File119 惑星デューモアからの避難引っ越し⑦ 家族が増えるのは嬉しいこと
「本社の営業部辺りに連絡してみればいいんじゃないか?番号知ってるぜ」
途方に暮れる係員に対して、バイオロイドの納められたカプセルを見ながら、チャーリーがそう提案する。
ダメ元でもと、係員が番号を聞いて、管理用の小型端末でパートナードールズ社の本社営業部に連絡をした。
『はい。パートナードールズ社、本社営業部です』
応対にでたのは、明らかなエリートビジネスマンといった人物だった。
「こちらは惑星デューモア避難委員会のものですが、そちらの荷物らしいバイオロイドの引き取りをお願いしたいのですが」
『その商品の管理番号はわかりますか?』
「ええと…109264ですね」
『少々お待ちください…。ふむ。どうやらその商品はすでに廃棄処分になっていますね』
「しかし、記載されていた番号に連絡をした時には、確かに弊社の商品だから輸送してほしいと」
『それはおそらく、先日解体したデューモア支社ですね。商品が現存するということは、経費の不正請求があったということになります。廃棄の為の手間が面倒臭いのと、経費の横領を考えて書類上だけ、実行したように見せかけたのでしょう』
「つまり経費を自分の懐に入れるために、このバイオロイドをデューモアに置き去りにしていたってことなんですか?」
『そういう事になります』
アンドロイドやバイオロイドを、年数経過による動作不良や、故障がないのに正しく作動しない不良品という理由で処分・解体する場合、再利用や修理ができるかどうかのチェックなどをする必要がある。
つまりは感情的・倫理的に、人形をしてる彼等を救済しようとしているエゴイズムな理由ではあるわけだが、それには結構な金額と時間がかかる。
それを惜しんでアンドロイドやバイオロイドを不法に処理するような事例もよくある話だ。
もちろん罪には問われるが、せいぜい不法投棄になる程度のため、現在は厳罰化が叫ばれている。
「あれって、パートナードールズ社が輸送を依頼したんじゃないんですか?」
エリートビジネスマンの応対の様子が、なんとなく真剣さに欠けているように思えたので、電話をしてない方の係員に尋ねてみた。
「実はあのバイオロイドは、惑星上残留者のチェック捜索の時に貸倉庫で発見したんです。その時にパートナードールズ社に確認を取った時は引き取る話になってたんですけどね」
その間にも、話し合いは続いていたらしいが、
『とにかくこちらとしては、廃棄された品を受け取りにいくのは難しいですね。そちらで処分してください。いい加減な対応をした元デューモア支社の者には、厳正な処分を下せると思いますので。では』
「ちょっちょっと!」
そういうと、エリートビジネスマンはさっさと電話を切ってしまった
明らかに関わりたくないという感じだった。
多分あいつが元デューモア支社で経費を懐に入れた張本人だな。
「なんなんだよ!」
電話をしていた係員も怒りを露にしていた。
電話が終り、コンテナに視線を戻すと、チャーリーがカプセルの中身を覗き込んでいた。
「すでに廃棄しているから預かりしらない、ね。無責任…でもないのか。廃棄手続きは終わってるわけだからな。対応としちゃ間違ってないな」
話を聞いていたチャーリーは、そうは言いながらも随分と不機嫌そうだった。
「それにしても、新品な感じのバイオロイドが、何で廃棄されてたんだろうな?」
バイオロイドにしろアンドロイドにしろ、高価なのは間違いない。
なのになぜ廃棄処分されたのかがわからない。
その俺の疑問に、チャーリーが自信ありげに答えてくれた。
「この子はパートナードールズ社が10年くらい前、超新星爆発の可能性が発表される前に発売した、ナノマシン搭載型の護衛用バイオロイド『シールダーシリーズ 』の初期ロットだ。
バイオロイドなのを利用して、体内に生体再生ナノマシンを注入し、破片や銃弾、弱威力のレーザーくらいなら数分で再生するので、小さな傷のメンテナンスが不要っていう、現在の『シールダーシリーズ』にも採用されてる『オートヒールシステム』を搭載している。
そしてその初期ロットは、なにより保護対象の盾・壁になることを重視して、男女問わず体格のデカイのを作ったんだ。でも、安全に逃げようとしても、その体格が目立ってかえって危険にさらすって事で、直ぐに生産中止。次回ロットからはもっと体格を小さくして販売されたんだよ」
つまりこの子は、売れ残りってわけか。
「だったら載せかえればいいだろうに」
しかしそれなら、人工頭脳だけを小さな身体に載せかえればすむ話だ。
