File195 惑星フオホサでの休暇② 仕事は意外なタイミングで発生する。
俺は、シャトル発着場の待合室で出くわした意外な人物に驚くと同時に、
「お前まさか俺をストーカーしてるんじゃないだろうな?」
という疑問を本人にぶつけてみた。
まあ実際にそんなことはないんだろうが、同業者でもないのに出くわすのはちょっと気になる。
「純粋に仕事だ!あんまり失礼なことを言うと訴えるぞお前!」
その辺りのことを感じとったのか、ケビンの方は本気で怒っていた。
会社員としてはストーカーだのなんだのと噂されるのはヤバいんだろう。
「で、なんの仕事なんだ?」
「オルランゲアに『スィリードモール』って共和国チェーンのショッピングモールがあるだろ?あそこで大規模な物産展やるんで、そこに出す物産探しに共和国色々飛び回ってるんだ」
怒りを反らすべくこっちが尋ねると、直ぐに落ち着いて質問に答えてくれた。
流石はサラリーマンだな。
「ここは何かあるのか?」
「民芸品とか加工食品とか色々あるんだけど、俺たちの担当は『ツリーシロップ』だよ。そこの生産者さんのところに品物の受け取りに行くとこなんだ」
物産展をいつやるかは知らないが、確かにシロップなら日持ちもするだろう。
そうやって話しているところに、
「おお!ライアットさんじゃあないですか!」
聞き覚えのある声が響いてきた。
「あ、どうも」
「ジャン・ゴーズル様ですね。お久し振りです」
びっくり目の反応をした俺と違い、アディルは丁寧にお辞儀をしていた。
「アディルちゃんも久し振りだねえ!」
ケビンの仕事場の先輩であるゴーズル氏は、相変わらずかなりいいガタイと遠慮のない性格をしていた。
「お仕事合間の休暇ですか?」
「そんなとこです」
「どうです今度一緒に食事でも?」
「まあそれはいずれの機会に…」
今の俺は男の姿なのによくナンパできるなこの人。
ある意味平等だが、ある意味変態だ。
そんな彼の攻勢をなんとかしのいでいると、
「そうだ!『樹上居住区』に観光に行くつもりだったのなら、俺達のシャトルに乗りませんか?貨物用のシャトルですが、あと2人ぐらい乗れなくはないので」
という、とんでもない提案をぶちこんできた。
こちらとしては、シャトルの待ち時間と料金がなくなるのは有りがたいが、流石に他人の仕事場に同行するわけにはいかない。
そういって断ろうとしたところ、
「それに、運が良ければシロップ採取の現場も見れるかもしれませんよ?」
という誘惑をしてきた。
が、そこはその誘惑を退け、
「ここの観光案内に『ツリーシロップの採取現場見学』のツアーがありますからね、そっちにいきますよ。何よりそちらの仕事の邪魔はしたくありませんからね」
と、お断りをした。
観光用のシャトルに乗り込んで到着した、集落とも町とも言えるそこは、直径50m程の木の周囲に建築された『樹上居住区』を頑丈そうな釣り橋でいくつも繋げたところで、俺が子供の頃に最初に見たのもこんな場所だった。
案内人と、他のツアー客達と一緒に、シロップ農家さんの集まる組合に向かい、そこで軽く説明と注意を受けた後、何台かの浮遊板に分乗し、『ツリーシロップ』の採取現場に向かうことになった。
『ツリーシロップ』の採取方法は意外に簡単だった。
素人には分からないが、シロップになる樹液を出す木を選んで、その幹の中程に、50㎝から1mはある穴を下から斜め上に穴を開け、そこに専用の容器を差し込んでおくだけなのだ。
1本の木に穴は1ヵ所だけ。それが質のいいシロップの材料になる樹液を採取する条件なのだそうだ。
そのあとは、樹液をシロップにする加工場に案内してもらい、樹液がシロップになるまでの行程を見学させてもらった。
シロップになる前の濾過しただけの樹液を飲ませてもらったが、さらさらとしていてほのかな甘味はあったものの、かなり酸味が強かった。
最後にシロップを購入できるタイミングで、業務用18L入りのスクウェアボックスの購入をお願いした時には流石にびっくりされた。
そうして、『ツリーシロップ』の業務用18L入りスクウェアボックスを2つを抱えた状態で、帰りのシャトルに乗っている時に、ケビンから電話がかかってきたわけなのだが、
『あ、ショウン!お前今どこにいるんだ?』
随分と焦った口調だった。
「宇宙港行きの軌道エレベーターに戻る途中のシャトルの中だけど?」
『貨物輸送の仕事は受けてるのか?』
「帰ってから受けるつもりだが?」
なんで仕事の予定なんか聞いてくるんだと、不思議に思いながらも答えてやったところ。
『仕事を依頼していいか?実はこっちで用意してた配送係と連絡が取れなくなってな。代わりをお願いしたけど、無理っぽいんだよ!』
「警察や軍には連絡したか?」
『もちろん。会社の方からしてもらってる』
その話を聞いた時に、惑星フオホサにくる前に出くわした軍隊からもらった情報を思い出していた。
以前に共和国に不法侵入し、献上と銘打った略奪を行った帝国貴族共の残党が入り込んでいるという話だ。
ケビンの会社が手配していた配送係は、上手く逃げおおせているそいつらにやられたのかもしれない。
まあそんな状態でも仕事をしなくてはいけないのはお互い様ではある。
「貨物の総重量は?」
『全部で450tくらいにはなりそうかな?人間も6人運んで欲しい』
「ギリギリだな。目的地はオルランゲアだよな。寄港地に寄らずに普通に航行して6日だな。でも安全のために途中寄港地には停まって何時間かは休憩する。料金は貨物輸送費とチャーター料金に加えて指名依頼って事で割増になるけど、いいか?」
俺は人命がかかってない限りスピード重視の配達は断るようにしている。
まあ、いままでは出来なかったというのもあるが。
しかしケビン達が急ぎなのは間違いないだろうから、こっそり速度をあげるぐらいはしてやるか。
『ちょっとまってくれ……。はい……はい……わかりました。じゃあ指名依頼って事でお願いしていいか?銀河貨物輸送業者組合の方にはきちんと依頼をしておく。それで出発なんだけど、取り敢えず明日の昼まで宇宙港で待機しててくれ。明日の朝に宇宙港に到着する貨物があるから』
「わかった。今日中に載せれるやつはあるか?」
『ああ。宇宙港のレンタル倉庫に納めてる奴があるし、今運んでる『ツリーシロップ』も載せておきたい』
「わかった。じゃあ宇宙港に到着しだい受付でチェックをして、依頼が確認できたらそっちに停泊地の情報が行くだろうから、それにしたがってくれ」
『わかった。いや助かったよ~♪会社としても大きな企画だから穴開けるわけにはいかないしさ』
「まあこっちは仕事だからな。気にするな」
『でもそれよりは、連絡の取れない配送係が心配だよ…』
「その辺は警察と軍に任せておけよ」
『そうだな…。じゃあまた後でよろしく』
「ああ、また後でな」
俺は電話を切ると、ふうと息を吐いた。
「お仕事ですかマスター?」
「ああ。戻ったら積み込み、出発は明日の昼だ。客も乗るから積み込んだ後は買い出しだな」
「了解しました!」
アディルは元気よく敬礼を返してきた。
が、その声が意外とシャトル内に響いてしまい、2人で頭を下げる事になってしまった。
おまたせいたしました。
インフルエンザが長引いた上に、治ると同時に当作品の書籍化作業が来てしまいました。
書籍化作業は絶賛作業中です。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




