魔法の練習3
「まあ、いろいろあったけど、気を取り直して練習するわよ!」
俺達は練習の邪魔にならないように美穂が寝た場所から少し離れた場所に移動した。神奈月は美穂の付き添いと言ってその場に残った。多分、本が読みたかったのだろう。
「魔法の種類は全部で四つあるの。属性魔法、固有魔法、契約魔法、代償魔法よ。って言っても実際に目にするのは最初に言った二つよ。後の二つは私から言わせてみればそもそも魔法かどうかも定かではないわ」
「私、契約魔法と代償魔法って初めて聞きました」
「俺も初めて聞いた」
「……なあ、この二人大丈夫なのか?」
「今の二つは知らなくても全然問題ないわよ。むしろ知ってたら凄いレベルだわ。神山君も最初の二つだけ覚えておいて」
「おう」
「じゃあ今から属性魔法と固有魔法の説明をするわね。まずは属性魔法と固有魔法の違いから説明するわ。属性魔法って言うのは火、水、風。この三つが属性魔法って言われてる魔法よ」
「三つしかないのか?」
「大体はね。その辺は後で説明するわ。まずはこれをみて――――氷結」
生徒会長が蒼色に輝く魔法陣を作り出す――そして現れる氷の結晶。
「おー凄いな」
思わずそう呟いてしまう。これが魔法なのか?
「神山君、触ってみて」
「触っても大丈夫なのか?」
「ええ、それは触っても直接的なものじゃないから安心して」
生徒会長に言われ俺は慎重に手を伸ばす。触れることができると思っていた氷の結晶には触れることはでず、俺の手はそのまま氷の結晶を貫通してしまう。
「どう?それが魔法よ」
「よくわからないんだけど……なんだこれ?氷じゃないのか?」
氷と言うより少しひんやりした空気に手を入れている感じだ。それに少し変な感じがする。
「そうね、正確には違うわ。今が見せたのが属性魔法の一つで精神魔法よ。属性魔法は二種類あって物理魔法と精神魔法があるの。今のは直接ではなく精神――まあ相手の魔力に直接自分の魔力をぶつけてるみたいな感じよ。少しだるさを感じたりしない?私の魔法にあなたの魔力が抵抗してるってことよ」
「言われてみたらそんな感じがするな」
「相手の体を傷つけないで攻撃できるのが精神魔法の特徴よ」
「魔法ってこんなのもあるんだな」
「この世界じゃこの精神魔法がメインよ。対抗戦はすべて精神魔法で行われるの」
だから人間同士で戦ってもいいってことになってるのか。
「じゃあ物理魔法ってのは本物を作りだすってことか?」
「そうよ、物分かりがよくて助かるわ。今度は触らないでね――――氷結」
軽く忠告をして再び生徒会長が魔法陣を作り出す。魔法陣の中から辺りを包むように冷たい冷気が広がる。そして、その中から現れる氷の結晶。俺はその光景に思わず息をのんでしまう。
今度の氷の結晶はさっきのまやかしとは違い見てるだけで本物だと分かる。
「生徒会長さんって物理魔法できるんですか!?凄いですね!」
「滝見達もまだできないって言ってたのにさすが先輩です!」
「まあね、と、当然でしょ?なんたって私なんだから」
生徒会長は二人に褒められて少し照れながら笑う。この二人はやたら生徒会長を褒めたがるな。どれだけ生徒会長のこと好きなんだよ。
「嬉しそうだな」
「べ、別にこれくらい当然だし!う、嬉しくなんかないわよ!それより属性魔法はこんな感じよ。ちゃんと覚えれた?」
「ああ、大体理解できた。それで生徒会長は何の属性なんだ?氷だから水ってことか?」
「ええ、そうだと思ってくれていいわ。属性は水だけど少し特殊な水って感じね。属性魔法は主に三つの属性だけど、私みたいに魔法を上手く使える人は水を氷や霧とかに変えたりできるの。さっき属性の風って言ったでしょ?風って言っても実際は植物をを操ったり、土を操ったりするのも風の属性にまとめられてるの。だからこの辺は深く考えなくていいわ。魔法なんて思い込みとイメージだけだから属性なんて結構適当よ。それっぽいやつだと思っといてくれればいいわ」
魔法ってそんな適当なのか……そもそも魔法の存在自体がおかしいことだけど。
「かなり適当だな……俺的にはそんな感じで適当に説明してくれた方が理解しやすいけど、属性魔法はこれで終わりなのか?」
「ええ、次は固有魔法を説明するわ。固有魔法はそもそも魔法使いでも数少ない人しか使えないの。固有魔法は属性魔法とは全く異質――私がいつも使ってる髪型を変えてる魔法わかるわよね?あれがそうよ」
やっぱりあれは魔法だったのか。
「じゃあ、固有魔法が使えるやつは凄いってことか?」
「……そうでもないわ。冷静に考えてみて。髪型を変える魔法が凄いと思う?」
「いや、全く」
俺は即答する。俺は女じゃないからよくわからないが、髪型を自在にできるって凄いの魔法なのだろうか?
