ロリカと一緒に次の街へ。
俺は次の街に行くことにしたが、予想外の話になった。
「ノブちゃん、わたしも一緒に行く」
「ロリカ、あんたがいないとこの街は上手くいかない。わがままはよしてくれ」
「兄貴、すでに呼び捨て、くっ」
ミツが悔しがる。呼べばいいじゃん。
アカツキが珍しく目を吊りあげている。
「ノブ様の言うとおりです。私のそばから離れるなんて殺生ですよ」
「あんたのわがままかい」
「私もロリカ様とともに旅立ちます」
「そうなると拙者の雇用契約はどうなるのだ? 拙者にもお供しろというのか?」
状況が複雑で、俺は頭を抱えたくなった。
「話を整理しよう。とりあえずミツは残る」
「はい。住民から人材を発掘し、適材適所の登用をしていきます。街の者たちだけで運営できる体制を整えます」
「その前提として、ロリカが象徴として必要なんだ」
刑務官の衣装を脱ぎ捨て、花柄のワンピースを着て、普通の女子になったロリカが微笑む。
「象徴はたまに顔を出せばいいだけでしょ。そのほうがありがたみが出るわ。別にわたしが残ってもやることないわよ。住民には屋敷にいることにすればいいし」
意外と正論だった。
「ならば私も」
「アカツキ元市長、あなたは残ってくれ」
「なぜえええ」
白髪のおっさんが倒れそうになる。
「一応、街運営を知っているし、執事としては最高だからさ。縁の下の力持ちとはあなたのことだ。住民を支えてやってほしい」
「アカツキさん、わたしに尽くしてくれたように、お願いします」
ロリカは言葉は優しいが、鞭を打つように眼光は鋭かった。
「確かに私は主役になれないが、主役の世話は得意です。住民が主役になれるよう、頑張らさせていただきます」
このおっさん、ロリカにさんざん躾けられてきたのだろう。
当然、烏丸も残る。
ミツが不満気だ。
「でもロリカ、さんが、行く意味がわかりませんよ」
残ってほしい想いが伝わってくる。手をとりあって街作りができる夢を抱いていたのだ。
ロリカが俺の顔を上目遣いで見やってくる。
「ノブちゃん一人じゃ心配だもの。ミッちゃんがいないと何もできないんでしょ。わたしがあなたのお世話をするわ」
「ミッちゃんって言われたあ」
相棒が一瞬だけふらつくが、踏ん張る。
「もとい、兄貴の世話って、そこ、くううう」
悔しがるミツだが、真剣な顔になった。
「兄貴も残ればいいのに。焦りすぎではないですか?」
「俺こそが伊達政宗かもしれないんだ。悠長に考えるわけにはいかないよ。極道最強の鷹上は尋常じゃなかった。あの次元と戦って勝たなきゃならない。半端じゃねえぞ。余裕なんてないんだ。強い奴と拳を交えて、鍛えていく」
「わかりました。僕たちの目標は揺るぎませんからね。こっちの目処がついたら、すぐに追いつきます」
ミツは納得してくれた。
ということで、俺はミツを置き、予想外にもロリカと旅を続けることになった。
「ノブちゃん、次はどこへ行くのかしら」
お淑やかバージョンのロリカが問うてくる。
乱世となった時代では、用心棒が重宝される。彼らは要人とともに移動するので、さまざまな情報を得られる立場にもある。そのため一種の情報屋の役割を果たす。
無論、要人警護に関わる情報は秘匿するが、積極的に出したい情報もある。
危険人物の存在だ。
「最近、知り合いの用心棒から聞いた名がある。全能探偵シャーラックだ」
「写楽?」
「それを転じさせてシャーロックに似せたみたいだ。写楽も偽名っぽいけど」
「悪い奴なの?」
「探偵なのに一つの街を牛耳った。宗教王アースが治める神ノ国の支配を免れている。神ノ国は覇権に近いと言われるほど大規模だからな。相当なもんだ」
「で、悪い奴なの?」
「悪逆だと聞く。神ノ国が手を焼く理由はそこにあるようだ。苛烈な報復に火傷が絶えず、攻めるに攻められないんだ」
「そこでノブちゃんの出番ね」
俺は力強く頷いた。
「その街をシャーラックから解放する」
ありがたいことに、ロリカがアカツキから軍資金をたんまりもらっている。なので道中、稼ぎの寄り道が必要ない。
俺たちは自動車で、シャーラックが牛耳る湖南街に向かった。
不穏なことが起こる。
