8、大作戦、決行
美琴様とお友達になった。
その事実が嬉しくてそれから数日は1人の時にニヤニヤしていた。
たまたまそれを家族に見られ、大変怪しまれてしまった。
お父さんには、「彼氏か!?彼氏が出来たのか!?」と動揺させてしまった。
ごめん、違うんだ、推しと友達になれただけなんだ。
いや、だけと言う程私にとっては軽い出来事ではないけれど!!
ともかく、お友達になったということで前より美琴様に話し掛けて頂くことが増えた。
とても嬉しい。
いつも、という訳には取り巻きに対する面子的にいかないけれど、時たま先日の校庭脇のベンチで一緒にお昼を食べている。
そんな日は美琴様はお弁当を(豪華なやつ)持ってきており、私もコンビニで買ったものなんかを食べている。
美琴様とお昼ご飯を交換をするなんてこともある。
コンビニのお弁当なんてきっと食べたことのないであろう美琴様は興味深そうに食べていた。
もちろん、美琴様のお弁当はめちゃくちゃ美味しい。
一流のシェフが作っているんだろうな、すごい。
そんなこんなで着実に仲を深めていっている。
気分はギャルゲーの主人公だ。
え、もう私が美琴様のお相手でもいいのでは???とすら思ってしまう。
美琴様の気持ちを考えるとそんなわけにはいかないけど。
おかしいなー私ノンケだと思ってたのにな。
まぁ前世の頃からどちらかと言えば女キャラが推しになりがちではあったけども。
天花寺大雅とも美琴様と一緒にいると時折絡むことがある。
この間は、
「美琴と春名さん、随分仲良くなったんだね。美琴にもちゃんと友達が出来てよかったよ。」
と話し掛けられた。
私のことは1ミリも気にしないでいいよ??
ちなみにそれに対して美琴様は
「私が誰と仲良くしようと大雅様には関係ありませんわ。」
とツンツンしていた。
本音は、『気にして見ていてくれて嬉しい!!』なんだろうけど。
それが私には見え隠れしていたので天花寺大雅が立ち去った後、ニマニマしていたらちょっと怒られた。
それも照れ隠しなのはお見通しです。
平穏な日々が続いていたある日の帰り道。
私は忘れ物をした事に気が付き、教室に戻った。
誰もいない教室に入り、自分の机の中を覗くと目的のノートがあった。
予習しようと思っていたのにうっかり忘れていた。
いやぁうっかりうっかり、なんて呟きながら窓の側へ行き外を見ると、校門………というか迎車用のロータリーがある方向に向かって歩いている美琴様が見えた。
ブロンドの、ゆるやかにウェーブがかかった美しい髪が歩く度にたおやかに揺れる。
んんん私の推しは今日も素敵だった。
窓からちょっとストーカーの様に美琴様を眺めていると教室のドアが開く音が背後から聞こえた。
振り返ると………げっ、天花寺大雅。
それに、一緒にいるのは……
「ちょっと大雅、あのかわいい子誰??初めて見たんだけど。」
女子が好みそうな、天花寺大雅にも負けず劣らずのイケメンフェイスに、ちょっと低めのいい声!
来たな攻略対象者その2!!
白鳥湊!!
しまった、もしかしてこれは白鳥湊との出会いルートになってしまった!?
確か白鳥湊は天花寺大雅とある程度仲良くなると出る派生ルートじゃなかった!?
いやでも現実的に考えると仲良くならなくても同じクラスだから出会わないはずはないから仕方ないのか……??
なんでだかしばらく休んでたから、出会わない事に疑問を抱いていなかったけど………
「あぁ、中間テストの後にうちのクラスに入ってきた、春名彩未さん。」
悶々と考えている私を他所に天花寺大雅はそう説明していた。
それを聞くやいなや、白鳥湊はつかつかと私の元に歩いてくる。
「初めまして、彩未ちゃん。俺は白鳥湊、よろしくね。」
にっこり笑いかけてイケボで話し掛けてきた。
このシーン、見たことある!!
白鳥湊との初めて出会った時に出てきたスチルだわ。
ひぇぇぇフラグが立ってしまう!
えぇと、白鳥湊とのフラグ回避の作戦は……
「よ、よろしくお願いします。」
普通の女子と同じ反応をする!だ!
残念ながらトキメキはしないので顔を赤くすることは出来なかったから、俯いて照れたフリをしてみた。
うん、我ながら完璧な演技!