「知ってるわよ!そんなの魔法使わなくってもできるし!ばっかじゃないの!」
なぜか生徒会長は激怒し始めてしまう。なんで俺がキレられてるんだ?
「すまん、悪いこと聞いたな」
「まあ、つまりそう言うことよ。いい?固有魔法はゴミなの!使えない魔法って覚えておいて」
「それってかなり偏見があると思うんだけど……まあ、メインとなるのは最初に言った属性魔法ってことでいいのか」
「ええ、そうよ。これで大体の説明は終わったわ。他に何かある?」
「何て言うか思ってたよりシンプルって言うか……そんなに難しくないな。雛井と直也は何の属性なんだ?」
「俺は先輩と同じ水だよ」
「私は……その、まだわかんないです……」
自信満々に答える直也に対して雛井は少し悲しげな表情で答える。
「生徒会長、俺より先に雛井の魔法を教えてやってくれないか?俺が一番魔法ができないって分かってるんだけど――」
「あー……その、ね。私も一つだけ、言わないといけないことがあるの……」
「なんだよ?急に改まって」
「でもな……やっぱり言いたくないって言うか……」
生徒会長がここまで言うのをためらうって――どうしたんだ?
「ど、どうしたんですか?大丈夫ですか?先輩」
「そうよね……いつまでも黙ってるわけにはいかないし……」
生徒会長はようやく覚悟を決めたのか、雛井を真剣な表情で見つめる。
「雛井さん!ごめんなさい!」
「ほえ?ど、どうしたんですか?か、顔をあげてください」
雛井はいきなり生徒会長に頭を下げられて困惑してしまう。
「その雛井さんの魔法についてなんだけど……大事なことを一つだけ言っておかないといけないの……」
「私の魔法ですか?」
「少し前学校で話したわよね?人前ではあまり魔法を使わないでって、それに魔法が失敗するのはあなたのせいじゃないって」
「は、はい」
「落ち着いて聞いてね。あなたの魔法は凄い魔法なのよ?多分、固有魔法の一種だと思うんだけど……雛井さんの魔法は――相手の魔力を消す魔法なの」
「えっと……どういうことですか?」
「簡単に言えば、相手の魔法を失敗させる魔法よ。あの時言ったことは嘘なの。雛井さんは他人の魔法を失敗させる魔法を無意識に使ってるの」
相手の魔法を失敗させる魔法――最初俺もそんなことを考えていたが生徒会長が否定したからないと思っていた。やっぱり、ケルベロスの魔法は雛井の魔法によって打ち消されたものだったのか。
「そうだったんですか?」
「あんまり驚かないんだな?凄い魔法だっていわれてるんだぞ?」
雛井からしたら嬉しいことなんじゃないのか?今まで魔法ができないと思っていたけど、実は凄い魔法だったなんて。
「ご、ごめんなさい。あまり意味が分からなくて……なんで魔法を消すのが凄いんですか?」
「イラッ!そんなの凄いに決まってるでしょ!なんで分からないのよ!」
「先輩落ち着いて下さい」
「ひぃ……ご、ごめんなさい。で、でもほんとによくわからなくて……」
「さよ、いきなり大声出してどうしたの?」
さっきまで美穂の隣で本を読んでいた神奈月が会話に入ってくる。
「優香は黙っててよ!雛井さんが全部悪いのよ!私をバカにして!」
「そ、そんなこと……別にバカになんて……」
「それがバカにしてるって言ってるんでしょ――」
「はいはい、分かったから少し黙って」
「くっ――」
生徒会長はなんでこんなに怒ってるんだ?こいつって凄い魔法使いなんじゃないのか?でも、こんなに激怒してるってことは雛井の方が凄い魔法ってことなのだろうか?
