幸運の石を手に入れた メトとハゲタカ
町に奇妙なやつがやって来た。
それは、名を石売り家のメトと言う、老婆だった。
篭一杯に珍しい石ころを入れ、それを人に売って多くの町を渡っている。
石…これだけ言うとさっぱり買う気がしないが、石と言えど種類は様々。
マニアであれば馬鹿みたいに買ってくれるし、単に物珍しさで衝動買いしてしまう者もいる。
そしてれみもこのメトに偶然にも出会ってしまったのだった。
「石買ってかないかい?」
メトは亀の一族らしく、背中に甲羅を背負った亀の姿をしていた。
子供のれみよりも一回り小さいのだ。そんな小さな体で石が沢山入った篭を持って悠々と歩いていく姿は何だか見る者を威圧する力があった。
れみは石をよく見てみる。
理由はもちろん、そのなかに勇者エメラルドの欠片があるのではないかという憶測だ。
もしあったら金を払うだけで手に入れられる。
そんな得する話がある訳が…。自信は無いが、トメが下ろした篭をよく見てみた。
「…げええこれは…!」
何と、あった。
あったのだ。
灰色の地味な石ころたちの中に、緑色に輝く綺麗な石が、こちらに光を向けて見つめていたのだ。
朝からこんな幸運に巡り会えるとは…れみは他の石には見向きもせずにエメラルドの石の値段を聞いてみた。
肩の力が抜けた。
当然だ。エメラルドの石は百万円丁度。
今の小遣いでは半分にも満たない。このまま目の前で見過ごすしかないのか。
いや、そんな訳にはいかない。伝説の勇者が見世で石ころと並べられて売られているなど、哀れでならない。
そんな事を考えるれみの顔は悩んでるように見えたらしく、メトはある石をオススメしてきた。
「お嬢さん、それならこれをどうぞ?」
メトが差し出してきたのは、百円という値札が貼り付けられた桃色の石。
石ではあるが、まるでガラス細工のような質を持っている。人口物かと思ったが、メトが言うにはれっきとした自然物なんだそう。
「これは幸運の石。持っていれば必ず良い事が起きるよ」
「本当!?」
れみもチョロいやつだった。もしメトが悪人だったら完全に良いカモにされるだろう。
百円なら余裕で持っている。すかさずメトに小銭を差し出し、その幸運の石を手にいれたのだった。
幸運の石をポケットに入れ、大事に持ち歩いていくれみ。
正直、特に何も起こらなくても良かった。だってこんなに綺麗で可愛い石を手に入れられたら、それだけで幸せなのだから。
エメラルドの事などもう既に忘れていた。
これからこの石を自慢しにいこう!れみは歩道を元気にかけていく。
「あっ!」
れみは偶然にも道端に落ちていた千円札を発見する。
ラッキー!と言いたいところだが、こういうものはきちんと交番に届けなければならない。
渋々な気分で千円札を手に取り、交番まで飛行していく。
地上の人々にとってアンドロイドが空を飛ぶというとはごく普通の事なのだが、今日は別の町から来た観光客が多いらしく、空飛ぶ小さな少女をまるでヒーローを見るかのように見上げていた。
これも中々気持ちが良い。
れみは無邪気に笑いながら建物を通過していく。
「小さいのにきちんと交番に届けるなんて偉いね!」
千円札を出しに行くと、お巡りにも褒められて実に良い気分だった。
見ず知らずの人達からこんなに褒められるものだから照れ臭ささえ感じた。
照れると二つ編みの髪をいじる癖を見せながら、れみはお巡りに一礼した。
一方空ではそんな彼女とは真逆の運命を背負った者が…。
「あー魔王様は尊敬してるけど、何かなぁ」
ナスビはいつも通り羽を広げてテクニカルシティに飛んできていた。
紫の羽を小刻みに羽ばたかせながら飛んでいくと、目の前から何かが飛んでくる。
何だろう、と見つめていると…。
まさかのハゲタカが飛んできた!
「ぎゃああああ!!?」
ハゲタカの凄まじく強面な顔に恐怖しながら顔を覆うが、間に合わずにハゲタカタックルを浴びてしまう。
激しく回転しながら地上に落とされるナスビ。
「いてて…あのクソタカめ!!」
頭を抑え、黄色い目に涙をためながらナスビは悔しそうに地を這う。
そんな彼の視界に、小さな足がうつってきた。
見上げると、そこには嬉しそうな顔のれみがいた。
しかしれみはこちらに気づいてないのか、緑の靴を振りかぶってナスビの上へ。
「あ」
ナスビを見事に踏みつけるれみ。
今のナスビの顔は、まさに「むぎゅう」という言葉が大似合いだった。
れみはそこで初めて彼に気づき、さすがに謝る。
しかし悪運続きのナスビは豚鼻から蒸気を放ちながら激しい怒りを見せる。
「おのれー!!許せん許せん!!れみ!お前の嬉しそうな笑顔も腹立つぞ!」
「あぁ…」
一番最初に見せるのがこいつとは、嫌な感じもしたがれみはポケットから桃色の綺麗な石を取り出してきた。
ひねくれ者のナスビでさえ魅了する光だ。思わず見とれ、黄色い目は桃色に。
「良いでしょ?これ幸運の石なんだ!」
悪運に恵まれたナスビは彼女を大いに嫉妬した。そして、なんの迷いもなく…。
「そいつをよこせー!!」
れみに飛びかかった!
