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美しき電撃の刑務官。決着す!

俺は鞭の嵐を浴びる。痛いのは問題ではない。勝てないのが問題だ。

触れて倒す俺の戦い方が通用しない。最悪の相性だ。

華奢で力も速さもない敵に、いいようにやられている。

どうやって攻略する?

今は鞭に電気を流していないので、俺を近づかせる戦法だろう。

誘いに乗って近接して何ができる?


「どうした、相当に呼吸が乱れているぞ。無様だな。男どもは、そうやって何もできず朽ちていく。筋肉が膨れているだけの、か弱い生物だ」

「あんたも男だろうが」

埒が明かず、俺は突進した。

「猛牛が小さくなって猪だな」

「俺はもともと小柄なんだよ」

猪突猛進。

宙を波打った鞭が首に巻きついてきた。刹那、スイッチが入った様相でビリビリとなった。

俺の筋肉は支配されているので、鞭を外せない。

これはまずい。

脳に酸素が行き届かず、意識が途絶えれば敗北確定だ。抵抗できない自分の無様さに、怒りが湧いてくる。

この刑務官は、戦いが型に嵌まれば無敵だ。なすスベなしか。


彫刻のように動けない俺に対し、刑務官は壁にかかった鉈を手にとった。

時間をかけての窒息は選ばないようだ。

「自死させるか、いや貴様むかつくから、私自身でトドメをさす」

俺の血がついた鉈を振りかぶった。

「とっとと逝け」


ランプの灯りが、刃の影を壁に映す。巨大な影が頭頂部に狙いを定めている。

絶体絶命。俺が最初から鉈を手にするべきだったか。しかしどちらにしろ、電気ビリビリを攻略できただろうか。

こいつの戦い方が女みたいで気に入らなかった。だから真正面からの肉体の勝負を挑んだ。他に方法があったかも。下手な自尊心が己を窮地に追いこんでしまったか。


むっ!

