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デュモルの妹は相棒

「リーダー……。ナンバー49のデュモルとは、前回の人生で初めて会いました。自分の研究に興味を持ってくれました。彼の研究が成功すれば、自分は異界へ行け、本来の魔物の姿を知ることができると言われ、協力すると手を組みました」


 やはり前世から計画していたのか。でも、いつ二人が同じ時代に生きるか分からないのに。そんなに急ぐようなモノではないのかな。この時代に同時に生きているのは、奇跡と言っても良いだろう。


「いつの時代に生まれ変わるのか分からないので、目印を決めていました。自分は生きている。それを伝えるモノです。同じ時代に生きていたら、合流する約束をしました。まさか次の人生で、すぐ、同じ時代を生きるとは思いもしませんでしたが」

「目印とはなんだ?」

「ソベール国の遺跡に、ナンバーと生まれた年を彫ることです」

「はあ?」


 ソベールの遺跡と言えば、アレしかない。

 それは最初の時代から歴史的価値のある、有名な遺跡。魔物が暴れたことにより、大半が崩れたけれど、石で造られたからか今でも名残があり、保管されている。今は立ち入り禁止とされているけれど、なにをやっているの?


「今は、あの遺跡に誰も立ち入らない。それにあの遺跡は大昔、世界遺産になる前、落書きとかされていたと聞いたことがありますし、魔物に壊されたので、余計気づかれにくいと決まりました。実際石に彫るだけなので、楽でしたし」


 楽でしたし、じゃないよ。なに世界遺産にやっちゃってくれているの? しかもあれは、古代文明の歴史的価値があって……! 建築法が分からない、建築理由も分からない、夢とロマン溢れる遺跡に、なにしてくれているの?

 さらに私たちをまとう空気が冷えたことに、この男は気がついているのだろうか。


「こいつら、本当に許せないな」

「同意です、クォンさん。レインさん、次にリーンさんが暴れても放っておきなさい」

「もちろん」


 頷いてやれば、ナンバー160は震える。リーンが武器を振り回し、私物だけではなく、自分を拳で殴ってきた恐怖はしっかりと刻まれたようだ。

 まだ魔法を解かれていないリーンは、無言で再び武器を取り出すと、ただ振り回す。やる気は十分のようで、なりより。


「それで? 今世、お前は彫った訳か」

「はい。彫りに行きましたが、デュモルは彫られていないので、がっかりしました。そんな簡単に、すぐ会えるとは思っていませんでしたが、どこか期待はしていました。それでも自分が生まれ変わったことを伝えるために、石へ目印を彫りました」


 だから、彫るな、っての。なんで彫るの? 馬鹿なの?

 きっと全員がそう言いたいのだろうが、今はぐっと堪える。そうでなければ、話が進まない。


「数か月に一度、確認するために足を運んでいました。ある日、デュモルの名が刻まれました。前回に続き、同じ時代に生きていると驚きましたが、これで魔物について新たに知れることができると喜びました。ただ、彼は成長してから彫っており、再会した時はすでに成人していました」


 やはりデュモルは、ある程度の年齢になってから動き出したのか。なぜだろう。


「なぜ、それまで生まれ変わったことを隠していたのか、聞かなかったのか?」


 同じ疑問を抱いた所長が質問する。


「もちろん尋ねました。揃っていなかったので、隠していたと言われました」

「揃っていない?」


 なにを揃えるつもりだったのだろう。今は暴れていないリーンも合わせ、四人が互いの顔を見やる。さっぱり意味が分からない。


「なにが揃っていなかった?」

「仲間です。自分もその時までは聞かされていませんでしたが、デュモルには、相棒と呼べる人がいたのです。その人物が揃わなければ、動けないと。絶対に必要な人物だと紹介されました」


 それがアパッタイの呪いや魔法道具を開発している人物なのだろうか。とにかくデュモルには、絶対に必要な人物か。


「生まれ変わりの記憶を持つ……。その相棒も、ナンバー持ちだったって訳か」

「は、はい。でも、ナンバーは教えてもらっていません。ほ、本当です! いくら尋ねてもはぐらかされ……。ただ、博識でした。でも、魔力量はそんなに多くなく……。自分と近い番号ではないかと……」

