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最近の若者は苦労を知らないそうで  作者: 木介


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伝説のスパイ

乃亜の誘導で出口へゆっくりと向かっていく、しばらくすると見知った道へ出てきた。


(やっと着いた、ここを曲がれば後は真っ直ぐ進むだけ…)


そう思い逸った気持ちで通路を曲がる。


「違う! そっちはダメ!」


乃亜の力強くも静かな声で善子は立ち止まった。


「そこでは曲がらずに真っ直ぐ進んで、三つ目の角を右へ曲がったら、そこから最初の角を左へ曲がって外へ出て!」


「でも…」


「あとなるべく急いで行った方がいいわ、嫌な予感がするから」


「…」


「私を信じて!」


「…わかった、信じるわ」


善子はこの時決意した、乃亜の言葉を信じて疑わないと。

そして善子は彼女の指示のとおり少し急いで進んでいった。


三つ目の角を右に曲がる、次を左へ曲がる、しばらく進むと外へと繋がる扉が見えた。


(やっと出れる!)


そんな思いで善子は外への扉を開けて新鮮な空気を胸いっぱいに吸う。


気付けば、隣にいた鉄人が、壊されていた。


「壱」


「あんまり驚かないんだな」


実際は驚いていた、乃亜の指示どおりに来た結果、鉄人が一瞬で破壊され一人になったのだ。

ただそれを見せないのは相手の出方が分からないという警戒心からであった。


「ん、あぁ、それならここにいる、問題ない」


壱は善子を置き去りにして何やらインカムを通して話しているが自分の事を話していると分かる言い方をしており、聞いていて善子は腹立たしく思った。


すると壱は善子の方を見て告げる。


「早乙女愛子、朝日乃亜、鏡操、彼らは拘束させてもらった」


この言葉で善子は全てを察した。


「で、次は私ってわけ?」


「GS以外のスパイはいらない、俺達の目的は端から伝えているはずだ」


そこまで言って壱は少し考えた素振りをみせ話を続ける。


「善子、俺達の仲間になれお前には才能がある」


断ればどうなるか等、善子は分かっている。

鉄人を素手で壊すような人物に敵うはずも無いと善子は重々分かっている。

分かっていながら彼女は選択したのだ。


「断るわ!」


「そうか…、残念だ」


ーーー

「お疲れ様です! あれ? 善子はどうしたんですか?」


GS 本部へ戻ってきたのはアタッシュケースを持った壱一人だけであった。


「彼女は優秀すぎた、我々の仲間にならないと言われたいじょうは殺さざる終えなかった」


「そうですか…」


「疲れたから、隊長、後は頼んだぞ」


そう告げる壱の背中は寂しそうで隊長は敬礼で見送るのだった。


ーーー

スリーエス襲撃の後、鉄人に襲われていた訓練生達はGSの力で社会へ戻されていた。

この世界に二度と戻らない事、絶対に他言しない事。

破った場合はどこにいようと死んでもらうという脅し文句と共にこの二つの条件で多くの訓練生が一般社会へ戻っていった。


だが一部の訓練生はスパイへの憧れを胸にGS へ残る選択をする。

スリーエスとは違い、見込みがあると思われた人のみ、プロが弟子として育てるのがGS のやり方である。

よって多くの者がスパイにはなれずにバックアップとして生きているのだ。


そして最近、元スリーエスの訓練生を弟子としてとった者がいる。

何を隠そう、その師弟とは早乙女愛子と沙夜である。


あの後、拘束された三人も善子と同様にスカウトされていたのだ。

結果として現在三人ともGS所属となっている。


朝日乃亜はその薬剤に関する知識を活かして医療部隊として活躍しており、鏡操は自分が着ていたバトルスーツを再現出来るように日々研究している。


唯一、スパイとして現場で活躍する事を認められた愛子は組織に入る条件として訓練生達の身の安全。

それともう一つ、もし沙夜がGS に入ると言った場合は自分が面倒を見るという二つの条件を出してきたのだ。


そしてその条件をGS は呑んだ。

戦闘こそ一般人より少し強い程度の実力であったが、彼女の変装技術と現場での判断が評価され、条件以上の価値があると踏んだのだ。


三人を変えたのは善子、彼女と出会わなければ人生どうなっていたのか分からない。

だが現在、過去の自分より充実した日々を過ごしているという事実に三人は感謝をしているのであった。


ーーー

ある公園のベンチに座っている老人へ背中合わせに座った若い女性が話しかける。


「薬直喜さん、いや、三井修造さんとお呼びした方が良いですか?」


老人は驚き振り返ろうとするが相手がそれを許さない。


「振り返ればこの話は終わりにします」


「あんた、確か伝説と言われた男の所にいた…」


老人の言葉を遮り彼女はある話をする。


「あんたのお孫さん、亡くなったんですってね」


