12.魔王城侵入
荒れ果てた岩山の陰に、アイカとサクナは身を潜めていた。
目の前には、黒くそびえ立つ魔王城。その門が、軋むような音を立てて開く。
――そして、魔王が現れた。
全身を覆う黒い鎧、その隙間から漏れ出る瘴気。
その姿を見た瞬間、サクナは震え、声を漏らした。
サクナ「……うそでしょ。」
魔王の、あまりに醜く、あまりに絶望的な気配に、彼女は言葉を失う。
アイカも同じだった。ただ、震える手を必死に握りしめ、目を逸らさなかった。
だがそのとき、そこに現れたのは――未来のアイカだった。
魔王「貴様が……四天王たちを倒したのか?」
魔王の声は、岩をも砕くような重低音。
未来のアイカは一歩、前に進み出る。手には、炎を纏う剣。
アイカ「――ああ、そうだ!」
炎が剣を這い、音もなく揺らめく。
その姿は、まさに勇者の如き威厳に満ちていた。
魔王「なんだ、その剣は……?」
魔王が目を細める。
未来のアイカは笑った。どこか哀しげに、そして怒りを孕んだ笑みで。
未来のアイカ「笑わせるな。これは――
お前を“復活する前に”討ち果たした、勇者の剣だ!」
魔王の顔から表情が消えた。
魔王「……悪いな。俺は、復活するたびに“過去の記憶”を失うんだよ。」
アイカ「……あれは……!」
岩陰で様子を見ていた現在のアイカが、声を上げる。
アイカ「勇者の剣だ……!」
サクナ「えっ、どういうこと?」と、サクナが振り返る。
アイカ「元の世界に戻った勇者が、召喚されたときに持っていた剣……!」
次の瞬間、未来のアイカが叫びと共に斬撃を放つ。
炎の斬撃が空を裂き、魔王を襲う!
魔王は咄嗟にそれを避けるが、背後の魔王城の扉が焼き払われる。
魔王「貴様……ッ!」
魔王の目が、怒りに燃えた。
魔王「よくも俺の城を!」
魔王は吼えると、未来のアイカに飛びかかった。
その隙を見逃す二人ではない。アイカとサクナはすぐに岩陰から飛び出し、焼けた扉の中へと駆け込む。
アイカ「今だ……!」
城内に入り込むと同時に、サクナは床に剣を突き立てる。
ガキィィン――!
鋼鉄のような床が、軋みを上げて割れた。
アイカ「サクナ!」
アイカはサクナをお姫様抱っこし、床下へと飛び込む。
空気が一気に冷たくなる。
地下へと落ちていく中、アイカの胸に熱い何かがこみ上げた。
やがて、地面に足が着いた。
「……ジーンとする……」
サクナは静かにアイカの腕から降りた。
そして、剣を構えなおす。
サクナ「行くよ。」
アイカ「……お、おう……」
アイカは思わず涙目になるが、それでも力強く頷いた。