File179 惑星カブルスへの貨物輸送④ 一流のホテルは本当に凄いらしい
俺が通報すると、すぐに警察がやってきた。
不審物である箱はすぐに俺の船から降ろされ、爆発物でないことが確認されると、その場で検分されることになった。
箱は耐衝撃構造になっている奴だったので、中身が柔らかい物なのは簡単に想像できた。
そうして警察・宇宙港職員・ギルド職員の立ち会いの元、中身を開けて見てみると、出てきたのはかなりでかい原生生物の卵だった。
しかも、その卵の画像を専門家に確認してもらうと、ドラゴンみたいな爬虫類の卵だということがわかった。
卵を盗まれた親が、宇宙空間まで追って来ることはないだろうが、惑星上にある都市にはやってくるかもしれない。もちろんすぐに諦める場合はもあるだろうが
ともかくこれが大事なのは間違いない。
ありがたい事に、きちんと通報したこと・運んできたドロイド達による、依頼先の関係者を名乗る人物が、追加分といって持ってきたという証言があったこと・依頼先に確認し、そんな事実はないという回答があったことなどから、第3者が依頼先の関係者を装い、原生生物の卵を密輸するために紛れ込ませたのだろうと結論づけられたため、俺たちは無実。純粋な被害者という事になった。
しかし、事情聴取と船の捜索はさせて欲しいということで足止めを食らうことになり、依頼元にその事を連絡したところ、先方も事情は理解してくれていたため、すんなりと承知してくれた。
さらには、捜索が終了するまでは船に戻れないのと、密輸品が没収されたことを知った犯人が、逆恨みに襲撃してくる可能性もあるため、待機場所として警察が宇宙港内のホテルを用意してくれた。
そして今すぐには無理だが、昼頃には護衛の人も来てくれるらしく、まだ朝の9時だが、入館手続きして部屋に居てくれとの事なので、着替えと一部必要なものだけ持って指定のホテルに向かった。
てっきりビジネスホテルかと思ったが、用意してくれたのは、なんとリキュキエル・エンタープライズ社傘下のホテル、ヴァルス・ヴェーランのカブルス支店だった。
こういった一流ホテルだと、セキュリティや従業員教育がしっかりしているから情報を漏らすことはないし、人の目も多いから比較的安全だからという理由らしい。
確かにこのヴァルス・ヴェーランには、全ての店舗で、入り口やフロントに、腰にスタイリッシュな電磁警棒をぶら下げたホテルの従業員が待機している。
「立派なホテルですねえ」
「以前の惑星エオエデの『角屋旅館』と同じ一流の宿泊施設だからな」
まあ角屋旅館はリゾートホテルでこっちはシティーホテルだから規模や雰囲気は違うけどな。
「いらっしゃいませ。ホテルヴァルス・ヴェーランへようこそ」
「事前予約していたライアットだけど」
「少々御待ちを。…はい。ショウン・ライアット様とアディル様ですね。御予約は伺っております」
警察に教えてもらった合言葉でフロント係に声をかけると、フロント係は丁寧に応対してくれた。
警察に聞いた話だと、重要人物の保護やなんかの時にはよく利用しているらしく、ホテル側も協力体制を敷いているのだそうだ。
実際この時間は入館手続きの時間ではないらしいが、それに応対してくれているのがその証拠だ。
「そうだ。これを確認しておいて貰えるかな」
俺は自分の身分証をフロント係に提示する。
「拝見いたします。…シュメール人の方なのですね」
これはシュメール人独自の習慣だが、宿泊施設では身分証を提出するなり、目の前で変身するなりして、両方の姿を確認してもらうというのがある。
これは、姿を変えたときに不審者に間違われないための処置だ。
「変わっておこうか?」
「いえ。大丈夫でございます。では御部屋の準備をいたしますので少々御待ちいただけますか?」
「ああ。ロビーで待たせて貰うよ」
そんな感じでフロントでの入館手続きを終わらせ、ロビーで部屋の準備が完了するのを待っていると、
「あ!昨日のでっかい姉ちゃんだ!」
「ほんとうだ~」
昨日サファリのふれあいコーナーで一緒にはしゃいでいた、4歳ぐらい男の子と2歳ぐらいの女の子の兄妹が、アディルに声をかけてきた。
その後から、両親らしい男女が外の見えるガラス張りのエレベーターの方から歩いてきたので、ここに宿泊していたのだろう。
「なーなー。姉ちゃんもここに泊まってたのか?」
「とまってたのかあ?」
「いいえ。昨晩は船に。今日はここに宿泊しますよ」
アディルはしゃがんで子供達に目線をあわせると、にっこりと応対をした。
「じゃあさ、今日一緒に遊ぼうぜ!」
「あそぼうぜ!」
子供達は無邪気にそういうが、そんなわけにはいかない。
純粋に宿泊だけなら遊んでやれるが、密輸の犯人が俺達に接触してくる可能性がある以上、そういう訳にはいかない。
何より警察に、最低でもホテルの外にも出ないように言われているからな。
「あーごめんな。俺達は今日はこれから仕事があるんだ」
「えーなんだよー」
「つまんない…」
俺の言葉に、子供達は残念そうな表情をする。
「すみませんうちの子が御迷惑かけて。ほら。お兄さんとお姉さんを困らせちゃだめよ」
すると母親が子供達の手を繋ぎ、コンシェルジュと話していた父親の方に歩いていった。
そしてその親子が出ていった後に、フロント係がやってきて部屋のキーを渡してきた。
「御待たせいたしました。お部屋は1125号室になります」
「ありがとう」
そうして俺達が案内されたのはスタンダードなダブルの部屋だった。
ダブルベッドは初めてなのか、アディルが驚いていた。
「マスター。ベッドが一つしかありませんが」
「ダブルベッドだからな。一緒に寝るんだよ。それにこれキングサイズだな。多分お前がゆったり寝れるようにわざわざベッドを入れ替えてくれたんだろうな」
アディルの身長を考えるとたしかに適切だし、俺がシュメール人だからそっち関係の危険もないだろうと判断したんだろう。ということにしておこう。
とはいえ、この後は警察から許可が出るまではホテルの外に出ないように言われている。できるなら部屋からも。
リゾートホテルなら暇潰しのできる施設もあっただろうが、シティーホテルではそれもない。
せいぜい、テレビを見るか、ホテル内の売店で何か買うか、ゲームか何かを貸し出してもらうかぐらいだろう。
仕方ないので、ゲームを貸し出してもらう事にした。
そうやって時間を潰していると、昼食の時間になったので、ルームサービスを頼むことにした。
とはいえ、その瞬間が一番危ないのは間違いない。
何者かがホテルの人間に変装して、部屋に侵入してくる可能性があるからだ。
その時ノックの音が響いた。
ルームサービスはまだ頼んでいない。
「誰だ?」
「朝に言っていた護衛の方ではないでしょうか?」
確かにその可能性は高いが、警戒するに越したことはない。
俺は短針銃を構えてドアに近寄ると、
「どちら様ですか?」
と、声をかけた。
「護衛のものです。開けていただいてよろしいですか?」
ドアスコープから覗くと、確かに制服姿の警官がそこにいた。
超一流のホテルのコンシェルジュは本当に凄いらしいですね。
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