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冥府への旅路③呪術結界



「そうじゃない!違う違う!僕だってそんな趣味は無いよ!僕が求めてるのは……闘技場で戦える闘士さ♪だから目を付けてたって言ったろ?」



闘技場…


それは六区や七区の大きい町で有れば、酒場程度の小さい場所から観客席の有る大きな場所まで様々な形態で運営されていた。


これが五区であれば、過激では有るが競技別の格闘、或いは武道、術法などを使った無差別バトルイベントなどもあり、賞金や入場料は発生するが、命のやり取りなどは無い。


四区辺りは遥かに牧歌的で、そもそもそれぞれに文化の違う他の町や村と必要以上に関わる事が無い、何処かの街で祭りの日に開催される相撲大会や術比べ、拳闘大会に、別の街や村の人間が飛び入り参加する事が有る程度だろうか?


三区辺りであると楽しむ為の闘技イベントはほぼ無い、彼等が戦闘の訓練をするのは世界の魔界を浄化し、その範囲を辺境に固定する為だけで有り、強いて上げるのならば模擬戦や交流試合が有る程度だろうか?


二区以上になると、己を鍛え、術を学ぶのは、自己鍛錬や精神修行の意味合いが強く、他者への奉仕精神の表れでも有り、また真人や神人の比率が高い為、魂の記憶を有効的に使う為にも鍛錬は必須でも有る、どんな知識や技術も魂の入れ物で有る肉体が脆弱では役に立たない、それで闘技は推奨されてはいるがその程度であろう。


そして…六区では、命の遣り取りが発生する、参加者は万が一命を失っても異議を挟まないなどの署名をし、掛け試合が殆どでも有り、大小の会場には多額の金銭が飛び交う。


七区は…


あくまである程度栄えている街限定では有るが、人が小鬼などに攫われても何とも思わないスラムの様な場所も有る、いや、小さな村などはほぼそんなスラムと化してさえいる。


浅い魔界が六区なら深い魔界は七区、だがこう呼び分ける者もいる、地獄と…彼等の説であると魔界とは人が生きるに適さ無い瘴気が濃い危険な森の中や、荒地の事を指すので有って、瘴気が濃くとも人が生活する都市部は地獄と呼ぶべきで有る…と。


確かに…末端の貧民や奴隷達に取ってはそう言っても、差し支え無いかも知れない、人が生み出す醜悪さの極致こそが地獄なのだと、地獄とは魔獣や多くの邪鬼では無く、人こそが生み出せる淀んだ場所だとも、だから六区の奥地程度は地獄の一丁目でしか無く、真の地獄は七区で有ると彼等は主張する。


マドカが正人達を庵に連れ帰ったのもあの黒い森…瘴気の濃さから赤い森とも呼ばれる南部の森の近隣には、そんな村や街しか存在せず治療も困難であった為である。


流星街は比較的安定はしているが、闘技には勿論一般の参加者も存在はする…だが…


その多くは奴隷闘士と…魔獣である。


「はぁ?闘士?闘技場?俺達にそんな事をしている余裕は無いんだ、やるわけ無いだろう?すぐにでも樹海の地図を買って…」


「ちょっと!?正人君?!」


涼夏が不安げに小さく声を張る。


正人はミスを犯した。


恐らくは監視していたと言っても、先程のアザミの言う通り、あのキツネ達はこの男の【目】だけで有る可能性も有る、勿論会話も筒抜けで有る可能性も有りはするのだがが…相手の情報が少ない場合は言葉選びも慎重にするべきであろう。


だが…それは遅かれ早かれでしか無いのかも知れない。


「へぇ…成る程ね、樹海の地図か…そうかそうか♪君達は地図が欲しいのか?確かに、それはここで売っている…前にやってた奴の作った物よりも詳細な地図がね、僕には沢山の目が有る、あの子達は森にも強い、素人の奴隷なんかに作らせる地図よりも、もっと正確な地図が…さ♪是非買って行くと良い…おい!地図は幾らだったっけ?」


後ろに控える中年の狐人に声を掛ける、この男がアザミの遠縁らしい。


「はい、高夜様、ありゃあ前に売ってた物とは別物の詳しい地図ですからね…樹海では前の奴隷商が作った、いい加減な地図でも有ると無しじゃ、生存率が大違いですからねぇ…そうだなぁ…高役様が作った詳細な地図ですんでねぇ…ちっと値が張りますぜ?」


