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喪失の地

砂混じりの風が頬を打った。視界の先には、崩れた城壁と、かつて城だったであろう瓦礫の山。ここが、タイガーアイ王国。


「…これが、跡地ってわけね。ずいぶんとまぁひどいことになってるわ。」

空気が重い。何もかもが止まったような静けさだった。鳥の声も、木々のざわめきも、ここではもう聞こえない。

この場所の時は止まったままだ。


(暖かい。ここに来たことはない。なのに、どうしてこんなに懐かしく感じるんだろう。)

理由はわからない。けれど、どこか懐かしい。まるで、ずっと前にもここに立ったことがあるような気分になる。


「フレディ、どうしたの?」

ソフィアが心配そうに覗き込む。

「…ううん、なんでもない。ただ…変な感じがするんだ。懐かしいような…そんな感じがする。」


風が吹くたび、崩れた街の残骸がざらりと音を立てた。そこに確かにあった生活の名残や焼けた看板、折れたランタン、そして壊れた噴水。

かつては、ここも周りの国と同じように栄えていたのだろう。


「ここって、フレディの故郷とかそういうなんじゃないのか?」


ヒュラドがそう問いかけた。


「なんで?」

「だって懐かしいんだろ?記憶失う前にこの辺にいて、体が無意識に覚えてるとか。」

「そんなことで?もうちょっと何か確証とかないわけ?」


グレースがそう口を挟んだ。

すると、ヒュラドは淡々と理由を口にし始めた。


「フレディの着てるその服。どっかで見たことあるなぁと思ってたんだよ。ここに来て、ピンときた。それ、タイガーアイ王国の騎士団の服だ。」

「なんでヒュラドとかそんなことを知ってるの?」

「伊達に捜査員やってないぜ?この国にも来たことあるんだよ。それで見たことあったんだ。」

(じゃあ俺はこの国出身だったってこと…?)


だとすれば、彼があの丘にいたことも納得できる。この胸が締め付けられるようななんとも言えない感情にも説明がつく。


「この辺ちょっと見てもいいかな。」


5人は崩れた街の中を歩き出した。

風が吹くたびに灰が舞い、肌に冷たく張りつく。誰もいないはずなのに焼け焦げた建物の隙間から、かすかに人の声が聞こえるようだ。


「…やっぱり、ここ、何かある。」「確かに。普通、廃墟がそのまま残ってるなんておかしいわ。」

ヒュラドが辺りを見回す。瓦礫の山、錆びた武器、風化した標章。どれも長い年月を感じさせた。タイガーアイ王国。かつて八国の中で最も広く、最も力を持っていた国。それが、一夜にして消えた。


「この国って炎に包まれてなくなったんだよね。」


ノアがそう呟いた。

この国を見た旅商人たちは、国が炎に包まれて、まるで昼間のように明るかった。そして、翌朝には跡形もなくなっていたと語っている。


「でも、そんな事ありえる?炎だけでここまでの国が滅ぶなんて…」

「確かにここ頑丈そうだし…」

人々の間では呪いの国とも呼ばれ、誰も近寄らなくなってしまった。風すらも、この地を避けて吹くように思える。


「オブリビオンの影響ってこと?」「…多分な。でも、どうしてこの国を最初に狙ったのかは謎だ。」確かに、この国は八国の中で人口が多かった国としても有名だ。人が多いところを狙うオブリビオンの習性からして、この場所に来るのは妥当だろう。

しかし、オパール王国やサファイア王国だって同じほどの人口がいた。そちらの国は狙われることはなかった。

なぜこの国だけで狙われたのか。それは未だにわかっていない。


「この辺り、まだ建物が形を残してるな。」

ヒュラドが指さした先には、半壊した大きな建物があった。石造りの壁の一部はまだ立っていて、瓦礫の下には崩れた看板が見える。煤けた文字を読み取ると騎士団訓練所と刻まれていた。


「…騎士団?」「フレディのいたとこじゃないの?」


フレディは、無意識に建物の中へと足を踏み入れた。焦げた床を踏むたびに、かすかに木片が割れる音が響く。壁際には折れた木剣や錆びた防具、そして黒く焼けた盾。どれも、かつてこの場所にあった強さの象徴だった。

左側に目をやると、そこには少し広めの空き地のような場所がある。


「…ここで、みんな稽古してたのかな。」「稽古?」「…なんとなく、そんな気がしただけ。」

少しの沈黙がその場に流れた。

しばらくして、ヒュラドの声が響いた。


「フレディ〜!こっちに来い!何か見つけたぞ!」


呼ばれて向かった先は、崩れた建物の奥。ほとんどの部屋が燃え落ちている中で、奇跡的に残っていた一室。


「書斎…?」

ソフィアが呟いた。

本棚は焼け崩れ、床一面が黒い灰で覆われている。その灰の中に、たった一冊、ほとんど無傷の本が落ちていた。


「奇跡的に燃え残ってる……」

ソフィアが本を拾い上げ、そっと表紙の汚れを払う。表紙には、かすれた金文字でこう刻まれていた。


『タイガーアイ王国 騎士団 記録書 第57巻』


ページをめくると、焦げた紙の隙間から、かろうじて読める文字が現れる。


ソ××ス:××ム・シ××レ×


「…フレディ?」

グレースが声をかけた。

フレディはその場に立ち尽くし、動けなかった。視界がかすみ、胸の奥から何かが溢れそうになる。


「…リアム…」


彼の中で、遠い記憶の扉が、かすかに開かれた。


(俺は知っている。この名前を。それに……ソキウス。)


一部が汚れてしまっており見えないが、間違えないだろう。これは夢の中で出会う彼が言っていた言葉だ。思い出せそうなのに思い出せない。なにか大切なことを忘れてる。覚えていなくちゃいけないことを。

彼がそんなことを思っていると、外の方で大きな物音が聞こえた。


「この音って…まさか…」

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