「つけられているな」
車が襲撃に遭うのは、よくあることだ。
「この地域は神ノ国の影響が強いだろうから、むしろ強盗は少ないはずなんだが」
俺は自動車を加速させた。煽り運転のごとく追いかけてくる。
「ノブちゃん、どうするの?」
お淑やかモードのロリカが怯える。
「カーチェイスをするのは賢明じゃない」
「さすが」
「殴る」
「そっち」
俺が停止する判断をする前に、前方を横切る車が急ブレーキをかけ、塞いできた。
「敵意丸出しだな」
俺はまだ全然有名じゃないのに、狙われた。ならば監視役が至る建物の中にいて、余所者を見張っていたのだろう。
気をつけなければならないのは、狙撃だ。
真眼は動体視力だけではなく、一瞬だけ視力も高める。陰に隠れていなければ見抜ける。
瞬間視した結果、確かに双眼鏡で覗いている者たちがいた。しかし狙撃手は確認できなかった。減速させて狙い撃たせるわけではないようだ。
「ロリカは俺が守る」
「嬉しい、でも平気よ。わたしがビリビリやれば、銃弾すら逸らすことできるもん」
「そうだったな」
俺は停車し、ロリカを残して外に出た。
止まった後続車から、一人の男が降りてきた。太い帯を腰に巻いた、袴風の白い衣装を着用している。この姿は奴らしかいない。
「神ノ国の者たちだな」
凶器は手にしてないが、警戒する。
「手荒な止め方で申し訳ありません。ダオ・ノブ様ですね。私はネコスケと申します」
二つの癖毛が猫の耳に見え、吊り目にメガネをかけた、顎の細い男が尋ねてきた。
「なぜ、俺の名を知っている?」
「山賊四天王の一人、ジンジンを倒されましたから、有名でございます」
あれは極道の手柄になっているはず。俺は衝撃を受け、関心もする。神ノ国は広坂連合にスパイを送っているということだ。
まあ、そんな程度は当たり前なのだろう。
「で、俺に豪華な料理を食べさせ、別荘を提供にしに来たか?」
「我らは贅沢を禁じています。そんな余裕はありません」
真顔で真面目に返された。
「ですが、あなたをお迎えに参りました」
俺は警戒を解かないまま、問い返す。
「庭掃除でも押し付けるつもりか?」
「それは下っ端のやることです」
いちいち真面目に応えてくる。
「我々神ノ国は強い戦闘者をスカウトしております」
「ずいぶんと大規模な監視網に、俺は引っかかったわけだ。敵を監視しつつ、懐柔できそうな者はランキング化しているってところか。俺は何位に入っていたんだ?」
「内部情報を明かすことはできません」
「だろうな。それで俺の実力を直接、計らなくていいのか?」
「十分把握しております。それよりも不躾にならないよう、我らの信念をお伝えしたいと思います。聞いていただけますか?」
失礼な止め方をしたことには変わりない。突っぱねるところだが、俺は思慮を巡らす。大規模な組織を内部から乗っとってやれば、俺の覇業は容易になるのではないかと。
だが強い者ほど、そのような野望を抱くのは必然。彼らがそれを勘繰らないとは思えない。
ならば薬を使って眠らせ、洗脳システムによって人格を破壊し、戦闘者の能力だけを利用しようとする。
本気で信念のみで説得できるとする柔な組織だとは思えない。
神ノ国の極悪な噂は聞こえてこないが、情報封鎖が素晴らしく上手いと言えるのでないか。
本当に神ノ国が善良な組織であるなら、日本を任せればいいとなる。が、現代が宗教国家の時代なものか。
崩壊した乱世で、人の心が弱っている悲愴の中で、幅を利かせた団体なのだ。
疑う精神を持たない者は生きてはいけない。俺は警戒を続ける。
「話だけは聞いてやるよ。話だけはな。場所を移すこともしない」
ネコスケと名乗った男は頷いた。
「我々は」
言葉を遮るように、不穏な走行音が轟いてきた。自動車が爆走して、突っ込んでくる。
建物から狙撃音も聞こえてきた。暴走車両が蛇行する。
「なんだあ?」
突然の異変に、俺は身構える。
神ノ国の者たちが乗ってきた車に、暴走車両が衝突した。破壊音と共にガラス片が飛びちり、暴走車がフィギアスケートのごとく旋回する。
ネコスケが巻き込まれ、地面に転がった。
「どえらいことになったな!」