「載せかえは金がかかるんだよ。多分、書類上の手続きだけして料金をケチったんだな」
ケチっただけじゃなく、横領の疑いもあるっぽいなあれは。
「しかしどうしたもんかな?」
「忘れ物の販売会にだしますかね?」
引き取ってくれないとなって、係員たちは、面倒なことになったと嘆いていた。
その時、何故かホーゼンのおっさんのところのエプラを思い出した。
あの少女の姿のバイオロイドは、以前の持ち主に、罵声を浴びせられ、殴られる事しかされなかった。
奥さんのセイリーナさんに助けられなかったら、人工頭脳すら廃棄処分になっていたかも知れなかったという。
しかし、セイリーナさんに引き取られてからは、『ホーゼントラックス』のメンバーにも可愛がられ、いまは幸せに過ごしている。
そんなことを思い出すと、このバイオロイドがなんとなく不憫に思ったのだ。
そんなのは、ペットの衝動買いや、自己満足の為の偽善そのものだと言われるだろうがそれでも、
「あの。パートナードールズ社が廃棄処分にしていたなら、俺がもらってもいいんですかね?」
「それはこちらとしては助かりますが…」
「おいショウン。本気か?」
「船が広くなったから人手が欲しくなってな」
それでも、手を出さずに後悔するよりはいい。
それに、人手が欲しいのは紛れもない事実だからな。
「では、引き取りの書類にサインをお願いします」
そうして書類にサインをすることで、このバイオロイドは正式に俺のものになった。
「取り敢えず起動させてみたらどうだ?」
チャーリーにそう提案され、カプセルの起動スイッチを入れた。
カバーが開き、目を開いた彼女は、晋蓬皇国人のような髪の色・目の色・顔つき・肌の色で、見た目の年齢は10代後半から20代前半ぐらい。
アンドロイド・バイオロイドとしては平均的な、整った美人の顔だ。
そしてカプセルから出てくると、事前情報どおり、女性タイプでありながらも身長は200㎝もあり、175㎝ある俺より頭ひとつ高い。
しかしそのシルエットは非常に女性らしく、可愛らしさもあった。
服装はぴったりしたボディスーツの上からショート丈のフライトジャケットを着ていた。
彼女は俺達を見つめると、
「私は、パートナードールズ社謹製、ナノマシン搭載型護衛用バイオロイド『シールダーシリーズ』のファーストロット、型式番号BNG-タイプF、製造番号ADL19635です」
と、丁寧なお辞儀をしながら自己紹介をしてきた。
「俺が君の所有者になったショウン・ライアットだ」
なので、こちらも自己紹介をする。
すると、ADL19635は、
「ライアット様ですね。ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
悲愴感を漂わせながら、俺に質問をしてきた。
「ああ、なにかな?」
「私でよろしいのでしょうか?以前に、私を購入された方は、私を見るなり『見下ろされていて腹が立つ』といって、何発か私を殴打された後に、私を返品されました。そのあとは社員の方にも叱責され、このカプセルに収納された中古品です。さらに私のタイプは不人気機種ですので、周囲の方から揶揄されるかもしれません…」
と、自分の身に起こった事の暴露と、自分を所有していることのデメリットを示唆してきた。
どうやら、以前の購入者と、会社の連中に受けた仕打ちに対して、かなりの負い目があるらしい。
新品同然なはずのADL19635が、このように感情豊かなのは、彼女に搭載された人工頭脳が優秀な証拠だが、それだけに以前の購入者と会社の連中に対して腹が立ってくる。
俺は手を伸ばして、ADL19635の頭をさわった。
「君が必要だから所有することにしたんだ。それに、話を聞く限り新品と変わらないじゃないか」
俺の言葉を聞き、ADL19635は少し嬉しそうな表情を浮かべる。
「ともかく、君は今日から俺の所有物であり、パートナーであり、家族になるんだ。よろしくな」
そういって、俺はADL19635に右手を差し出す。
するとADL19635は俺の右手を両手で握りしめ、
「はい。よろしくお願いいたします。マスター!」
嬉しそうに笑顔を浮かべた。
ADL19635「問おう。貴方が私のマスターか?」
これは書いておきたかった。
年末にさまざまな所用があり、時間が失くなってしまうため、年内の更新はこれが最後になります。
来年もよろしくお願いいたします。
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