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第18回 栄カンパニー・カップ

 ひとりの男の体がへし折れ、宙を舞いながら腹の中身をぶちまける。弾ける赤黒い血の塊。体液にまみれた大腸と小腸。へし折れた金属フレームと色鮮やかなケーブルの束。バラけたクランク。シリンダー。人工筋肉。電子部品。

「クラァア―――――――――シュッ!!」

 インカムからの実況シャウトが脳を揺さぶる。砕けた男の部品を全身に浴びながら、時速200キロメートルで道路を転げる人間がいる。彼は転げながらも受け身をとって体勢を立て直すと、一瞬たりとも立ち止まらずにまた走り出した。しかし衝突による減速の影響は甚大で、後方から迫った5つの影が彼を飛び越え、わきをすり抜ける。彼らはみな時速300キロはゆうに越えているが、乗り物などには乗っておらず、自分の足で走っている。彼らの遥か後方で、さっき分断された男のヘルメットがアスファルトにすりおろされていく。

 道路脇を埋め尽くす観客たちから歓声が起こり、大気がビリビリと震える。

「なんとぉお! ゴール残り約60キロメートル地点でトップの『"フラッシュ"ゴードン』が2位の選手(ランナー)とクラッシュして真っ二つッ! 『フラッシュ』はバラバラになって走行不能、中身を道路にぶちまけたぁー! どうでしょう、解説のギドルカナサハヤタモさん!?」

「まぁんーそうね、まぁサイボーグだから死んではいないと思うケド、まぁ今期中の復帰はムズカシイでしょうね。まぁミサイルを避けられなかったカレのミスでしょ」

「なるほどですね! そうこうしているうちに他のランナーたちが追い上げます! 順位は変わって1位が『"韋駄天"カムイ』、2位が『"爆速特急"トーマス』、3位が『"ギャロップ"サジタリウス』、4位が『"疾走要塞"アーセナル』、そして2位から一気に転落して現在最下位が今回『(さかえ)カンパニー・カップ』初参戦、若き新星――」

 少年はヘルメットの下で前を見据える。

「――『ハヤブサ』だァ!」

 ハヤブサと呼ばれた少年は体を低くする。彼の前方には『疾走要塞』の巨大な背中が小さく見えている。ハヤブサは歯噛みし、機械化された心肺機能を限界まで稼働させる。酸素を取り込んだ高効率血液が全身を循環し、肥大化した人工筋肉に凝縮された熱をぶちこむ。大腿骨以下すべての金属骨格が悲鳴をあげ、想像を絶する力が込められたつま先が、ランニング・ジカタビ越しにアスファルトの道路を押し砕く。

 少年はさらに加速した!

「おおっとハヤブサ、ここでスパートをかけた! 最下位に落ちた焦りか、まだゴールまで50キロ以上あるぞ! そして迫る『ハヤブサ』に『疾走要塞』が気づいた!」

 『疾走要塞』が、横幅4メートルはあろうかという巨体の肩越しにハヤブサを一瞥する。分厚い鎧を身につけた迷彩模様のサイボーグは、丸太のような右腕を横に突き出す。すると複雑な過程を経て腕が変形し、一丁の機関銃を構成した。彼は走りながら銃口を後方に向ける。

「ノロマは寝てろッ!」

 乱射された弾丸がハヤブサを襲う。だが少年は銃弾の飛来する軌道を素早く見極め、地面を蹴る。時速320キロメートルで蛇行するサイボーグに銃弾はかすりもしない!

 『疾走要塞』が舌打ちする。ふたりの距離はあっという間に縮まって、まもなく順位が逆転しようかというところになった。

「だったらコイツだ!」

 『疾走要塞』の左腕が巨大なミサイルランチャーに変形する。背中からセンサーカメラが飛び出して、ハヤブサをロックオンした。

「『"疾走要塞"アーセナル』がまたミサイルを持ち出したぁ! 『"フラッシュ"ゴードン』を仕留めた殺人兵器がハヤブサを睨むぅ!」

 実況の声は、もはやハヤブサの耳に届いていなかった。

 ミサイルが発射される。凶悪なシャークティースが描かれたそれは、まっすぐかつ獰猛にハヤブサに襲いかかる。着弾寸前、ハヤブサは片足を振り上げた。

 ミサイルの横腹がつま先で蹴り上げられ、向きが反転した。足の勢いに任せて空中で一回転したハヤブサが、すかさずミサイルの尻を蹴る。ミサイルは飼い主のところへと突っ込んでいった。

