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真人の庵にて②有翼人の帝国


真人マドカの話は続く…


後に悪神と呼ばれた上位存在は、最初から悪神と呼ばれる様な存在では無かった。


哀れな…虐げられし、住処を追われた部族を守護し導いた、心優しき上位存在であったのだ。


やがて、その部族は人も増え、国を持つに至り…


だが人が増えればかつての苦しみを忘れ、欲望のままに教えを曲解し、力有る者に取って都合の良い解釈をする者も出て来るのが人の世である。


既に肉体を失い精神体と化していた神人は、長らく守護してきた民達の変貌ぶりに心を痛めた。


勿論その神人も目を掛けていた民族に警告のメッセージを送ってはいたのだが…


彼の言葉を聞き取れない神官や権力者達は、光輝く思念体を見て、唯一絶対の神が我が民族を祝福してくれている。


としか受け取らなかった。


それは長く地上に留まり過ぎた為に神気を帯びたキラキラと輝く霊素が少しづつ…ほんの僅かづつ…拡散を始めていただけなのだが、それを神の祝福と捉えたのだ。


上位者は肉体を失って後は、冥界に下り、その先で神魂を目指し修行せねばならない、ましてや魂を霊体に縛り付けておくなどあってはならない。


上位者の神霊を傷付ける事が出来る者はこの世に存在しない、普通の霊体や悪霊なら微弱な霊力や呪力の波動で拡散してしまうのだが…


上位者の神霊を崩壊させる事が出来る事象は、集合無意識…認知から除外される事、人に忘れられる事と、時と言う世界に設定されたシステムのみ。


そして残念な事に…民達の中に権力を持つ者の中には、霊性の高い者や霊能力を持つ者は少なく、それも精神体となった神人とコンタクトを取れる様な高い能力を持つ者は、ごく僅かだった。


更にはそう言った精神体となった神格者とコンタクトを取れる者は、地位の高くない権力の中心から外れた者達ばかり。


影響力を持たない小市民や、下級の神官が権力者達に何を言った所で嘘、虚言を疑われ誰も取り合う者は居ない。


ただ唯一絶対の神に愛されし民、その選民思想だけが肥大して行った。


時は流れ、精神体となった神人の忠告から数百年で国は分裂する。


西大陸の西方はいつしか強大な有翼人を中心とした霊性の高い種族が君臨する、帝国に支配される様になっていた。


悪神が導いた、その民族の大部分は離散したが、民族の宗教の下地は広く拡散され、その民族も、当の悪神も預かり知らぬ所で勝手に信仰し、祈りを捧げる者は密かに増加していた。


精神体となり徐々に元の記憶は薄れるが、民の信仰と祈り、中には邪悪な願望も有りはしたが、祈りと信仰の力で聖霊として現世に存在し続けた。


だが数多の他民族からの密かな祈りで、その有り様は…霊体と言う剥き出しの精神は、徐々に変質して行った。


再び時は流れ、有翼人の支配を受ける民族の中から一代の傑物が誕生する。


彼は生まれながらに高い精神性を兼ね備え、物心付いた時には家族の元を離れ東方に旅立った、


それは東方に遡る事五百年前に生まれた神人の教えを学ぶ為に…


この神人の哲学は、東方の各地域マドカ達アシハラの地にも多大な影響を及ぼし…


上位存在へ進化する者が相当に増えたらしい。


学びを終えて故郷に戻った男は各地を渡り歩き、その教えは徐々に広まる。


ベースは彼の民族の教えであったが、それに東方で学んだ哲学を加味し、その哲学の内容は多岐に渡るが、その後の歴史に影響する重要な教えを一つ挙げるならば…生きとし生けるものは創造主の愛に依って誕生して来る…それを彼の民族の神に置き換え、いや…彼はただ幼い頃からの教えを信じていただけなのだろう、唯一神の愛し子で有る。…と…


その教えが広まった結果、彼は古来からの選民思想に支配されている民族の王に、その当時は帝国の一地方貴族になってしまってはいたが、自分の王に裏切られた。


属国の王の訴えを聞いた有翼人の帝国は、その男を張り付けにして処刑するに至った。


彼の魂は死に直面した時に進化を果たし、敢え無く命は落としてしまったが魂は並行世界を駆け巡り、別の世界で更に高次元の世界で神人として魂を磨く旅を続けているのだと言う。


そう…彼の名前だけが一人歩きし、やがては唯一神と同一視される様にさえなり。


神の子と唯一絶対の神は、生きとし生けるものを全て公平に愛する。


その二つの新たな概念が既に古い記憶を失いつつあった神人の精神体を繋ぎ止め、広がり、更に信徒を増やし、その祈りは更に悪神を変質させて行った。


処刑された聖者は悪神を父と呼んだ、悪神は彼の弟子達にその男の父として、信徒達の父として、幻視を授ける、彼らが望む形の幻視を…


やがてその教えは有翼人の帝国すらも支配し、いや…有翼人の支配者層によって更なる支配に利用されたと言うべきか?


