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冥府への旅路②悪狐



淀んた湿っぽい風に乗って悪意に満ちた囁き声、或いは怨嗟に満ちた呪詛が聞こえて来る。


…そんな不穏な街…


雑多な店らしき建物や如何わしい何か?としか思えない魔窟が立ち並ぶ路地を足早に通り過ぎる。


四人とも何も言わないが、いや言葉を発する事が出来ないのだ。


…重苦しい粘ついた人間性の澱みが足に絡み付くような…


この街は何かおかしい、七区の街はみんなこうなのだろうか?


恐らくは違う、誰かに聞いた話、スス原で少し仲良くなった古物収集関連ギルドの冒険者だったろうか?


「スス原がガラが悪いって?いやいや!こんなトコは六区でも浅い領域でさ、確かに夜は出歩かない方が良いけど、街を見る時は野良猫や野良犬を見るんだ、見ろよ…あの野良猫ぶくぶく太ってるだろ?デカい都市で周囲や大森林の中にも廃墟が有るから、探索者が拠点にするには丁度良いし、有る程度は歓楽の街でも有るから、それなりに観光客も多いってのは有るんだが、ここより北の七区の街なんかさぁ、飢えた野犬に襲われた奴だっているんだ。俺は狼人だから精々が遠くから唸られるぐらいで済んだけどさ、現人や他の種族の中には襲われた奴もいるんだぜ?」


そう、七区の街では野良猫野良犬にさえ注意しろ。


確かにそう言われた。


だがどうだ?


痩せた野良猫どころか、野良犬の一匹すら見えない。


その代わりに、街の各所に静かに道に寝そべり、各所を彷徨く明らかに人に飼われていると思われるキツネの異常な多さ。


そして…更に不気味なのは、明らかにこちらの様子を伺っている様な視線を感じる。


外から入って来た者を監視しているのかも知れない、何らかの魔法か何かで操っているのだろうか?


堪らず涼夏は足を止める。


「ちょっと待って下さい!」


正人が眉を顰める。


「何だよ、こんな所は早く通り過ぎて目的の奴隷商の所に…」


こんな所、と言うのは七区にあってさえ不穏な通り、恐らくは色街の類であろうが…


大学が有る鉄船市の繁華街でも何度か似た様な場所を通り掛かった事が有る。


ガラスが嵌め込まれたショーケースの様な場所に、着飾った化粧の濃い女達。


下の世界の大学が有る鉄船市では、小さい港湾都市でもあり、港湾労働者の為でも有るのか、その類いの店が数軒有るのを見掛けた事が有った。


それでもその手の店は三軒程しか無かったのだが…


この街では、まばらではあるが三軒どころでは無い、既に十数軒は通り過ぎている事だろう。


鉄船市の人口は四十万、それでも、正人が見る限りその手の店は三軒と他の業種の店が数軒しか無かった。


実は何度か足を伸ばした事もある、結局は勇気が出ず未遂に終わってはいたのだが…


それは兎も角として、この流星街がどれくらいの人口か分からないが、数十万などと言う規模では無いだろう。


なのにこの店の数、人口のどれぐらいがこの手の商売で食い扶持を得ているのか?


浄化ギルドの講習では、他の区域のこの手の店に付いては個人の嗜好では有るので咎められる事は無いのだが、それでも七区の店での遊びは推奨され無い、などと言われたが、他の大小のギルドではその様な事は言われないのか冒険者らしき者が時々出入りするのを見掛ける。


下の世界、鉄船市の色街ではパッと見は日本人女性ばかりであった。


だが…この街のショーケースで妖しく微笑む女達は、一言で言うならば多様であった。


東部はアシハラ人が多いとされているのだが、七区ではそれは当てはまらないらしい。


アシハラ人だけでは無く良く似た西大陸極東系、ルーツは何処か分からないが白人や黒人もかなり多い、勿論、現人だけでは無い。


多様な獣人も、人口比率が高い猫人や犬人だけでは無く、アシハラにルーツを持たない獣人もいる。


彼女、或いは彼らは海外からの避難民の子孫だろう。


有角人と呼ばれる羊人に山羊人、獅子人の様な中型の獣人までいる。


更には耳の場所も現人とほぼ同じで見分けが付かないが、細長い尻尾で器用に酒瓶を煽るのは西大陸極東から南部がルーツの…猿人…と言うよりは現人との違いは尻尾のみで有るので有尾人と言った方が適切だろうか?