「…」


「特効薬とはあなたがお孫さんの為に作った物ですね?」


「…あぁ、だがあれは世に出てはいけない代物だった」


修造は歯切れ悪く答える。


「ここからは私の想像で話をします」


「まず事の発端はお孫さんを治す為に開発した癌の特効薬、これを盗まれた事が発端。


盗んだ相手はスリーエスのスパイ平野仁志、当時は何と名乗っていたのかは知らないけど、混乱を招かないように平野とします。


そして盗むよう依頼したのはナオルンデス株式会社の社長大原、ただ依頼をこなしたこの平野が厄介な人物であなたに特効薬を取り返す方法を教えた人物でもありますね?」


「…」


修造は難しい顔をしたまま固まり、その表情は合っている事を物語っていた。


「続けます」


「平野の目的は私達を誘き出し競い合う事、彼は最初、いわゆる予選を行った。

これは最後に向けての選別、彼の頭の中では既に次どうするか、最後の舞台はどこにするかが決まっていました。


だからこその会議室での一言「三井修造と繋がりがある」というものは私に向けて言った言葉であり、社長への脅し文句だった。


そしてその目的は社長から特効薬を渡してもらう事。

自分も依頼して盗ませた社長はあの一言で三井から送られてきたスパイだと察したと思うわ。


後は直接三井より少し多く金額を払えば守ってやるとでも話をしてあげるだけ、何の苦労もせずに特効薬を手に入れられる」


「まぁ、結果として特効薬は私が手に入れたんですけどね」


勝ち誇ったように女は笑いながら告げる。


「じゃあ今手元にあるのか!」


「だから来たのよ、依頼料をもらいにね」


そう言って女はサンプルを手に持ちぶらぶらと見せびらかしてくる。


「それは人類には必要の無い物だ」と怒りの表情を見せ修造はそれを奪い取り、地面へ叩きつけた。


はぁ、はぁと息を切らす修造に尋ねる。


「どうゆう事情か聞いても?」


「この薬についてどこまで知ってるか分からんが、簡単に説明するならこの薬は人を作り替える薬なんだ」


「ワシは孫に投与した、これで癌が完治すると疑わなかった、だが結果はどうだ! 投与してから数日で孫に言われたよ」


【おじいさん、だれ?】


「人が立ち入ってはならない領域に手を出した罰だとこの時思った、そして私はこれを世に出す訳にはいかなかったのだ」


泣きながら懺悔するように告白する修造へ女は言った。


「甘えんな!!」

「自分がやった事をなかった事にする為、私達を使ったあんたのやり方は現実逃避でしかない!」

「あんたが本当に孫の為を思ってする行動は薬品を奪って叩き壊す事じゃない!」


彼女も怒りのまま話し、修造へ想いをぶつけてきた。

大きく息を吸い冷静になった彼女は「あとは自分で行動する事ね」と告げる。


「自分で行動ってどうすれば」


そう言って振り返るとそこにはもう誰もいない、あるのは一つのUSBメモリだけであった。


ーーー

「ナオルンデス株式会社の新薬について三井修造氏から告発がありました、人体実験をしていたというのは事実でしょうか?」


社長の大原は取材陣に囲まれてながら「現在調査中です」と繰り返し告げ、会社へ入る様子がテレビに映る。

最近はどこのメディアもこの話題で持ちきりであった。


「我々が調べていた事、先を越されましたね」


隊長が壱へ話しかける。


「研究データの所持から実験体の記録まで、とても三井が一人で集めたとは思えないんですけど…」


「壱さん、何か心当たりありますか?」


隊長まで上り詰めた男だ、察しはついていながらわざと聞いているのが分かる。

そんな質問に壱は「さぁな、ただそんな事が出来るのは伝説のスパイだけかもな」と応えた。


「う~ん」と納得が言っていない様子の隊長は続けて質問する。


「そういえば何でぜんが伝説のスパイって言われてるんですか? 任務を完璧にこなしていたとか聞きますけど、それって当然ですよね? 我々の世界では失敗イコール死なんですから」


「あぁ、それはな…彼が唯一独立を認められたスパイだからだ」


壱はこの言葉と共に過去を思い出す。


「壱、俺子供を育てるから独立するわ」


笑いながら告げるかつての友人。


「独立なんて無理だろ、上が認めないよ」


「いや、認めさせる、無理を実現出来なかったらスパイじゃないだろ」


まるで当然出来るかのように話す友人はその言葉を再現してしまった。

そしてもう一人、無理を実現した女の子を思い返して壱は密かに笑うのだった。


ーーー

仏壇に手を合わせる女性。

その小さくも頼りがいのある背中越しに見える笑顔の写真が二枚。


この女性の元にはいつも不可能と断られた仕事が舞い込んでくる。

そして今日も仕事を完璧にこなしてくるのだ。


全識とうさん、私が跡を継いだよ」


そう彼女は伝説のスパイ【善子ぜん】である。


(了)

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