13.勇者は、なんで魔族の男と友達になってんの?
地下深く、重たい空気が静かに漂う闇の中、
アイカとサクナは互いの息遣いを殺しながら、慎重に足を進めていた。
突然、その闇から一つの影が浮かび上がる。
鋭い獣のような目が、低く響く声とともに二人を捉えた。
タイガー「……お前が、アイカか?」
筋骨隆々の体を持ち、虎の縞模様の毛皮をまとう男が立ちはだかる。
彼の名はタイガー。牢屋の番人でありながら、どこか焦りを隠せない様子だった。
アイカは額に汗を流していた。
アイカ「お前は誰だ!」
隣に立つサクナもすかさず剣を構え、身を固める。
タイガーは慌てて首の後ろに手をやり、言葉を続けた。
タイガー「待て、戦う気はない……。お前のことは、ナギちゃんから聞いている。」
アイカは驚いた。
アイカ「ナギ……?」
アイカの目が大きく見開かれた。
タイガー「そうだ。ナギちゃんのところに案内してやる。――ついてこい。」
そう言うと、タイガーは背を向けて静かに歩き出した。
疑いのまなざしを向けつつも、アイカとサクナはその後を追う。
やがて、冷たく沈んだ牢の前にたどり着いた。
タイガーは鉄格子の鍵を器用に開ける。
そこに、ひっそりと、ナギがいた。
アイカは涙を流した。
アイカ「……ナギ!」
ナギも涙を流した。
ナギ「アイカ!!」
アイカは駆け寄り、ナギを強く抱きしめた。
再会の温もりが、アイカの目に涙をあふれさせる。
サクナは微笑んだ。
サクナ「よかったね。アイカ」
少し離れた場所で、タイガーは鼻をこすりながら呟いた。
タイガー「……さあ、逃げるんだ。」
タイガーは、牢の奥にある階段を指差し、急ぐように促す。
アイカはタイガーの方に向いた。
アイカ「ありがとう!そうだ。名前教えてくれるか?」
アイカはタイガーに手を向けて。
タイガー「ああ、俺の名前はタイガー。よろしく!」
タイガーはアイカの手を握りしめた。
アイカ「今日から俺達は友達だ。何かあったら相談してくれ」
タイガーは嬉しそうだった。
そして、アイカ達は階段を登り魔王城の玄関から外に出た。
だが、外に出たその刹那――
目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
魔王が、未来のアイカの心臓に腕を突き立てている。
その手は血に濡れ、燃え盛る瘴気が周囲に立ち上っていた。
魔王「……裏切ったのか、タイガー。」
魔王の声は凍てつくように冷たかった。
タイガー「ち、違います……! ナギちゃんは、ただ間違って捕らえられていただけです。解放しても、問題ないと思って……」
タイガーは言い訳じみた言葉を口にするが、魔王の怒りは止まらない。
その手に、眩い光が集まり始める。
魔王「滅べ」
アイカ「下がって……!」
アイカが咄嗟に前に出て、サクナとナギの前に立つ。
その瞬間、閃光が世界を焼き尽くす。
轟音がすべてを飲み込み、魔王城ごと空間が吹き飛んだ。
魔王「……あっ……」
光の中で魔王の声が消え、跡形もなくすべてが消え去った。
――――
ざぶん。
波の音が遠く、しかし確かに耳に届く。
アイカ「……ん……」
意識を取り戻したアイカは、砂浜に倒れていた。
濡れた服が体にまとわりつき、冷たい風が肌を撫でる。
遠くでは海鳥の鳴き声が響いている。
ゆっくりと身を起こし、辺りを見回した。
アイカ「ここは……どこだ……?」
アイカは混乱していた。
見知らぬ海辺にアイカはいた。