この種族の中には遥か古の時代に語り継がれる上位者、下の世界では魂の記憶を通じて語られる物語の中で、斉天大聖やハヌマーンと呼ばれる英雄も輩出した種族では有るのだが、ここにいる彼女らは単なる売春婦でしか無いだろう。


こんな所はすぐに通り過ぎるに限る。


…だが…


涼夏は不安そうに声を潜めながら訴える。


「私達…ずっと監視されてますよ…多分あのキツネ達から…」


ジョーイが苦笑しながら涼夏を宥める。


「不安なのは分かるけど気にし過ぎだよ?確かにおかしいけど、四区の俺の故郷の近くの山に狐人の守る社があってさ…多分使い魔的なのじゃ無いかな?珍しい事では無いし、街も思ってた程荒れて無いじゃないか?」


ジョーイの言う事は最もだが、アシハラに於いて狐人は伝統的で特別な家業を持つ。


所謂、神職が多く街や村で見掛ける事はほぼ無い。


勿論例外は有るが、そう言った手合を田舎の出であるジョーイが知らないのも無理は無い。


逆に、七区でも地元である四区で見掛けた事が有る光景を目にして、少し気が抜けていたまで有る。


とは言え四区とは互いの文化に干渉せずに棲み分け、平和に暮らす事を至上とする土地で有る。


そう言った宗教的な文化に造詣が深いとは言い難い、良く知らないが子供の頃から稀に見掛ける隣人程度の認識でしか無い。


そう云った手合いとは、ジョーイが知っている善狐とは精神性も大きく違う存在。


大八島時代…何らかの理由で一族から追放された狐人達は都市部の繁華街、夜の町で水商売や或いは風俗店を経営し、繁華街の支配者の立場に収まる者が居たのだと言う。


大災害以降は都市ごと海に沈んだ者も多く、そう言った所謂…悪狐の存在は、殆ど認知されていないのだが、どうやら生き残りがいたらしい。


勿論、涼夏も狐人の事を知識として持っているわけでは無いだろう。


だが、彼女には生きている【杖】が有る。


「違うんです!普通の反応じゃ無いんです!木々は邪鬼を嫌います…【生木の杖】が不安を伝えているから言ってるんです!あの狐達の視線の元には…恐らく魔人が居るって事なんですよ!」


少し声が大きくなる。


この場にいるのは異世界人の三名と田舎出身のジョーイのみ、いずれも現人で他種族の詳しい知識を持つ者は居ない。


浅く広く多岐に知識を集める英二が居れば、もしかしたらそう言った知識も多少は仕入れていたであろうが…


だが、魔人が居るとなれば警戒もする。


「魔人?間違いは無いのか?!鈴本さん…奴等に目を付けられたって事か?」


「面白くなって来たじゃん♪良いわよ!来るならやるだけよ♪」


「おいおい美咲、物騒な事は言うなよ、単に街の警備で…魔人だからって普通の人間と殆ど変わらないんだ、そんなに警戒…」


三人がそれぞれ騒ぎ出し、少し目立ってしまったのだろう。


「あらあらぁ♪外から来た冒険者さん達ぃ?こんな場所で作戦会議?あら?女の子もいるのねぇ…隣の店に男娼もいるから…って…ちょっとアンタら様子がおかしいわねぇ?遊びに来る様な雰囲気じゃないし…こんな場所に何の用事?」


色素の薄い小麦色の髪の肉感的な美女、目が細く犬科の獣人らしい犬歯が赤い唇の奥に光る。


その格好は扇情的で、胸の谷間と背中が大きく開いた赤いドレス、獣人仕様のデザインなのかそのまま尻の上の尻尾が飛び出している為、現人用の物と比べてもかなり露出度は高い。


彼女の特徴的な耳と尻尾と細目で、狐人だと理解出来た。


ジョーイが地元の近くに住む白い巫女服を着た楚々とした狐人達との、あまりの落差に驚きながらも問いに答える。


「あ、あぁ…あの…使い魔達は貴女の?」


質問された女が、不機嫌な表情で手を差し出す…


「え?あ…なに?」


眉を吊り上げ、先程の媚を孕んた口調とは全く違い…


「あ?テメェはバカか?金だよ!他は知らねぇけど人に物を尋ねる時は金を差し出すのがルールだろう?!そんな事も知らないで七区に来るんじゃ無いよ!客でも無いみたいだしさぁ!最低銅貨三枚から!情報の質で値段は変わるよ!」


