フィクサー
「あれれ〜もうやられちゃったのー?早いね〜もう少し期待してたんだけど…やっぱりダメだったか〜」
空に立っていたのは白い髪をした男性だった。
「誰よあんた…」
「うーん?あぁ。こうして会うのは初めてだったね。僕はキャリー。少しここを見に来ただけだよ。この子たちのこともね。」
口ぶりからしてアンフェニとアヴィニールの仲間だろう。しかし、ふたりは嫌そうな顔をしている。
「せっかく作ったのにこんなに簡単にやられるとは…想定外だったよ。それとなんだか面白そうな話をしてたよね?僕も混ぜてよ♪」
「あんたなんかに話す筋合いないわ!」
アヴィニールが言い放つ。
「え〜君ほんとに生意気だよね〜やっぱり少し調整しないと…」
キャリーはそう言って、指先を軽く鳴らした。
次の瞬間、空気が重く歪む。
見えない何かが、ぎゅっと身体を締め付けてくるような感覚。
「……っ!!」
アヴィニールの体が強張り、その場に膝をついた。
「アヴィ!!」
アンフェニが駆け寄ろうとするが、足が止まる。まるで見えない壁に阻まれているようだった。
「…おかしいな。なんで君は僕の魔法にかからないんだい?…あぁ。そういえば君は少し違ったね。ならそのままでいいや。役立たずの人形は要らないからね♪」
キャリーが言い終わると同時に、アヴィニールの体が宙に浮いた。そしてキャリーの元へ運ばれる。
彼女は必死に顔を上げ、キャリーを睨みつける。
「私は…あなたの言いなりになる気はない……!」
「うんうん、そう言うと思った。だから連れて帰るんだよ。」
キャリーは困ったように肩をすくめ、楽しそうに微笑んだ。
「ほら、君は真面目すぎるよ。自分で考えすぎる癖がある。」
「…それが、何…」
「扱いづらいんだよね〜いつもいつも、僕の邪魔をする。だから少し調整しないと♪」
抵抗も虚しく、アヴィニールは意識を失った。
「アヴィを離せ!!」
アンフェニの叫びが空に響く。
「連れていくな!!シェーラ様…!」
「言っておくけどシェーラは来ないよ。新しいオブリビオンの制作をしてもらってるからね。それにしても…シェーラは自分だけに忠実な下僕を作るなんて、ちゃっかりしてるな〜」
キャリーは楽しそうに言った。
「シェーラ様は俺たちを下僕だなんて思ってない!!」
「認めたくないんだ〜可哀想…でももうどうでもいいよ。この子さえ回収できればね。あ、それと彼に伝えたいことがあるんだよ。」
そう言い、キャリーはフレディを指さした。
「君、記憶を探してるんでしょ?あーあ。そんなに怖い顔しないでよ〜大丈夫。君が欲しくてたまらないものは、僕らが持ってるよ。だから、気が向いたらおいで。フレディくん。それじゃあね。次会う時はグラジオラス邸で。」
キャリーが指を鳴らすと、空間が裂けるように歪んだ。暗い裂け目の向こうへ、アヴィニールの体が引き寄せられていく。
「待て!!」
「まだ取り返そうとしてるの?無理しないで。君はここで観測者でいてよ。」
「返せよ…!」
「君もいつか使い道があれば、連れ戻すかもしれないし、それまでおとなしく待っときな。」
軽い調子の言葉を最後に、裂け目は閉じた。
そこには、静まり返った空間と、拳を握りしめたアンフェニだけが残された。
「くそ…あー!もう!!イライラする…!!」
歯を食いしばり、俯く。
その背中を、フレディたちは何も言わずに見ていた。空はいつの間にか晴れていたが、誰一人として、軽い気持ちで息をつける者はいない。
「あれ一体何だったんだよ。」
「アンフェニあの人は…」
「あいつは…キャリーは、創造主だ。」
「創造主…?」
ソフィアがアンフェニに聞き返す。
「オブリビオンも、全部あいつが作り出した。この世界を支配するために。」
「世界を支配するって、そんな壮大なことできるわけ?そもそもあんな訳のわからない奴に。」
「それができるのが、キャリーだ。オブリビオンはキャリーが世界に羽ばたくための手段に過ぎない。そのためにシェーラ様は協力させられてるんだ。」
アンフェニの声は低く、怒りが隠しきれていない。
「シェーラ様の魔法はすごいからキャリーはそれが欲しくて、そばに置いているんだと思う。キャリーはいつもあんな感じでケラケラ笑ってるんだよ。初めは強くてすごいし尊敬してた。でもいつか国を襲うようになってからついていけなくなった。」
アンフェニは不満そうに呟く。
あの軽い口調の裏に、そこまで歪んだ価値観があるとは、誰も想像していなかった。
「…アヴィニールは」
「あいつは何の容赦もしない。前にグラジオラス邸に間違えて、迷い込んだ人がいたんだ。その人はキャリーが実験台にして…それからだ。不信感が強くなったのは。このままじゃアヴィニールもあんな風にされちまう…」
誰もが、連れ去られる直前のアヴィニールの姿を思い出していた。
「弱いから奪われるんだ。やっぱり強くならなきゃいけない。」
アンフェニはずっと強さを追い求めているような動きをしていた。初めて会った時も、戦うことが好きだと彼は言っていた。
なぜそれほどまでに、戦いに執着するのかはわからない。
「アンフェニはどうしてそんなに強さを求めてるの?」
「…わからない。体が勝手にそうしちまうんだ。とにかくアヴィニールを助けに行かないと。協力してくれないか…あいつに勝つなんて俺1人じゃ絶対無理。だから…!それにフレディのことを待ってるんだよ!」
「俺?」
「キャリーはフレディの大切な情報をずっと握ってる。案内するからついて来てくれ!」
グラジオラス邸。彼がずっと目指してきた場所。あそこに行けば何かわかるかもしれない。この旅で探し求めてきた何かが。
「……わかってた。行くよ。」
「まぁ、そうなるわな〜」
「フレディならそう言うと思ってたよ。」
「困った人、助けずにいられないのがフレディだもんね。」
「仕方ないわね。私たちも行くとしましょう。」
「いいのか?キャリーってすごく強いんだぞ…!お願いした俺が言うのも変だけどさ!」
「うん。それでも。一緒に助けよう。アヴィニールも。この世界も。」
アンフェニは力強くうなずいた。
グラジオラス邸。旅で追い求めてきた何かを見つける時が来た。




