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異世界転移④波打つ大地



大地が震え、地面が波打つ。


そう…波打った。


硬く踏み固められている筈の地面が海面の如く…


その後バリバリと地面に亀裂が入り、隆起した地面が美咲の身体を転がす様にゴロゴロと正人の元へ引き寄せる。


上手く想像は出来ず、予想とは違ったが、ベルトコンベアーの様に、だが霧男の提案した運び方よりも、こちらの方が美咲の身体への負担は少ないだろう。


不意に、急激な疲労感で膝が震える。


(うっ!……これがちゃんと詳細な想像を練れなかった代償って奴か…思ってたより体力を削られる気がする、違うな、この疲労感は精神力って奴か?相当持ってかれちまった感じがする、座りこみたくなる疲れだな…)


地震が収まり、慌てて我を忘れていた子鬼達…霧男の言う所の邪鬼達が騒ぎ出す。


正人を指さし鎧の子鬼が、周囲を取り囲む他の子鬼達へも、わけの分からない言葉で怒鳴り散らし、正人を指差す。


言葉は分からないが言っている事は何と無く理解出来る、その何らかの指示に周囲を取り囲む小鬼達が殺気立つ。


それぞれに武器を構えて数人づづの小隊に分かれ、総員で殺到するのでは無く、分隊ごとに突撃して様子を見るらしい、見た目に似合わず組織だっており、集団戦が得意らしい。


先程まで隆起してボコボコとした地面は、ビデオの巻き戻しの如く、何事も無かった様に元に戻っている。


(事象に干渉して現実を変化させる術、祈りの結果で願いが果たされれば元の状態に戻るってコトなのか?、それとも俺の気力と体力が持たないから?元に戻ったのか?分からない、大きな壁を創造したとして維持出来るのか?!でも…やるしか無い、出来るだけコンパクトに全員を守れる大きさで…)


『地霊よっ!…………』



◆ ◆ ◆




邪悪で己の欲望を優先する種族では有るが、馬鹿では無い、小狡い奸智を持つ。


小柄だが一匹一匹の戦闘力は人間の戦士と然程変わりは無く、その跳躍力を生かした高所からの一撃を喰らえば大の男でも昏倒する場合が有る。


邪鬼達はあらゆる精霊に嫌悪される原因となる、『黒い魂』を持つが為に、言霊の法はやその他の霊術は使えない。


だが一部の上位個体や大型の近縁種は、祈りや願望を具現化する言霊の代わりに、欲望と支配の術【邪言】を使い聖霊や他の種族を強制的に支配し操る術を使う個体もいる。


彼の右腕【鍛冶師】の実力は微塵も疑っていない。


彼は命令通りに言霊使いを処分した。


…だが…


腹立たしいのは怯えるばかりで何も出来ないと高を括っていた長髪のオスが、突如言霊を使用して、満身創痍で死にかけのメスの言霊使いを【鍛冶師】の目の前から奪って行った。


しかも広範囲の大地を揺らすほどに強力な言霊使い、見抜けなかった悔しさと腹立たしさで配下の者達を怒鳴り付けて、次なる命令を叫ぶ。


もう良い、警戒しつつ小隊に別れ皆殺しにして全員を食料に変えろ…と。


何故この現人達が狩場の休憩所にいたのかは知らない。

 

