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魔法の世界  作者: manam
そのに
19/30

そのに 11

 私と馬鹿はシャッターが閉まって入られなかった元食料品売り場へ連れてこられた。そこには色んな装置やそれに繋がるパイプが無数に床を這っている。そしてフロアの真ん中に一際存在感のある、だけど全く飾り気なしの『リゼ・那美一号』が鎮座していた。そしてその側には彼女の姿も。

「リゼインさん!」

 リゼインさんと、研究者らしき人達も後ろ手に縛られ横一列に並んで座らされていた。私もリゼインさんの右隣に座るように言われ、仕方が無いので素直に従う。馬鹿はまだ気絶していて、乱暴に放られる。動力室からうつ伏せのまま足を引っ張られてここまで連れてこられたため、こいつの服はヨレヨレだ。


「あなたも捕まっちゃったのね…相沢友美さんはどうしたの?」

 友美ちゃんはまだ八階のレストランに居ることを伝えると、リゼインさんはほっとしたように息を吐き

、そしてまだ気絶している馬鹿を見つけて、

「そっちの男の子は?」

「ああ…この馬鹿は八階でバイトしてる、私のクラスメイトの馬鹿です。ここまで一緒に来たんだけど最後の最後でやられて…ホント、馬鹿なんです」

 そのお陰で私は殴られずに済んで、盾としての役割は果たしたわけだけど。

「その子服がヨレヨレだけど…」そう言うとリゼインさんは顔を真っ赤にし、「あなた達まさか…えっちの途中でつかまったの?」

 えっちの途中…?って違いますよ!私の顔もトマトのように真っ赤になる。


「なっ…何言ってるんですか!そんなわけ無いでしょ?この馬鹿とはそんな関係じゃありませんから!何でそういう発想になるんですか!」

「でも馬鹿馬鹿言ってるのも実は照れ隠しなんでしょ?」

「違います!全然違います!もう!今はそんなことを言ってる場合じゃないんじゃないですか?無事に帰れるかどうかもわからないのに…そうだ…縛ってるこのロープを魔法でなんとか出来ないんですか?」

「無理ね。今この辺りの魔力は殆ど『リゼ・那美一号』に持っていかれてる。無理して魔法を使っても動けなくなるわ」

「魔法量が少ない…ってことですか…」

 そう言えばお母さんが魔法量が少ないと魔法を使うのが辛くなるって言ってたっけ。

「私達が使える魔力はほぼゼロ。魔法が使えないのは向こうも同じだろうけど、数が数だからね。とても勝ち目ないわ」

 ふう…と息を吐き、諦めたように首を振るリゼインさん。こんなところで大人しく捕まっているところを見ると本当に何も策はないようだ。


「あ、そうだ。もう一つあなたに聞きたい事があるんだけど?」

「何ですか?」

「あっちで縛られてる子も、あなたの知り合い?」

 リゼインさんの視線の向こう、研究者さんが並んでいるその陰にの見覚えのある小さな黒髪の少女の姿が見えた。彩花だ!やっぱり捕まっちゃってたのか。

「その顔だと知り合いみたいね。あの子ここに連れられて来た時からずっと俯いたまま動かないのよ。声

をかけても反応が無いし…」

 まさか、犯人達に何かされた?確かに俯き、そして目を閉じている。でも見た感じ乱暴なことをされた様子はなかった。ホッと息を吐く。でもどうしたんだろう。気絶しているわけでもなさそうだし、どちらかといえば目を閉じて何かに集中している、そんな感じだ。


「彩花!ねえ、彩花聞こえてる?」

 少し身を乗り出し彩花に呼びかける。私の声に気付いたのかゆっくりと目を開け、少し驚いたように、

「…ナミ…なぜここに…上で待っているように言ったのに。心配ないとも言ったのに」

 そう言われても、すぐ戻ると言い残して一時間以上も戻ってこなかったら心配するって。まあ怪我もなさそうだしよかったよ。

 心配する私に彩花はまた頬を赤らめたが、私の横で気絶している馬鹿を見つけると、なんだか急に不機嫌オーラを放出し、ムスッとした表情をしながら、

「デート?」

「どこをどう見たらそういう結論が出るのよ!」

 誰が好き好んでこんな危ない奴らが居るところでデートするか!


「ほんの冗談。そこで倒れている人物は邪魔なので私が眠らせていたはずなのになぜここにいるの?」

「私が起こして、盾がわりに連れて来たの」

「なるほど。なかなかの人選。盾としても役に立ったようだし」

「まあね。でも捕まっちゃ盾としても使えなけど…それにしても彩花も捕まってたなんて…私達殆ど全滅だよ…」

「捕まってる…?誰が?」

「いや…だから私達が…」

 彩花は自分の置かれた状況をまるでわかっていない様子で目をぱちくりさせ、そして後ろ手に縛られている腕をブンブンと振って、冷静に、そして少し楽しそうに、

「ナミ…私、捕まってる」

「うん…だからさっきから言ってるよね?」

 リゼインさんは私達のやり取りを見て、

「ふふ。面白い子ね」

 確かに面白いけど、めちゃくちゃ疲れます。


 さて、ところでなぜこんなに自由に話せているかというと、犯人達は忙しそうに『リゼ・那美一号』の操作をしているからだ。結構騒がしいので私達の話し声など聞こえてはいないらしい。それにしても八階の下っ端五人衆と違いここの犯人達はリーダー少女の指示のもと、テキパキとよく働く。だけど作業に集中し過ぎてこちらの監視など全くしていない。

 そんな隙をついて彩花が私とリゼインさんの間に割り込んできた。

「それにしても彩花…捕まったことに気付いてなかったなんて…やっぱり寝てたの?」

「…まあ、そんなところ。私の特技はどんな状態でも寝られること。だけどできればナミの膝枕で眠りたい。耳かき付きで」

「何で私がそんなことを…まあいいわ。ここから無事に帰れたら、一回だけサービスでやってあげる」

「本当?」

 彩花の表情がキラキラと輝く。そしてやる気が漲ってきているようだった。

「その顔だと何か作戦があるのね?」期待せずにはいられない。

「ない」

 頭から床に突っ込んだ。じゃあ今の思わせぶりな態度はなんだ!