「あの、白鳥さんは今日はなぜここに………??」
とはいえ疑問に思ったことは聞いておきたかった。
ルートに入らないようにはどうやら出来ないようだが、今までいなかった理由は気になる。
「あぁ、家の都合で数週間海外に行ってたんだ。今日の昼間戻ってきたんだけど、色々といない間の書類とかを貰いたかったからちょっと寄ったんだ。」
「そうなんですか……。」
なるほど、それで今までいなかったのか。
出会わないのも当然だ。
でも戻ってきた当日に出会ってしまうなんて、主人公補正怖い。
これからは天花寺大雅と白鳥湊、二人とのフラグを立てないように回避する日々になるのか………うぇぇぇめんどくさい……。
「ところで、春名さんは窓から何見ていたんだい?」
「あー……外を見たら美琴様が歩いていらしたので、見守っていました。」
「君は本当に美琴が好きだね………」
私の言葉にやや呆れ気味に天花寺大雅はコメントする。
いいじゃないか別に。
あなたのことよりずっと美琴様のことを推しているんだもの。
「え?美琴が好き??正気?」
私と天花寺大雅のやり取りに白鳥湊は目を丸くしていた。
そういえば白鳥湊と美琴様は従兄弟だったっけ。
「あんなに厳しくて愛想がないやつが?彩未ちゃんは変わった子だねぇ。」
「誰に対しても素っ気なく冷たいもんな。そりゃ高飛車で怖いと言われてもしょうがない。」
やや引いた調子でそう言う二人を私はキッと睨む。
「お言葉ですがお二人共。それはあなた方が美琴様をちゃんと見ていないからそう思うのではないのですか??厳しく言うのはその人のためです。優しさ故なのです、陰口を叩いたりするどこぞの令嬢達とは違います!」
美琴様を、推しを悪く言われて黙っていられるようなオタクじゃない。
高校生に対して精神年齢アラフィフの私が言うのは少々大人気ないのかもしれないが、しょうがない。
「素っ気なく感じられてしまうのは仕方ありません、美琴様はツンデレなのですから!そこがかわいいのですけれどね!!」
一息でそうまくし立て、私はふんすと鼻息を荒くした。
多分凡そ令嬢らしくない振る舞いであっただろうが突っ込む者はここにはいない。
すっかり白鳥湊に対する態度も通常の私になってしまったけれど、とりあえずまぁいい。
「ツ、ツンデレ……?」
「そうは思えないけどな………。」
納得出来かねぬ(特に私の最後の言葉らへんに。)表情をする二人を見て私は思案する。
白鳥湊はともかく、天花寺大雅の美琴様に対する誤解は何としても解消しないといけない。
そうでないと美琴様の恋が前進しない。
どうしたものか………
ふむ、と考えていると突然頭に名案が思い浮かんだ。
これだ!!!
「納得出来ないご様子ですね。では、天花寺様、明日少しお付き合いください。」
「は……?」
「美琴様のかわいさ、ぜひ分からせてあげます!!!」
美琴様かわいいんですよ大作戦、決行だ!!!!
翌日の昼休み。
私の美琴様といつものベンチで昼食をとっていた。
今日の私のお昼は近所のパン屋さんで買った美味しいマヨコーンパンとメロンパンだ。
でも作戦のためにちょっと緊張している私には正直味がよくわからなかった。
でも多分美味しかった。
ご飯を食べ終わった頃に、私のスマホが鳴る。
「あ、電話みたいですね。ちょっと出てきます。」
「どうぞ、いってらっしゃい。」
では、と私はスマホを持ちそそくさと美琴様の傍を離れ、近くの校舎の陰へと行く。
そこには私が呼び寄せておいた天花寺大雅とおまけの白鳥湊が待っていた。
「では、作戦決行です!行ってください!」
「はぁ………よくわからないけれどとりあえず行けばいいんだね?」
釈然としない顔をしながら天花寺大雅は私と入れ替わりに美琴様の方へといく。
その耳には髪で隠れるくらいの小型のワイヤレスイヤホンがしてある。
先程の着信は天花寺大雅からのもの。
そのまま通話をオンにしてもらったまま、美琴様に近付いてもらう。
「なぁ、彩未ちゃん?一体何をするんだい?」
「しっ!白鳥様は黙っていてください!」
私と一緒に校舎の壁に張り付いている白鳥湊が話し掛けてくるが今はそれどころではない。
大事な作戦中なのだ。
君は全く眼中にない。
『大雅様………!?』
!美琴様の声が通話の向こう側から聞こえてきた。
何も分からないのもちょっと可哀想なので、白鳥湊の為に通話をスピーカーモードにする。
『やぁ美琴、こんな所で奇遇だね。』
『た、大雅様こそ、なぜここに……』
慌てて美琴様は立ち上がる。
「大雅に何か指示をしてるの?」
「いいえ、何も。でも、策はあります。見ていればわかります。」
再度聞いてきた白鳥湊に今度は邪険にせず、私はにっこり笑って言う。
そして、「そのまま他愛ない話をしていてください」と天花寺大雅に言う。
私の予想が正しければ、美琴様からアクションが来るはずだ。
互いの家の事を他愛なく話している。
美琴様の物言いはいつもと変わらず素っ気ない。
