脱出
「ひゃっほー!」クーパーは、戦闘機をキチガイのように、操っていた。人が操縦しているとは思えないほどの、加速、減速、急反転を繰り返しては、敵の戦闘機やミサイルを落としては、飛龍に近づこうとしたが、近づく度に発射される弾幕に何度も行く手を阻まれていた。
彼の船に積んだ弾薬は、間もなく尽きようとしていた。3次元ディスプレイに映る、近くの砲弾マークを見つけ、そこに急加速をして近づくと、残りの弾薬を周囲に打ち放して、空の弾薬ユニットをパージした。そして近くに浮遊する満載状態の弾薬ユニットを装着した。補給艦がやられた場合、補給が完全にできなくなってしまうし、補給艦の護衛も必要となってしまうために、戦闘状態になった時には、補給艦はありとあらゆるユニットを宇宙空間にばらまいて逃走する。あるいは、自ら戦闘に参加するようになっていた。
クーパーは、戦闘機を自在に動かし続けた。無線からは、仲間の死亡が告げられたが、お構いなしに彼は、突撃と撤退を繰り返した。
「すごいな・・・」敵機の無線がいきなり入った。「あんたのおかげで、ひどい損害だ」
「ロートルな操縦士にやられるような訓練をしているからさ」クーパーは無線の相手はどこにいるのだろうかと、思った。
「それは同感だ」と声がした瞬間、コックピットに小さい穴が空いた。空気の流れにそって粘性の高い補修材が放出されると瞬く間にその穴を塞いだ。
「どこだ?」
「なんだ生きていたのか、上手い具合にヒットしたと思ったんだけどね」
「コックピットの左右に穴が空いた、良い腕だ」
「だろ?」
なにが「だろ」だ・・・彼は周囲に、小型の誘導型のドローンが飛び交っているのを確認した。機械に頼っているが、上手く操作している。
彼は、いきなり急停止すると、周囲のドローンもまた急停止をして彼の機を囲んだ。そこで彼は、その停止位置のまま機を回転させて、弾丸を発射した。不意を突かれたように、ドローンは、うろうろしながら次々と破壊された。
「掛かってきな、坊や」クーパーは声の主を挑発した。
「あんた名前は?」
「クーパー・・・」
「ひょー・・・あの有名な・・・」
「お前は?」
「ウィトゲンシュタインってあだ名で呼ばれているよ」
「ほう、ご高名は聞いている、坊や呼ばわりをしてすまん」
「さて、どう決着を付けます?」
「ご随意に・・・」
「じゃああんたの得意なチキンで決めましょうか?私が勝てばあなたには大人しく捕虜になってもらう、流石に元管制官長を殺すのは忍びないですから」
「俺が勝ったら、飛龍に一発当てさせてもらうぞ」
「どうぞ、どうぞ、しかしアレに当てるのは大変ですよ」
「分っている、でどこに向って飛ぶのかな?」
「いや、互いにロックオンをかけて、そのまま全速力で互いに正面を目指す、最初にロックオンから逃れた方が負けだ」
「そりゃいいや、おもしれー」
すると、警告音がなりクーパーはロックオンされた事を知った。レーザーを発射する戦闘機は直ぐに判別された。肉眼では、小さく輝く点にしか見えない。彼は、それに対してロックオンをかけた。
「お互い準備は整ったみたいだな」ウィトゲンシュタインが静かに言った。
「ああ、やろうか」クーパーは、全ての機器をマニュアルに切り替えた。
「かかってこいや、クソ爺」
「若造には負けねえ」互いの戦闘機は急加速を始めた。
点のようにしか見えなかった互いの機体がみるみる大きくなった。
二人とも、もう言葉は交わさない。
互いに加速以外の操作は行わない
会話を傍受していた敵味方の戦闘機は、武器を使う腕を休めてその短い時間で終わる戦いを思わず見入っていた。
2機はどんどん急接近する。
二人は、冷や汗を流しながら、互いの大きくなってっくる機体を見つめた。
ブレーキを効かせることはなく
ハンドルもまっすぐ持ったままだ、
掌から汗が噴き出した
そして衝突が防ぎようがないと思われたその瞬間、
