表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/1

思い出した

 急がなきゃ。

 皆が帰ってくるまでに、言いつけられたことを全てこなさなきゃ。

 きちんと私もできるって。今日こそ叱られずに褒めてもらって、認められるために、頑張らなきゃ。

 そう心は焦るのに、体は思うように動いてくれず、余計に気だけが急いていく。

 一方で体が動かないのは当然だと、どこかにいる冷静な自分がささやく。


 私の働きが悪いから、毎日まともな食事を取れないし、最近は食欲もない。痩せていた体はさらに痩せこけ、寝ても疲労は取れず、目眩もよく起きる。今は視界が薄暗く、頭の温度がおかしい。なにか危ないと分かっているのに、それでも体を止める選択はない。

 だって、私も家族として認められたいから。


 私の実母は、私を出産した時に出血多量で亡くなった。

 出産は命がけ。妊娠したからと、誰もが無事に出産できる訳ではない。母子ともに綱渡りで、いつなにが起きてもおかしくない。残念ながら母は、その綱が切れてしまった。

 入り婿で母と結婚した実父が、いつ再婚したのか記憶にない。きっと私が相当幼い頃に再婚したので、記憶にないのだろう。実母の記憶もない。かろうじて飾られている肖像画で、顔は知っている程度。


 私はある頃まで父の再婚相手である義母を、本当に自分の母親だと思っていた。だがある日、血の繋がりがないのに母と呼ぶなと言われ、事実を知った。

 私と数か月しか年齢の離れていない妹を産んだ義母。私の実父と顔が瓜二つの妹。そんな二人にだけ笑顔を向ける父親。三人は幸せな家族。三人だけの幸せな家族で、私が入りこめない世界で、羨ましいほど輝いている。

 私もその輪の中に入りたいが、義母から、実母を殺した罪人は妹に近寄るな。妻を殺した罪人の顔を、父親が見たいと思うのか。何度もそう言われ、それもそうかと納得し、妹や実父とほとんど交流を持っていない。二人も私に近寄ってこない。


 義母から罪人は罪を償えと言われ、使用人に混じって働く毎日。

 今日も三人で外出している間に、仕事を片付けておくようにと命じられた。

 仕事が記された紙を握り、今日こそはと誓い、三人を見送った。

 昔、『奥様』が言っていた。自分を母と呼びたいのなら、家族として認められろ。言われたことを全てやり遂げる力を身につけろと。それなのに、いつも私は時間以内に仕事を終わらすことができない。能無しのまま。

 だからいつまでも『母』と呼べない。奥様を母と呼べたら、私もあの輪の中に入れるのに。


 家族の輪に入れたらあの日のように奥様から笑顔を向けられ、姉妹で内緒話をして、父の膝の上に座って。皆と一緒に食卓に座り、その日あったことを笑いながら語り……。

 そんな夢を抱いて、毎日働き続けている。

 だけど最近、本当に体の調子が悪い。すぐに息切れを起こし、視界は薄暗く、頭が一瞬すっと冷えることもある。体は重くて思うように動かない。たまに熱を出したように、全身が熱くなり、汗が止まらない。目覚める時も、体を起こすのが億劫(おっくう)

 でも弱音を吐いていられない。だって私には夢があるもの。だから頑張るしかない。


 だが、体は正直だ。限界を迎えたら、動かなくなる。

 頭が揺れ、視界が消えていく。

 なぜだか、ああ、また死ぬのだなと思った。


 棚掃除の途中だったので、倒れる体が棚にぶつかり、その衝撃で置かれていたモノが落ちてきて体を叩く。そのせいか、止まった心臓が再び動き、どくん。一際大きく跳ねり、体が熱くなる。

 目を開き、息苦しさに目眩を覚える。痛い心臓をどうにかしたく、胸をかきむしる。

 言葉と呼べない音を口から出しながら、のたうち回る。心臓が脈打つたびに記憶が一つ、また一つ浮かんでは消えていく。様々な時代、幾つもの人生の記憶。今世では経験したことのない記憶。どれも覚えがある。

 全て……。全てが私の魂に刻まれた記憶。

 胸の苦しみが消えると、仰向けになって天井を見つめて呟く。


「私……。これが何回目の人生なのかしら……」







お読み下さりありがとうございます。


こちらは今年に入り、ピッ○マでもノベライズ公募あるのだと知り、もし応募するならと考え浮かんだ内容です。

応募そのものは、親会社が海外なので、撤退した時を考えると切ないと思い、しないと決めましたが、せっかくだし投稿するかと決めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