冥府への旅路⑦魔人との対話
「それで、夜太郎を消滅させた術…一瞬で闘技場の瘴気を浄化した術…あれば何なんだ?そもそも焔の巫女とは?そんな噂を聞いた事はあったが…上位者共は何を考えている?!いや…そもそもお前達は冒険者じゃ無いのか?樹海に行く理由は?!古代遺物の探索や希少鉱物の採集かと思っていたが……どうやら違うみたいだな…何をしに行くつもりなんだ?」
ここは…闘技場では無い。
豪華な調度品や古の遺物がガラス棚に並び、足元には毛足の長い絨毯、天井には透明度の高い希少晶石をふんだんに使ったシャンデリア…
真ん中にはそれ相応の応接テーブルにふかふかのソファーに腰掛け、半ば身を乗り出し…その言葉には警戒と怯え…そしてほんの少しの…何故か希望らしきものが見え隠れする。
その対面に座るのは赤毛の女と…その女の両側に待機し、肩と腕を拘束する筋骨隆々とした二名の狐人の男。
「…屈強な男性二名に押さえつけられたままでは、会話したくても、そんな気分にはならないんだが…そろそろ警戒を解いてくれないか?か弱い女にあまりな仕打ちだと思わないかい?流星街の盟主殿」
「ふん…何がか弱い女だ…警備の者を五人以上叩きのめしておいて良く言う、苦労して取り押さえたんだ。焔の巫女と言うのは術だけで無く近接戦闘も得意なのか?上位者共の隠し玉と言う事か?その…厄介な力で魔界を浄化しに来たと言う事なのか?これだから道理を知らぬ西洋人は…噂では巫女とやらは大陸に向かう者が多いと聞いた事はあったが…お前等の目的を全て吐け、金髪と異世界人の娘…丘の上にいた二人も拘束させて貰った。それと円谷正人…仲間達の命は僕が握っている事を忘れない様に…」
魔人に堕ちた高夜に取っては瘴気の無い場所では生活も困難になる。
また旧時代の世界最古の国と呼ばれる大八島国の古い権力機構の一部であった狐麻里一族からしてみれば、陰と陽、光と闇、昼と夜…世界に絶対不可欠な二つの要素を無視して、全てを白く塗りつぶそうとした世界宗教と光のみを尊び、結果世界を魔界で覆う羽目になった西方独自の独善的な思想に反感もあるのだろう。
知性を備えた人類が居れば、必ず瘴気と魔界は発生して然るべきなのだ、それを自然に逆らい欲得ずくで土地を得るために無理に消そうとした結果…世界の法則が乱れ魔界に覆われる羽目になった。
バランスが崩れた結果本来は魔界のみで、知性と黒き魂を持ちながらも基本的には野性的に欲望のままに生きる地獄の生物であった筈の邪鬼の中に、次元の狭間の悪魔に侵食される存在が出始め、アシハラの外の大陸では今や広かった魔界の中で邪鬼の軍隊を抱え、原始的な国家を運営する魔王種さえ出始めた。
新たな地球の盟主の如く…
だが…それは今現在一般的に流布されるその知識は、下位の真人や他のアシハラの一般の者ならある程度は知っている情報でしか無い。
【神人】の娘たるアイラは全てを知っているわけでは無いにしろ、更に上位の視点の見解も理解はしてなくとも知識としては持っている。
ジョーイや正人達には言わないし、理解も得られないだろうが、古い権力機構の秩序の犠牲となってしまった狐麻里一族の者になら、伝わらなくとも伝えなくてはならない…少なくともアイラはそう感じている。
元々は正人を助ける為に、…いやそもそもは、正人が戦ってる姿をどうしても見たい欲望に駆られ、こっそりと盗み見ていて…まさかの正人の危機に傍観出来ずに勝手に身体が動いてしまった結果では有る。
それでも、これは因果の計らいの様な物なのかも知れない、世の中には偶然など無いのだから…
せめて伝えられる事は伝えるべきだろう。
「はぁ…仕方無いな、このまま話すしか無いか…全ての巫女が近接戦闘が得意な理由では無いよ、殆どの場合は術師タイプかな?私の場合は育ったのが西大陸の極東文化圏でね、徒手格闘、拳法が盛んで…今解放された区域では退廃を極めた全時代末期の文化の中で失われた古き良き時代の伝統を広めよう…って運動が盛んでさ、その影響でこうなったのかも知れないな、それにあまり西方人と蔑んでくれるな、確かに髪と瞳は母親譲りだが、私の父のルーツは東大陸の先住民なのだよ?そう責めてくれるな。それに…」