だが今落っこちたばかりで痛みが残ってるナスビには何の力もない。
ハエを落とすような感覚で一撃で叩き落とされた。
顔面から地面に落とされ、涙しつつもナスビはある事を聞いた。
「…その石は、ど、どこにあった」
場所くらいなら教えてやっても良い。
れみは彼に、メトの石売りの事を教えてあげた。
「くくく…その婆さんに頼めば良いのか!よし!」
テクニカルシティの市場と聞くなり、ナスビはさぞ嬉しそうな顔をしてその市場に向かって飛んでいった。
一方、メトは石が中々売れなくて退屈していた。
眼鏡をかけて、若者にはよく理解できない生活の本を読みながら石の篭を無造作に置いている。
周りの店は活気が溢れ、メトの店の疎外感がスゴかった。
取り扱ってる物も物だし…メトの元には客は来ないと思われていた。
しかし、そこへ物凄い気力を放ちながら飛んでくる者が!!
ナスビだ!!
相変わらず凄い鼻息で目を血走らせながら飛んでくる。
そんな客が目の前で急ブレーキしてもメトは怯みさえしなかった。
「幸運の石をくれええ!!」
翼の手を突き出すナスビ。小さなメトから見れば手のサイズは丁度良い方だった。
おかしな客だと思いもしたが、客は客だ。
メトはズバリと値段を言った。
「百円だよ」
「ひゃひゃ、百円だと…がああああ!!!」
ナスビは頭を抱えて、牙の生え揃う口を大きく開いた。
そう、彼は百円を持ってないのだ。というか、ろくに小遣いももらってない。
十秒ほど震えていたが、やけになったナスビはメトの持つ篭に手を突っ込み、桃色の石を掘り出した。
慌てるメトを無視して全力飛行で逃げていくナスビ。追いかけようとするメトだが、やはりというか、腰を痛めて動けなくなってしまう。
どうすればと震えるメト。
「私に任せて」
顔をあげるメト。
れみだ。
どうせナスビは何かしらやらかすと分かっていたれみはこっそり尾行してきていたのだ。
幸運の石の存在を彼に伝えたのは自分だし、このままメトに迷惑をかけたままにする訳にはいかない。責任感が強い彼女は直ぐ様ナスビを追いかけた。
「ひょほー!!これが幸運の石かー!」
ナスビはもう早速石の効果に喜びを隠せなかった。
まずいつもより速く飛べるのだ。いつもより羽ばたきは少なめなのに、いつもの倍は速く飛んでいる。
もう一つは皆が道を開けてくれる事。ナスビに気づいてすらいないのに、道の端に偶然寄ったり人に呼ばれたりして自然にかわしてくれるのだ。
最も、道を開けなかったらナスビはそのまま突き飛ばしていく。その突き飛ばす力がないだけだが。
いつにもない疾走感に心を踊らせながら、ナスビは城を目指していた。
だが、同じ力を持つ者に追われれば彼もひとたまりもない。
後ろから幸運の石を持ったれみが追いかけてきていたのだ。
「まてー!!」
「ぎゃああああ!?」
いつもれみを見ているナスビだが、この日の超スピードは見た事のないもの。
単純な速度もあるが、幸運の石のおかげで人が次々に避けてくれるのでスムーズに飛べるのだ。
二人の速度は強風を引き起こし、車や人を軽く吹き飛ばしてしまう。
「ぐげええええ!!」
ナスビはうっかり目の前にあったゴミ箱に衝突してしまう。
勢いよく空中に舞い上がるゴミ箱。幸運の石の効果がきれたのかと思ったが…。
ゴミ箱は丁度、背後にいたれみの頭上に降り注いだ。
れみにとっては不運は事、ナスビにとっては幸運な事に、全てのゴミが綺麗に頭を叩きつけた。
「やーいざまあみろー」
ゴミまみれになったれみ。魚の骨や土を全身に被りながら悔しがり、思いきり歯を食い縛って怖い顔になろうとするが、ゴミまみれの少女を怖がる筋合いはない。
このまま逃がすものかとゴミを振り払おうとしたその時、彼女の手元に、何か硬い物が当たった。
それは、まさかの銃だった。
ゴミに紛れていたのだ。一体誰がこんな物騒な物を隠していたのか。
これぞ不幸中の幸い。
れみは銃を地面に向かって発砲し、ナスビを驚かす手に出た。
乾いた音が響き、ナスビはそれにびびって一瞬低空飛行に。
上手くいっている!
だが、そこへ新たなアクシデントが。
発砲するれみを追いかけ、警察が参戦したのだ。
「そこの子供ー!!待てー!!」
子供でもこの町の警察は容赦なし。本当に追いかけるべきナスビは無視して、完全にれみしか見ていない。
さすがに警察に追われ、周りの通行人の視線も集まって焦るれみだが、盗人蝙蝠をこんな事で逃がすわけには!
「よりスピードあーーっぷ!」
れみが何となく叫ぶと、移動速度は更に上昇、ついにナスビは全力をだして羽ばたくが、やはり勝つのは正義。
れみは思いきりナスビに頭突きを決め、吹き飛ばす事に成功した!
地面に落っこちるナスビ。頭から吹き出す白い煙が、その衝撃を物語っていた。
ナスビの手元から落ちる幸運の石を拾い上げ、奪還に成功した。
幸運の石を両手で掲げながら喜ぶれみ。
その時、れみのもとに人々が集中的に集まってくる。
彼等はマイクやらサイン色紙やらを持っており、そんな集団が何十人も。
幸運の石、二個分の効果が現れた瞬間だった。
「素晴らしいです!貴女様はこの町を救った勇者として崇められるでしょう!」
照れ臭さに頭をかくれみ。
しかし、周囲のマスコミは迫る迫る。
「あなたの事をもっと知りたいです!名前は?住所は?生年月日は?」
何という人気だ。
れみは耳を塞いで逃げ出した!
幸運も、持ちすぎはよくないという事なのだ…。