「なッ――!?」

 『疾走要塞』が炎上し、地面を転げる。砕けた装甲の破片が道路中にバラまかれて突き刺さる。彼の体を踏み台にして、ハヤブサはますます速度を上げる。

「FOOOOOOOOOOO!! イカすぜハヤブサァ! ミサイルを蹴り返して返り討ち! これで最下位は『"疾走要塞"アーセナル』、ハヤブサは4位に浮上! どうでしょう、解説のギドなんとかさん!?」

「まぁんーそうね、まぁサイボーグだから死んではいないと思うケド、まぁ今期中の復帰はムズカシイでしょうね。まぁミサイルを避けられなかったカレのミスでしょ」

「なるほどですね! さぁまた別のところで順位の入れ替えがありました! ゴールから42キロ地点、『"ギャロップ"サジタリウス』が『"爆速特急"トーマス』を自慢の仕込みボウガンで転倒させて追い抜いて現在2位! おお! 体勢を立て直した『"爆速特急"トーマス』にハヤブサが迫る――抜いたあア! そして直後『爆速特急』がリタイアを表明! やはり西暦2050年に蒸気機関は無茶だったか! どうでしょう、解説の人!?」

「まぁんーそうね、まぁサイボーグだから死んではいないと思うケド、まぁ今期中の復帰はムズカシイでしょうね。まぁミサイルを避けられなかったカレのミスでしょ」

「なるほどですね! 誰かコイツクビにしろ! さて現在トップは『"韋駄天"カムイ』、2位は『"ギャロップ"サジタリウス』、3位は『ハヤブサ』、最下位が『"疾走要塞"アーセナル』、彼はまだリタイアしておりません。注目はやはり期待の新星ハヤブサか!? 残りは30キロメートルを切りました! ハヤブサが追い上げる! 『"ギャロップ"サジタリウス』のケツが見えてきたぞ!」

 インカムからの実況のとおり、ハヤブサは広い直線道路の遥か前方に『ギャロップ』の背中を発見した。しかし彼はスピードを落とす。トップスピードでの疾走はもう限界だった。時速約350キロメートルで彼は『ギャロップ』に接近していく。

 『ギャロップ』の体は『疾走要塞』とはまたタイプの違う巨体だった。彼の下半身は鋼鉄の馬になっていて、四本の脚で小気味よい音をたてながら走っている。しかし上半身は人間で、全体の姿はギリシャ神話のケンタウロスにそっくりだ。

「ここで最後の大きなコーナー! カーブに弱い『"ギャロップ"サジタリウス』は一気にスピードダウン! そしてアウトコースから迫る『ハヤブサ』! コースアウトギリギリの速度を保ちつつ、ふたりが並んだ、並んだ、追い抜いた! 『ハヤブサ』、『"ギャロップ"サジタリウス』を追い抜いて2位に返り咲き!」

 ハヤブサは肩越しにやや後方の『ギャロップ』を一瞥。カーブを抜け、直線コースに戻った今ではまたすぐに追い抜かれてもおかしくはない。それほどまでに『ハヤブサ』の人間型ボディと『ギャロップ』の半獣型ボディの性能差は大きい。『ギャロップ』のほうもそれがわかっているらしく、彼はハヤブサと目が合うとニヤリと笑った。

「貧乏人が、いい気になってんじゃねぇ!」

 『ギャロップ』がスパートをかけた。ハヤブサとの間はみるみる縮まり、やがて並ぶ。

 横目でハヤブサを見下ろす『ギャロップ』。観客たちが興奮し、歓声をあげた。

「これがボディの性能差だ! サイボーグ・レースはカネのある方が勝つんだよ!」

 わめく『ギャロップ』。ハヤブサは彼を横目でにらみ返す。

「雑魚は死にな!」

 『ギャロップ』が左腕を大きなボウガンに変形させる。右腕を腰の矢筒に伸ばし、一本ひきぬいてボウガンにセットする。彼が再び顔を上げ、ハヤブサの方を見たとき、しかし彼はすでにそこにいなかった。『ギャロップ』が驚愕する。