前時代末期西大陸極東に存在した国は、当時世界の三大国の一つとされていた。
三大国とは、先ず東大陸の銃の国、銃の国は悪神の残滓【自由】の影響が強かった国であり、他の三大国の二つは西大陸に存在し、そのどちらもが、【平等】の影響を受けた国となる。
最初に悪神の残滓が落ちたのは西大陸北部の広大な領土を含む冬の共和国、それからその残滓は東進し、西方人の国や当時西方に負けじと力を付けていた大八島国を含む覇権を狙う国々が進出してボロボロになっていた西大陸極東にあった帝国に…より歪んだ形で浸透するに至った。
細分化し、より中途半端に歪んでいたが故に【平等】の残滓は酷い影響を与えたのだとも言える。
【支配】の残滓も一部受け継いでいた冬の共和国は、強さに従う国民性でもあり、トップが弱腰になった時代に、経済的に衰退し崩壊し、名称を変え表向き自由主義の国へと生まれ替わったが、極東人民共和国はそうはならなかった。
歪みを内包した平等は、歪んだ平等思想を一部残したまま自由主義経済を取り込み…暴走した。
それまで清貧を貫いていた国民のモラルは地の底まで下落し、押さえつけられていた国民の欲望は自由主義経済の元に暴走し、世界を巻き込み…魔界は増加した。
終末末期には最も魔界化が深刻な土地であったかも知れない。
経済力を手にした極東共和国の民は、自国政府のプロパガンダ世界で尊敬される最高の国家…と言う幻想を信じ、世界の各国で横暴に振る舞い、自分さえ良ければ良いのだと、周辺国の水源地や物件を買い漁った。
当時の大八島国の土地や水源地も…かつて西方列強に混じって利権を漁った八島に対してはより…国が主導していたプロバガンダの影響も有り…より極東人民共和国の人間は横暴に振る舞っていたかも知れない。
その結果、大八島国の内部でも右と左に分かれ、軋轢が発生し、世界で最も魔界化の進行が遅いとされていた大八島すらも徐々に魔界化に拍車が掛かる事になったのだ。
その最中での【大崩壊】であった。
そう…だから狐麻里の者は西方人以上に旧極東人民共和国の人間を嫌う者は多い。
つまり、アイラの出身地が気に食わない。
例え今現在は国など欠片も残っていなくとも、魔人に…生きながら邪鬼に堕ちた者はそう言った現在の自分と関係も無い事に固執しネガティブな感情から離れる事が出来ない。
そしてかつての共同人民共和国の国民同様に被害者意識を捨て去る事も出来ず、さも当然であるかの如く報復とばかりに横暴に振る舞うのだ。
色街の奴隷商館や、危険な樹海に探索に行かされ、死のうが生きようが知った事では無いと酷使される異国にルーツを持つ奴隷達を見れば一目瞭然だろう。
「あの地の文化を復活させてるだって?!ふん侵略者共め…!余計な事を…それに東大陸の先住民を父に持つからだって?!関係無い!どちらも侵略者には変わりない!」
(あっ!しまった父母から旧時代の大八島の歴史に関してはある程度の事は聞いていたのに…狐麻里一族は旧大八島の統治システムを維持していた権力機構がその役目から【解放】された事を知らないまま…今もそれに縛られているって事なのだろうか?…旧統治者達も今は代替わりして普通にアシハラの伝統的な祭祀を取り仕切るだけになっちゃってるし…狐麻里一族の事を覚えているかどうかも怪しい…ならここはそれとなく…)
「狐麻里の事は良く知らないが…つまりはシステムの手足として長きに渡って働いて来た一族だったんだろう?私は…私の父は元を辿れば日流女家に辿り着くし、私の母のルーツを辿れば月雄家に辿り着く…世界中の汎ゆる真人や神人が…全てでは無いにしろこの大八島にルーツを持つんだ。二百年前かな?覚醒する前の父は幼い頃…大崩壊の前に親に手を引かれこの地に家を買い移住して来た。覚醒したのは大崩壊の最中だったと聞いたが…その時に全てを知ったらしいよ?つまりは…え〜と…まぁ…凄く大きな捉え方をすれば君と私は同じシステムの中の…凄く遠くなっちゃうけど同士…だと言えないかな?」
