エピソード09:神隠し
「ねえ蛍さん。人探しってできる?」
「なんですか唐突に。俺は探偵じゃないですよ」
「それがね。……神隠しらしいのよ」
「神隠し……」
似たような目にあったことはあるけど……。
「とある夫婦の旦那さんからの依頼で、消えた奥さんを探してほしいって。夫婦仲も良くて、突然いなくなる心当たりはなし。警察に捜索願も出してるけど、旦那さんは神隠しを疑っているみたいなの」
「なるほど……」
「何人かあたっては見たんだけど、神隠しは専門外って人ばっかりで……。ね、蛍さん。ちょっとやってみてくれないかな?」
「俺だって専門外な気がしますけど……とりあえずやってみるだけでいいなら……」
「ほんと!?助かるぅー!」
「必ず見つけられる保証はないですからね?」
「ええ。それでいいわ。それじゃ、お願いね!」
佐伯さんとの通話を切り、早速うちの子達に聞いてみる事にした。
「さて。今回は神隠しだけど、みつけられそう?」
俺の問いに対してうちの子達の返事は『部分的にそう』の合図。
「条件次第って感じか……」
これには皆して頷いた。
「とりあえず旦那さんに話を聞いてみようか」
俺は送られて来たメールに記載してあった住所を訪ねる事にした。
◇◇◇
「児玉尊と申します」
今回の依頼主の家を訪ねると、40代の男性が玄関から顔を覗かせた。今回の依頼人である旦那さんだ。奥さんの件があって今は仕事を休んでいるとのことで、家にあがらせてもらえた。
「『よろず屋K』の逆木葉と申します。オカルト専門のなんでも屋と思っていただければ」
「はあ」
児玉さんは胡散臭いものをみる視線を俺に向けてきた。よくある事なので、今更動じたりはしない。
「神隠しにあったのは奥さんですよね?」
「はい。これが妻の美冬です」
旦那さんが奥さんの写真を見せてくれた。優しそうな女性だ。
「いなくなった時の状況を教えてください」
「夕飯を作っている時に、なんだったか……醤油かなにかが切れているから買いに行くと言って出ていって、それっきりです」
「家出という感じではないですね……」
「財布しか持たずに出て行ったんです。家出のわけがありません!」
「神隠しだとして、何か前兆のようなものは感じましたか?」
「いえ全く……突然いなくなったものですから」
あまり有力な情報は得られなかった。
「早速調査を開始します。ただ……先にお伝えしておきますが、必ず発見できるとはお約束できません」
「……はい。それでも、お願いします」
旦那さんは藁にも縋る思いなのだろう。深く頭を下げた。
児玉さんの家を出て、とりあえず今ある情報だけでうちの子達に聞いてみることにした。
「どう?何かわかりそう?」
うちの子達は首を横に振った。そりゃまあそうか。
うちの子達はエスパーではない。
「神隠しっていうと、犯人は天狗だったり狐や狸ってのが有名ではあるけど……」
スマホで街の地図を見ながら、何か神隠しと関係がありそうな建物や土地がないか調べてみる。
すると、1社の神社が目にとまった。
「神社か……。他に手がかりもなさそうだし、行ってみるか」
◇
「これはまた……ちょっと荒れてるなあ」
地図に従ってやってきた神社だが、管理行き届いていないのか、荒れている。
鳥居をくぐって神社の敷地に入った瞬間、うちの子達が何かを伝えようと俺の周りを蠢き騒ぎ始めた。
「どうした?何かあるのか?」
うんうんと一斉に頷く彼女達はとある場所を指さしている。壊れた稲荷像だ。
「これか?っていうことは、もしかして神隠しの犯人って――」
俺が犯人の正体を口にする前に、辺りが闇に飲まれた。
「ほう。面白い物を連れている」
闇の中から声が聞こえて来た。
「誰だ!」
すると、闇の中にぼうっと光が灯り、一匹の狐が姿を現した。
ただの狐ではない。この狐には、八本の尻尾がある。
「八尾か……」
狐は九尾になると神の一柱となる。八尾ということはその手前、まだ不完全な状態ということだ。
ただ、八尾の狐も侮る事はできない。強力は妖狐であることには違いない。
「最近、女性を攫ったか?」
「どの女子のことかな?何人か攫ってやったからなあ」
どうやらこいつが神隠しの犯人ということで間違いなさそうだ。
「人を攫って力を蓄えようってことか?食うつもりか?」
「人などまずくて食えたものではない。全ては信仰を取り戻すため。お主も見たであろう?我を祀る神社の有様を」
「そりゃまあ確かに荒れてはいたけど……」
「あれこそ信仰を失った証よ。我はそれを罰しているにすぎん」
稲荷像も壊れていたし、そりゃ祀られている側からしたら怒るか。
なんとか交渉で穏便に返してもらえないだろうか。
「攫った人を無事に返してくれるなら、きちんと管理して儀式も執り行うように手配できる」
「ふん。人間の言葉など信用できるものか。しっかりと罰を与えて、骨の髄までわからせてやらねば」
話し合いではどうにもならないようだ。仕方ない。
「皆、あの狐を少し痛めつけてやってくれ。殺さないようにな」
俺の言葉を受けて、うちの子達は八尾の狐を取り囲む。
「ぬ?たかが人の霊ごときがなにをしよ――ぐあっいてっいでで」
うちの子達を侮っていた狐が言い終わる前に、鍛え上げられた霊達が狐をどつきまわした。
尻尾を引っ張り耳を引っ張り、八尾の狐に得意の『痛み』を与えている。
「いでっ!?人霊の分際で……痛いっ!いや、わかった!わかったから!」
痛みには弱いのか、狐はあっさりと降伏した。
「神社の管理はきちんとやるように言っておくから、攫った人達を戻せ」
「ちっ。わかったわかった。だが、約束は守れよ?破ったら、力を蓄え九尾となった我の祟りが待っているからな!」
「大丈夫だって。伝手はあるから」
「よし。攫った者達は返してやろう。お前もそのおっかない霊どもを連れて帰れ」
八尾の狐はあくまで上からものを言っているが、その体はぷるぷる震えている。
瞬きをする間に景色は元の神社へと戻り、俺の目の前には3人の女性が意識を失って倒れている。
そこには美冬さんの姿もきちんとあった。
◇
「ありがとうございました」
児玉さん夫婦がそろって頭を下げた。
「あの神社もこれからはきちんと管理されるでしょう。信仰が失われたと思った狐が引き起こした事件ですので、できれば児玉さんも参拝してあげてください」
「もちろんです。今回のことで祀られているものが実在するとわかりました。これからはちゃんとお参りにいこうと思います」
夫婦は俺が帰る時に、もう一度深く頭を下げてから見送ってくれた。
佐伯さんには事の顛末を伝え、神社の管理をお願いしておいた。
さすがに八尾にまで至った狐を放置するのが危険なことはインチキ霊能力者の佐伯さんでも心得ている。
あの神社はこれからはしっかりと管理されることだろう。