「今は何も行動を取らないほうが得策。見たところこの空間の魔力はあの装置に浪費されている。だから、あの装置が止まるまで待ったほうがいい」

「そっか…あれが止まれば魔法も使えるようになる…でも、あの人数じゃ勝ち目ないってさっきリゼインさんが…」

「大丈夫。何とかなる」自信満々に言う彩花。

「へえ、じゃあ何とかしてみろよ」

 そう言って彩花の前に立ったのはリーダーの少女。彼女は余裕の笑みを浮かべ彩花を見下ろし、そして彩花は自信満々の顔で少女を見上げている。

「まあ、あの装置が止まる頃には、あたしら全員ここにいないんだから、どうにも出来ないだろうけどな」

 それを聞いてリゼインさんが身を乗り出す。


「全員いなくなるですって?そんなことは不可能よ!あれの定員は一人だけ。しかも一人空間移動させるだけでも大量の魔力が必要になるわ。全員を移動させようと思えばどれだけ時間がかかるか。それに、まだそれは実験段階の試作品よ。数人移動させただけで壊れてしまう可能性が高いわ!」

「まあ、一人一人送ってたらそうなるかもな。だが、全員まとめてだったらどうだ?」

「全員…まとめてですって…?」

 リゼインさんの顔色がみるみる変わっていく。

「そうだ。あたしら全員を送れるように装置の外に歪曲空間を作り出す。そうすりゃ一度で済むし、あたしらが移動した後壊れても何の問題も無い」少女は装置の方を向き、「今その準備をしてるのさ。中々にややこしい術式だからね。ちっと時間掛かってるけどもうすぐ完成だ。まああんたが認識阻害の魔法をかけてなけりゃ、もっと早くに終わってたんだがな」

 認識阻害の魔法?そうか、犯人達が『リゼ・那美一号』をなかなか見つけられなかったのはそのせいか。それに模型に色を塗っていたことでその効果に拍車を掛けたのかもしれない。


「やめなさい!それがどれほど危険なことかわかっているの?失敗すればこの辺り一体が吹き飛ぶわ!それにもし成功したとしても魔力が枯渇してとんでもないことに!」

 リーダーの少女はぐいっとリゼインさんに顔を近づけ、

「…知っててとぼけてんのか、ホントに知らないのかわかんねえけどな…お前にそんなことを言う資格はねえんだよ!」

「なに…?どういうことよ?」

「ふん…それより見な!」


 あれは何?『リゼ・那美一号』の周りに魔法陣のような模様が次々と浮かんでくる。大きい魔法陣を中心に大小さまざまな大きさのものが、『リゼ・那美一号』の周囲を埋め尽くして行く。それを見てリゼインさんや研究者さんは絶句している。彩花でさえ眉をピクリとさせたんだから、これはとんでもない事態になっているということが素人の私にでさえもわかる。

「これがあたしらの努力の結果さ!どうだ!見事なもんだろ!」言われてみれば確かに壮観だが。「あんたらが『マグネット』とか言うもんを開発しててくれたお陰で、こんなことが出来んだ。あれがなきゃここまで安定させることが出来なかったからな」

「あらそう…じゃあ感謝してもらわなきゃね…」

「ああ。後でたっぷりとお礼をしてやるよ。移動した後でな」


 装置が唸りをあげる。出力がどんどんと高まっているようだった。魔力が集まったせいか装置の周りに陽炎のようなものも発生している。

 装置に魔力が集まっていくと同時に、リゼインさんや研究者さん達はどんどん辛そうになっていく。もしかして、空間の魔力が極端に少なくなると魔法を使わなくても動けなくなってしまうのか?

 そんな中一人なぜか平気そうな顔をしている彩花が、

「…これはまずい状態」

「だ…だよね…このままだと私達も空間移動に巻き込まれて…」

「それは問題ない」

「なんでよ!このままだとどこか知らないところに飛ばされるんだよ?」

「とにかく、問題はそれじゃない。このまま魔力が浪費されると恐らく周囲一キロは、ぺんぺん草も生えないような環境になってしまう」


 それほど多くの魔力が消費されてしまうと枯渇はしないにしても、魔法を使えるような状況ではなくなってしまうだろう。今日は日曜日ですぐ近くのショッピングモールには大勢の人が箒に乗って買い物に来ている。魔法を使えなくなればその人たちは箒で飛ぶことが出来なくなり、そのまま地上に落下し地面に叩きつけられてしまう。そんなことになったら未曾有の大惨事だ。

 リーダーの少女が向こうを向いてるのを確認し、

「な…何とか出来ないの…?」

 と、彩花に聞き、

「何とかならない?」

 と、彩花はリゼインさんに聞き、

「何ともならない…」

 と、リゼインさんは答える。

「…だそう」

「『…だそう』じゃない!」私はあんたに聞いたんだ!

「あの術式に対抗する術式を刻めば何とかなる。だけど、ここには書く物も彫る物も無い」

 書く物…?ある!


 私はリーダーの少女に聞こえないよう小声で囁き、ポケットの中の一発逆転素敵アイテム、赤色マーカーの存在を彩花に教えてやった。



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