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一話

人生において何が重要か。

小学校の道徳の時間に出された問題に俺、水上みずかみ 涼介りょうすけは答える気が起きなかった。

別に問題を笑ったわけでも軽んじたわけでもない、ただ少しおかしみを感じただけ。

その答えは人それぞれが適当な問題、それは先生も知っている上で言っているのだからそもそも問題と言うことに無理がある。

問題には解があるべきでその解がなければそれはもう問題として破綻している。


だが、小学校高学年にそんな事を考えるのは幼少期母親から「友達は慎重に選べ」と抑圧され捻り曲がった性根を持つクソガキか俺くらい。

その問題?が提示された5年B組にその疑問を持ったのは俺だけらしく他の生徒たちは各々に答えを紙に書く。


ーゆめー

ーおかねー

ーごはんー

ーおかあさんー


それぞれの重要を出していく中で涼介少年は紙にこう書いた。

ーーー余裕よゆう、と。


「聞いているのか水上」


「はい……すみません」


そんな昔話に思いを馳せていると国語教師のイメージを反転させたようなゴリ男田中が俺を睨みつけページの音読を催促してきた。

全く高校2年にもなって音読とは、入る高校を間違えたか。

そんな事を思いつつ指定されたページを開き物語の続きを読もうとした瞬間、言葉が詰まる。

それを見て田中も少し怪訝そうな顔で俺を見る。


「どうした水上、ページは59ページだぞ」


「分かってます……分かってますけど」


俺は波風をたてる事は好まない、何か理不尽な事があっても謝って済むならすぐに頭を下げるし少し疑問を持っても全体を止めてその疑問を投げかけるなんて事はしない。

もちろん今も例に漏れずどれだけ嫌いな教師でもクラスの流れを止めてまでそいつの授業を妨害しようなんて事は考えない。

ではなぜ俺が音読をせずに止まっているのか、音読部分がわからないでも声が出なくなったからでもない、もっと根本的なものが欠落していた。


ーーーページが光って何も見えない。


「田中先生……ページが光って……!!」


それを指摘した瞬間に眩い光が俺を包む。

その光は寝起き全灯よりも眩しくどでかい花火よりも眩かった。

光と共に意識も途絶えていた。


ーーー


「ん……ここは」


水が落ちる音と共に目覚める。

視界は光の点々が映る天井と草木が絡まる古びた壁。


「なにここ!!!」


そこに響く女の声。

場所に驚きたい所だったがその聞き覚えのない女の声に気を取られその方へ向く。

顔はひきつった金髪の女……というよりは少女に近い容姿、服は制服、見た事がない制服。

その少女の声を皮切りにそれぞれ男女の叫び声が古びたこの場所に響く。


人が慌てているのを見ると冷静になる現象をなんと言ったか……それが今自分自身に起きている。

多分一人だけだったら泣き叫んでいる、だが隣の少年が泣き叫んでいるので涙も声も出ない。


「落ち着こう皆」


そんな中、オールバックのラグビー部(仮)が声を上げる。

やはり場を絞めるような人材は顔から違う、多数いる少年少女を見渡した時4名ほど落ち着いた人が目についた。

今落ち着こうと言った男前もその一人。


「とにかくまずは状況を確認しましょう」


オールバック男前とは違い中わけの長髪、美連な女。

両手を広げ講演会でもするかのように落ち着いた口調で周りに話しかける。

声の色とテンポで詐欺師に向いているのではないかと思い、なんなら詐欺の一つや二つを踏んでここに来たのではないかと疑ってしまう。

それほどに落ち着いた信頼のおける声。


「そうだよ!まずは立とうよ、元気でるよ!!」


リーダーの素質は多岐にわたるがこの形もまたリーダーシップと言える。

周りを鼓舞して自分を奮い立たせるリーダー、この短髪褐色の元気印の女もそれなのだろう。

大きな声は不得意だがこういう不安な中での元気は誰にもできない取り柄と言える。

前途の3人を見て顔色が良くなる一同、だがそんな雰囲気を壊すように上空に見える眩い光とーー


「こんにちは、若き旅人達よ」


声にならない驚きの中、数名が空を指差し全員の視線が釘付けに。

幼少期から動物図鑑などを見てきたが目の前にいる生命体はどれにも当てはまらない。

それもUMAなどの空想上の生き物にも該当しない。


一つ目、二頭身で羽毛に覆われた浮遊する何か。

二又に分かれた綺麗な尻尾が空中にただよい、赤から青になるグラデーションの体毛は神秘的という言葉が似合う。

声もその神秘に拍車をかけるほどに透き通っている

その透き通った声を持つ幻獣が言葉を続ける。


「突然の召喚に戸惑っているかもしれないけど、早速ほんだ……」


「なんなんだよお前!!」


声を遮るように叫ぶ男。

話を遮ることはあまり褒められた事ではないけど状況が状況なだけにそれを咎める人はいないだろう。

まぁこの男が言わなくても他の誰かが遮ってたけど。

取り乱した男は幻獣に向かって唾を吐く。


「なんでこんな所にいるんだよ!とっとと返せよ!!」


混乱しているには必要最低限の正確な問答。

この人は存外冷静なのではないだろうか、汗はあるが目はしっかりと開いている。

手先も震えているが足まではない、さっきの3人の鼓舞で活気付いたか?