「あれ!? あのやろう、どこに――」

 言いかけて、彼は観客たちの歓声が大きくなっているのに気づく。そして直後、自分の背中に何か重いものが乗っているのを感じた。理解した『ギャロップ』は怒りと屈辱に大きく顔を歪め、吠える。

「ふざっけんじゃねぇええッ!! 降りろクソ野郎!」

 ハヤブサが『ギャロップ』の馬部分に跨がっていた。

「おぉーと『ハヤブサ』ここでまさかの奇策!? 『"ギャロップ"サジタリウス』の背中に、まるで本物の馬のように跨がったぁ! 現在2位の『"ギャロップ"サジタリウス』はこれ以上1位との差を広げられるわけにはいかないから、振り落とすための減速もできない! 『"ギャロップ"サジタリウス』は完全に『ハヤブサ』の家畜と化したぁ!」

 実況を聴きながら、ハヤブサが肩越しに睨んでくる『ギャロップ』にからかうような視線をかえす。そして彼は腰の矢筒の中身をひっつかみ、全部抜きとってポイと捨てた。

「ハイヨー! ギャロップ! ギャロップ!」

「てんっ……めぇ! クソ! クソ! クソクソクソ!」

 悪態をつきながらも『ギャロップ』がスピードを緩めることはない。彼に乗っているあいだ、ハヤブサは完全に体を休めながら、徐々に1位の『"韋駄天"カムイ』との差を縮めていく。

 やがてコースは急な上り坂にさしかかる。

「ここまでご苦労さん!」

 ハヤブサが『ギャロップ』の背中を踏み台にして飛び降り、上り坂を加速していく。『"ギャロップ"』の馬の下半身は特性上、上り坂で減速せざるを得ない。ハヤブサはあっという間に彼を置いてきぼりにした。

「ゴールより15キロメートル地点の上り坂、3位『ハヤブサ』が2位『"ギャロップ"サジタリウス』を完全に引き離した! 地形と相手の性質を完全に把握した上でのクレバーな戦法! 『ハヤブサ』は2位に上昇、坂を上がりきっていよいよ! さぁいよいよ! 1位『"韋駄天"カムイ』を射程にとらえたぁ! だが残りのコースはすべて直線! 現在両者の差はわずか0.5キロメートル! 果たして逆転はできるのか!?」

 ハヤブサは『韋駄天』のちいさな背中を睨む。彼はハヤブサよりひと回り小さい人型で、両腕を組んだまま上半身をぶらさずに走る独特のフォームだ。平均スピードは目立って速いというわけではないが、コース選びの的確さと、他ランナーからの妨害を最小限の動きで確実にかわす、技巧派スタイルの若い選手だった。

(残り15キロ……、ちょっとはやいが使うしかねぇ!)

 疾走するハヤブサが静かに目を閉じて奥歯を強く噛みしめる。すると彼の全身を包むランニング・スーツの一部が水蒸気を放ちながら分離して弾ける。体に食い込んでいた部品が抜けたことで、制限されていたボディの機能が開放される。体が灼熱を放ち、神経電流がますます加速。周囲の光景はさらにスローになってはっきりとし、観客ひとりひとりの表情までくっきりとしてくる。彼らの目はギラギラと危険な輝きを放ちながら浮かれ、熱狂していた。

(リミッタァ……解除ォッ!!)

 ハヤブサの鼻から血が噴き出した。

「ハヤブサがさらにここで加速したぁあああッ!? あきらかに時速390キロは出ているぞ!」

 実況を聞いた『韋駄天』が横目でハヤブサを見る。彼の後方から、ハヤブサがぐんぐん迫ってきている。『韋駄天』は前方を見た。直線道路に視線を遮るものはなく、14キロメートル先にゴールのアーチ型ゲートが豆粒のように見えている。ゲートの両翼は同じ高さの観客席に繋がっていて、直線道路を左右から全長5キロにわたって見下ろしていた。

 『韋駄天』も姿勢を低くし、スパートをかける。

「ここで『韋駄天』も加速ぅ! 前回の『トライアンフ』準優勝者のプライドに火が点いたか!? だが『ハヤブサ』との距離は徐々に縮まってるぞ! 両者の距離は1.4キロ……1.1キロ、0.7! 0.4キロ! 0.1キロ――ここで並んだぁ! 残り10キロメートル地点通過と同時にふたりが並んだぁああ!!」