心なしか、電力が弱まった感じがした。鉈を振り下ろす動作に意識が向かったせいか。実際、絞められた首から最も遠い足のつま先は動かせた。

窮鼠、猫を咬む。

刑務官の脛を軽くだが蹴ってやった。

「いたっ」

甲高い声とともに、鉈がずれてビリビリも消えた。脱力する俺だが、一度経験した緩急だ。さっきよりは早く動ける。必死で体を捻った。

よけきれず鉈が肩に落ちた。が、非力と化した攻撃では、骨どころか筋肉すら断ち切れない。皮膚だけの血流ですんだ。


刑務官が慌てて後ろに跳びのいた。肩で息をしている。

俺は口角を上げた。欠点を見つけたのだ。

自分で鉈を振りおろしたのは、早急に決着をつけるためだが、本来、十分に痛めつけたいタチのはずだ。

長引かせられなくなった理由がある。

「電気を発生させるためには、相当なカロリーを要するのだろ? あんたは体力がガタ落ちになっている。だからさっき電力が弱まったんだ」

仮面をつけていてわかりづらいが、肩の上下運動からして相当に疲れている。

「こんなに戦いが長引く相手は初めてなんだろ? 雑魚でなくて申し訳ないな」


刑務官はポケットからパックをとりだし、口元に当て、吸いだした。

「カロリー補給って、図星じゃないか。突然、栄養が筋肉にいくわけねえ。ここから逆転だ」

「勘違いするな。貴様の命脈を断つぶんのエネルギーは十分にある。次で決める」

「男はか弱いんだったな。ブーメランだ。あんたも男なんだよ。さあ、全ての電力を放出して俺を止めてみろ。それができなければ俺の勝ちだ」

腕を前に突きだし、鞭を巻きつけやすいようにしてやった。

「罠に乗るものか」


奴の鞭が、俺のお行儀が悪かった足を狙ってきた。

予測通り、罠にかかってくれた。

俺は跳んでよけ、一気に間合いを詰める。

「愚か者。接近して何をする?」

「殴り合いだ。引き手を速くすれば戦えるか、試す。どっちが先に尽きるかの勝負だ」

「くだらない」

刑務官が抱きついてきた。

「望みどおり最大出力だ。焼け死ね!」

ゴワゴワした刑務服から電力が流れてきた。俺は抵抗できず倒された。

「ぐおおおっ」


確かに最大にまずい。心臓が数秒間隔で止まる。

ここで俺は終わるのか。

刑務官が体を起こし、馬乗り状態になった。

「これも望み通り、殴りあってやる」

ここに来て、刑務官が本性を優先した。憎い相手は愛撫するように痛めつけたいのだ。

ビリビリは続いているが、墓穴を掘らせるチャンスが来た、かもしれない。

電流入りの拳が、俺の顔に降り注ぐ。軽い拳だが、鼻を砕き、歯を折り、目を潰すことはできる。顔は弱点だらけだ。


しかし電力は落ちてきている。俺は致命傷になる前に、右手を動かす。

「のろまな手で何ができる。自慢の指は強張っているぞ」

こいつはなぜ仮面を被る? 童顔美青年で舐められるからか? この仮面を剥いでやれば、動揺させることができるのではないか?

可能性はこれしかない。

俺は仮面の顎を掴んだ。

刑務官の表情は知れないが、仮面の奥で歪んだように感じた。

「離せ、穢らわしい!」


俺の指が払われていく。

このチャンスを逃したら、次はない。

電力に逆らえ。俺も火事場の最大出力だ!

人生かけて鍛え抜いてきた指の力を信じ、思いっきり下に押しさげた。


無惨にも、指が仮面から外れてしまった。

虚しくも指に宿った爆発力は、刑務服のボタンを飛ばし、アンダーシャツを破く無駄な作業に使われた。

にもかかわらず、電流が停止した。


「はあ? なんでしょうか」

刑務官の(あら)わになった白い肌は膨らんでいた。破いたのはアンダーシャツではなくサラシであり、胸の膨らみを抑えていたのだ。

「どうりで華奢なわけだ。女だもんな」

顧みれば、戦闘者とは思えない慌て方を何度もしていた。

今も刑務官は、慌てて両腕で肌蹴た胸を隠した。

完全に隙を作っている。ビリビリが復活する前に、追い打ちをかけるよう、仮面を弾いてやった。

そこにあった顔は、頬ぽっちゃりめだが、きつい目になっている、あのメイドだった。


「あんたが刑務官の正体だったか」

ゴワついた刑務服を着て、サラシで胸を抑え、仮面を被り、赤いウィッグを被らず、声色と口調を男風に変えていれば、気づかないってもんだ。

「死にさらせ!」

女は泣きそうになりながら拳を落としてくる。

「体力の限界で電流も潰えたな」

申し訳なかったので、その拳を頬で受けとめたあと、軽い体を横に払いのけた。

勝負あった。

刑務服のメイドは力なく、コンクリートの床に伏せた。


涙が冷たい床で黒い染みとなる。

「俺が虐めているみたいな結果だ。やめてくれよ。俺の体、傷だらけだぞ」

「うるさい。全て男どもが悪いんだ。こんな世の中になったは、全て男たちのせいだ」

それは確かに正論だ。人類の半分の女は戦争をしない。女は巻きこまれる側なのだ。

「言い訳のしようがない。女は男が愚かな生物だと思えばいい」

無責任な発言に聞こえたのか。メイドが赤い目で俺を睨みつけ、胸を隠していた両腕を下げた。

「犯せよ。男はそうしたいんだろ。けだもの!」

俺は即答する。

「しないよ。もちろん、あんたが魅力的ではない、ってことじゃない。俺は秩序を作りたい側の人間なんだ。あんたを手にしたいなら、秩序に従って口説いてやる。だからまず胸を隠せ」


見上げるメイドの顔から、険しさが抜けていく。

「貴様は何しにここへ来た? 私を恨んだ輩の回し者じゃないのか?」

「この地域では、謎の刑務官が一応、モヒカンどもを抑えてるって話を聞いたからさ。中途半端だなって。もっとはっきりと自治しろって言いに来たわけ」

メイドは幼子のような顔になった。

「門番の烏丸(からすまる)が倒されたのをアカツキから聞かされた。どんな奴か、メイド姿で確認しに行き、私、自らが招いた。ちゃんと話を聞いてやればよかったな」

乱世においては、誰もが他人不審で、制圧を優先的に考える。仕方がないことだ。


メイドは立ち上がり、俺と正対し、にっこりと例の微笑みをした。

「わたしはロリカ。あなたと話がしたいわ」

声質と口調が女に戻ったのだった。

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