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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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下水道のゾンビ

れみはついこの間の戦いで町の一部を破壊した事への罰として、地下水路のゴミ掃除をやらされる事になった。

いつも町の平和を守ってるのにこんな扱いとは、れみも気に入らなかったらしいが、この町の町長は中々横暴で自己中心的な性格。

陰でついてるあだ名は「糞腸腸」。

だが立場上、彼には逆らえなかった。

まあれみが町の一部を壊してしまった事には変わりない。

仕方なく、暗くて湿気と臭気に溢れた地下水路の掃除を始めた。

道具はゴミを集める網と、ゴミをつかむトング。これだけだ。

足は勿論生足だし、汚れがついても今すぐには洗えない。

これでは掃除ではなく、拷問だ。果てしなく続く暗い地下水路の奥から流れてくる汚水は、不潔な怪物のヨダレか何かじゃないのかと疑うほどだ。

そういえば、姉のれなもここで罰を受けた事があるらしい。彼女もこんな気持ちだったのか…。

「…お姉ちゃん」


寂しい気持ちになった。

だが、こんな暗い場所だからこそ、明るく過ごさなくてはならない。

れみはお気に入りの鼻唄を歌いながら、水流に逆らって進み始めた。



空き缶にゴミ袋、腐った食べ物…テクニカルシティは科学が発展しているからこそ出てくる化学物質のような汚れも時々出てくる。

地下水路の壁と壁の隙間に空いた僅かな穴から紫色のヘドロが湧き出てきた時は思わず吐き気を催した。

こんな物が、人目につかないこの地下水路には溢れているのだ。

暗くて視界が悪い事もあり、あとどれだけのゴミがあるのだろうとため息をつく。



その時だった。

水の流れる音のなかに、何か聞き慣れない音が聞こえてきたのだ。

大きな物を引きずるような…とにかくここには何か不自然な音が聞こえてきたのだ。

空耳ではない。似たような音は何も流れていないし、明らかに大きな物を引きずるような音が…。

「何だろう?」

れみは、ほんの興味でゴミ拾いを中断し、音のした地下水路の奥へと進んでいった。



「…う。なにこの臭い」

進むごとに、腐臭が強くなっていくのをはっきりと感じる。まるで汚れた空気が目に見えるかのように、明らかに空気の質が悪化していく。


「…」

れみは、独り言を呟かなくなる。

臭いの主が、次第に見えてきたのだ。

カーブ状になった道を水流に逆らうままに進んでいき、その何かを引きずる音も、はっきり聞こえる。

やはり聞き間違いなどではなかった。

カーブを曲がっていくうちに、相手の一部がチラリと見え始める。

尻尾のような物がある。

青い腐肉のような質感に、所々黄色い斑点がついている。

ここは水深が浅く、その尻尾が引きずられても水の音は大人しかった。

「…」

やはり黙りこみながら、れみはカーブを慎重に曲がっていく。


その先にいたのは…巨大なワニのような口に、人間とよく似ているが岩のように大きな目玉、3メートルほどの巨体の割には体の半分もない短い腕。

今まで見た事もない、奇怪な生物が、平然と立っていた。




何より、その体から放たれる激臭は相当なもので、れみは先程の2倍も3倍もある臭さに鼻をつまみ、思わず小さな声が出てしまう。

目の前の生物はちゃんと聴覚があるらしく、れみの声に反応すると、浅い水を激しく揺らしながら大口を開けてきた!

その口の中は筋肉のような赤身が剥き出しになった、見るに耐えない状態だ。

放たれる激臭に苦しみつつも、れみは距離を置いて逃げ出す!

「何なのこのゾンビ…!」

得たいの知れないゾンビから逃げながられみは走り抜ける。幸いにもゾンビは足が腐敗しているのか、そこまで速くはなく、人間でも逃げ切れる程だ。

だが執念深さは物凄く、れみを見失った後でも大口を開けてうなり声をあげ、暴れている。

一体あいつは…!?




