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ニィカ!  作者: 稲見晶
第四章 武の大国ドルジャッド
115/115

115. 冬の終わり

 それから何日かがたった朝、ニィカはなかばうとうとしながらヘレーに服を着せてもらっていた。

 下着。ブラウス。ドレス。ショール。おもたい宝石のブローチがついたところで、ニィカはようやく首をかしげた。

「なに、これ?」

「ニィカ=アロアーラ様にはこの国のことを知っていただかなければなりません。……ニェヴニクだけでなく」

 ニィカはぽかんとしたあとで、思いだした。そういえばケイヴィス以外のひとは、あのことばをプロニエではなくニェヴニクと呼ぶのだと。


「……うん」

「国王陛下は、ニィカ=アロアーラ様がこのドルジャッドを理解し、愛してくださることを心より望んでいらっしゃいます。国一番の学者、ケイヴィス様を教育係としてお付けになったのも、そうした慮りによる計らいでございました」

 ドルジャッド、と聞いたとたん、ニィカは急にのどがつまったような気がした。

 どうして慣れてしまっていたんだろう。ここはリヒティアじゃない。じぶんの家じゃない。

 ヘレーはそんなニィカのさみしさにも気づかずに続ける。

「寒さも和らいでございますから、今後はこの国の姿をご覧になる日を設けてまいります」

 肩に毛皮の外套がかぶせられる。織った羊毛とはちがう肌ざわり。すきまなく体を包みこまれる。ニィカはその長い毛足を指先でつまんだ。


「……ニィカ=アロアーラ様。お加減でも?」

「ん……、ううん」

「それではどうぞ、下へおいでくださいませ。馬車の支度が整っております」

 とびらが開く。

 ニィカは重い衣服を引きずるようにして部屋を出た。

 毎日の習慣で、足が食堂へとむかう。

「こちらでございます」

 背後からのさりげないヘレーの声。ニィカは外套のすそをはねあげてパタパタと踵をかえした。


 えんえんと階段を下る。

 ニィカが足を踏みだすたびに、重いすそがパタリパタリと段をすべる。

 ヘレーはニィカのすこし先を歩いてはふり返り、立ちどまってニィカが追いつくのを待ってからまた歩きだす。


 足もとも壁もつめたい石づくりのはずなのに、服の内側にじんわりと汗がにじむ。ニィカは口をあけて息をした。

 つぎにヘレーがこちらを見上げたとき、ニィカは呼びかけた。

「ねえ、ヘレー。脱いじゃだめ? これ、暑いの」

「そうでしたか。失礼いたしました」

 ヘレーはのぼってきてニィカの外套を脱がせた。汗がひやっと引いていく。

 かるくなった体で、ニィカはドレスのすそを持ちあげる。外套を腕にかけて足をすすめようとしていたヘレーは、視界のはしで目ざとくそれを察した。

「走ってはなりませんよ、ニィカ=アロアーラ様」

「……はあい」

 ヘレーの視線をひしひしと感じながら、ニィカはすぐ下の段につま先をちょんとつけた。

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