クーパーが突然進路を変えた。
そのまままっすぐに進んだウィトゲンシュタインが勝利の声をあげた。飛龍の戦闘機の乗り組み員もまた、歓喜の声を電波で飛ばした。
ウィトゲンシュタインはゆっくりと減速をした。
しかしクーパーは、方向を変えながらもまだ加速をくわえていた。
その先では、何発ものミサイルが加速をしていた。
クーパーは、詰め込んだばかりの弾薬を惜しげもなく沢山のミサイルに対して使った。
「おい、捕虜になる約束はどうした。」
「悪いな、約束を違えるつもりはなかったが・・・」そうして、ゆっくりと進んでいる救命艇に向って行った。
前原は、沢山の避難民を乗せた救命艇を、ゆっくりと進めた。飛龍に捕獲されないように、目立たないように、まるで故障した船のように宇宙花を目指した。いくつものスカベンジャーが取り付いたと思うと、すぐに離れて行った。まるで死ぬ寸前の獣が、絶命するのを待っているハゲタカのようだ。彼らの船の周りでは、瓦礫を掴んでは宇宙花に向ってゆく機械の群れが幾つもあった。
とくに大きなもと飛龍の一部だったものには、さらに多くのスカベンジャーが取り付き、部品をひっっぺがし、去ってはまたやってくる。
「裏切りもの、私達を中央に売るつもりかい」女性の一人が、椅子から立ち上がり、コックピットとの連絡用機器に向って毒気付いた。
前原は、ため息をついただけで、返事は返さなかった。
「生きていたら、お前を絶対許さない、いつか必ずこの借りは返す」
そう、生きろ。生き残るんだ。そして、この戦いを伝えろ。前原は、心の中で返事をした、そして、お前らが生き続ける糧に俺はなろう、俺にはそれくらいしか出来ないからな
「いつか、殺してやる」
コックピットの中に展開される救命艇を中心としたリアルタイム3D映像には、ノード103ステーションの断末摩の姿が映っていた。当初からあった管制室以外の住居施設が、全て瓦礫となり宇宙空間に漂い、それをスカベンジャー達が、宇宙花に運んでゆく。
その画像の中に、一体の戦闘機が飛び込んできた。明らかに、それは救命艇を狙っていた。
それが唐突に爆発した。それと入れ違いに、別の機体が入ってきた。
「牽引索を放出しろ、スペースフラワーまで加速を手伝う」いきなり声がコックピット内に響いた、「早くしろ時間がない」
「あんたは・・・」
「クーパーだ、狙われているぞ、早くしろ」
前原は、辺りをきょろきょろしながら、大きな赤いボタンを探し出してそれを掌で押した。
そしてしばらく後に急加速が始まった。
クーパーは、牽引索をフックであっという間に捕まえると、スロットルを全開にした。
救命艇も弱々しい加速を続けていた。
そのクーパーの戦闘機に向って何発ものミサイルが発射された。しかし、そのクーパーを守ろうとして集まった彼の友人達があっという間に集結した
「なかよくランデブーかい、クーパーさん」マイヤーの声が聞こえた
「いいだろう、なかよしこよしだぜ」クーパーの声が笑い声とともに響いた
「その有様じゃ、迎撃もできないですね」とマイヤーが、機体を救命艇の後ろに付けた。「おかまを掘られないようにケツは守ってやりますよ」
「助かる」
「クーパーさん、さっきのチキンぶりはねえですよ、俺の時とは大違いだ」カルベ
の声が割り込んだ。
「いやあ、さすがにこの救命艇を放っておけなくてな」
「分ってますってば、俺も守りに就かせてもらいます」カルベは、左右に弾幕を張った。それに敵のミサイルや戦闘機が当たって一瞬の輝きが闇にほとばしった
「じゃあ、こっちは盾くらいになるかな・・・」メイヤーが貨物船を進めた
「おい、中身は無いだろうな」マイヤーが口をだした。
「ああ、すっからかんのかん」
その貨物船に、ミサイルが当たり、破片が散らばった。その破片自体が攻撃する側にとってじゃまになるばかりか、宇宙花から飛来したスカベンジャーがうろついて、それも邪魔になった。図体の大きな貨物船は、それでも進み続けた。まさに盾として、攻撃を身をもって防ぎ続けた。