「雛井さん、ごめんなさい。さよはちょっと嫉妬深いだけなの。気にしないでいいから。ほら、さよもちゃんと謝って」
「なんで私が謝るのよ!私は絶対に謝らないわよ」
「確かに生徒会長の言う通り魔法を失敗させるって強いと思うんだけど……直也の前で取り乱すほど強いのか?」
「な……そ、それは――」
俺の直也と言う一言で落ち着いたのか、生徒会長は大きく深呼吸する。
「どれくらいの魔法まで消せるかによるけど……少なくとも優香の魔力を消せるってことが判明してるから私の魔法すらも余裕で消せるわ。魔法の九割以上を失敗させれるって私は考えてるの。下手したらすべての魔法は雛井さんの魔力の前では無力かも知れないわ」
「いくらなんでもそこまでは……」
「それほど凄いことなのよ。学校の魔力測定器は階級が正確にでるようになってて、階級を誤魔化すなんて不可能なの。中学の頃は階級は個人にしか公開されない。だから、自分で階級を偽ることができる。でも、高校ではそうはいかない。高校では最初の試験で正確に測定されてしまうの。それが生徒手帳に書かれている階級よ」
生徒会長は少し早口になりながら言った。
「その試験とかで手を抜いたりできないのか?」
「手を抜いたとしても潜在魔力――つまり自分自身に秘められた魔力から階級が判断されるから誤魔化しはきかないの。私も目立ちたくなかったから出来るだけ力を抑えたけどダメだったわ」
「雛井の魔法はその自分に秘められている潜在魔力を消すってことか?」
やっぱり雛井のせいで神奈月も階級がF級だったのか。
「私はそう言う魔法だと考えているわ。どう雛井さん。今のを聞いて自分がどれほど強いのか理解できた?」
「うぅ……それはその……な、何となくなら……」
これは絶対に理解できてない時の反応だ。
「なあ、別に雛井には難しいこと教えなくてもいいんじゃないか?あんまり理解できなさそうだし……それに自分が今まで魔法が苦手で、いきなり自分が強いなんて言われてもわかんないだろ?」
「神山君の言う通りよ。さよも教える立場なんだからもっと考えて行動して」
「……本読んでるあんたに言われるとほんとイラッとくるわね。その……さっきはごめんなさい。感情的になって……」
「い、いえ、気にしないでください。そうやってほんとのこと言ってくれるのは……その……信頼してもらってるからこそ言えることだと思うので。もし、今みたいに不安がある時は気にせずに言ってくれると助かります」
「雛井さん心広すぎだよね?さよも見習えば?」
「あーもう!うっさいわね!それにもう一つだけ言っとくわ。この相手の魔力を消す魔法はすべての魔法使いに勝てる可能性を持ってるの。前に他人の前で魔法を使わないでほしいって言ったのはこの為よ。だから今後も絶対にこのギルド以外の人には魔法のことは話ちゃダメよ?使うのもできるだけ控えちょうだい」
「は、はい。分かりました」
「他のみんなも絶対にこのことは口外しちゃだめよ?」
人に言えないほどの凄い魔法――それが雛井の魔法だったのか。雛井の方に目を向けると頬が少しだけゆるんでいるようにみえる。
意味はよく分かってなさそうだけど、念願の魔法が凄い魔法だったんだ。
「良かったな雛井」
「はい、ありがとうございます」
雛井は満面の笑みで俺にそう言った。




