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年相応

「なるほど、分かりました。では貴方の本、読ませていただきますね」

そう言って僕が彼女の本を出しても、彼女は動揺しなかった。

というか、あまり興味がないのか。

もし仮にこれでも内心は動揺しているというのなら、彼女は隠すのが上手い。

だからこそ僕が本を読んでいても、お決まりと言っていいような重たい空気にはならなかった。

「一通り読み終わりました。それでは内容についてお伺いしたいのですが、貴方はどのような物語をお望みですか?」

(わたくし)は...私は、こんな悪者みたいな、疎まれるも同然な存在になりたいわけじゃないのよ!」

彼女は勢いに任せて机を叩いた。

その勢いで、紅茶のカップが音を立てた。水面が波打った。

「失礼。気持ちばかり先走ってはダメね」

「いえ、意思がはっきりしているのは素敵な事だと思いますよ。それを第一に物語を書きますね。他に、ご要望は?」

「ありがとう。あとは、そうね、私は私のままでいたいの。わがままだけど、貴方にはなんていうか、視野を広げる手伝いをして欲しいだけ」

「なるほど」

僕は時間が許す限り彼女の話を聞き、出来るだけ彼女の望む通りの物語に近づくように模索した。

彼女と話すのは楽しかった、自分には馴染みのない話を聞けるから。

でもこれはもしかしたら建前で、もしかしたら話すうちに彼女の内側が見えてきたのが嬉しかったのかもしれない。

そして、最終的に出来上がった彼女の物語はこうだ。

まず、彼女は今と変わらず王家に生まれ、王女として育つ。

礼儀作法や教養も今の通り叩き込まれる。

しかし、一つだけ選ぶ権利を与えられる。

『家族のために生きるか、自分のために生きるか』

学んだことを、誰のために、どのように使うかは彼女に委ねる。

この選択は、彼女がどちらを選ぼうとも、彼女自身にも彼女の周りの人にも悪い影響がないようにする。

今の彼女にはそれすらも選ぶ余地がなかったから。だからたったこれだけの事かもしれないけれど、もしかしたらこの選択はこの国すらも変えるかもしれない。

僕が内容を告げると、彼女は無邪気に喜んでいた。

「今まで沢山の本を読んできたけれど、貴方の書く物語が一番好き」

そう言って微笑む彼女はやはり王女なだけあって上品で、でもまだ年相応の子供っぽさが残る笑顔だった。

少しミルに似ている。

僕はこの彼女を、彼女の笑顔を守れるのだろうか。



今日もまた、昼過ぎにドアを叩く音が聞こえた。

「こんにちは、小説家さん」

いつも通りドアを開ければ、そこには今日も変わらず彼女___エマがいる。

彼女はいつも昼過ぎに来る。昼過ぎは食事を摂りに行く者が多く城の見張りが手薄になるから、この時間なら抜け出せるそうだ。

でも流石に側近にはバレてしまうようで、ここに来る時は側近だけ外で待たせているらしい。

はじめに会った時にも外に居たようだが、全く気づかなかった。

「いらっしゃいエマさん。中へどうぞ」

彼女に会うのは今日で五回目だ。

一つの物語に対して、こんなに沢山打ち合わせをするのは初めてだった。

彼女の望む物語を実現するのは難しかったし、何より僕が怖かったから。

そんな僕に彼女は言った。やはり、彼女には見抜かれてしまう。

「あまり気負わないで。私はどんな結果になっても、絶対に後悔はしないから」

でも僕はずっと、物語の黒幕だけを先に教えられたような気分だった。

犯人はわかる、でも何が起こったかは分からない。

物語で大事なのは、確かに結末だ。でも、その過程が欠けていたら成り立たないのが結末だ。

僕は今回、その結末だけで物語を動かさなくてはいけない。

今までと違う、誰かの行動一つで容易に変わってしまう物語。

指先で触れただけでも崩れてしまいそうなそれを、守らなくてはいけない。

僕は自分を落ち着かせるように、深く息を吐いた。

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