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閑話〜ダオ〜黒き魂の記憶



「俺にこんな物を食わせるつもりかっ!」


子供を産めなくなって久しいボロを纏った現人の奴隷に、油で揚げた黒虫が入った木皿を投げつける。


「もう良い!酒だ!酒を持ってこい!役立たずが…解体して食料にするにもこれではな、食うところさえ無い…クソが…」


数年前に近隣の街から攫ってきた遊び女のなれの果て、数人子供を産ませたが、今はもう孕む事も無くなった。


かつては肉感的で男好きのする容姿ではあったろうが、今は骨と皮ばかりの憐れな姿に成り果てた。


勿論もう少し若いメス奴隷もいるが、失策続きの今、例え実力的に比肩する個体がおらずとも、族長の権限で下の者から共用の奴隷を取り上げれば反乱を誘発しかねない。


今は我慢するしか無いだろう…


現人の奴隷は恐れを滲ませながらも、精神支配も長くなればそれは慢性的な無気力、感情の喪失にも繋がる。


無表情にうっそりと頭を垂れて、皿の中に黒虫の素揚げを掻き集めて下がって行った。


暫くして奴隷は再び姿を見せ濁った赤い汁の入った木彫りのカップを石台の上に置いてすぐに下がって行く。


感情が乏しいとはいえ、また主に更に激昂され、ムチでも食らったらたまったものでは無い、そう思ったのかも知れない。


森の奥に住む魔猿、猿の魔獣の住処に、部族の戦力とするべく乗り込んだ時に、奴らが住処とする場所の木の洞の中で偶然見つけた物だった。


猿の魔獣故に他の魔獣に比べれば霊性も高く、知性もそれなりに高い方ではあるが、まさか酒を造れるとは思っても居なかった。


早速何匹が邪言で精神支配し、今ではそれなりの量を生産出来る様になってもいた。


獣人や現人が作る物に比べれば稚拙で雑味も多い代物だが、魂を持たぬ魔獣が作った物にしては珍しい事ではあるし中々味わい深い代物だ。……と


ついこの前まで思っていた。


だが…先日出くわした変わった格好の現人、奴等を目にしてからどうにも奇妙な気持ちが湧き上がる。


取り逃がした上に右腕を失うと云う大失態を犯したのは致命的だったが、まさか【真人】と繋がっていたとは思いも寄らなかった。


【真人】は現人の上位種だとは知っているが、親世代の者に聞いた話だと【現人】の社会には積極的に関わらず求められたら助言をする、或いは苦言を呈するのみで何が有ろうと自分達からは関わらない奇妙な存在だと聞いている。


力が有るのに傍観するのみとは…変わった種族もいたものだとダオは思う。


その証拠に、いくら現人や獣人のメスを攫おうが、街や集落を襲撃しようが奴等が来る気配は無い。


小鬼や大鬼の世界で有れば、上位種は下位の部族を隷属させる権利が有る、但し、隷属させた氏族を有る程度守る義務も発生する。


真人の身体能力は現人より高いが小鬼の上位種大鬼には比べるべくも無い、だが連中が使う言霊の法は威力が現人のそれとは桁違いで更には他の神通力を駆使して大鬼を凌駕する力を発揮する場合も有るとも聞く


今やこの近辺に大鬼は存在しない…全て【真人】達に狩り尽くされてしまった


奴らが言う大戦の後始末らしい


大戦とは何の事かはダオには分からない…親世代…前の族長ヒョウガも知らなかった所を見ればそれ以前の事なのだろう


一人岩屋の中で魔猿の醸した酒を啜る。


…が…


不味い、腐った果物の汁にほんのり酒精が混じった程度の代物。


「クソっ!なんだコレは!俺は何故こんな物を美味いと思って飲んで居たのか?!俺が飲む物と言えば…そう本番のスコッチ…マッカラン…そうだ日本から取り寄せた十二年物の…アレもアジア人が作った割りには…………?……なんだ……この記憶は…うっ!頭が…くそ…思い出せん…本場のスコッチ?日本?アジア人?なんだ…それは…」


あの妙な格好の現人と出くわしてから、妙に胸がザワ付き不可解な記憶が…


(俺は何だ?あのさっき奴隷に突き返した黒虫の素揚げ、アレも好物だった筈、違う…あんなモノは、昆虫食など愚民達に食わせておけば良い、俺は…支配者は奴隷と同じ物は食わない、投資で成功して、世界会議の招待状も、DCのホテルを出た所で、あの伸び放題の白髪混じりの金髪…惨めな初老のルーザーに…負け犬如きが…なんだ?…世界会議?投資?DCとは?一体何の事だ…だが…そう俺は神に選ばれし選民…話が違う…うぅ…分からん…だが…)


「わからん…だが、確かな事は、ここは俺に相応しい居場所では無い、相応しい世界では無い、だから向こうに帰らねば、俺の物を取り戻さねば、向こうが何かは分からんが…あの場所、狩の休憩所…あそこに何か…その為には…」


記憶は断片的で、最後に見たのは震えながら怯えた青い瞳で筒の様な武器を構える金髪の初老の男、稀に見かける海の外から来たと言う現人に似た特徴を持っている。


(…いや…髪色は違うが、自分もそんな容姿だった様な…分からない…)


殆どは何の事だか分からない、ならば、知ってそうな者に聞けば良い、或いは向こう側に移動する方法を。


ダオは岩屋の外に出ると、新しい右腕を呼びつける。


外で火を囲み、攫って来た他種族のメスに酒を注がせバカ騒ぎしている者のウチの一匹を呼び付ける。


「クズ!岩屋に来い!」


新しい右腕、特殊な技能は無く【鍛冶師】ルグロには比べるべくも無いが狡猾で、他の愚民共に比べれば多少は目端が利く


岩屋の中に入って来たクズはダルそうに口を開く。


「族長お呼びで?俺りゃあ…これからあの奴隷と…」


「それは帰ってからにしろ、お前には谷の妖女の所に使いに行って貰う、そうだな…奴が好きな光り物…手土産にこの前手に入れた。金の髪飾り、あの赤い石が入った奴だ、アレを持って行け、取引が好きなメスだからな、俺が…赤い森のダオが会いたいと言ってると」


「うへぇ…族長あんなのがお好みで?確かに良い身体と綺麗な顔はしてますがねぇ…あの汚い羽根とあの臭いは…」


「バカ!奴の使う邪言と知識に用が有るんだ!百年は生きてるだろうしな、黒い魂と別の世界の話が聞きたいと、その辺もちゃんと伝えろ!右腕に取り立ててやったんだそのぐらいは働け!」


クズは不満そうな顔で宝部屋に走って行った。


(万が一情報が得られなくとも…百年以上生きた奴を食えば…俺も次の段階に進化出来るかも知れない、炎の蛇の術で羽を焼き、地面に落としてしまえば…他の者は兎も角、俺は負けないだろう…)


進化して他の部族をまとめればより情報を集めやすくなる。


謎の記憶の情報も、他の世界の事もいずれ分かるに違いない。


「俺は神に選ばれし支配者…俺に相応しい場所が有る筈なんだ…」


岩谷の中に黒い小鬼の呟きが静かに響く。



金が金を呼ぶ様な仕事は全て無くなってしまうのざぞ?

某神示より

m(_ _)m


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