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幕の降りた街

フレディたちはスピネル王国に向かっていた。先日助けた女性がスピネル王国出身で、両親が危険な目にあっているから見てきて欲しいと頼まれたからだ。

オブリビオンを倒すためにもスピネル王国に向かう予定だったので、引き受けることにした。


「こっちだね。」

「スピネル王国ってやっぱり綺麗ね。そういえばソフィア、妹さんに会わなくていいの?」

「リリィに会うとなると両親にも会わなくちゃいけなくなりそうで…迷ってるの。」

「会えるうちに会っといた方がいいぜ。人はいつ会えなくなるか分からないんだから。」


スピネル王国に入ると、以前なら明るく賑やかな通りが、どこか沈んだ空気に包まれていた。屋根や建物の一部は壊れ、窓には板が打ち付けられている。人々の表情も険しく、かつての笑顔は影を潜めていた。


「遅かった…」


街は既に荒らされていて、オブリビオンの気配はなかった。


「それにしても…酷いわね。」


最近のオブリビオンは攻撃のパターンが多くなってきており、初めのような単純な動きのものはほとんどいない。


「ここも、かなりの被害が出てるな〜そりゃ雰囲気も悪くなるわ。」


あまりにも酷い被害で誰もなんとも言えない。

街角では、人々が瓦礫を片付け、家屋を修理している。けれど、どこか諦めたような動きで、重い足取りが目立つ。小さな子どもたちは遊ぶ声もなく、親の後ろに隠れるようにして歩いている。

オブリビオンの襲撃の爪痕は至る所に残っていた。酷いところは壁や街灯に焦げ跡がついていて、割れた瓦礫の山が通りの隅に積まれている。

風に乗って漂う煙の匂いが、街全体に不穏な空気を漂わせていた。

(この人たちのこと助けたいな。)

平和だった日常が、こんなにも容易く壊されてしまったのだ。

少し前まではあんなにも活気の溢れた場所だったのに、今となっては、その面影すらない。

そんな時だった。


「お姉ちゃん?やっぱりお姉ちゃんだ!」


声をかけてきたのはソフィアの妹、リリィだった。


「リリィ…?」

「お姉ちゃん、よかった。無事だったんだね。」

「うん。リリィは?」

「私は大丈夫だよ。」


そう言うリリィの表情はかなり暗かった。


「今、みんな大変なんだ。」「みんな疲れた顔してるね…」


ソフィアが小さく呟く。いつもは明るいリリィがこんなにも暗いのだ。普通ではない。


「リリィ、お母さんたちは…」

「お母さんたちは大丈夫。今のところはね。でも、お父さんはお仕事が大変みたいで…」


こんな状況じゃ、どこもかしこも大変だろう。


「そっか…リリィ、何があったの?元気がないけど…」

「……私の友達がね、記憶を奪われちゃって…」

「友達って…」「うん…劇団のみんな…」

リリィは少し目を伏せ、声を落とす。かつての仲間たちが、ただの人形のように無表情になってしまった。リリィはそのことがショックなのだ。

瓦礫や焼け焦げた建物の影に、かつての笑い声はもうなく、代わりに重い沈黙が街を覆っていた。街全体が、オブリビオンの爪痕による悲しみと諦めでどんよりとした雰囲気になっている。


「本当はね、今日も劇の練習だったの。でも、こんな状況だから、しばらくは練習がないって。記憶を奪われた子がいる以上練習はできないって…」

「そっか…それで、リリィは…1人で…」

リリィは少し肩をすくめて答える。


「うん…でも、諦めたくないの。劇団のみんなが元気になるように、私にできることをしたいんだ。」

その瞳には、悲しみだけでなく、まだ消えていない希望の光がわずかに残っていた。

「私たちもあなたと同じ気持ち。大切な人たちを救いたい。だから手伝うわ。一緒に頑張りましょう。」


グレースがリリィに声をかけた。


「…ありがとう…お姉ちゃんたちがいてくれてよかった…」

リリィは小さく微笑もうとする。普段の元気さはまだ戻らないが、その表情にはほんのわずかな温かさが宿っていた。

「オブリビオンが怖くても、街のみんなを守るのは俺たちの役目だから。」

「そうだね。少しでも元気になってもらわないと。」

ノアも頷きながら、周囲を見渡す。瓦礫の隙間にちらほら見える、かつての街の面影を目にして、胸が締め付けられる思いだった。


「リリィ、無理はしないで。わたしたちがいるからね。」

ソフィアの言葉にリリィは小さく頷いた。少しだけ、安心したように見える。

「みんなの笑顔を取り戻す。」

フレディは力強く言い放った。

「俺たちが、街のみんなを…世界を守るから。」


リリィは微かに笑みを返す。

「うん!お姉ちゃんたちなら、きっとできるね…!」


そうして、幕の降りた街の中で、少しずつ光が差し込むように、希望が芽生え始めた。


「私、これからちょっと用事があるの。だから行くね。みんながんばってね!」


リリィは大きく手を振りながら去っていった。


「じゃあ、善は急げだな。早く行こうぜ。あの人から頼まれたこともやらないとだし。」


ここに来たのは助けた女性の両親が危険な目にあっているから見てきてほしいと頼まれたからだ。その人の両親を探さなくてはいけない。


「えっと…確かこの辺に住んでるって…」

「ほんとに地図の見方あってるの?私が見た方が早いんじゃないからしら?」

「失礼だな!合ってるよ!」


街の端の方。小さな一軒家。


「あの、すいません。」


声をかけると、ご老人が出てきた。


「どうしましたかな?わしたちは今片付けで忙しくてね。」

「忙しい時にすいません。あなたの娘さんに言われてここに来ました。」

「娘…ブルースのことか。」

「はい。実は…」


事情を説明すると、ご老人は少し寂しそうな顔をしていた。


「なるほど…ありがとうね。来てくれたのがお前さんたちでよかった。実は婆さんがオブリビオンに記憶を奪われてしまってね…ブルースの記憶がなくなってしまったじゃ…きっとあの子が聞いたら悲しむからね。娘には手紙を書くよ。だからお前さんたちは行ってくれ。ありがとうね。」


そう言うと、おじさんは悲しそうに去っていった。


「こんなところでも被害が出てるんだ…」


身近な大切な記憶が抜けて、どんどんなくなる。これ以上に悲しいことがあるだろうか。


「早く行こう。また誰かの大切が奪われる前に。」


フレディたちは足を進めた。次の目的地はエメラルド王国だ。

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