男は高夜をチラリと見る。


アザミからの情報も既に届いているとみても良い。


「都市金貨五…いや八枚なら売っても良いぜ♪」


正人達の反応を見ながら値段を吊り上げる。


「おい!アンタ!そんな話があってたまるか!いくら希少な地図でもそんな法外な値段があって良い筈が無いだろう!」


目を剥いて激昂したのは意外な事に喧嘩っ早い美咲では無く、ジョーイであった。


彼は現在従士筆頭としてパーティーの資金を管理している、プール金と全員の手持ちの金額を合わせても都市金貨六枚にギリギリ達するかどうか…


下の世界に換算すれば恐らくは百万を少し超える金額となるだろう。


地図を買えたとしても路銀が尽きては旅も続けられない。


高夜は、ジョーイに薄笑いを返しながら奴隷商に追随する。


「欲しい奴に高く売るのは商売の基本だろう?他の区域の常識が通用しないのが七区なんだぜ?まぁ…そっちの彼が僕の提案を飲むなら…値引きしてやっても良い、払えるならそれはそれだがね、都市の運営に有り難く使わせて貰うさ」


正人は自分達の目的をポロリと零してしまった事を後悔しつつ…慎重に高夜に問う、姿形は人間と変わらず、人の世界で生きているとはいえ、矢張り邪鬼は邪鬼…だがこの街の権力者で有る事も間違いない、この男の言葉一つで狐麻里一族が…いやこの街全てが敵になる。


無事に出る為には、この男の提案を検討する必要も有るかも知れない。


「クソッ!何だよそれ…無茶苦茶じゃないか…これが七区の住人の遣り方って事かよ、一応聞くけど…提案って言うのは…闘士の勧誘か?七区の闘技場の知識は俺にも少しは有る、食い詰めた冒険者や奴隷とは戦いたくない…魔獣とだって出来れば戦いたく無いし、小鬼の様な邪鬼だって本当は殺したく無いんだ。」


「区外の連中ってのは本当に甘い奴が多いんだなぁ〜まぁ…君にウチの専属闘士なれとは言わないさ、君は良い体をしてるから実力もありそうだけど…ここ最近は参加する冒険者も少なくてね、代わり映えの無い奴隷闘士の戦いばかりでさ、ほら僕はこれでも善政を敷いてるから、無闇矢鱈(むやみやたら)と住人や冒険者を奴隷に落とすわけにもいかないじゃ無い?僕に逆らったり街のルールを破る者がいれば…別なんだけど…さ…♪」


高夜は妖しく微笑む…



◆ ◆ ◆




後ろからジョーイと正人達のやり取りを見ていた涼夏と美咲。


普段なら激昂して喧嘩になりそうな美咲が何故か大人しい。


目の焦点が合わず妙にフラフラと身体が揺れている…


「美咲ちゃん…どうしたんデス?具合でも…」


涼夏が杖を握りしめながら声を抑え美咲に問う。


「こんな奴ら…どうせ魔人、邪鬼なんだから、そんな交渉……ううっ…頭がクラクラする…あ…」


突然…美咲がその場にドウッと倒れて動かなくなる。


「ひゃぁ!美咲ちゃん!」


「美咲!どうした!」


「なんだ?!おい!アンタ!美咲ちゃんに何をした?!」


「ハァ?知らないよぉ〜魔人差別だぞ?そーゆーのわ〜」


高夜は怪訝な顔をしながら…何かに気付いてポンッと手を打ち合わせる。


「…何んなんだ………あぁ!そうかそうか!道理でね、さっきから調子が良いな…とは思ってたんだけど、そうか彼女からかぁ♪僕を疑うなんて…どちらかと言えば原因は彼女にある、僕は街の支配者だよ?そりゃ常に結界は張るに決まってるじゃ無いか…どうせなら攻撃でも仕掛けてくれたら奴隷にする大義名分に出来たのになぁ♪クク♪まぁ…何処かで休ませてあげたらいいんじゃ無い?タダのマインドダウンだろうしね…」


「…故意にやったんじゃ無いのか?でも、一体どう言う事なんだ?言霊も術も霊具も使って無いのに昏倒するなんて…」


警戒しつつ高夜に説明を要求する、高夜はやれやれと説明を始めた。


この街は現在、狐麻里一族の【呪術】結界に覆われている、街に出入りする者を感知し、一族に対して敵意を持つ者を判別する為の微弱な物では有るが…


「僕と父を含む数人の一族の者は古来から続く呪術を学んでいる、更に言えば、僕個人は呪術結界を常時展開している。これでも僕は邪鬼だからね、瘴気とはある種の負のエネルギー、狐麻里の呪術とは相性も良い、そもそも呪術は霊力を負の力に変換して瘴気を使い相手に影響を及ぼす霊術、魔人で有る僕は他の一族の者と違って、霊力を使わず瘴気をそのまま結界の維持に利用してるってわけ、黒き魂の僕に霊力は無いのでね…だから……」


