悪役令嬢は学園に入学する
とても麗らかな春の日、
今日からみんな、
ピッかピッかの一年生!!
ステラ学園に入学である。
式もあるので、親も一緒に馬車でやってくる生徒が多く、門の前は馬車でごった返している。
だが、うちは公爵家。
家格が高い貴族専用の門があり、そちらから案内される。
式まで待機するために開かれたホールには
飲み物やちょっとした軽食など揃っていて至れり尽くせりだ。
マーロンやハロルド、エリックもそれぞれ婚約者と談笑しながら、こちらに気づくと手を挙げて挨拶をする。
親も同席なので、近寄って話しかけたりはしなかった。
義父も話しかけられ、周りを囲まれていた。
俺とリザローズも義父より離れて、飲み物を飲みながら式が始まるまで時間を潰す。
すると、最奥の扉から王子と王様が揃って入り、
一段高く設置された椅子に腰かける。
王子はキョロキョロと誰かを探しているようだが、その瞳はリザローズを捕らえなかった。
リザローズではなく、ミリアを探しているのか?
ゲームではこの入学式のあとクラス発表の掲示板の前で出会うはずだから、きっとあのあとパーティーにいくら赴いても会えず仕舞いで気になっているのかもしれないな。
リザちゃんが俺の袖をついついと引っ張るようにして、
「どうしたの?殿下なんか見て。」
ちょっとリザちゃん、王子に対する嫌悪感が「なんか」に現れているよ。
「誰かを探しているように辺りを見ていたから、リザの事探してるんなら隠そうかなって」
いたずらっ子のようにちょっと舌を出しておどける。
「まさか!やめてよ!
でもラルクが守ってくれるなら、狙われてもいいかも…」
と
最後はゴニョゴニョと聞こえるか聞こえないかの発音でしたが、リザちゃん、狙われるのはダメだからね!
そうこうしていると式典会場への案内が始まった。
***
式事態は滞りなく終わり、クラス発表の掲示板へ人が流れていく。
王子とミリアの出会いイベントを見守るべく、ちょうどいい感じの距離を取りながら王子を見張る。
すると王子の前でぴょんぴょん跳び跳ねる女学生がいた。
ミリアに違いない。
ゲームの通り王子が声をかける。
振り替える女性、その顔は…
誰だお前?ミリアじゃない!
しかし王子はゲームと同じようにその女性を見て、はっとしたように息をのみ、「あのときの…」と言ったのだ。
えっ、あのパーティーの時に出会ったのはミリアではなくこちらの女性だったのか?
ではミリアは?
ふと向こうを見るとやはりぴょんぴょん跳び跳ねる女学生がいた。
きっとあちらの方がミリアだろう…
隣にいるリザちゃんに
「あの王子が話しかけてる女性って誰か知ってる?」
とこっそり聞いた。
「あの方は…、あっ…きっとテレス様ですわね。」
と苦虫を潰したような顔をした。
リザちゃんが人に対してそんな顔をするなんて…
王子以外にそんな対象がいることに驚く。
「テレス嬢とはなにかあったの?」
するとリザちゃんは腕を捕まえて、人気のないところまで引っ張って行くと難しい顔をしながら
「あの方には近づかない方がいいですわ。
私、とことん嫌われているらしいんですの。」
思わぬカミングアウトだった。
***
分かってはいたことだけど、リザちゃんとクラスが別れてしまいました。
このまま3年間、辛いです。
しかもあのテレスという女はリザちゃんと同じクラスだったのだ。
他の攻略対象者の婚約者もリザちゃんと同じクラスだったから、そこだけは安心だけど…。
なぜかあのテレスという女には、いいイメージが沸かない。
ゲームには出てこなかったと思うんだけど、なぜミリアのイベントをことごとく奪っているんだ?
俺が設定無視の行動をした歪みのようなものが、テレスなのか?
何がどうなっているかわからないが、テレスだろうが、ミリアだろうが、リザちゃんとの幸せをぶち壊す行動を取れば容赦はしないと心に決めている。
***
ステラ学園に通い始めて数日がたった。
一年生からも、生徒会役員を選出する。
選出と言っても、高い位の貴族や、入学前学力試験の上位者の中より先生たちが決定して発表される形式だ。
これもゲームでは攻略対象者5人と、女子生徒代表で、リザローズ、ミリア、レベッカとなっていたので、掲示板を見て驚いた。
攻略対象者5人と、リザローズ、ミリア、までは間違いなかったが、もう一人がテレスなのだ。
テレスは伯爵令嬢なので、高い位の貴族枠でないのは確かだ。
ということは、ミリアと同じ学力試験の上位者として選出されたに違いない。
このゲームとの差異に、不安を覚える。
リザちゃんも隣で何かに怯えるような表情をして、こちらを見た。
リザちゃんの背中をポンポンと叩き、大丈夫だよと、笑って見せた。
***
生徒会に選出された生徒は、放課後生徒会室に集合した。
生徒会顧問の先生が、学年ごとに集められた生徒会役員たちに説明を始める。
この学園の生徒会は学年ごとに別々で活動する。
生徒会メンバーが実力や、家柄主義なのは、将来国の中枢を担う若者に、人を動かす力を養わせるためという一面もある。
一通り説明を受けたあと、学年ごとに自己紹介を始める。
リザちゃんはテレスと、王子が居るからか、いつもの優しい笑みではなく、まるで氷の薔薇と言われても通るほど冷たい表情をして挨拶をした。
ミリアはさすがはヒロインと言うべき、可憐で初々しい挨拶をする。
テレスは男たちを見回すと、優雅に挨拶をして媚びを売るような眼差しを向けてきた。
王子はその表情に息をのんでいたが、他の攻略対象者は軽くスルーした。
するとテレスは面白くないような顔を一瞬表に出して、すぐに引っ込めた。そしてまた男好きしそうな、甘ったるい雰囲気を出す。
リザちゃんは隣に立っていたミリアに声を掛けると、ミリアは天真爛漫な性格を隠そうともせず、爵位がだいぶ上のリザローズにもタメ口全開で答えていた。
挨拶もそこそこに、終わると顧問の先生がやって来た。
一年生にはしばらく顧問がついて仕事内容などの細かな指導が付くことになった。
先生が居るところで、下手な事件は起きないだろうが、
あのテレスという女は気をつけておいた方がいいだろう。
***
家に帰ると、生徒会のことについてリザちゃんと話した。
ミリアの事はとても気に入ったようで、ミリアの事を誉めていた。
話も合うし、あのタメ口が逆に新鮮で興味が湧いたようだ。
王子を取り合って嫉妬をしてしまうゲームとは違い、固定観念がなければなかなかにこの二人は相性が良かったらしい。
テレスからは、いつもの嫌な視線を感じて怖かったらしいが
「ミリアもいるし、このメンバーならなんとかやっていけそう。」
と新しい出会いと生徒会活動に希望を見いだしているようだった。