……『貫通する槍』。その名前の通り、あらゆるものを貫通するわ。ただ……」
「……使用するものさえも、貫通する、と」
嬉しそうにアニマは頷いた。俺は大きくため息をつく。
「邪魔したな。また今度来るよ」
「あら? 帰っちゃうの? 盾はともかく、槍は貫かれる痛みを我慢すれば手にできるわよ。実際、この槍が与える痛みを我慢しながら戦った戦士もいるって話よ?」
俺はそう言われてもう一度槍を見てみる。
しかし、次の瞬間には大きくため息をついた。
「あのなぁ……俺は、楽をして大儲けしたいの。そんな痛い思いするくらいなら、今のままでいいよ」
不機嫌な俺の言葉を聞いて、アニマは呆れたように苦笑いしていた。