その問答に幻獣は答える。


「ここは君たちがいる世界とは異なる場所、返すには我々の要求を飲んで頂きます」


丁寧な口調で押し付けるような言い振り。

言葉を聞きその場にいる全員は共通の疑念を抱いていた。


「そんな……勝手すぎるでしょ!!」


泣き叫ぶ女の声が我々の疑念を代弁してくれた。

そう、この幻獣は身勝手がすぎる。

我々はこの幻獣の言うことを聞く義理はないしここへ拉致される理由もない。

つまり、すべては相手の勝手な事情。


「それは申し訳なく思っています」


頭を下げる幻獣に困惑。

悪びれているにも関わらず幻獣の顔は凛としている。

本当に謝罪の意があるのか疑わしいほどに清々しい顔をしている。


「ですが日本に帰る条件は一つ」


いきなりの核心、今我々が一番知りたい情報。


「それは、この中にいる4人の勇者をリーダーにし……帝王を殺して頂きます

 殺したパーティの皆様には日本への帰還を褒美としてお渡しします」



帝王……勇者……4人。

渡された情報が整理できない、ゲームでしか聞いた事がないとして思えない。

なにを言いたいかというと……現実味がまるでない。


「この中から5人1組のパーティを組んで頂きそれぞれの道で最終地点、帝王が住む居城「終焉の城(ラスト・ヤード)」へ行って頂きます。我々からも少しばかりの助力を」


幻獣が光と共に回転すると地面には四つの大きな箱が出現。

淡々と流れる説明に一同の口は空いたまま、かくいう俺も幻獣がどういう原理で浮遊しているかに釘付け。

まさか反重力を拝めるとは、重力に対する力の向きの調節とかどうしているのだろうか。

幻獣の面積が小さいから重力に反する斥力せきりょくが最小ですむのかな。

そんな事を考えていると幻獣は眩い光に包まれ。


「では旅人よ、勇者の背に光はあります。健闘を」


「おい!!」


……


数名の呼び止めに見向きもせずに消える幻獣。

戸惑う中各人の視線は下に移る。


「これ……なに」


視線の先にはホログラムのように浮かぶ四角いテキスト。

他の人も見えている様子から全員が共通して見えているものなのだろう。

だが書いてある文字は違う、俺の目の前に浮かんでいた文字は。


ー役職 「水の勇者」ー


他の人達も恐らく個々の役職が書かれているのであろう。

端々からそれぞれの役職名が口ずさまれていた。


「なんだこの「戦士」って……」


「え、私「占い師」なんだけど」


なるほど、各自の役職を確認するには自己申告しかない。

あの幻獣から勇者は4人、俺を除いた3人の勇者がいると言うことか……。

試しに隣の男に話をかけてみるか。


「あの、あなたの役職はなんです……」


「どうして冷静でいられるんだ!!」


突然の叫び声に少し身を引いてしまう。

君みたいに慌て者がいるから冷静になるんだと説明しても慌て者には通用しないんだろうな。

そんな事を思ったが情報を聞き出すために波長を合わせる。


「冷静じゃないよ……僕だって今にも泣き出したいさ。でも、泣いても日本に帰れないってさっきの化け物が言ってたろ?」


「確かに……そうだけど」


「だったら今の状況を整理しようじゃないか」


落ち着かせるように言葉を話す。

子供相手に諭すように笑顔は過度にならないように安心させるように。

赤ちゃん相手なら泣くという事から意識をそらせば簡単に泣き止むのだろうが相手は同年代、泣き止ませる一番の近道は同じ境遇にいる俺がどうして冷静なのかをゆっくり説明することだけ。