「照れているだけなので、気にせずにそのままで。」
私がそう言うと、隣の白鳥湊は「ほんとかよ?」という表情をする。
顔は見えないが、恐らく天花寺大雅も同じような事を思っていると思う。
しばらく話しているとさすがの天花寺大雅も美琴様の視線が先程からあちらこちらに向いていることに気付いたようだ。
そわそわしている美琴様は思い切った表情をして、鞄から何か包みを出して、天花寺大雅の前に差し出した。
『これは……こないだ定期のデートに行った時に俺が食べてみたいって言ってた……クッキーか?』
美琴様の手にあるのは私が美琴様と仲良くなった日に貰ったのと同じクッキーの詰め合わせ。
やっぱりね、と私は想像通りに事が進んだことを喜びにんまりした。
『べ、別に大雅様のために買ったのではありませんわ。たまたま見掛けたので買ってみただけです。今、大雅様が食べてみたいと言っていたなと思い出したので差し上げるだけです。』
「あ、それは嘘ですねー。しばらく前からそのクッキー缶持ち歩いていて、天花寺様に渡す機会を窺ってる感じでしたもん。」
なんならそのクッキー、有名なとこのパティスリーが作ってて、よく調べたら、並ばないと買えないくらいの人気のやつ。
美琴様の性格からして、使用人に並ばせて買わせて、なんてしないと思うから恐らく自分で並んだはず。
『ふ、深い意味はありませんので!』
「あるんじゃないかなと私は思います。」
「あるのかよ!」
美琴様の言葉に対し、私が即座にそう返すと隣の白鳥湊はそう突っ込んだ。
なんだこの人、思っていたよりコミカルだな。
天花寺大雅はそんなに鈍くないようで、スピーカーからくつくつと笑う声が聞こえた。
『ふーん、そうか、俺の為ではないのか。残念。』
あ、これ顔見えないけど絶対悪い顔してる、黒い笑みってやつだ、オタク的に言えば。
『ひゃ、100%大雅様の為ではない、とは言えませんが……少しだけ考えなくもありません、でした。』
『ふーん??』
『な、何でもありません!!今のは忘れてくださいまし!失礼致します!』
しどろもどろになった美琴様は荷物をまとめてその場を立ち去ろうとする。
だが、急ぎすぎてその足元がもつれた。
あぁ美琴様が転んでしまう!と思わず私は駆け寄ろうとするが、その心配はいらなかった。
天花寺大雅が美琴様の腕を引いて抱きとめたのだ。
なんとイケメンプレイ。
『慌てると危ないぞ。』
『~~っ!』
嬉しさと恥ずかしさでもだもだしているのだろう美琴様の声にならない声が聞こえた気がした。
『ありがとう……ございます……。で、ですが、こ、こんな人が通りそうなところで、は、破廉恥ですわーーー!!』
急接近によりキャパオーバーしたのか、美琴様はドンと天花寺大雅の身体を押しながら離れ、そのまま走り去って行ってしまった。
パニックの美琴様、レア。
かわいい。
一人ポツンと残された天花寺大雅の元へ、私は通話を切った後に白鳥湊と行く。
「最後のは、完全に照れ隠しですね。訳としては、人が通らない、二人きりの場所ならいいけれどこんな学校でなんて恥ずかしいわ!だと思います。」
したり顔をして言う私を見て、天花寺大雅はふむと顎に手を当て考える素振りを見せる。
「なるほど、ツンデレか。」
「どうです?かわいいでしょう??」
「かわいいかどうかはまだ理解出来ないが……なかなか面白い美琴が見れた。興味が出てきた。」
「マジかよ大雅………いや、確かに面白いといえば面白かったけれど……。」
おぉ!なかなかの好感触では??
お前面白い女だな的な展開来たか???
美琴様の恋愛が少しいい方向に向いてきたような気がして、ちょっとウキウキしてきた。
美琴様と近付けば近付く程、知れば知る程、好きになるのは間違いない。
誤解されがちだけど、本来あの方はとても優しくかわいい人なのだから!
「というか、彩未ちゃんもなかなか変わった子だよね。」
「そうですか??」
「自覚ないのか………」
呆れ顔をする白鳥湊を見て私は首を傾げる。
変わってる??
確かにオタクではあるけど、それを除けば至って普通だと思うんだけどなぁ。
まぁいいか、とにかく二人の興味は私から逸れてくれたようだ。
「春名さん、美琴の通訳……というか、今回みたいなことを今後もメッセージアプリとかで聞いてもいいかな??」
「もちろんです!即レスしますね!!任せてください!」
天花寺大雅の言葉に私はスチャッと敬礼をしつつ答える。
美琴様のために!
通訳でもなんでも致しましょう!
「そういう所が変わってると思うんだけどなぁ………そもそも俺らと普通に話してるのが珍しいタイプの子だけれど………。」
ボソリとそう呟いた白鳥湊の声は私には届かなかった。
そしてすっかり普通の女子の様に照れた振る舞いをするなんてことを私はもう既にすっかり忘れていた。
気付いたのはその日の夜の寝る前で、私はまた頭を抱える羽目になるのだった。
間が空きました……
ようやく2人目の攻略対象者(笑)が出てきました。