この頃になると記憶も元々の意思すらも忘れ去り、信仰する大多数の人々に逆に植え付けられた概念で動く、巨大な力を持った規格外の精神体として君臨していた。


これが悪神の正体であり、その自我を失った巨大な聖霊を唯一絶対の神とし、世界宗教の始まりとなった。


彼は彼を信仰する人々に、高位の神官や、後に滅んだ後も皮肉にも世界宗教に於いては後に、天使と呼ばれる事になる有翼人の支配者達に力を授けた。


これが後に神聖魔法と呼ばれる法術の始まりで有る、人々の信仰の力は無尽蔵に集まり、教団の権威有る者達は、一つの信仰による公平な世界を目指して強力無比な神聖魔法を使い、人々を癒し信仰を集め、或いはその力を異端者に直接振るい、世界を支配し、席巻した、全てを等しく愛する、真の神の教えを世界に広める為に。


教団の支配の手は帝国が滅び、別の権力者達の時代になると西方諸国のみならず…


南大陸…更に西方…マドカの住む東方の島国から見れば、東の大陸にまで及んだ。


神聖魔法で魔界を焼き浄化し、他民族の土地を支配し…教えを広める。


だが…権力者達に取ってはそれは建前でしか無かった。


また…唯一神に逆らう者達を支配し教化し、出来なければ、異端者として処刑もした。


公平な世界を作る筈が、結局そうはならなかったと云う事だ。


そして、何故か新たな魔界が増え続けた。


悪神に逆らう者達も密かに反抗しなかったわけでは無い。


魔法…或いは魔術…故郷を追われ古い神人の力を変質させ、無理矢理に力で四大元素の精霊を支配し、それを行使する事で、あらゆる精霊達の恨みを買う事になった邪法を指す。


その怒りは精霊界の更に奥、存在し得ない筈の異質な次元の扉を開くに至る。


結果…


魔術師と呼ばれる者の中には異次元の集合知性体、悪魔と繋がる者が出始めた。


それと同時に新たに魔界と化す地域が増え始め、邪鬼も増え続けた。


だが魔法を使う者がやがて黒き魂に落ちる、とは言ってもその増え方は異常なレベルだった。


世界宗教は魔法を禁止し、魔法使いを捕らえ、裁判に掛けた。


だが…魔界と邪鬼が増え続けるのは、魔法だけが原因では無かったのだのだ。


全てを唯一神の力で浄化している筈なのに…何故だろうか?


邪鬼とは一般的には小鬼や大鬼の事を指すが、本来の意味は黒き魂を持つ人外の者の総称で有る。


生きながら我欲のまま、或いは大罪を犯し続けた魂を黒くさせた現人や獣人、生きながら魂を黒く染めてしまった人間、これを魔人と呼ぶ、見た目からでは見分けが付かず、殆どの場合は本人に自覚症状は無い、権力者や富を蓄え他人に分け与える事を知らぬ者、或いは無力に居直り恵まれた者に…世に怨嗟を飛ばす者、欲望のままに生き他者から奪う事しか知らぬ者…そんな人間は生きながら邪鬼と化すのだ。


また黒き魂は霊性が低く元々魂を持つに至らない、進化の途中に有る亜人や瘴気に触れて変質した魔獣の肉体に転生する様になり…


隙の有る生命体が乗っ取られ始めた結果、新たな邪鬼の種族が誕生する。


魔人であれ他の邪鬼であれ邪鬼が集まる場所には瘴気が呼び寄せられる。


世界には人の住めない土地と新たな邪悪な魂と、知性を持つ生物で溢れた。


かつての虐げられた民を憐れみ目を掛け守った神人は…


信仰する者の願いを叶え身に合わぬ力を、無制限に授ける悪神と化した。


世界に平和は訪れず…


信仰する者達の格差も埋まらず広がるばかり。


だがかつての心優しい神人の精神体は、力が巨大になり過ぎてそれにすら気付かない。


特権階級に生まれた者達の願いは、悪神を信仰する選ばれた民が子々孫々まで繁栄する事であった。


そして意図的に多くの信徒に隠された転生の概念で、特権階級は孫や子孫に転生する事が約束されたのである。


他の下々の民には清貧や純潔…貞操…貞淑…神の忠実な下僕で有る事、死後の後は楽園で過ごす事が出来る、だから生きている間は欲を抑え、ただひたすら神に祈りを捧げるべし…と


