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模倣屋さん  作者: 勿夏七
1章
9/38

9

 朝はウッドが荷物を1人で回収。

 これはウッドの能力の一部だ。

 

 瞬間建築というのだから、建物を建てて終わりかと思えば、荷物や家具などの回収および配置が可能なのだ。


「ウッドの能力欲しくて、脅しにくる奴がいるのも頷けるな」

「これは確かに欲しいね。模倣屋で使わせてもらえないかな……」

「もう仕事の話かよ。ま、仕事終わりに聞くだけ聞いてみればいい」


 ユイとギンは最小限の荷物だけを持ち、ウッドと一緒に買った土地へ移動。

 一度土地をじっくり眺めた後、少し離れた場所でウッドは手を前に突き出す。


「い、今から始めますね。そんなに大きな建物ではないので、数時間程度で出来上がると思います」


 そう言って目を瞑ると、ウッドの手から木材や石材など建築に必要なものかどんどん溢れてくる。

 それらが少しずつ組み立てられているのをユイとギンは目を瞬かせた。


「すげーな」

「ほんと、すごいねー! いつの間にか人集りできてるよ」


 振り向けば、大勢の人が足を止めて、ウッドの作業を夢中で眺めている。


「これだけ目立ったら話題になるだろうし、そのままいろんな人が模倣屋に来てくれると嬉しいなぁ」

「ウッドに頼む奴が増えるだけじゃねぇか?」

「頻繁に使えないみたいだし、模倣屋でその能力を以前よりも世に出しやすくするんだよ」

「能力者の負担減らして尚且つ金が手に入る……だったか? 上手い話すぎて不安がられそうだな」

「国からのお墨付きだよ?」

「……マジ?」

「大マジ! 開店前には証明書飾るから楽しみにしててね」


 ウッドのように頻繁に使えない能力や人気で供給が間に合っていない能力は、模倣して使える頻度を増やす。

 そうすることにより能力者の負担は軽減できる。

 供給バランスも少しは良くなるはずだ。

 

 店の維持のため少し模倣屋がお金を頂戴するものの、能力者本人が能力を使わずともお金が入ってくるシステムを想定している。

 そのため、ユイの言う「能力者が儲かる」に間違いないだろう。


 ユイは絶対に成功すると信じているが、ギンは嫌われている能力(模倣)に自分の能力をそう簡単に預けようと思えるのか疑問だった。

 だが、やる気に満ちているユイに水はさせない。


「も、もう少し時間がかかりますので、席を外していただいて構いませんよ」


 ユイとギンに話しかけたのは、ウッドだった。

 しかし、どことなく痩せて見えるウッドに、ギンだけ目を瞬かせた。

 

「……わかりました。街をぶらついて来ようと思うんですが、何か欲しい物とかありますか?」

「ぼ、僕のことはお気になさらず。あの、ユイ様は仕事用の通話機はすでにお持ちでしょうか」

「はい! 国からすでに支給されてます」


 この世界では通話機は貴重なもの。

 通話機にはテレパシー能力を使用している。しかし、数はそれほど多くない。

 

 生産が滞っているのは、テレパシーと似た能力を持つ者が、自分たちの仕事がなくなると過度な生産を拒んだのだ。

 テレパシー能力を持つ者も、他の能力者の能力を潰すのは本意ではないと発言し、生産に協力的ではない。

 そのため、現在は必要である職にのみ与えられており、一般に通話機は普及していない状態だ。

 

「それならよかった。それでは、少しお借りしますね」


 ユイは小さなバッグから通話機を取り出し、手渡す。ウッドは手早く操作し、すぐにユイへ返す。

 ユイは画面に映し出されたウッドの社名を確認したあと、バッグへと戻す。

 

「完成したら通話機に連絡させていただきますね」

「はい。お願いします!」

 

 

 ◇


 

 ゆっくりと街を歩く。

 昼時ということもあり、活気がある。

 色々な勧誘の言葉が飛び交う中、ユイは雑貨屋で足を止め、物色を始める。その隣から、ギンは小声で話しかけた。

 

「なあ」

「ん?」

「ウッド、ちょっと痩せてなかったか?」

「……やっぱりあれ、勘違いじゃないってこと?」


 ユイは商品を1つ手に取り、それを眺めながらギンの言葉に耳を傾ける。

 

「お前、気づいてたのかよ。全然動揺してなかったから、俺の見間違いかと思ったわ」

「本当にちょっとしか変わりないでしょ? だから見間違いとして無視したの」

「もしかして、ウッドの能力は脂肪を使うのか?」

「可能性はあるよね。まぁ、まだ決まったわけではないけど」

「太ったお前、想像できねぇな」

「勝手に想像しないでくれる!?」


 ユイは、笑いを堪えているギンを叱る際、持っていた商品を誤って落としてしまう。

 残念なことに落としたものには傷ができてしまい、店主に買取を申し出る。

 店主が笑って許してくれたのは、不幸中の幸いだ。

 

「それ、魔法石。ただ、その石は効果が薄いらしくて売れ残ってたんだわ。どうせそこまで価値もないし、タダでいい」

「いえ、さすがにそれは!」

「そうか? じゃあ、2割。これ以上は譲らん」

「……わかりました。それではその額で」


 かなり安く魔法石を手に入れたユイ。

 宝石は、ギンの髪や瞳の色……亜麻色の様だ。


「効果が薄いらしいですけど、どんな効果ですか?」

「俺も詳しくねぇんだが、持ち主を護ってくれるんだそうだ。だが、魔力が少ないらしく、飛んできたものを弾くくらいしかできない、と」

「へぇ。それはなんでも弾けるのか?」


 先程まで店内をうろうろしていたギンが、ユイの持っている魔法石に目を向ける。


「多分な。使ったことがないから確証はねぇぞ」

「そうか。ま、御守り代わりにはいいのかもな。……店主、俺はこの魔法石くれ」

 

「まいど。それも同じ種類の粗悪品だから、嬢ちゃんと同じ値段でいい」

「まじ? そんな雑な感じで売って大丈夫かよ」


 ギンが持っていたものは、ユイの髪と瞳の色によく似た桃花色。少しくすんでいて、見た目からあまり良品と言えない様子だった。


「お揃いだね!」

「おう。で、お前のと俺の交換な」

「え? なんで?」

「こっちの色の方がお前にあってんだろ」


 ほら、と前に突き出すがユイはそれを拒む。


「私が落として買い取ったものだから、私が持つ」

「俺がふざけなかったら落としてなかっただろ」

「いいの! ギンもそれ、ちゃんと身につけるんだよ?」

「……はいはい。仰せのままに」


 ギンは桃花色を選んだことを少々後悔したのだった。

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