僻地に住む現人達は、享楽的で身勝手な者が多く、亜人達や一部の知性が高い魔獣の集落に比べても、町に忍び込んて女を攫うのは容易い。


一人や二人程度は人が消えても誰も気にしないからだが、何故なのかは分からない、それでも警備の者は言霊を使う者が居る、見つかればただでは済まない。


夜中に現人や獣人の集落を襲う手間が省けた、運が良いと喜んでいたのに。


下級の戦士とはいえ部族の者を六匹失い、しかも自分自身も相手の実力を見誤る大失態、今の処は部族の中で自分に比肩する実力者は居ないとは言え…


攫ってきた他種族のメスに産ませた子供は一年もすれば直ぐに成長し戦列に加わる、中には己の様に上位個体として進化を果たす者が現れるかも知れない。


子供は邪鬼として産まれて来るが中には母親の形質を一部受け継いで生まれた【鍛冶師】の様な進化せずとも強力な個体も存在する。


身体能力の一点だけ上げれば進化した自分とほぼ遜色が無い。


彼の嗜好が道具を作る事では無く、支配欲であったら殺していたかも知れない。


だからそんな子供が部族に産まれて来る前に、己の立場を確固としたものにしなければならない。


それには的確な、疑いようの無い指揮力、支配者としての実力を示し、部族の者達の欲望を出来る限り満たしてやらねばなるまい。


今回の事は部下達に、族長のの失態と捉えられるかも知れない。


失態が続けば彼の先代族長の様に、彼がそうした様に殺され立場を奪われる事になる、力が有るから邪言を使えるから、それだけでは欲望に忠実で好戦的な邪鬼の群れは統率出来ないのだ。



 ◆ ◆ ◆



小鬼の狩りの休憩場と呼ばれる森の広場の中央には…


小さな半径二メートル前後の土饅頭の様な、ドーム型の物体が出来上がっている。


最初は警戒して一小隊だけで棍棒や石斧を叩き付けて居たのだが、今や全員で土のドームに向かって叩き付け土壁を削ろうと躍起になっているが…


硬い土壁には鈍器を叩き付ける鈍い音が響くのみで、一向に削れる気配が無い。


いや…良く観察する者が居れば時間を追うごとに、数センチづづドームが縮小して行っている事に気付く者も居たかも知れない。


一番注意深い族長は大木に背中を預け、腕組みをしながら土のドームを睨みつけている。


遠すぎて気付いていない。


業を煮やした鎧の子鬼が雑兵を押し退けて命令を下す。


「ケッ!チレ!ワガダ!」


(どけ!散れ!俺がやる!)


命令を聞いた小鬼達がドームから距離を空ける。


鎧の小鬼は鉄兜を脱いで、拳に固定すると、筋肉を盛り上がらせ力を込めて土のドームに兜を打ち付ける。


ほんの少し土のドームが小さくなるのが分かった。


鎧の小鬼はニンマリと笑みを浮かべる。


確信したのだ、続ければやがて打ち壊せる、恐らくは前の族長と同じく力を消費して何かを作り出す術の類だろう。


前の族長は青白い特殊個体で度重なる判断ミスを繰り返し、今の族長、彼の相棒にその地位を追われ殺された。


勿論ただ殺されわけでは無い、反乱を起こした多くの兄弟達が族長に氷の彫像に変えられた。


或いは氷の槍で身体を貫かれその生を終えた。


放出して外部に致命的な影響を及ぼすタイプの強力な術師ではあったが…


だが…言霊にしろ邪言にしろ使えば体力と精神力をすり減らす。


それに、今の族長の術とは相性が悪かった。


他者の強化を得意とし、道具や武器に炎の罠を宿し、そしてもう一つ、炎に擬似的な生命にも似た指向性を与える術。


今の族長の炎の力で氷の術を遮断し術が使えなくなった所で、【鍛冶師】のナイフが首を落とした。


そう…打ち続ければいずれは中の術者、黒髪の男は疲弊し土壁は消え失せる。


【鍛冶師】は散らせた小鬼達に再度命令を下す。


ひたすら打ち続けろ…と



◆ ◆ ◆



土のドームに怪我人を抱えて立て籠もる正人にしてみれば、ドカッ!ドカッ!と壁が打ち付けられる度に生きた心地がしない。


土壁の防御を信じて居ないわけでは無い、この壁は確かに小鬼達の攻撃を遮断している。


だが…鈍器を撃ち付けられる度に気力と体力が抜けるのを感じ恐怖が込み上げる。


(怖ぇぇ…もし体力が尽きたら、このまま気を失ってしまったら、壁が消えたら…うぅっ!考えるな!心を無にしろ!壁を維持する事に意識を集中しろ!あの人が助けに来るまで…)


