↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/7

第六章「天狗工房」

 洛中(らくちゅう)高校での天狗党の定期訓練が終わった後、備前竜子(びぜんりゅうこ)は風間(かざま)ナナを連れて「天狗工房」を訪問した。


 京都市内からは電車を乗り継いで、そこそこの距離だ。出町柳(でまちやなぎ)から叡山(えいざん)電車で、京都の北の鞍馬(くらま)へ。鞍馬はかつて修験道の霊場だった。鬱蒼とした森に覆われた山で、盆地の市内より気温がぐっと下がる。駅から徒歩一〇分で鞍馬高等専門学校、略称・鞍馬高専へ着く。


 高等専門学校=高専は現在日本の注目の教育機関だ。中高五年の一貫教育により、科学技術立国を伝統とする日本の中堅技術者を養成する。さらに工業系大学、大学院に進学し、テクノエリートへの道もひらかれている。


 令和の現在は、時代のトレンドでハイテクてんこ盛り。ぴかぴかの新校舎を誇る。近年はAIも取り入れ、情報科学の最先端をも視野に入れている。


 その、ぴかぴか新建築のエリアを通って、竜子とナナは、キャンパスの裏手へ行く。現在は使われていない、旧校舎が立ち並んでいるエリアだ。そのさらに奥に行く。山に近い、大きな建物の扉の向こうから聞こえてくるのは、金属を叩く乾いた音と、男たちの声。


「工房長! 温度、もう二百度上げます!」

「アホ! 一気に上げたらアカン言うてるやろ!」


「お、やっとるやっとる」と竜子

「ここが鞍馬天狗党の中枢なんよ」

「ここが……?」

 ナナが覗き込む。


 鉄扉の向こうは、古い木造の体育館を改造した工房だった。床板を剥がしてコンクリートを直打ちした床に、さまざまな工作機械類が据え付けられている。溶接機、各種旋盤、工具棚、そして中央には、簡易の鍛造炉。油と金属の匂いが混じった、むっとする空気が立ち込めている。


挿絵(By みてみん)


 男子生徒が五、六人、作業服姿で忙しく動き回っている。

 その中心で、赤い髪の小柄な少女が腕を組んでいた。

「素体から歪んどるやんけ。三回言うたよな。段階上げや、段階上げ」

「は、はい」

 少女はため息をつく。

「バーナー貸し」

 差し出されたバーナーを、彼女は片手で受け取った。

 ぱち、と火がつく。炎が一瞬だけ強く揺れた。


 ナナは思わず息を呑んだ。

 ただの火じゃない。ウェンタが風を操るのと同じように、火がその少女の手の中で静かに形を変えている。


 数秒。

「……ほら、直った。後はできるやろ?」

 少女は工具を机に放り投げた。


 そのときようやく、こちらに気づいた様子だった。

「なんや竜子坊。今日は新人連れてきたんか」


 竜子が親指でナナを指した。

「せや。紹介するわ、かがり坊。カラス天狗の新入り。ナナカラスこと風間ナナちん。チャキチャキの東京モンや」


「ふーん」

 少女はナナの前まで歩いてくる。

 小柄で身長は中二のナナとほとんど変わらない。だが、周りの空気が違う。

「うちは火守(ひもり)かがり。鞍馬高専五年四組。図書委員や。言うても図書館の仕事は各クラスの担当者にお任せして、裏稼業は天狗工房の管理人。見ての通りのイグナ。鍛冶屋さんやな」