「はぁ?…なんならアンタの親玉を…」


「美咲ちゃん!……良いから…」


美咲が何か言おうとしたのを正人が制す、スス原ではボッタられまいと色々と店主に文句を言っていた正人であったが…


ここは七区、それにルールは街ごとに違う。


ある程度の出費は覚悟するべきだろう、ビビリもたまには役に立つ、黙って女に銀貨二枚程を握らせる。


「あっ!こりゃ三区の都市銀貨じゃないさ!へぇ~随分羽振りが良いじゃない♡ねぇ♡何が聞きたいのぉ〜?何でも聞いちゃって♪その後ウチの店おいでよぉ♡サービスしちゃうよ♪何ならアタシの自慢の尻尾でアレを………とかさ♡」


その類の卑猥なサービスの話は置いておいて、正人が質問をしていく。


「いや…あ、あのキツネはアンタの使い魔なのか?」


「あ〜それね、アレはアタシの一族の頭領…高夜様の目だよ?末端のアタシ等にはあんな術は使えないからねぇ〜次は?」


「目…ね…アンタの一族って狐人の事か?」


「そうよ?狐麻里一族。一年くらい前からアタシの一族がこの町の支配者、その前は海の外から来た連中が仕切ってたみたいだけどね、高夜様が皆殺しにしちゃったのよ♪そっちの兄さんと似たような人達を…ね♪頭に角が生えてたのも居たけど、アンタと同じ青い瞳で金髪の…フフ…♪」


ジョーイの瞳を妖しい瞳で見つめ含み笑いをする。


先程見た、角人の娘達や白人はもしかしたら元の支配者の縁者だったのかも知れない。


今日の支配者の縁者でも明日は奴隷、七区とは地獄である。


ジョーイが顔を引き攣らせる。


「お、俺は外から来たんだ別に…君らの敵じゃ無い…」


そこに正人が割って入る。


「支配者が誰でも俺達には関係は無いんだ、仲間をからかうのはそれぐらいにしてくれ、俺達はこの街に居る筈の奴隷商から樹海の地図を買う為に来たんだ。」


そう…何故奴隷商が地図を売っているのか?


それは奴隷商が北のスス原の支配者と、似たような事をやっているからである。


奴隷に身を落とした冒険者を使って、樹海の天然資源の採掘や探索をさせて居るのだと言う。


地図はその副産物である。


とは言え、六区で古物収集の任務に就いているのは奴隷では無く、街の有力者の私兵達では有るのだが…


効率の面で見ればコチラの方が遥かに成果が高い、奴隷達は獲得した資源や遺物を私兵の様にちょろまかす事は出来ないのだ。


魔法で生成された支配の首輪が有る限り、逆らう事は出来ない。


この通りのショーケースに並ぶ売春婦、或いは売春夫も職業売春婦と奴隷とがいるらしい、それは首輪の有無で直ぐに分かる。


「…奴隷商…あぁ…あいつはもう居ないよ?前の支配者の一族だったからね…高夜様が殺しちゃった♪」


「はぁ?本当なのか?じゃあ地図も…地図無しで樹海に入るしか無いのか…」


だが女は薄く笑い、正人に交渉を持ち掛ける。


「お兄さん♪早まんないの♪奴らの仕事は全て狐麻里一族が引き継いでる♡今は高夜様の部下が引き継いでやってるの♪一応アタシの遠縁に当たる人だから…紹介してあげても良いんだけど……分かるよね♪」


と…再び手を差し出す…


アシハラでは三区や四区で発行された物が流通しているのだが…価値には差が有る。


三区で発行された物で有れば都市銀貨一枚で場所により異なるで有ろうが、下の世界での一万円〜二万円に相当する。


四区の大きい街で発行された物はその半分くらいだろうか?


