思い出した
急がなきゃ。
皆が帰ってくるまでに、言いつけられたことを全てこなさなきゃ。
きちんと私もできるって。今日こそ叱られずに褒めてもらって、認められるために、頑張らなきゃ。
そう心は焦るのに、体は思うように動いてくれず、余計に気だけが急いていく。
一方で体が動かないのは当然だと、どこかにいる冷静な自分がささやく。
私の働きが悪いから、毎日まともな食事を取れないし、最近は食欲もない。痩せていた体はさらに痩せこけ、寝ても疲労は取れず、目眩もよく起きる。今は視界が薄暗く、頭の温度がおかしい。なにか危ないと分かっているのに、それでも体を止める選択はない。
だって、私も家族として認められたいから。
私の実母は、私を出産した時に出血多量で亡くなった。
出産は命がけ。妊娠したからと、誰もが無事に出産できる訳ではない。母子ともに綱渡りで、いつなにが起きてもおかしくない。残念ながら母は、その綱が切れてしまった。
入り婿で母と結婚した実父が、いつ再婚したのか記憶にない。きっと私が相当幼い頃に再婚したので、記憶にないのだろう。実母の記憶もない。かろうじて飾られている肖像画で、顔は知っている程度。
私はある頃まで父の再婚相手である義母を、本当に自分の母親だと思っていた。だがある日、血の繋がりがないのに母と呼ぶなと言われ、事実を知った。
私と数か月しか年齢の離れていない妹を産んだ義母。私の実父と顔が瓜二つの妹。そんな二人にだけ笑顔を向ける父親。三人は幸せな家族。三人だけの幸せな家族で、私が入りこめない世界で、羨ましいほど輝いている。
私もその輪の中に入りたいが、義母から、実母を殺した罪人は妹に近寄るな。妻を殺した罪人の顔を、父親が見たいと思うのか。何度もそう言われ、それもそうかと納得し、妹や実父とほとんど交流を持っていない。二人も私に近寄ってこない。
義母から罪人は罪を償えと言われ、使用人に混じって働く毎日。
今日も三人で外出している間に、仕事を片付けておくようにと命じられた。
仕事が記された紙を握り、今日こそはと誓い、三人を見送った。
昔、『奥様』が言っていた。自分を母と呼びたいのなら、家族として認められろ。言われたことを全てやり遂げる力を身につけろと。それなのに、いつも私は時間以内に仕事を終わらすことができない。能無しのまま。
だからいつまでも『母』と呼べない。奥様を母と呼べたら、私もあの輪の中に入れるのに。
家族の輪に入れたらあの日のように奥様から笑顔を向けられ、姉妹で内緒話をして、父の膝の上に座って。皆と一緒に食卓に座り、その日あったことを笑いながら語り……。
そんな夢を抱いて、毎日働き続けている。
だけど最近、本当に体の調子が悪い。すぐに息切れを起こし、視界は薄暗く、頭が一瞬すっと冷えることもある。体は重くて思うように動かない。たまに熱を出したように、全身が熱くなり、汗が止まらない。目覚める時も、体を起こすのが億劫。
でも弱音を吐いていられない。だって私には夢があるもの。だから頑張るしかない。
だが、体は正直だ。限界を迎えたら、動かなくなる。
頭が揺れ、視界が消えていく。
なぜだか、ああ、また死ぬのだなと思った。
棚掃除の途中だったので、倒れる体が棚にぶつかり、その衝撃で置かれていたモノが落ちてきて体を叩く。そのせいか、止まった心臓が再び動き、どくん。一際大きく跳ねり、体が熱くなる。
目を開き、息苦しさに目眩を覚える。痛い心臓をどうにかしたく、胸をかきむしる。
言葉と呼べない音を口から出しながら、のたうち回る。心臓が脈打つたびに記憶が一つ、また一つ浮かんでは消えていく。様々な時代、幾つもの人生の記憶。今世では経験したことのない記憶。どれも覚えがある。
全て……。全てが私の魂に刻まれた記憶。
胸の苦しみが消えると、仰向けになって天井を見つめて呟く。
「私……。これが何回目の人生なのかしら……」
お読み下さりありがとうございます。
こちらは今年に入り、ピッ○マでもノベライズ公募あるのだと知り、もし応募するならと考え浮かんだ内容です。
応募そのものは、親会社が海外なので、撤退した時を考えると切ないと思い、しないと決めましたが、せっかくだし投稿するかと決めました。




