14.ワイルドカードバッテリー
「信長様、三河行ってるわけでもないのに、最近また見かけなくない~?」
藤吉郎が陽気に水を口に含みながら言う。
「なんでも、武田戦で掴んだことを猛特訓してるみたいなんだよ。」
バットを肩に担いだ利家が答える。
「いや~……信長様いないだけで、空気が軽い気がするんだよねぇ」
藤吉郎がストレッチをしながら、のびのびと腕を回す。
「まぁな。でも気を抜くと、今度は道三様の視線がズシンと来るぞ?」
利家が苦笑いを浮かべながら、キャッチボールの相手に軽く投げ返す。
「そうなんだよ~。信長様がいないから雷落ちなくていいやと、思っていたけど、道三さまも厳し~よ~。この前なんてさ、おやつ没収されたんだよね…。」
「練習中におやつ食う方がどうかしとるわ」
小六がコーチボックスからズバッとツッコむ。
「信長様と勝家ちゃんの“ドカーン”系の怒りも怖いけどさ、道三さまみたいな静かなる怒りも怖いんだよね~。ほら、こないだの信盛ちゃんに対する、はんべーくんと蘭丸ちゃんのあの冷ややかな目線みたいな……」
藤吉郎はそこで思惑する。
「……あれ、そういえば勝家ちゃんも最近見かけないね~」
藤吉郎が眉をひそめて言う。
「信長様の特訓につきっきりらしい。完成するまでは全体練習に出ないってさ」
利家の声に、一抹の寂しさと誇らしさが混じっていた。
「あ~なるほど、だから最近の練習試合も、光秀ちゃんがずっと投げてるのか。」
藤吉郎がバットの先で空を指すように軽く振る。
「うん、それに……あの人も、最近練習に真面目に――」
利家が言いかけた矢先――
「お前ら、のんきに雑談してるところ悪いけど」
澄んだ声に振り返ると、そこにはグラブを肩に掛けた長可の姿があった。整った顔立ちに、鋭い眼差し。その存在感はグラウンドの空気を一気に締めるほど。
「……うわ、森先輩じゃないですか。お疲れさまです。」
藤吉郎がわざとらしくペコリと頭を下げる。
「皮肉にしか聞こえないんだけど?」
「いえいえ~、先輩が来てくれると練習の空気がピリッとしますね~。でも珍しいですよね。練習参加なんて」
「今日は来る意味があったから」
長可は言い切って、キャッチャーミットをきゅっと締める。
背中に流れるピリッとした緊張感に、藤吉郎が少しだけ口調を改める。
「……なるほど。……てっきり今日も、“気が乗らない”とか言って寝てるかと」
「そう思わせといた方が、動く時に効果が出るでしょ」
そのやり取りに、利家が目を細めた。
言葉少なに、しかし確かな意志で答える長可のもとへ、
微笑を浮かべた明智光秀が歩み寄る。
「森くん。準備はできてる?」
明智光秀。
その声色はいつも通り柔らかく、微笑を湛えている。
「……いつでもどうぞ。ピッチング練習からだよね?」
長可が軽く返す。
「うん。今日は君の実力をちゃんと引き出したいんだ。誰よりも、君の持ってる力は――」
「勝家よりも上、って言いたいんでしょ?」
森が被せる。
光秀は言葉を止めたが、笑みは消えない。
一瞬、利家の目つきが鋭くなる。
「いえ、勝家殿から正捕手を奪うつもりでやってほしいなって言おうとしたんですよ。
そう”つもり“でね…」
ふたりはブルペンに向かう。
そのやり取りを遠巻きに見ていた藤吉郎が、ぽつりとつぶやく。
「……あのふたり、なんか……ね。水面下でえぐい連携してそうで、怖いんだよね」
「うちのチーム、明るい革命だけじゃ済まなさそうだな」
利家の言葉に、藤吉郎は笑いながらも顔をしかめる。
「うん、それもう“革命”じゃなくて、政略とかクーデターとかのやつだよね」
◆森 長可
ポジション:キャッチャー(補欠)/尾張デビルズ
キャラタイプ:荒削りな実力派×野心家の問題児
「信長さんには感謝してるけどさ、だからって全部従う理由にはならないでしょ?」
尾張デビルズの補欠キャッチャーにして、“もう一人の天才”。
恵まれた体格と爆発的な打力、そして正捕手・柴田勝家に勝るとも劣らない肩力を持つ逸材。
しかし――チームの方針には反発的で、練習はサボりがち、上下関係もどこ吹く風。素行の悪さと気まぐれさが災いし、常にベンチを温める立場に甘んじている。
だが彼女の中に眠るのは、ただの不満ではない。
口うるさい信長への反発、そして彼の率いる「革命野球」への疑念。
そんな彼女が密かに抱くのは、「信長を一泡吹かせてやりたい」という危険な野心だった。
その想いに共鳴したのが、策略家・明智光秀。
表では静かに忠誠を誓いながら、裏では計算高く未来を見据える彼と、長可は不思議な化学反応を起こす。
互いの野心を嗅ぎ取り、利害が一致した瞬間、両者は急速に接近。
今や二人のバッテリーは、デビルズ内でも異質なほどに息が合っている。
「才能」だけでは語れない、もうひとつの"革命"が、静かに動き出す。




