File134 惑星リーシオ経由惑星ヤルマド行き貨物輸送③ 初対面の人がブチキレた場合、起爆剤が何なのか解らなくてあせる
その声の主は、ドラコニアル人の男性で黒鱗に茶髪に黒眼の、ビジネススーツ姿だった。
「おい。どうしてドラッケン家の家族用キッチンに部外者がいて、しかも料理をしている?」
俺からすればこいつの方が部外者で不審者なのだが、ここまで入って来ているということは、ドラッケン一家の親戚という可能性がある。
さらには、家族の誰かから許可をもらって入ってきたドラッケングループの人間の可能性も高い。
それでも俺が怪しまれるのは、俺がドラコニアル人ではないから親戚とは思われないのと、ドラコニアル人以外でドラッケン一家の自宅に入れる会社関係の人間なら、顔が知られているだろうと思うからだ。
俺がドラッケン一家の自宅に招かれているときには、ドラッケン一家か家族の友人ぐらいだけだったから、
エドガーおじさんの側近みたいな人達ならともかく、会社関係の人達には俺のことは知られていないだろう。
「臨時でパーティー用の料理の準備をしています。ここの使用許可はいただいてますよ」
なのでケータリングの業者っぽく、ここの使用許可を取ってることをつげる。
「本当か?だったら今から確認をとっても問題ないな?そもそも今晩の祝勝会の料理は全てケータリング業者が厨房で製作しているから、ここで調理をする必要はないはずだ」
それでもこいつは疑ってきて、俺達から離れたところまで移動し、自分の汎用端末で誰かに連絡をし始めた。
まあ当然の行為だ。俺でもそうするだろう。
ちなみに家族用といっていたとおり、このドラッケン邸には、普段は使用しないがパーティーの時などは、傘下企業の料理人を呼んで使用する厨房が存在する。
「もしもし…ノーウェス・グウェンツです。いまご自宅のキッチンで料理をしているヒューマンの男女が…
あ、そうだったんですか…なるほど。わかりました。…はい。失礼いたします」
そうして電話を終えるとこちらにやってきて、
「今確認した。どうやら君たちは不審者ではなかったようだな。失礼した」
不審者と疑った事を謝罪してきた。
「いえ。確認は当然のことですから気にしないでください」
「ところでなにを作っているんだ?」
しかし流石はドラコニアル人。謝罪した直後に料理のチェックかよ。
「煮卵ですよ。半熟にして殻を剥いたゆで卵をタレで煮込んでいるんです」
見れば一目瞭然なので、そのまま正直に伝える。
「煮卵?…もしかして『宝珠煮卵』…なんてことはないか。あれは新華祭前日の祝宴でしか出されないドラッケン一族の秘宝みたいなものだからな」
となれば当然こういう反応になる。
だがどうやら『こんなところにあるわけがない』と思ってくれたようだ。
それにしても秘宝ってなんだ。
俺が作り置きしているこの煮卵は水晶でできた骸骨の仲間なのか?
「マスター。『宝珠煮卵』とは何なのですか?」
秘宝なんて響きが気になったのか、アディルが『宝珠煮卵』について訪ねてきた。
どう答えたらいいのか悩んでいると、
「『宝珠煮卵』というのはドラッケン一族が『新華祭・武道大会前日の祝宴』まあ、私達ドラコニアル人のためのお祭りだな。
その時にしか出さない特別な品で、一族が存在を秘匿にしている職人が作っているとも、経営に参加していない4人目のドラッケンの姉妹が製作しているとも言われている幻の品だ。君たちヒューマンが知っているはずはないよ」
と、俺に代わって目の前のドラコニアル人の男が答えてくれた。
「そんなすごいものがあるんですね」
「私も噂でしかしらないがな…」
アディルはへぇーという表情をし、男性は残念そうな顔をしていた。
そして男性は、こちらの作業を眺めつつ、俺とアディルを雇われたケータリング業者だと思っているからか、
「そうだ。軽くつまめる物はできないかな?昼食を食べ損ねてしまったのでね」
と、言ってきた。
それ自体に問題はない。
が、しかし今現在、このドラッケン一家の冷蔵庫も冷蔵倉庫もほぼ空っぽなのだ。
これは別に金がないわけではなく、補充のタイミングであっただけで、冷蔵倉庫は空で、冷蔵庫には僅かの食パン・ハム・チーズ(といっても食パンは6枚切りが10斤=60枚・丸のロースハム1本・1kg程のチーズの塊)だけ。