的中したのか男の泣きっ面も少しはマシになった。


「俺は……「守護人」って書いてある……お前は?」


守護人、かっこいいな。

では少しお試しで……。


「僕は、……「戦士」って書いてあるよ」


・・・


何も起きない。

起こったのは戦士と聞いた男が頷いた事だけ、それ以外は何もない。

虚偽報告によるペナルティはない……これは大きな収穫。


「さっき言ってた勇者って……ここにいるのか?」


その瞬間円の中心から男の声。

勇者を先頭にパーティを組めと言う幻獣の言いつけを守ろうとしている。

あまりこんな事を言いたくはないがこんな素知らぬ場所でそんな大役を買って出るやつは危険予測のできない大馬鹿野郎すぎる。

勇者と名乗って生きれる未来はゼロに等しいと思うのだが、ましてや我々みたいな子供には。

そんな考えとは裏腹に3人の声があがる。


「俺は「火の勇者」って書いてあるぞ」


先程、一番先に皆を諭していたオールバックの男。

火の勇者か……似合うな。


「わたくしは「風の勇者」ですね」


中わけの女が二人目の勇者。


「私は雷だって!!」


あっさりと勇者が判明。

さっき一同を落ち着かせていた3名が勇者とわかりやすい構図。

そして最後の水の勇者は……なぜか俺。

この場においての最適解は一番強い勇者のパーティに入りサポートに徹すること。

少しの観察だが一番生き残りそうなのは風の勇者さんかな……。


「最後の勇者は誰だ、挙手してくれ」


火の勇者であるオールバック男が語りかける。

最後の勇者は誰と言われ互いに見つめ合う俺を含めた少年少女たち。

少しの沈黙に痺れを切らした風の勇者が一言。


「揃わないと旅に出れないのですよ」


その通りだ。

と、心の中で叫んでも俺は名乗りたくない。

なぜなら勇者とはみんなを導き帝王というラスボスを殺さないといけないから。

俺にそんな大役は務まるわけもない、俺はそれを知っている。


「早く出てこいよ!」


誰かの催促に少しドキッとするが心を平静に保つ。

勘違いしないでほしいが悪意で行なっているわけではなく一心の善意からくるものである。

俺がリーダーなど最初の町で全滅する事が約束されている、それを見越して別の人にリーダーを譲ろうとしているのだ。

では俺はどのパーティに属するのかというと、もちろん風の勇者様のパーティでサポートを……。


「出てこないなら1組だけ勇者不在のまま出てもらうぞ、それでも良いのか」


火の勇者は決断が早い様子。

残った5人には悪いが頑張ってもらうしかない、20名を見てパーティに不向きそうな人を7名を発見。

少なくとも俺が勇者パーティから炙れることはないだろう。

下郎と言われるかもしれないが確実に日本に帰るためには勇者は多い方が良い、なんなら四人の勇者だけでパーティを組まないかと進言したいほど。

だがそれを他の勇者は許さないだろう、肌感でこの3人の正義感は誰かを見捨てるという愚行を許さないと思う。


「勇者がいないって場合もあるんじゃない?」


メガネをかけた女子が可能性を提示する。

そう、残りの一人はまだ覚醒していない可能性だって大いにある。

物語的にも最後の一人は帝王前で覚醒するみたいな展開だってないこともないだろう。

それを聞いて雷の勇者が指を鳴らす。


「そうだよ!だって自分が勇者だって隠す意味ないじゃん!!」


意味のわからない決めつけだが良い事を言った雷の勇者。

すると火の勇者は風の勇者を含めた数名で何かを話し始め終わった頃にこちらへ歩く。


「では皆んなの役職を聞いて強そうな奴から勇者がいないパーティを組んでもらいたい、それでも良いか」


火の勇者の提案に賛否が分かれる。

強い者から勇者パーティに引き抜かないと帝王を殺せなくなるというものや勇者不在のパーティなんて死にに行くものだというもの。

つまりは誰も勇者不在のパーティに入りたくないということ。

その否定意見を見越したように火の勇者は言葉を続ける。


「皆の意見はもっともだが確率の問題で芽がある人を集めて生存率を上げれば最後の勇者が覚醒するまでの時間稼ぎになるということだ。どの道旅に出ないと餓死してしまうぞ。

それにわざわざあの妖精が5人1組と言ったのには理由があるはずだ、それも含めて強い奴らを勇者不在のパーティにすべきだ」


理路整然とした語り口調、不満はあるようだが火の勇者の意見を覆せる案が浮かばないのであろう。

折衷案でも言えれば良いのだがここに来てからの混乱で思考する力も残っていない様子。

それを見た風の勇者は片端から役職を聞き出し順番は俺の元に。


「それで君の名前と年齢、役職を教えてもらえるかな」


俺は悟られることが無いように自然と口をひらく


水上みずかみ 涼介りょうすけ、16歳、役職は「戦士」です」


「わかったよ水上君、私は中里なかざと 友利ともり、君と同じ16歳で「風の勇者」だ。お互い巻き込まれた同士よろしく頼むよ」


風の勇者中里友利の握手を受け俺は笑顔を見せる。

ここまで隠したなら最後まで、日本に帰るまで勇者を隠して必ず戻ってみせる。

全ては日本に帰るためだ、悪く思わないでくれ。




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