早田音さよ2
悔しさで涙がこみ上げてくる。でも今は泣いてる場合なんかじゃない。早くこいつをなんとかしないと。私が魔法を使えば一発で……あれ?
そして、私はその瞬間初めて自分の体の異変に気が付いた。この最悪の状態に――
「ゴーレムの後ろの赤色の核を狙って!そうすればこいつを止められる!」
くそっ!なんでこんな状態なのにまだ魔法が使えないの!魔法は精神状態がしっかりしてないと使えないって聞いたことがある。それは知っていたけどまさか自分がなるとは思ってもなかった。少し前まで自分が完璧だと思い上がってたのが恥ずかしい。こんなことで動揺して魔法が使えなくなるほどメンタルが弱かったなんて。
一体どうすれば――――いや、これならいけるかも?でも――迷ってる暇はない!!
「これを使って――」
私は自分の指輪を直也に向かって投げ渡す。指輪は魔法使いにとって命に等しい存在。そもそも、指輪にはそれぞれ相性がある。どの指輪をつけても魔法が使えるとは限らない。でも、私にはわかる。時葉直也――あいつなら必ず使える。なんたってあいつは私のことが好きなんだから……。はは、まさか今日あったばっかりのやつに指輪渡すなんて思ってもなかった。
「え?これって……。先輩、ありがとうございます!」
一瞬、戸惑っていたがすぐに理解してくれた。
「お礼はこいつを倒してから言って!」
――――直也の足元に魔法陣が現れる。どうやら私の指輪と直也の魔法の相性は良かったようだ。もしここで相性が合わなかったらどうなっていたんだろう。いや、起きなかったことを今考えても仕方ない。今は私にできること――僅かな時間ででいい。こいつを足止めしないと。
私は軽く縛ってあった縄をほどき直也がさっきまで使っていた木の棒を持ちゴーレムの足に木の棒を渾身の力を込め投げつける。
「こっち向きなさい!ゴーレム!あんたは私が作ったのよ!」
ゴーレムは攻撃を中断し私に攻撃しようと直也に背を向ける。よし、どうやら私も敵に判定してくれたようだ。私を近づいてくるやつを攻撃しろと命令してある。私は守る対象だ。もしかしたら私には攻撃してこないかも――でも、世の中そんなに上手くいかない。これは所詮作り物だ。
ゴーレムは何のためらいもなく私に強烈な一撃を与える。至近距離からの攻撃を避ける間もなくもろに受ける。
「きゃあ。くぅ……」
ゴーレムに吹き飛ばされる。嘘でしょ――この痛み。死ぬほど痛い。物理的なダメージなんて何年ぶりなんだろ。たかがゴーレムごときにこんなに苦戦するなんて思ってもなかった。A級でも魔法を使えないとゴーレムにすら勝てないって……。しかも、自分が作ったゴーレムに……滑稽すぎる。
魔法が使えない――雛井さんはいつもこんなことを思っていたのかな。
「せ、先輩!」
「私は大丈夫だから!魔法に集中して!」
ゴーレムは再び直也に攻撃しようと直也の方に向きを変える。
くそ!!なんで一回攻撃を受けたくらいで立てなくなるのよ!あいつは何回攻撃を受けても立ち向かってたじゃない――動いてよ!私の体!せめて魔法が完成するまでは……。
「こっちよ――ゴーレム!」
痛みを無理やり抑えゴーレムに全体重を込めてで倒れこむ。ゴーレムが再び私に攻撃をしようと向きを変える。
その瞬間、直也の魔法が完成する。
「水の槍――――いっけええええ」
直也の魔法陣から水の槍が現れるれゴーレムの赤い核に直撃する――――核を失いゴーレム機能停止し巨大な体が崩れ落ちる。そっか……こいつは水の魔法を使うのか。私と相性も良さそうだ。
「ふぅ……よかった…………」
全身の力が抜け私は地面に倒れこむ。
「先輩!」
直也は急いで倒れこんだ私に駆け寄ってくる。
「早くこの場所から離れましょう。先輩をさらった奴がまた戻ってくる前に別の場所に――」
直也はふらふらの体で私を別の場所へ移そうと私を抱えようとする。忘れてた。ちゃんと説明しないと……。
「ちょ、ちょっと待って。嘘なの。全部私が一人でやったことなの。あの手紙を書いたのは私なの。ごめんなさい……ほんとはそんな人存在しないの」
「えっ……なんだ……良かった……。別に先輩は狙われてるわけじゃないんですね」
安心とわかった途端、直也も私と同じように地面に倒れこむ。こいつ何言ってるんの?何がよかったの?全然理解できない。ムカつく――
「ねぇ、何が良かったなの!どうしてそんなこと言うの?私のせいであなたはそんなにボロボロじゃない!私のこときらいにならないの?ねぇ、教えてよ!どうして今日始めてあった私にそこまでしてくれるの?さっきも言ったでしょ?あんたのことなんで大っ嫌いなのよ!」
つい怒鳴って言ってしまう。助けてもらったのにこんな態度をとってしまう私。最低だな……。
自分で自分がクズだっていうことは自覚していたけど……そんな私をこいつは今でも好きなんだろうか?嫌われたりしないだろうか――
「最初に言いましたよね?好きだからに決まってるじゃないですか。好きな人の為に命をかけるなんて当たり前のことですよ。って言っても本当は姉ちゃんにずっと昔から言われてたんですよ。好きになった人のことは自分がどんな目にあっても守りきれって」
直也は笑いながらそう言ってくれる。あいつがそんなことを……。
「そっか…………。私は自分や傷つけられただけで動揺して魔法もろくに使えなくなったのにあんなにボロボロな体で普通に魔法使えるなんてすごいね」
私は嘘をつく。きっと私が魔法を使えなかったのは自分じゃなくてこいつが私の為にボロボロになってくれたからだろう。自分がボロボロになったからって魔法が使えなくなることなんて今までなかった。
あれ?もしかして今私ものすごく恥ずかしいこと言ってなかった?そう思うと急に顔が耳まで真っ赤になる。
「そ……そんなこと……な……」
私が一人恥ずかしがっていると直也は急に意識を失ってしまう。
「ねぇ!どうしたの!大丈夫?」
慌てて直也の右胸に耳を近づける。どくんどくんとしっかりと心臓の音が聞こえる。
「ってなんだ……生きてるじゃん……びっくりさせないでよ」
ふぅ~と安堵のため息がでる。って安心してる場合じゃない!急いでマジックフォンを取り出す。アドレス帳にはたった二人の名前しか登録されていない。それでも私には十分だ。私は親友ではないもう一つの方へ連絡する。
「もしもし!」
『もしもし、さよ様どういたしました?』
「吉田さん!今から急いでいつもの草原にきて。できるだけ早くお願い」
『はい、わかりました。では、少々お待ちを』
私が真剣なのを理解してくれたのか吉田さんは理由も聞かずに了承してくれる。本当に助かる。
「あ、ありがと……」
『いえいえ、お気になさらず。では、後ほど』
私はそう言い終えるとマジックフォンを切り、隣で倒れている直也に目を向ける。こんなにもボロボロになって……。私は安心しきって笑顔のまま寝ている。こいつを見てるととっても安心する。さっきまでこいつを見てるだけでイライラしてたんだけどな……。そうか、私はこいつに助けてもらったのか。そっと倒れている直也の頭をなでる。
「――ありがと」
私は直也の耳元でそっと呟く。ああ、なんでこんなふうになっちゃってるんだろ……。私って本当に最低だ……。