れみは、ゾンビの事を報告しにいく為、一度地下水路から抜け出し、マンホールから顔を出した。

周りには通行人たちがいたが、皆鼻をつまんでる。

今の今まで汚染物まみれの地下水路にいたのだから臭いもするのだろう。

ため息をつきつつも、マンホールの近くで作業をしていた男性に目を向ける。

彼は、地下水路の担当者の一人だ。

彼なら、あのゾンビについて何か知っているかもしれない。

「ちょっとちょっと!地下に変なやつがいるよ!」




担当者の男性は、水色の作業帽子を撫でながら、ゾンビの話を聞いた。

今まで何十回も地下水路に潜り続けてきた彼だが、そんなゾンビは見たことがないのだという。

れみは魔王軍や闇姫軍の差し金かと最初は疑ったが、人目につかない地下水路、かつあんなグチャグチャで脆そうなゾンビを送りつけるのは違和感がある。

ということはやはり、自然に発生したモンスターであると判断して良いだろう。

これでますます謎は深まってしまった。あの大きな口とグチャグチャに腐敗した皮膚を思い出せば、またあの激臭がしてくるようだ。

だが…男性はある可能性に気づくのだった。

「…聞いたこともないモンスターだが、それに関連するような事は知っているよ。案内してくれないか」




男性はれみについていき、地下水路へと飛び込んだ。

いつも飛び込んでいる場所である為か、臭いには慣れっこなようだった。

全く顔を歪ませる事なく、水流に抗いながら作業服を汚しつつも進んでいく。

あれほど掃除をしたというのに、空き缶やゴミ袋はまだ流れてきていた。

ゾンビが潜んでいるだけの事はある汚染度…れみは何とも呆れた気持ちでいっぱいになる。


しばらく一直線の通路を進んでいき、例のカーブ状の道が見えてきた。

さっきはこの道であの激臭が一番強くなったはずだが、この時は何故か臭いはしなかった。

逆に警戒を固めつつ、カーブの道をゆっくりと曲がっていく曲がっていくれみ。

まだゾンビの姿を見ていないが、男性もこんな所に出るゾンビならおぞましい姿をしている事を予想していた。

心拍数が上がる…。



カーブの道を進み終えてもあのゾンビは現れなかった。この道を抜けると、また同じような一直線の道が続いていた。

左右の壁には緑のヘドロが生物のように張り付いている。

清掃されていない、地下水路の奥地だった。




「…!」

れみの耳に、あの音が響く。

大きな物を引きずる、あの不気味な移動音が。

「危ないっ!!」

れみは男性を突き飛ばす!

倒れる男性は全身にヘドロを浴びて完璧に汚れてしまった。もちろん突き飛ばしたれみもだ。

汚れの気持ち悪さも無視して目の前に視線を向けると、そこには背後からついてきたと思われるあのゾンビが立っていた。

大口を開け、二人を食べようとゆっくり向かってくるゾンビ!

れみはその大口に恐怖しつつも、負けるわけにはいかないと蹴りを打ち込んだ!

ゾンビは防御は弱めらしく、かなりあっさりと怯んだ。

水しぶきをたてながらゾンビはあっさり撤退体制になり、逃げ出していく。

先程の足の遅さからは考えられない走りで、地下水路の暗がりに紛れて消えていく。

「ま、まて!!」

二人は急いでゾンビを追いかけていったが、突然逃げ出した事もあって二人は不意を突かれてしまい、そのまま逃がしてしまう。

水の音がただただ流れる地下水路。生物がいた痕跡など微塵もなかった。

顔を見合わせる二人…。




「…人間の作った都市物質に襲われ、地下水路に逃げ出した動物達がいると聞いた事がある。あれは…もしかして」

そういえば姉もここで罰を受けたとき、謎の生物を目撃したらしい。

もしかしたら…あれは汚染物に汚され、元の原型を咎めないほどに変異した、何かの生き物だったのではないだろうか。

そう考えると、身震いがすると同時に、悲しい気持ちになってきてしまう。

俯いたままのれみは、もうこの地下水路の激臭に鼻をつまむ事はなかった。


あの後もあのゾンビを探しだしたが広大な地下水路のなか、どこを探しても発見できなかった。

今もどこかで、あの体を引きずりながらさ迷っているのだろうか…。




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