真っ暗闇のドームの中、血を流し気絶している英二と恐怖に耐えられず、意識を閉ざしてしまった涼夏。


そして辛うじて意識は有る様だが力を使い果たし、うめき声だけで意志の疎通が出来ない美咲。


己の気力を奮い立たせる為、そして迫りくる恐怖を紛らわせる為に美咲に話し掛ける。


「美咲ちゃん一人で戦わせてごめん、こんな事になるなんて、今まで素っ気ない態度や、嫌味な態度取って、頭に来る事もあっただろう?、でもまさか美咲ちゃんに、ヤンキーに守られる日が来るなんてな、あ…ごめん元ヤンか…俺…中学ん時に友達と原宿遊びに行ってさ、そんで不良に絡まれてカツアゲされた事あってさぁ、泣きながら歩いて品川の家まで帰って…」


「……………あ………ぅ……」


「美咲ちゃんはソイツらと全然違うのにさ、俺って奴はステレオタイプで人判断してさ、なんか冷たく当たっちゃって、本当にごめん、美咲ちゃんは明るくて元気で、彼氏の為に手料理作るとかさ、凄えぇ良い奴なのにな、それが俺と同じ童貞仲間だと思ってた英二の彼女とかさ、んで割と可愛いもんだから余計になんか複雑で、本当にごめん、今はこの土壁で出来る限り守るから…もうすぐ…助けが来るから、もうすぐ……」


暗闇には、人の本心をさらけ出させる何かが有るのか…?


暗闇の中で何かがキラリと光るが、それが何かかは正人には分からないし、それどころでは無い。


美咲の目から一筋の涙が零れる、それは正人の本心に涙したのか?それとも過去の自分の悪行への後悔の涙だったろうか?


暫く静かになった後、大きな音がした後に再びドスドスと土壁を殴る音がドーム内に響く。


音が鳴る度に意識が遠のく、だが気力を振り絞りそれに耐える、正人が昏倒したら…恐らくは土壁は瞬時に消え、元の地面に戻ってしまうだろう、その後に待つのは…


(いつまで…続くんだ…もう…限界だ意識が……分かる…少しづつ狭くなってる…空気も…穴開けて作れば良かった。詳細に想像する余裕も無かったか…ハハッ…英二…鈴本さん美咲ちゃんごめん…俺…もう…)


そして、意識を手放す瞬間、小鬼達が、土壁を叩く音が消えた。



 ◆ ◆ ◆



「風よ♪黒き魂を持つ者を跳ね除けよ♪」


いつからそこに居たのか?


赤いマントを羽織った長髪の男が土のドームのてっぺんに立ち、歌うように、囁く様に言葉に力を込め言い放つ。


ドームに群がった十数匹の邪鬼が突然巻き起こった突風により数メートルも弾け飛ぶ。


ただ一匹を除いて。


鎧の小鬼が突然現れた現人のオスに驚きながらも…恫喝する、族長の右腕としての実力も度胸も有る、族長の邪言が有れば言霊使いとて恐れる必要も無い。


「ゲンジン…コイツラノナカマカ?…ブゾクノモノヤラレタ…オマエモコロス…コトダマイツカワツカエナクナル…」


その言葉を鍛冶師が言い終わる頃に丁度、乱入者の足元のドームがフッと掻き消える。


そこには正人達四人の若者が意識を失い倒れている。


乱入者は鎧の子鬼を無視して地面に降り、正人を見つめながら呟く。


「流石♪僕の兄弟!やれば出来るじゃ無いか!良く頑張った!後は僕が引き受けよう」


無視された事に怒気を露わにする【鍛冶師】…


「ゲンジン!オレヲ無視スルノカ?!オレハ…」


「ああ〜別に無視はしてないよ?ちょっと兄弟をねぎらってやりたかっただけさ、それに名乗らずとも知っている、ヒョウガを殺して族長の地位を奪ったダオの右腕ルグロだろ?」