「その相棒の性別や名前とかは?」

「前世以前については知りませんが、今世は女です。無表情で愛想のない奴で……」


 驚き、ついナンバー160の肩を両手で掴み、顔を近づける。


「それ、本当?」

「本当です!」


 焦ったように、大声を出され頷かれる。

 ソベールに現れた兄妹。その妹は、無表情だという話だった。じゃあ、その相棒というナンバー不明の少女が、妹だと名乗っていたのか。


「彼女の名前は?」

「今世はティーオと呼ばれていますが、本名か知りません。自分が知っているのは、今の名前と、相棒とも呼べるデュモルの部下ということだけです。話しかけても、無視をされることが多かったので」

「ティーオ……」


 少女ということは、もしかしたら失踪届が出されているかもしれない。調べてみる価値はあるけれど、この地球に幾つ国があるか……。すぐに分かるとは限らないな。

 最初の人生から長い年数が経った。人類は現在、再び幾つもの国家を築いているが、分裂、合併を行い、世界地図はかなり変わった。島国は、わりとそのままだけれど、名前が変わったりしている。


「ティーオは、感情がない訳ではありません。ただ、表情が変わらないのです。あああ、しまった!」


 ここまで喋っていたのに、急に顔色を悪くして頭を抱えるナンバー160。


「リーダーについて所長たちに話したとティーオに知られたら、自分は殺されてしまう! お願いします! 永久除名後も、都に住まわせて下さい! きっと都を出たら、ティーオに殺されます! あいつはそういう奴です!」


 再び土下座するように、床に正座をしてきた。いや、それ、今さら? 都を裏切るし、簡単にアパッタイについて話すし。なぜデュモルは、こんなのを仲間にしようとしたのだろう。どう考えても、足を引っ張るタイプなのに。

 話したそうな目を向けられたので、リーンの魔法を解いてあげる。彼女は冷たい目で彼を見下ろし、低い声を出す。


「図々しいね、あんた。永久除名って意味、分かってんの? 除名する奴を、なんで僕らが保護しなきゃなんないのさ。都から出て、そのティーオって奴に殺されかけたら、駆けつけてあげるよ。ティーオって奴を、捕まえたいから」

「そ、そんな! 自分に囮になれと言うのですか? 嫌です! 死にたくありません! 助けて下さい! これまでの研究が、知識が、自分から全て失われてしまうのは嫌だ! 耐えられない! それに都ほど、魔物に充実した書物がある場所はないのに!」


 なんか本当、我がままだな、コイツ。こんな性格だからデュモルは、簡単に利用できると狙ったのかもしれない。だったら……。


「所長、私から提案。この人、魔物の研究に情熱を費やしているようだから、本人の希望を叶えてあげようよ。都の永久除名は絶対。でも、来世でも今世の記憶を残すようにする。都を追い出すけれど、行き先は油田のダンジョン」

「……ああ、その手があったね」


 長い袖を口元に当て、リーンがにやりと笑う。


「あそこは一度調査済みだと言って、出入り禁止にしているけど、本当は危ないからってのが理由なんだよね。あんたがまだ知らない魔物と、た~くさん出会えるよ、感動に打ち震えると良いよ」

「それは良い案だ。では永久除名前に、油田のダンジョン調査を命じよう。好きなだけ、好きな魔物の生態をその目で確かめると良い」

「水と食料は用意してやる。もっとも、休憩を取れる時間があるのかは謎だがな」


 ダンジョンについて知っている私たちは、悪い笑みを浮かべる。油田に住みついた魔物に、ナンバー160は勝てるはずがないと、私たちは確信しているからだ。


「あのダンジョンの魔物は、実は初期に現れた魔物から、そんなに進化していないの。狂暴で、とにかく人間を見ると襲ってくる。隠れても追ってくる。ダンジョンボスを倒した時は五人いたから、寝る時間を確保できた。交代で見張りができたから。でも、ぬるま湯しか知らないあんたに、気がつけば背後に魔物がいる状況、対応できるかな」


 私たちは最初の人生の記憶があり、恐怖が魂に刻まれているので、危機の察知能力が高い方だ。怯えて逃げて、死体の山に身を潜め……。それを、この男は知らない。

 知らないから、まるで動物園にでも行くかのように、異界へ行って魔物の生態を見たいと簡単に言える。魔物がどれほど恐ろしい生き物か、分かっていない。魔物の調査をしていながら、どうして安全だと言い切れる? 理解できない。

 それにクォンに投げられた時、なんの対応もしなかったことから、戦いに不慣れだとよく分かる。


「ゆ、油田の……」


 悩んでいる、揺らいでいる。

 ティーオという恐怖を感じる存在と、まだ恐怖を感じない魔物を相手なら、魔物を選ぶだろう。それに調査したいという欲に、きっとこの男は勝てないだろう。


「……その命令、受け入れます……」


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