…転生を否定し、あらゆる綺麗事を教義に課し、教団や権力者達は一般の信徒達に来世での天国を約束し、悪神に対して信仰を、祈りの力を、思念のエネルギーを捧げ続けさせた。


天国とは教団の理念が支配する世界の事で有る…結果そうなった。


つまりは、他と何も変わらない似たような歴史を辿る並行世界。


精神性や霊性、魂を磨き神人に進化し、更に奢らずに魂を磨かねば上の世界へは辿り着けないと言うのに…


実はそれすらも終わりでは無いのだが、人々はそんな永遠の修行よりも…平和…安息と言う名の怠惰に満ちた楽園を求め悪神に祈るのだ。


そして転生の秘法を継続的に使用した特権階級の者達や、その恩恵を受ける権益利得者の末路は…


いや…権力者達だけでは無い、選民思想と異教の者達への迫害を正当化する、歪んだ教義により、信徒達の魂も堕落の一途を辿った。


全く上手い統治の仕方である、共通の敵を作り上げ、それらを敢えて迫害させ、差別される弱者を作り上げ、民衆の不満を緩和し目を逸らせせる。


人々を同じ思想信仰の下にまとめ上げ、祈りの力を吸い上げ支配する。


真面目で熱心な神を疑わぬ、疑問を抱かぬ、信徒である程にその魂の劣化は大きく進んだ。


独善的な、歪んだ正義感故に…


絶対神の力を利用した、魂の拘束を受けながら…


魂が同じ世界に何度も転生し、最初から恵まれた人生を与えられたら、人はどうなるのか?


数回の転生で魂は腐り黒く染まり、人として生まれる事は出来なくなる。


それの繰り返しで邪鬼は増えて行ったのだろう。


一つの世界で起こった大きな出来事は形を変えて同じ条件の平行世界、或いは下層の世界で起こり、それは更にあらゆる並行世界に波及する。


そして世界に違いは有れど、下位の世界の生命は…隆盛する知性体は多様では無い。


高い霊性を持つ生命達は存在するものの、その中で魂を持つに至り、中でも世界を動かせる知性を持つ種は一種に限定される。


獣人、例えば犬人のみが文明を発展させ霊性を進化させ魂を得る世界…


現人のみが文明を発展させる世界も同様…


下の次元に行けば行く程に生命は多様では無くなる。


下の世界で魂を黒く染め上げたら当然転生出来る種や肉体など無い。


元々魂のみで有れば一つの世界には縛られない、時を超え世界の壁を超え、新たな世界で魂の修行をするのだから。


そして黒き魂が転生先を求めて集まったのが最も多様な生命が存在するアシハラなどが有る上位世界となり。


何度死のうと邪鬼として、新たに産まれてくる、上位存在が意志を持って破壊しない限りは。


不浄で邪悪であれ肉体は肉体…


新しい肉体に宿り続ける限り魂は不滅で有る、肉体…そして霊体はただの魂の入れ物では無い。


独自の志向性や自我を持ち…魂を守る殻でも有る、三位一体でそれぞれが統合され、一つの人格を形成する。


低位の邪鬼達、特に小鬼達のサイクルは早い、元々のベースとなった亜人、小人達がそう言った存在であったからだ。


彼らは魂こそ得るには至らなかったが小、さな身体にはそれなりの知性と霊性が宿り。


勝手気ままで悪戯好きではあったが、愛情や友情を受ければそれを相手にも返す…


それなりの、進化の途上に有る、現人の下位種の様な存在であったのだが…


黒き魂で肉体は変容し、その霊は黒き魂にエネルギーを与えるべく瘴気を集め、歪に変化して行った。


そんな…下の次元にも…ましてや昇華して上の高次元には転生する事も出来ない黒き魂は…


この多様な生命が存在する上位世界に集まる事になった。


他の次元に転生出来ない黒き魂はこの位階の並列世界を巡り、何度も邪悪な存在として転生する事となった。


光輝く神魂と黒き魂は下の世界では肉体を得る事は叶わないのだ。


下の分断した世界では神霊と悪霊などの精神体のみが、それぞれ神界と魔界、地獄と言う目に見えぬ世界に存在が許されるのみ、肉体は構成出来ず、魂はどちらも存在出来ないのだ。