突然名前を言い当てられ動揺する。


「ナッ!ゲンジンガナゼ……」



「そりゃあ…知ってるさ魔界の深部、瘴気に溢れたこの地を監視するのが僕の仕事だもの、それにさぁ、現人でも無いぜ?一応これでも上位種でね、種族は【真人】なんだよ、あ…知らないか?この近辺から動いて無いんだろうし、君は鍛冶にしか興味が無いんだったっけ?」


真人とは何であろうか?確かに他の現人や獣人達とは違う気がする、頭の周囲に光が差して見える。


【鍛冶師】は一瞬動揺した様だが、すぐにふてぶてしい態度に戻り、飛ばされたまま何故か起き上がらない部族の者達を怒鳴り付ける。


「フン…シラン…オマエラ!!!イツマデノビテイル!コイツヒトリ!イッセイ二…」


「無駄だよ、風に痺れ薬を撒いておいた、そうそう立ち上がれ無いだろうさ、君は…耐性でも有るのか?それとも身体が大きい分利き難いだけなのか?母親の特性でも引き継いだか?興味深い?もしかしたら改心の引き金になるかも、正常な輪廻の輪に戻せる?浄化で滅ぼさ無くても…」


大柄な小鬼は少し焦り、背後にいるであろう、族長に向けて怒鳴る。


「クソッ!ダオ!リーダー!オレ二チカラヲ!………」


だが…先程まで族長が居た場所には、誰もいない大木の葉がただ魔界の風にそよぐのみ。


「彼は…真人の知識を持っていたみたいだね、僕と目が合った瞬間に森の奥に走って行ってしまったよ、所詮は邪鬼、黒く穢れた魂は燃やし尽くし浄化し霊素に戻して草花からやり直しさせるしか無いのか、どちらにせよ、下の世界や上の世界では転生出来ないし、君の魂を受け入れる肉体は無い」


「ナニヲイッテ…ダオガ……ウ…ウゴケ…ナ」


「身体が大きかっただけか、兆しでも有ればと思ったんだけれど、やっぱり黒き魂に落ちてしまえば二度と輪廻の輪には戻れないのか?仕方無い、大戦の残滓、悪神の置き土産…か」


動けなくなった【鍛冶師】の額に指を当て謳う。


「我が心の内なる浄化の炎よ♪邪鬼の肉体と霊体♪魂を燃やし尽くせ♪せめて…苦痛無く逝くと良い…憐れな人の魂よ…いつか再び魂として形を成し昇華せん事を…」


鎧の小鬼の身体が白く光り輝き、鍛冶師】ルグロの肉体と霊体、魂までもが焼き尽くされる。鎧や具足だけが一切の焦げ跡を残さずにその場に綺麗なまま転がりガシャンと音を立て転がり落ちる。


「さて、黒き魂と言えど全部燃やし尽くすのは心が痛む、もしかしたら改心してかつての輝きを取り戻す事も有るかも知れない、どちらにしろ今は火急の治療も有る、何か問題を起こすまでは静観しようか?」


今や美咲も完全に意識を失っている。


「近くの街に…いや、来世は邪鬼や妖女に転生してもおかしく無い連中ばかり、少し遠いけれど僕の庵で治療するのが安全かな?兄弟にも、色々と教育してあげないと……ね…この世界の事を…」



マントの男は再び謳う、風の精霊を頼り歌う。


一陣の風が森の葉を揺らすと…


そこに四人の学生と男の姿は無く、十数匹の子鬼が動けずに転がっているだけになった。




手直し完了☆m(_ _)m

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