 ハヤブサと『韋駄天』は並走していたが、彼らの様子は対照的だった。ハヤブサは腕を大きく振り、スーツの下は汗だくで、ヘルメットの中は血まみれだ。

 対して『韋駄天』は落ち着いていた。彼は呼吸も比較的落ち着いていて、美しいフォームを保ったまま静かに腕を組んでいる。彼には、走りながら横目でハヤブサを眺めるほどの余裕もあった。

「無理するな。その走り、まともな走りじゃないだろう」

 彼は個人回線を開いてハヤブサに話しかける。

「このレースでその様子じゃ『トライアンフ』に出場しても無意味だ。君はいいレーサーだ、『トライアンフ』でなくても、ほかのレースの賞金でも暮らせるはずだ。このままでは君、死ぬぞ」

「うるっ……せぇっ!」

 ハヤブサが怒鳴る。充血した両目は8キロ先のゴールに吸いついたまま微動だにしない。瞳孔が大きく開き、瞬きをしないせいで涙がぼだぼだと溢れている。

「俺は負けられねぇんだよ……負けたら終わりなんだ!!」

 ハヤブサが徐々に『韋駄天』を追い越していく。観客の熱がジリジリと上がっていく。

「そうか……」

 『韋駄天』は少しだけ残念そうに目を伏せ、またすぐにゴールを睨む。

「じゃあ僕も容赦しない!」

 『韋駄天』が組んでいた腕を解き、さらにスピードをあげる。

「キタァアアアアッ! ゴール前7キロ地点『"韋駄天"カムイ』がラストスパート! どうやらふたりのトップスピードにほとんど差は無い! ふたりが並んだまま動かない! どっちだ! どっちだ!? どっちがこのレースを制――いやまて、アレは!?」

 不穏な実況に『韋駄天』が後ろを振り向く。いつの間にか、ふたりのはるか後方に迫りくるランナーがいた。分厚い鎧を脱ぎ捨てて、巨体からスリムな体型に変化したランナーは、全力でふたりに追いつこうとしている。実況が興奮して奇声をあげた。

「『"疾走要塞"アーセナル』だぁああああッ!!」

 歓声!

「すっかり忘れてた! ヤツはまだ生きていた! 3位『"疾走要塞"アーセナル』が鎧を脱ぎ捨てトップのふたりに迫る! だがあきらかにスピードが足りないぞ、彼は3位に甘んじるのか!? それともまさか――」

 『疾走要塞』が大きくジャンプする。彼は空中で両手の拳を打ち合わせると、そのまま合体・変形させる。二本の腕が融合して形成されたのは、黒光りする巨大な多連装ロケットランチャーだ。だが彼はそれだけでは終わらせず、背中からさらに多数のミサイルランチャーを飛び出させた。

「死ねぇ、ノロマァッ!!」

 『疾走要塞』から飛び出したロケット弾とミサイルがコース上空を埋め尽くす。それらはデタラメに着弾し、コースのあちこちで爆発が起こる。アスファルトの破片が宙を舞う。観客たちが嬉しそうな断末魔をあげて吹き飛ばされる。その光景を液晶画面越しに観た観客たちが興奮して奇声をあげ、都市全体の空気が震える。爆発音や倒壊音や悲鳴が歓声に押しのけられてかき消される。

「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!! やってくれたぜ『疾走要塞』ッ! 信じらんねぇ量のミサイルカーニバルでコースはさながら大惨事の世界大戦だ! だけどレースは止まらないし、観客の救助もしないからな! これは『サイボーグ・レース』! 『墜落都市』だけの殺人レースだぜ!! 観覧は自己責任でな!」

 実況の高笑いが墜落都市に響きわたる。その声は悪魔的で、聞くものをますます狂気にかりたてる。

「さぁレースに戻りましょう! 全弾撃ちきった『"疾走要塞"アーセナル』は大幅スピードダウン、どうやら疲れ果てている様子! そして注目のトップ争いは――さすが『"韋駄天"カムイ』と『ハヤブサ』! 彼らは無傷だ! しかもまだ競り合っている! 哀れ『疾走要塞』、ヤツの襲撃は無意味だったぁ!」