 ◆ ◆ ◆


「つまり一見チートに見える才能や能力を持っている様に見える者も転生を繰り返して、辛い人生の中で獲得してきた、魂に蓄積されてきた経験を無意識のうちに利用してるだけさ、逆に生まれながら恵まれた環境にいる者の中には、全員では無いにしろ転生の秘法を使って特権階級に転生している者が教団の信徒にいたんだよ…」


「ずるい奴がいたモンだなぁ」


「大戦の終結…悪神の残滓が消滅するまではね…悪神が倒れたのは大戦の初期だったけど…巨大な思念体だからね…分裂して神聖魔法は使えなくなったけど転生の秘法は初期の特権階級…霊性の高い有翼人が悪神の力を利用して作り上げたシステムだからね…稼働し続けた…過去の神格者達の抵抗によって徐々に力は失って…そのシステムが完全に消滅したのが新生歴ゼロ年ってわけだ…邪鬼は爆増しちゃって未だに大変では有るけどさ…」


「チート?聞き慣れない言葉だなぁ…意味は何となく分かるけど…」


「ん?そうかい?僕が下の世界で現人や獣人へ転生を繰り返してた頃の世界の一つでは結構一般的でみんな使ってたけどなぁ…そんな記憶が有るんだけど…俺強とかチート…チーターとか…悪役令嬢とか流行ってた気がする…時代とか、世界によっても少しづつ違うから君等の世界にその言葉があったかどうかは分からないけど…」


「へぇ〜知らん…響きはオタクっぽいけど…全く分からん……宅八郎大先生しか知らん…それにしても凄い話だな…俺等の世界とも色々符合する…」


皆どこかで聞いた様な話にハッとする瞬間も有りつつ…この世界の歩んで来た歴史の話にゴクリとツバを飲み込む。


「有翼人…天使…俺が思うに…俺達の世界に伝わる天使のイメージは有翼人が元になってるのかも知れないですね…魂の記憶の残滓とか…誰かが勝手に創作した物では無いかも知れませんよ…鈴本さんと正人はどう思う?」


「どうかな?西洋の絵画の中にはUFOらしき描写も有るからなぁ…俺達の世界で有れば、星神とも有る程度関係してるんだと思うけど…分からないな」


「神聖魔法…カッコいい響きなのに…使える人はもういないんですか?有翼人は本当に絶滅してしまったんですか?」


皆の茶碗にお茶を注ぎながらマドカが涼夏の疑問に答える。


「いやぁ大戦の初期に悪神が消滅した後は使えなくなったね、神聖魔法の在り方を転用した言霊の術は有るけどね、僕も一応使えるよ…黒い魂の元の人間の事は知るすべは無いけど…本人達も覚えて無いだろうし、このアシハラでは谷の妖女って呼ばれてる邪鬼達の魂が元々は有翼人だったんじゃ無いかって言われてるよ…羽根もあるし親和性も有るよね?使う邪言も他の邪鬼達より高度な物が多いって言われててね…人であった頃は巨大な帝国を築き、男女共に非常に美しかったって…皆、魂を腐らせて種族ごと絶滅したと伝えられてる。生き残りは居ないと思うよ…千年くらい前、帝国の崩壊と一緒に終わった、彼女ら、見た目が女性型なだけだけどね、アレ等が酷い匂いを好むのは魂が腐ってるからだって逸話も有る。匂いを感知する機能が低いってのが一般的では有るけどね…」


美咲が目を謎マークにしながら尋ねる。


「ねぇ…邪鬼、小鬼達は割と最近現れたんでしょ?なんで千年だが八百年前だが昔の日本…私達の地元に現れたの?あっちには転生出来ないんでしょ?何で?あの森、あの場所から来たの?なら昔から居たの?わかんないんだけど…」


マドカは少し難しい顔をしながら、いや、少し微妙な顔で質問に答える。


帰還に関する事も含めて…


「最近って事は無いよ、千数百年くらい前から少しづつ増えては居たけど、今みたいに多くは無かった。それに…生存出来ない事も無い、死んだらあっちには転生出来ないってだけの話でさ、魂は転生出来る世界に戻るだろうがね、生きて居れば徐々に向こうの生物に近付いて生命を維持するんだろうし、まぁ…僕にも詳しくは分からない」


「ふぅ〜ん…神様でも分からないのかぁ…」


「いや…だから神様じゃ…魂だけならあらゆる時間、過去、未来、魂のレベルに合った並行世界に移動出来る。時間は世界毎の設定でしか無い、下の世界では殆どの場合西暦だと思うんだけど、この世界では新生暦今は282年…君等の暦に合わせると…西暦…2294年…少しズレるかも知れない、大戦が終わったのが、君等の暦だと…2012年だね…それと帰還に付いてだけど…」