「二百年前…本当に上位者の娘なんだな………月雄と日流女は八皇家の中でも祭祀担当で一度も歴史上で大皇の地位に着くものを輩出した事が無い…かつては表にいる同族同様に、狐麻里が仕える主だった。……確かに異国人の姿のお前からその名が出るとは少し不思議な気もするな…旧世界の国際政治上でもそこに言及する政治家も国際機関も無い…余程歴史好きな観光客でも無い限りは外国人には言及もされない家だった…だが真の支配者…大八島のバランスを維持する真の主だった。…良いだろう話を聞いてやる。拘束は解かんからそのまま話すが良い。」
「拘束は解いてほしかったな…まぁ良いか、正人と仲間達に何かされない限りは私は貴方の敵にはならない…それにこの話を貴方に、狐麻里に伝える事も今は義務だと感じている。一部は私の考察も混じっては居るんだが…では…私が父母から聞いた話に拠れば……」
◆ ◆ ◆
旧大屋島国…民主的な政府が有り選挙で選ばれた政治家達が政治を行っていた…とされていたがそれは全く違う。
裏側ではそれ以前の封建時代の盟主達、海華星家を始めとする八皇家、所謂皇族連盟が時には表に出て意見を表明し、或いは裏から時の権力者を操り、時として狐麻里一族の様な暗部の手足を使い、日に影に暗躍していた。
表向きは国民の尊敬を集める旧皇族として…裏では【聖域の守護者】或いは【楽園の管理人】として魔界化の進行を抑えていたのだ、来たるべき新時代に備えて…
表の歴史では千数百年前の【八島の乱】から八つの国々が大八島の覇権を争う【大統一時代】に入ったとされているが…それは違う。
八皇家のいずれもが他の島の皇家に滅ぼされる事が無い戦争などあり得るのか?
【八島の乱】の末期には下らない戦争を悔いて融和的に代が変わる時に持ち回りで大皇家を決める…等と言う形態になる…そんな制度を取ってる国などこの世界の何処にも無い。
世界広しといえども他の地域国ではまずあり得ない現象と歴史で有る。
四千年の歴史とやらを誇る隣国、西大陸極東地域では何度も国が滅び、その都度支配する一族は代わり滅ぼされたり、処刑されたりの繰り返しであった。
『ウチの国も戦争はありましたが、かろうじて悲惨な結果にはなりませんでした。他よりも少し運が良い国何ですよ…』
それはつまり…外国向けの作られた歴史で有る。
八皇家の下の武家は権力闘争で紛争になる事もあったが、所詮は地域紛争の域を出ない。
…実際には起こってすらいなかった大乱、世間に喧伝されている大乱【八島の乱】は作り話でしか無いのだ。
恐らくは、外国に不信がられない為の。
大八島の八皇家は…大八島国は古くから上位者と繋がりが深い国であった。
表向きにバラバラであっても、それは別の役目を仰せ使った…一つの組織であった。
それぞれの皇家の滅びの時期…【役目を終える時期】も遥か昔から予言されていた。
八皇家とはつまり、【アシハラを作る為の…そこに至る為のシステム】であったと言う事で有る。
世界は必要な段階を踏まねば進化を果たせない。
血を流し争い、自省し、経験を積まねばそこには辿り着けない。
一足飛びにより良い世界にはならない、そこに至るには多くの人々の【成長】が必要なのだ。
イデオロギーで人々を扇動した所で魂の成長には繋がらない、魂の成長とはより多くの経験があってこそそこに到れるのだ。
神人レベルの上位者に取っては生命の生き死になどは単なる形態の変化でしか無い、重要なのは個々の魂の成長と…世界の最終的な姿で有る。
汎ゆる平行世界の地球の最後に至るべき姿…その時の人々の精神性の在り方とは一体どのような物になるのだろうか?