それ以外は調味料と飲み物関係のものだけが残っていた。
これなら、煮卵に使う卵も加えればそれなりのものが出来るだろう。
「有り合わせてで良ければ」
「お願いする」
そうして、煮卵作りと平行して作業した結果、タレで煮る前のゆで卵を使った卵サラダと厚切りハムチーズの2種類のホットサンドを15個づつと、コーヒーサーバーいっぱいのコーヒーができあがった。
俺からすればかなりの量だが、ドラコニアル人には本当に軽食程度だろう。
ダイニングテーブルに座っていた男の所には、アディルが持っていってくれた。
「お待たせしました」
「ありがとう」
ホットサンドとコーヒーが到着すると、男はさっそくとばかりに食べはじめた。
「ふむ…これはなかなか…」
そして何やらぶつぶついっていたかと思えば、
「そういえばさっきのティナロッサ警備統括マネージャーの話だと、君たちは今回のパーティの為に入っているケータリング会社ではないようだが、個人経営なのか?」
と、声をかけてきた。
「まあ、個人経営ですね」
ですがケータリング会社ではありませんよと話そうとしたところ、
「だったらうちで雇われる気はないか?」
という、今までに何回も言われてきたセリフをいわれた。
またかと思いつつ、断るためにまずは自己紹介だ。
「私はショウン・ライアット。こっちはパートナーのアディルです。貴方はドラッケングループの関係者の方ですよね?」
俺の紹介にあわせて、アディルは丁寧にお辞儀をした。
「ああ、失礼した。私はノーウェス・グウェンツ。ドラッケン傘下の貿易部門の一つである『交龍商会』の営業部のものだ」
取り引き相手という可能性もあったが、グループの人間なのは間違いないようだ。
しかしなんで貿易会社の人がケータリング業者をヘッドハンティングするんだ?
その辺りの疑問は向こうもわかっているらしく、
「貿易会社でもちゃんとした本社ビルがあるから、その内部にある飲食の店をやってみないかということだ。ヒューマンでこれだけの腕があるなら、リーシオで店を出してもお客はつく。それなら店が近い方がありがたいからな。どうだろう?考えてもらえないかな?」
その辺りを説明してから勧誘を促してくる。
考えてもらえないかなもなにも、俺の仕事は貨物運搬業者だ。
料理人として勧誘するならお断りだ。
まあ貨物運搬業者として専属になれといっても断るけどな。
そう断ろうとしたとき、
「ふー終わったぁ!」
ティナ姉ちゃんがリビングダイニングにやってきた。
「よおノーウェス!お!いいもの食べてるじゃんか!」
そして目敏くホットサンドを見つけると、一つを手に取り、そのまま口に運んだ。
「ティナ…人が作ってもらったものを勝手に食うな!」
「いいだろ1個ぐらい」
「許可をもらってからにしろ!欲しかったらお前も作ってもらえ!」
会話の様子から、ティナ姉ちゃんとは気安い仲のようだ。
もしかするとドラッケン一族の親戚とかだろうか?俺はあったことないけど。
するとティナ姉ちゃんが俺に近寄ってきて、
「ショウン!腹へったからなんかくれよ」
と、ゆで卵に手を出してきたので、その手をペチリと叩き、
「食パンがその人に出したホットサンドに使った分が最後だよ。ハムとチーズだけなら残ってる」
「それじゃあ腹にたまらねえじゃん!」
冷蔵庫と冷蔵倉庫の現状を教えてやった。
おそらく夕方には業者がきて満載にしていくはずだろうが、いまはなにもない。
そこに、グウェンツさんがティナ姉ちゃんに詰め寄っていった。
「ティナ…彼をしってるのか?」
「ショウンの事か?もちろんだぜ。赤ん坊の頃から知ってるし、一緒に風呂も入ったしな」
「なに?!」
すると急に俺を睨み付け、
「貴様!ティナとはどういう関係だ!そもそも彼女に対して、どうしてそんなぞんざいな口の利きかたをしているっ!」
怒りの形相で俺の胸倉を掴もうとしてきた。
用事が立て込み、投稿が遅れてしまいました。
申し訳ございません。
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