「そろそろダメかな」メイヤーが呟いた。「俺は離脱するよ」
「ショウはどうした?」クーパーが心配そうに言った。
「既に脱出組に無理矢理乗せたよ」メイヤーは、咳をした。「こんな戦いに若い奴をつぎ込ませるわけにいかないからな」
「ありがとうな」
貨物船は、エンジンが被弾するとその部分が爆発し、そのまま慣性速度で離れてゆき、そこに敵機が近づくと同時に、最期の爆発をした。何機かの敵機がその破片により損傷を被った。
マイヤーも、また後ろで必死に迎撃を続けた、機体は多くの傷にまみれ、マイヤーもまた、続く緊張の為に疲弊しきっていた。
ー多勢に無勢、勝てる筈もないよなぁー壊しても壊しても、敵機は飛龍から補充されてやってくる。ミサイルが枯渇したことを示す、アラームランプが点いた。レールガンの弾も切れた。ビーム兵器を撃つエネルギーは、エンジンが動けば補充はされるが、そのエンジンも間もなく停止しそうだった。
「俺も離脱するわぁ」マイヤーは、後方から飛び立つと、飛龍から飛び立った編隊に向った。そこから大量のミサイルがマイヤーに向って放たれた。
「じゃあ、あとで・・・」その一言を最期に、マイヤーの機体が自爆した。そこからは小型の爆弾が放出されたが、自爆した機体から生まれたデブリに混ざって、見分けが付かない。
小さいデブリなら、機体に当たっても大丈夫だろうと考えた、浅はかな兵士達が操縦する機体が、次々と重大な損傷をうけたり、爆発をしたりした。
カルベは、持ってうまれたかのような操縦技術で敵機の中に躍り込んでは、相手を破壊
し、そして定位置も戻って、ふたたび敵機の中に飛び込んでいた。
急な加速、減速、停止、反転、人間が操縦していれば、Gの影響ですでに失神してもおかしくないような、ありえないような動きを彼の機体は演じていた。
「なんでだ・・・ああ、みんな死んでゆく」前原は、何も出来ないまま、ただ宇宙の藻屑となってゆく、僅かな期間だけ仲間だったものたちを見送った。「こんな俺たちのために、何もできない、俺たちのために」
救命艇は、次第にスペースフラワーに近づいた。
「目的地は?」ビルの声がした。
「どこでもいい、あなたに任せる」前原は、ぐったりとした声で答えた
「前原さんか、どうかこの惨状を世界に伝えてほしい、ノードの通行料は、ノード103の全資産を当ててあげよう、だからどこにでも行くといい、幸運を」
スペースフラワーの円環内部が水銀のように光り始めた。
「幸運を・・・」クーパーは、牽引索をフックから外すと、救命艇の後ろについた、既に仲間は残っていない、なのに敵はぞろぞろと付いてまわっている。クーパーは、ありったけの武器を使って追手に対して威嚇をした。いくつかの敵機は沈黙したが、まだまだ追手はいくらでもいた。ただ、時間だけは稼げた・・・
「行かせるものか」とウィトゲンシュタインの声と伴にミサイルが発射された、その目標はクーパーではなく、救命艇だった、クーパーは迎撃ミサイルを使おうとしたが、それはすでに撃ち尽くしていた。弾丸もない、レーザー砲を撃つにはエネルギー不足だった。
クーパーは戦闘機を加速し、そのミサイルに向った。
「やめろ、クーパー!!」彼の目的を悟ったウィトゲンシュタインが叫んだ
「やめるわけないだろ、俺の人生の終止符をやっとみつけたんだ」
「おねがいだ、やめてくれ」
「悪いな、約束を違えて・・・もっと優秀な相手を見つけてくれ」
クーパーの戦闘機はミサイルに接触して大爆発を起こした。
思わぬ結果に、追手達も唖然としてそれを見てしまった。
「なにをしている、救命艇を破壊しろ」飛龍からの命令で、ウィトゲンシュタインたちは、ふたたび救命艇を追ったが、救命艇は次第に宇宙花の中に消えて行った。