五区や六区で貨幣を発行しようとする試みもあったらしいが、この手の金融関係は発行者が尽く瘴気を…魔界を呼び寄せてしまい、全て未遂か短期間の発行で終わっている。


それはそれでレアな品として収集家同士で高値で取り引きされるのであるから、人の世界は面白い。


勿論、四区で有れば紙幣なども有るが精々五区までしか使えない。


三区の環状都市群などでは住人はデジタルマネーを使うので、そもそも貨幣はそれ程は必要無い。


これは他の区域や魔界へ向かう冒険者の為に鋳造している物であり、七区でも使えるのは三区そのものの信用度に依る所が大きい。


七区でも都市単位で貨幣は作られたりするのだが、技術も無く偽札が出回るのも早く。


すぐに革命が起こって統治者が変わるので、あまり意味は無い。


現在はそんな貨幣を作ろうとする統治者も居なくなって久しい。


地図がどれくらいする物か分からないパーティーの資産は巫女を助けた報奨金で都市金貨五枚分は有るのだが…


今の手持ちは銀貨二十枚と銅貨が一袋、と言った所…残りはギルドの口座に預けて有る。


…しかも殆どアイラに預けて有るので手持ちは半分程度…


「くぅ!…背に腹は変えられん…仕方無い…万が一地図が買え無かったら、一旦出直すしか無いか…」


再び女の手に硬貨を握らせる。


「一枚か、まぁ価値は高いし…いっか…じゃあアタシの名前は狐麻里アザミ、案内まではしないから勝手に行きな、花里通りのアザミの紹介だって言えば分かる筈だから…あぁ、場所はこの通りの奥を…」



 ◆ ◆ ◆



日本円に換算すれば下手をすれば六万円近い出費ではあるのにこの対応、なんて酷い所だとブツクサ言いながら歓楽街を通り過ぎ…目的の場所に近付く。


酷い対応では有るが、実は他の七区の街と比べれば遥かに良く治まっており、犯罪も少ない。


だがそれだけに気を付けねばなるまい。


地獄の様な場所で治安が良いと言う事は、それだけ支配者の力が強いと言う事である。


力こそが全ての魔界の街に於いて、個人の力量も相当な物が有ると言う事に他ならない。


一族の数だけでは無いのだろう。


四人は路地の奥に有る元々は大昔の雑居ビルであった場所の前で覚悟を決め息を呑む…警戒し過ぎでも足らない。


両開きの鉄扉に正人が手を伸ばす、が…扉がパーンと開き…


「おお!やっと来たのか!待っていたよ!」


中から細目の青年が嬉しそうに声を掛けて来た。


奥には中年の男がかしこまって待機している。


…どちらも狐人…


中年の男が奴隷商の後任だろうか?


となると、身なりの良い若い男は……


「どうした?アザミから聞いていただろ?僕のペットの事は?ずっと見ていたんだから知っていて当然じゃ無いか♪早く入り給えよ?」


正人はビクつきながら若い男にに問う。


「あ…あの…俺は奴隷商のおっさんに用事が有るんだけど…聞いてた話と違って…若い…」


「ああ…それは後ろの奴だ、僕は高夜(たかや)狐麻里高夜(こまりたかや)だ!親父に変わってこの流星街を仕切ってる♪いやぁ君ぃ!良い身体してるよぉ〜♪ウンウン♪街に入って来た時から目を付けていたんだよねぇ〜その身体作るのにどれくらい掛かったの?強そうだよねぇ〜♪」


そう言って正人の筋肉をペタペタ触る。


「ささ!早く中に入って鎧を脱いで見せてくれよ♪」


白い髪に赤い瞳、中性的な美貌…


この街を仕切る邪鬼…魔人。


「な…何なのこの人…ひょっとしてゲイって奴?…」


「アレ…何か今…新たな発想が…私の中でムクムクと…」


驚き固まる美咲と…昭和末期に青春を送り…平成初期では腐女子は一般的では無いが何かを刺激され頬を染める涼夏。


「一応…街を仕切ってるって事は…この人も魔人なんだよな…何と言うか…えっと…」


言葉の出ないジョーイ。


「おい!ジョーイ!呑気な事を言って無いでこの人何とかしてくれぇ!おい止めてくれ!ベタベタ触るな!俺はそんな趣味は…」


だが高夜は…意外そうに反論する。


「あれ?勘違いされてる?違う違う…僕は…………」



手直し完了★


悪には悪のお役目があるのざぞ?


だそうです…

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