「っち……くしょおおあああ!」

 砕けた道路を走りながら、『疾走要塞』が怒りと悔しさに咆哮した。

「トップの『韋駄天』と『ハヤブサ』はまったくの互角! 互角で――いや、互角ではありません! なんと! 『ハヤブサ』がリードしている! 『ハヤブサ』1位、『韋駄天』2位! 『ハヤブサ』1位の『韋駄天』2位です!」

 ハヤブサがほんの数メートルだけ『韋駄天』を追い越していた。しかもその差はジリジリと広がっている。『韋駄天』のスーツとヘルメットの下は汗でずぶ濡れで、表情に余裕は無い。だがハヤブサのヘルメットの下はもっと酷い。バイザーは半分が血で隠れ、スーツの下は限界を越えて筋肉を稼働させたための、内出血の青あざだらけだ。脳内がアドレナリンで満たされていなければとても動けないほどの激痛を感じているはずだった。

「残り3キロメートル通過! ゴールはまもなく! 『ハヤブサ』が走る、『韋駄天』が追う! 『ハヤブサ』逃げる、『韋駄天』追う! だが縮まらない! ゴールまであと2キロ! そして1キロ! 『第18回栄カンパニー・カップ』、優勝者はハヤブ――」

 その直後だった、ハヤブサが足を止めたのは。

「――あれ!?」

 困惑する実況を無視して、ハヤブサは両足でブレーキをかける。彼の両足がすりおろされて、濃い白煙と電子回路のスパークが起こる。彼は地面をスライドしてながらブレーキをかけ続ける。『韋駄天』は減速した彼をゆうゆう追い越してゴールに向かう。700メートルほどスライドしたハヤブサは完全に停止する前に、地面を蹴ってコースを逆走しはじめる。

「はぁぁああああ!?」

 悲鳴にも似た実況の声。『韋駄天』がゴールしても誰も何も反応しない。今、すべての人間の関心はハヤブサの真意に向けられている。

 ハヤブサが向かっているのは、道路脇、ゴールから500メートル付近の観客席だった。

「逃げろッ!」

 見上げるハヤブサの叫びはヘルメットに阻まれて誰にも聞こえない。高台の観客たちは困惑して彼を見下ろす。一瞬のち、彼らは、自分たちの頭上に迫るものにやっと気がついた。

 ミサイルだ。今まさに観客たちの中、ひとりの幼い少女の真上に落ちようとしている。『疾走要塞』の放った無数のミサイルのうちの一発が制御を失って、今ごろになって落下してきたのだった。

 ハヤブサは跳んだ。彼は高さ10メートルの壁を軽々と飛び越えて観客席に飛び込み、ミサイルの横腹に蹴りを入れる。ミサイルは『く』の字に曲がってコース内に押しこまれ、そして爆発した。ハヤブサも観客席に落ちる。地面にたたきつけられて、彼のヘルメットが脱げて転がった。

「ハヤブサお兄ちゃん!」

 助けられた少女が顔をくしゃくしゃにしてかけよる。

「ごめんなさい、お兄ちゃん! 来ちゃダメって言われてたのに……本当にごめんなさい!」

 彼女はハヤブサに触れ、その体のあまりの熱さに悲鳴をあげて手を引っ込めた。

 ハヤブサはゆっくりと血と傷だらけの顔をもたげる。

「ああ……いいよ、無事で、よかった……」

 彼は力尽き、気絶した。

 ハヤブサの耳にはめられたインカムから、実況の声が漏れ出している。

「……あぁー、えー、『ハヤブサ』がゴール前500メートル付近でリタイアしました。これで全選手の順位が確定、1位は『"韋駄天"カムイ』、タイムは17分35秒55。2位は『"疾走要塞"アーセナル』、18分18秒35。3位の『"ギャロップ"サジタリウス』はただいまゴール。タイムは18分20秒01。『"フラッシュ"ゴードン』、『"爆速特急"トーマス』、『ハヤブサ』は途中リタイアで記録無しです。どうでしょう、解説のギドルカナサハヤタモさん?」

「まぁんーそうね、まぁサイボーグだから死んではいないと思うケド、まぁ今期中の復帰はムズカシイでしょうね。まぁミサイルを避けられなかったカレのミスでしょ」

「なるほどですね。では『栄カンパニー・カップ』はCMを挟んで授賞式に移ります! どうぞチャンネルはそのままで! 実況は私『チャッターボックス』、解説はギドなんとかさんがお送りしました! BYE!」

だらだら更新でいきます。

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