そう…その結界の範囲は半径数メートルではあるが、高夜に敵意…より正確に言うので有れば攻撃の意思を抱く者から精神力…気力…エネルギーを徐々に奪う。


美咲の肉体は鍛え上げられ生気に満ちてはいるが、霊力は低めで精神は脆い部分が有る。


他の三人は警戒してはいたが敵意を抱くには至らず、涼夏などは生木の杖の伝える嫌悪感を感じながらも、高夜の美貌故(びぼうゆえ)に好奇心さえ抱いていた。


正人やジョーイは邪悪な男だと警戒しつつも、あくまで人として見てはいたのだ。


美咲のみが邪鬼=魔人=退治すべき存在として見てしまったが故のマインドダウンであったのだろう。


「魔法、魔術なんて外から来た術を使う者がいるがね、狐麻里の呪術はもっと古い、異次元の扉など開かなくてもこの世に溢れる瘴気だけで充分…大八島の歴史の中にあって千数百年…我々は夜の…裏社会の…善狐と悪狐で大八島バランスを取って来たんだ。我々を追放された狐人の一族と言う者も居るけどね、それは建前なのさ、我々は悪の中にあって秩序を維持する為に作られたシステムの一部なのだよ、例え魂を黒く染めて死後…邪鬼に転生するとしてもね、それが我等の…悪の【お役目】なのだ。ただ…まさか世界の法則自体が変わる事になるなんて、先祖は思わなかっただろうけどね」


それは、あくまで悪を否定し、善のみの光の世界を作ろうとしてきた西方の文化とは考え方を異にするものだろう。


消せば増える、人が有る限りこの世から不幸と悪は無くならない。


古のアシハラの民はそれを理解していたのだ。


精神性の高い古の狐人達は…ならば悪の中にあって悪を制御する役目の一族を作り出したのだろう…


だが…今やその善悪の狐人を超える精神性を持つ上位者達が動き出し、世界の法則は変わった。


悪は無くならないが新法則…有徳律による棲み分けで、その比率は大きく変わろうとしている。


アシハラは新しい世界の雛形、モデルケースと言えよう。


高夜達、悪狐達は新しい世界の中の魔界で、自分たちの存在意義を見つけようと足掻いている、かつての人類を発展させる意志…國體思想の…捨てられた古い世界の意志の一部で有るのかも知れない。




◆ ◆ ◆




その後、昏倒した美咲を担いで高夜に案内され街の裏門の近くにある、闘技場の前で交渉を続けた。


「君がやりたく無いと言うので有れば、人間同士の対戦カードは避けても良い、オッズも低いし…となるとどうしても魔獣にはなってしまうんだけどね、フフ♪僕としてはそっちの方が客も盛り上がるし、観覧チケットだけでも結構なあがりになる、でも良いのかなぁ?普通は複数人の冒険者で狩る、深部に生息する大型魔獣が相手だぜ?戦士一人で挑戦出来るシロモノじゃ無い、本来このカードは魔獣に食い殺される人間を見て楽しむモノなんだよ?不要な奴隷を処分したりね♪さぁどうする円谷君♪」


それに対する正人の返答は…


「少し…考えさせてくれ、美咲ちゃんも休ませたいし…」


日和っていた…


「まぁ、別に良いけどね♪気が変わったら何時でもおいでよ、ファイトマネーは一試合に付き都市金貨一枚出そう♪勿論仲間が君に賭けて稼ぐのも自由だ♪じゃあ良い返事待ってるよ♪円谷君…」


そう言って黒き魂を持つ狐人は妖しく微笑むのであった…


m(_ _)m好評価ブクマ宜しくお願い致します


國體思想とは世界は大いなる意思で全て計画的に発展してる…って言う陰謀論にも通じる思想ですね


※現在、昭和アウトローガールズ☆犀角を編集再投稿しております、美咲もレギュラーキャラとして出ております、討鬼伝の前日譚として見て頂ければ嬉しいです、R18のノクターンノベルスではありますが、そんなわけで暫くは投稿頻度が落ちます、ご了承下さい

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