「続きは任せたで。温度だけ、十分に注意してな」

 さっきとは打って変わって、優しい口調で男子生徒たちに命令して、かがりは、竜子とナナを別室に招く。


「ブツはできとるで。後は実地テストのみ」

「さすがは、かがり坊や」

「おだてんなや。そのテスト要員がナナちんちうわけやね」

「わたしですか?」

 いきなりの指名で、ナナはびっくりする。

「大丈夫や、危ないことはなーんもあらへん」

 思いっきり危なそうである。

「だ、大丈夫って、何ですか? そもそもブツとかテストとか」

「ああ、言い忘れとった。ごめんな。天狗党制式採用予定の新型扇子や」

 竜子がフォローする。


 その扇子をナナは手に取ってみる。

「強化アルミ製の、フツーのウェンタ用装備だと思いますけど、変に重いのは何ですか?」

「まあまあ。説明するより、テストすれば分かるよって」


 工房の外の、瓦屋根の木造の建物に案内される。弓道場だ。

「高専弓道部が新校舎の弓道場に移った後を、工房が試射場として借り受けとるんや」


 ナナは射場に立つ。中学校の夏服制服で、靴下は脱いで裸足。扇子を右手に持つ。

 二〇メートルほど先が的場だ。的は通常は木枠に紙を貼ったものだが、鉄板に同心円が印刷されてあり、土台は道路標識のような頑丈な作りで的場に固定されてある。


「まずは、いつものようにフレチャを撃ってみて」と、かがり。

「はい」

 ナナは的に向かって体勢を整える。右手の扇子を上段から振り下げる。

「ふれちゃ!」

 高圧の風の矢が扇子から打ち出されて、ぱあんと的に命中する。

「ビンゴ!」

 かがりが叫ぶ。

「さすがナナカラ。初弾から的中や」と竜子。


「次はな、撃ち出す時に、扇子のここについてるポッチを押すんや。軽く、一回だけやで」

 かがりが指導する。 

 ナナは再度的に向かう。前と同じように、上段から扇子を振り下げて、

「ふれちゃ!」

 パパパンと爆竹が弾けるような音がして、扇子から何かが発射された。それも数発。的に命中して、真っ赤な火花が散る。

「こ、これって…」

 呆然とするナナ。

「的中! 効果確認!」


 三人で的を確認する。鉄板に三か所、直径五ミリほどの穴が貫通している。

「まあ、こんなもんかなあ。一発のつもりが三発だったんは予想外やった。トリガーが軽すぎるんやろうかなあ?」とかがり。

「自動小銃の三点バーストと考えりゃええやろ? 打撃力は十分」と竜子。

「銃…って?」とナナ。


「扇子に直径三ミリの鋼球を仕込んだんよ。それをフレチャに合わせて発射する。単なるフレチャじゃ、エアガン程度の威力やけど、小口径ライフル程度に増強できる。射程距離も飛躍的に伸びる。画期的やろ?」

「それって、危ないですよね。もしも人に当たったら…」

「人に向けちゃあかんで。ダメ絶対。影だけ。ああ、東京じゃDQ獣言うんよね。ともあれ人に当てな無問題や」

 ナナはもう二の句を告げない。


 そんなナナを放っておいて、かがりと竜子のやり取りが続く。

「鋼球じゃ貫通力に不足がある。工房担当のわたしとしては、タングステンの採用を提案する」

「タングステンはメチャ高いんやで。予算が十倍必要や」

「天狗党は貧乏やさかいなあ…」

 かがりはため息をつく。

「そのため息が貧乏くさいんや!」

 竜子が突っ込む。


 かがりがナナに話しかける。

「ナナちんはウェンタやけど、ナナちんを指導した姉弟子はウェンタやない。わたしと同じ、火属性のイグナや。図星やろ?」

「そ、そうですけど。京都と違って東京にはウェンタは少なくて、あたしの所属の板橋区じゃ一人もいなかったから」

「まあ、田舎じゃありがち。しゃーないねえ」

 サラッと東京を「田舎」認定するところが、京都人の本音ダダ漏れである。

「でも、イグナっぽさがナナちんに『強さ』をプラスしている。積極性、果敢さ、良い意味での攻撃性。そやろ、竜子坊?」

「それがナナカラの最大ポイントや。入党テストの時に分かってた。京都のウェンタには無い資質なんよ。京都のんは、はんなり、ふわふわ、お上品と、そんなんばっか」

「だから武道で補填する。そやろ? 竜子坊は槍。紫蓮院の金髪お嬢は薙刀や。明里坊は弓道やったっけ?」


「その明里坊から厳命や。今日のテストの流れで、かがり坊がタングステンの代案で、とある金属を提案してくる、それはダメ絶対、とな」

「と、とある金属って、それって…」

 かがりが言葉を濁らす、視線が宙に浮く。

「…劣化ウラン」

 竜子がぼそっとつぶやく。

「あ、あのなー。確かに代案は劣化ウランなんやけど。なんやけどなー。ウランちうて誤解せんといて。劣化ウランは原爆とも原発とも無縁。放射能は無問題。めちゃ重くて固くてなー」

「それで?」

 竜子の口調は零下三〇度だ。

「命中した後に高温燃焼して打撃力マックス。装甲車両かて撃破可能。これが最適解!」

 かがりは両手拳を握りしめて熱弁する。

「実はな。入手も闇ルートですでに確保済み…」

「やーめーとーきー!」

 竜子が冷たく断言する。


(これって…何? 天狗党って、図書委員じゃなくて、軍隊? じゃなかったら、テロ組織だったの?)

 ナナは激しく混乱する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。