表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/35

第35話 金の使い道 × 次なる戦いへ

 あのダンジョンをクリアしてから、一週間が経った。


「宝箱に入っていた金銀財宝の査定が終わりましたよ」

 という連絡を受け、亮たち三人はギルドにやってきた。


 例の猫耳の受付嬢が待っていた。


 三人は個室に案内された。


 そして告げられた査定額は、

「五億二千万イエンです」

 とのことだった。


「お一人ずつに五億二千万イエン。それから、これとは別に隠し通路を発見した報奨金、ダンジョンをクリアした報奨金などが王国から支払われますので……」


 受付嬢の説明はその後も続いたが、亮の耳には届いていなかった。


 彼はただただ、

(あらー……)


 五億なんていうのだから、これはまあ途方もない金額に違いない。


 ところがまったく実感が湧かない。

 どんなリアクションをすればいいのかわからない。


 それこそ、

「こういう時、どんな顔すればいいのかわからないの」

 である。


(……とりあえず笑ってみるか)


 口の端を持ち上げた。


 いや、持ち上げようとした。


 ところが体は素直なものだ。


 ――顔の筋肉が上手く動かなかった。


 亮はそこで初めて、自分がひどく動揺していることを自覚した。


(そりゃ動揺するさ!)

(だって五億だぜ! 五億!)


(これってタワマンとか買えちゃう金額だろ!?)


(まあ、たぶんこの世界にはタワマンはないけれど……そんなのどうでもいいわ!)


(ワハハ!)

(おれ、億万長者!)


(黄金のバスタブとか作っちゃおうかしら!)


 そんな風に心の中ではしゃいでいると、

「受付嬢さん」


 ヒナの声が耳に入った。


 彼女は言った。

「ボクは十万だけもらうよ」


(……ん?)

 亮はヒナの言葉の意味がわからない。


(「十万だけ」とは?)


 ヒナが続けた。

「十万だけもらうから、残りは寄付しておいてよ」


(き、寄付!?)

(五億をほとんど丸ごと寄付するの!?)


「わかりました」

 と受付嬢はうなずいた。


「ではいつも通りに、恵まれない子どものための基金に」


「うん、それで頼む」


「ほお」

 トリプルVはあごに手を当てた。


「お前さん、なかなか粋なことをするじゃないか」


「そんなんじゃないよ。粋とかそういうんじゃなくて」


 ヒナはそこで一瞬口をつぐみ、

「――下手に金なんて持つと覚悟が鈍るからさ」

 と言った。


「ライオンは満腹になると狩りをしなくなるだろ? そういうことだよ」


 冗談めかして大げさに肩をすくめてみせるヒナだったが、

(ガーン!)


 亮は、頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。


(ヒナさんは若くしてあんなに強いのに、おごり高ぶることもなく)

(それどころか、この腹のくくり方!)


(それに引き換え、おれは! おれは!)


(億万長者だの、タワマンだのと、挙句の果てには黄金のバスタブだのと浮かれていた自分が恥ずかしい!)


 亮は首をくくりたい気分だった。


 一方、

「気に入った!」

 トリプルVは自らの太ももをパーンと叩いた。


「よし、おれも十万だけもらおう」


 ヒナが

「はあ? 何もボクに合わせなくてもいいのに」

 と口を挟むが、

「ケッ! お前さんにだけ格好つけさせてたまるかってんだよ!」

 と一蹴。


 そして腕組みして、

「そうさなあ」

 空を睨んだ。


「――うん。トカゲ・レースのな、引退したトカゲを支援する団体があっただろ?」


「ええ」

 受付嬢がうなずいた。


「たしか、トカゲが余生を穏やかにすごせるように支援するという団体ですよね」


「そう、それそれ。おれの分はそこに寄付しておいてくれ」


 亮もまた、取り分の大部分を寄付に回すことにした。


 といっても、ノブレス・オブリージュなんて考えがあったわけではない。


 ヒナに影響を受けたのと、それからもう一つ、ちょっと思うところがあったのだ。


 だから亮は、

「受付嬢さん」

 と質問した。


「一文無しでこの街に流れてくる人を支援する団体ってありますか?」


「え?」

 受付嬢は小首をかしげた。


「えーとですね、身分証明書の類を持っていなくて」


「ええ」


「住所も不定で」


「はい」


「何を質問しても要領を得ない答えしか返ってこなくて」


「はあ……」


「おまけに、『おれは異世界にきたんだ!』とか『ついに転生したぞ!』とか、訳のわからないことを口走る人」


「……」


「そんな人を支援する団体に寄付したいんですが……」


「うーん」


 受付嬢は腕を組んで思案していたが、

「わかりました。ちょっと調べてみますね」


 亮は、

「お願いします」

 と一礼した。


 彼は思うのだ。

(おれは運がよかった)

 と。


(だってそうだろ)

(トムとゴリゴリゲゴイルマンから始まって、この受付嬢さん、そしてヒナさんとトリプルVさん……)


(おれはこちらの世界にきてから、人の縁に恵まれている)


(しかし、次にやってくる転生者がそうとは限らないからな)


 というわけで、いつかやってくるかもしれない、いや、もしかするとすでにきているかもしれない後輩転生者に、金を譲ることにしたのだ。


 話がまとまると、

「じゃあ行くか」

 トリプルVが立ち上がった。


「ああ、行こうか」

 ヒナも立ち上がった。


「ですね」

 亮もあとに続いた。


「今日も行かれるんですか?」

 受付嬢が訊いた。


 亮は無言でうなずいた。


 三人が向かうのは、次なるクエスト――ではない。


 彼らはこれから「依存症者の会」に行くのだ。


 世の中にはいろいろなやつがいる。


 どうしても酒をやめられないやつ。

 タバコを手放せないやつ。

 ギャンブルやドラッグにハマってしまったやつ。


 そんな人びとが集まって互いの経験談を語り合ったり、励まし合ったりするのが、「依存症者の会」である。


 じつは先日のクエスト以降、ヒナとトリプルVが、()()()()()()()()()()()()()になってしまったのだ。


 三度のメシよりサウナというありさまで、

「いくら何でも心臓への負担がヤバいですって!」

 と心配した亮が受付嬢に相談し、会に参加するようになった。


(まあ、あれだけディープにととのってしまったらなあ……)

 と亮は思う。


(そりゃ脳や体があの刺激を忘れられないのも無理ないよ)


(まったく冒険者ってのは厳しい仕事だね)


 受付嬢は、亮にそっと耳打ちした。

「お二人のこと、よろしくお願いしますね」


 亮は、

「ええ、任せてください!」

 と答えた。

本作は以上で終了です。

ご覧いただきありがとうございました。


ぜひ、ブックマークやポイント(下の「★★★★★」)で応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