第七章「九条風華」
「工房長、お客さんです」
男子生徒が火守かがりに声をかける。
「あ、そうや。VIP案件や。竜子坊にはすまんなあ。横入り割り込みのダブルブッキングやが、堪忍な」
「ええよ。わたしら単なる学生で、時間は売るほどあるし」
泰然と構える|竜子。ナナは状況が理解できない。
「お忙しいところ、すまんですなあ」
はんなりとした声で挨拶したのは、和服の訪問着姿の少女だ。右手でアルミ製の松葉杖をついている。
京都学生図書委員長の九条風華である。ナナは初対面だ。
(これが、九条風華さん。こんなにきれいなひとだったんだ)
風華はナナより一歳年上の中学三年生。小柄だが、貫禄十分。女優のような立ち居振る舞いだ。背後には護衛役と思しき黒服サングラスの巨漢が複数。
「こちらこそ、わざわざこんな山奥までご足労いただいて」
と、かがり。
「はじめまして。九条風華です。風間ナナさんですね。京都にはもうお慣れになりましたか?」
「は、はい」
突然声をかけられて、ナナは緊張してしまう。
「ちかぢか、お時間をちょうだいいたします。東京のお話を聞かせてくださいね」
「飛べないウェンタは芋虫毛虫。その芋虫のマナを有効利用して頂きたく、参上いたしました。天狗工房の皆様、よろしゅうお願いします」
深々とお辞儀して、にっこりと微笑む風華。
「ご協力感謝やで。機械のほうはとうに準備済みや」
風華は着物から体操着スタイルに着替えている。ストレートの黒髪を赤のリボンでまとめている。上は白の半袖、ボトムはイマドキ珍しいクラシックな紺のブルマーだ。足元は裸足。
(風華さん、かっこいい)
ナナの感想は常に率直である。だが、男子生徒たちが台車で運んできた機械を見て、ナナはその異様さに驚かされる。
(十字架!)
X型の十字架が台座に据えられている。後ろから太いケーブルが何本も出て、コンソールパネル付きのマシン本体と、ステンレス製のタンクに繋がっている。
十字架の前に風華が立つ。男子生徒たちが、風華の腰と手首足首を白い樹脂製のバンドで十字架に固定する。風華は平然と、されるがままになっている。頭にはバイザー付きの白のヘッドギアを被らされて、十字架に接続される。
(風華さんが十字架にはりつけ…。いったい何が始まるの?)
「変な趣味ちゃうで! お嬢の身体に負担をかけずに、ウェンタのマナを最大効率で採取するために、わたしが特別設計したマシンや。誤解せんといて」
ナナが青い顔をしてるのを見て、かがりが言い訳する。
「あ、でも写真はダメやで。カメラも動画も撮影禁止。誤解されるさかいな」
「どっちやねん」
竜子が突っ込む。
かがりがスイッチを入れると、機械本体が、ぶうううううんと低いうなりを上げる。
「九条風華、行きます! うぃんぶろー」
風華がウェンタの図書委員の起動ワードを唱えると、その身体から、ゆらりと緑色のオーラが立ち上がる。次第に濃くなって、霧のように全身を包み込んでいく。
(凄い! わたしのマナの一〇倍、いえ、一〇〇倍?)
「採取開始!」
かがりの号令で、機械のの作動音が高まる。風華の身体から放出される、緑色のマナを吸い上げていく。
「ストレージ七〇パーセント、八〇、九〇、とめろ!」
作動音が低下し、機械が停止する。
「あら、こんなものでよろしいの?」と風華。
「十分すぎや。ホント、どんだけパワーあるんや、このお嬢さんは」
十字架から降り立った風華は、うっすらと汗をかき、顔をわずかに上記させている。
「はあ、色っぺえ。惚れるぜ」
竜子が不穏な不規則発言。
「お疲れさまです。風華様」
黒服たちが、用意した巨大なバスタオルで風華の身体を包み、控え室に誘導する。
風華は再び着物スタイルだ。
「ちなみに開発状況はいかがです?」
「ああ、アレな。もうちょっと時間がほしい。お嬢のおかげで、中身はとうに精製済みなんやが、ガワを検討中。天狗ならともかく、普通のウェンタの女子の細腕でも、そこそこ遠くに放れるようにせんと危ないからな。小さいとは言えハンド・グレネードやし」
二人のやりとりを片聞きしたナナは仰天する。
「グレネードって、爆弾?」
「ナナカラは聞いたらあかん!」
竜子が制止する。
(このひとたち、いったい何の準備をしてるんだろう。もしかして「戦争」?)
ナナの胸中に暗雲がたちこめる。
そして、物語は、京都の夏の終わりの最大イヴェント。「大祓」へと続いていく。
<劇終>