少し口籠り…先を続ける。


「言霊を使えば、相当に練度は必要で…その代償も必要にはなるけど、世界を繋げる穴は開く事は出来るかも知れない…でも…」


「2012って…俺達のいた時代から30年近く先じゃ無いか!しかもここは更に未来だってのか?!でも…って…何が有るんだ…戻れないのか?おい…だったら何で俺達はこっちに突然移動してきたんだ!アンタが呼んだのか?!それとも彼奴等かっ!」


「おいおい兄弟…僕を責められても困るぜ?他責思考は魂を汚す一因になるぞ?恐らくは土地の因果だと思うよ?何処か別の並行世界であの場所に時空の裂け目が出来た事で同じ事が起きたんじゃ無いかなぁ…?別の世界の君達が同じ様に移動してしまった事が有るのか、それとも全く別の状況であの森に穴が空いたのか…並行世界で起こった事象は形は違っても近い事が起こるんだよ、そして他所の世界から来た人間が元の世界に帰れたって話は魂の記憶を探ってみても出て来ない、大体は現地に帰化して結婚しただとか、環境が合わずに亡くなったとか…いつの間にか消えていたって話も有るから帰れる可能性は有る。時間はズレる可能性も有るけど、それも不確かな話でしか無い、僕らは故意に世界間の法則を無視して時空の裂け目を作る事はしないからね」


帰れない可能性が有ると言う話に美咲が動揺する。


「そんな…パパとママにはもう…会えないの?…もうアタシなんか…人殺しと同じだけど…でもこんなのって……うぅっ〜〜ひぅ…ぐす…」


「美咲ちゃん…パパママ呼びだったんだね…可愛い…違う!…泣かないで!俺頑張るから!頑張って帰れる方法探すから!俺達で…なっ!正人!」


鼻を啜りながら静かな泣き声を美咲が漏らし始め、英二が拳を握りしめて正人に同意を求める。


「お、応!勿論!もう一度あの森に戻って…時空の穴を開けるんだ!なあ!鈴本さん!」


涼夏にも声を掛ける。


「うーん……私は…別に帰れなくても良いです…えっと帰りたく無いとかじゃ無くて、確かに帰れると思ってたから帰るつもりでは居ましたけど、あっちに戻る理由考えたら、あんまり無いんですよね、昔からここじゃ無い何処かに憧れていて、外国とかは面白そうではあるのですけどね、でもやっぱり海外に行っても見た目が違うだけの人間でしょ?外国の建物とかってちょっとカッコイイなぁって思うくらいで、向こうの世界なんて、超能力とかあっても精々スプーン曲げるくらいしか出来ないじゃ無いですか?理由も知っちゃったし、最大限出来てあの程度じゃ…向こうにいた時はあんなのにもドキドキしてたんですよね…」


「おい…鈴本さん…まさか…マドカさんに惚れたからここに残りたいってコトなのかぁ?…ったくよぉ…コレだから恋愛耐性の無いオタク女子は…」


だが手を振り否定する。


「あ、勿論…凄い力…言霊に憧れてる部分も有るけど、好きなアニメキャラに似てるんで、それだけです。……それと恋愛云々の事で彼女いない歴✕年齢のオタクの正人君に言われたく有りません!……だから、ここじゃ無い何処かに来れたんです、帰る理由?有ります?それに向こうに行ってもしょっちゅう家族から電話があって…やれどこそこの誰々は誰と婚約した見合いした…だとか、アパートに見合いの写真送って来たり…元々大学に行くのすら反対されてたんです、高校時代もいつも将来の話ばかりされて、唯一の息抜きは田園地帯の真ん中に有る鎮守の森で、漫画や小説を読むくらいで…でも…こっちに来てすぐに!森の木々とお話が出来たんですよ?!何も無い筈の私に!凄く無いですか?だからこの力を伸ばして…言霊…声法を学んで【大戦の後始末】のお手伝いが出来たらなっ…て」


涼夏の心変わりに内心悲鳴を上げ…マドカに助けを求める。


「おい!ちょっ…今迄の話聞いただろう?なぁ!マドカさんも言ってやってくれよ…例えつまらなくても…自分の生まれた世界に転生したって事はさぁ!戻って…その…魂が辿るべき道を進まなきゃ…って事だよなぁ!!!」


だが…【真人】マドカノミコトから返って来たのは意外な返答であった。



ペコリ…m(_ _)m

あらゆる事象は自分の行動の結果発生する、良い事も悪い事も…これをめぐりと呼ぶ…らしいよ?知らんけど…

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