アイラにしても10代になったばかりの少女時代に聞いた話で有り、自分の考察で補足している部分は多い、神ならぬ現人では知りようも理解も出来ない段階で有る事は間違いない。
ただ父親から聞いた話で、あまりにも迂遠で壮大で何か…気の遠くなる様な薄ら寒い感覚を覚えた。
この世界の汎ゆる神話の系譜は何処か似通っている、何故なのか?
全ては一つの神話から時を超え派生と変化を繰り返した結果で有るのだと言う。
その中で…もしかしたら父親の氏神シウテクトリ、母の氏神ブリキッドは実在する形の有る神霊に、元の形から派生し分霊として時を超え人々の認知を加味し進化していったのかも知れないと…父は覚醒の瞬間その祖霊シウテクトリの記憶を受け継ぎ…その時より元の名前を捨てシウテクトリとなった。
アシハラ…かつての大八島は公称で二千七百年の歴史を持つ世界最古の国家とされて来たらしいが、アイラの父の見た覚醒時の幻視ではそれは違っていたらしい。
その大八島の権力体制を実質支配…或いは操っていた月雄家と日流女家の歴史は国家の成立以上に歴史が古い。
全ての始まりは東太洋に浮かぶ巨大な大陸に端を発する。
元初の星神達によって数多の人類が創造されごく少数の家系を残し滅びて行った。
今ある世界は今の形では無く、何度も海の中に沈みまた浮き出る事を繰り返し、原初の人類…大型獣人や獣人達はその都度移動を繰り返した。
約十万年ほど前に最初の星神達は最後の人類を創造した。
それが今のアシハラ人…いや現人の原型で有る。
最後の人類は他の人類や獣人と混血し、今や原初の現人は存在しない。
乱れて魔界を作り出す知性体を見て星神は霊性と精神性の高いいくつかの現人種を作り出したが、最も成功した種は霊性と精神性が高すぎるが故に魂を獲得するスピードは速かったが、生殖願望が低くすぐに滅びの危機に瀕することになった。
そう…だから星神達は作り出した個別の現人種同士や他の種族…獣人や既に滅び掛けた種と成功した霊性の高い現人と交配させる事にした。
今現在世界に居る小型獣人の見た目が殆ど現人と変わらないのはその為で有る。
大型獣人は精神性と霊性はバランス良く伸びたが、手先が不器用で、脳の発達が遅く種の全体的な知性が追いつかなかった為、星神からはプロトタイプと見なされ、後の時代に有翼人が解放するまで他の種族に奴隷化される要因ともなった。
その東大洋にあった大陸の文明は隆盛を極めたが、他の現人種や獣人達との争いに巻き込まれ、時を経て海中に没した。
東大洋に有る幾つかの島々は、ほんの少しの文明の痕跡だけが残り、人々は誰も住まなくなり、ここに他の人類が移住して来るのはそれから氷河期になって以降の事だった。
霊性と精神性が高い現人の種族は絶滅してしまったのか?
いや…かつての大陸の北の果て植民地であった八つの島にそれぞれ移住して生き残っていた。
勿論純血種では無かったが、数多の交配の中で最も霊性と精神性の高さを色濃く受け継いた種である。
彼らは、それぞれ島毎に王を戴き、霊性が高く特別な使命を託された大型獣人と小型獣人に護られて…時々海を渡ってきた大陸の者…滅びかけた種族や獣人と混血しつつ生きながらえていたのだ。
大いなる意思に守られる様に…類をみない精神文明の残滓を残しつつ…
八千字超えて来たので途中で一旦切りますm(_ _)mこちらは六千字くらいにまとめました。
今回入れ込んだのは…オアスペで検索掛けてみて下され…少し國體とか、勿論【例の神示】の解釈も少し組み込んで有ります。分かる人は読みながら( ̄ー ̄)ニヤリとして下さい…分けちゃってるので後編かも知れませんが…近い内に投稿します(*´ω`*)




